報告-12の月、7日、1枚目
日常回
サクラからアドソンに騎士について話を聞きたいと伝える。
朝にメッツェンが気まぐれで機密事項の資料を渡してきたので、気になったことを聞こうと思い立ったから。
ホーマンよりも現在の現場を知っている人の方が、詳細な情報が手に入ると考えてのことで、アドソンは爽やかに了承してくれた。
メッツェンの執務室にあるソファで、アドソンの対面に座るサクラ。
サクラが淹れた紅茶とコーヒーをテーブルに置いたところで、話が始まった。
「前置きとして、アドソンさんが話したくないこと、私の耳に入れない方が良いことは話さなくて大丈夫です。・・・メッツェン様が渡してくださったこの資料についての質問です。騎士の方々が毎年殉職されていますね。結構な数になるのですが、詳細が不明なのです。ほとんどが戦闘でしょうか?」
「あー・・・そうだね。詳細は・・・サクラはこういう話は大丈夫なのか?」
サクラは小さく頷く。
「はい、人の生き死にを情報として捉えるならば、ある程度は耐えられます。まぁ、目の前で戦闘が起これば動揺しますが、今は説明だけですから」
「そっか・・・それなら話しても大丈夫かな。ここに書かれている騎士の殉職の数字は大体合っているはず。ただ、騎士見習いとかは除かれているし、魔物が村を襲ったときの平民は数に入っていない」
「分かりました。実情はもっと数が多いということですね。ではこの数に入っている方々の詳細はありますか?」
アドソンは質問に対して、首を傾げる。
「いや、ないんじゃないかな・・・」
「そうですか、詳細が分かればと思ったのですが・・・」
俯くサクラと、首を傾げるアドソン。
恐らく質問に答えられるであろうスタンツェは、メッツェンと共に視察に出掛けている。
サクラは一日お留守番のため、勉強しようとしたのだった。
「詳細を知ってどうするの?」
「メッツェン様がこの資料を見せたということは、専門外の視点で見て、境遇改善に繋がることを探せという指示だと考えました。殉職数が減るかどうかは別として、しっかり戦える環境を整えることや、無事に戻ってくるのを待ちわびる人たちへの支援を見つけたいとなると考えています」
「待ちわびる?」
「えぇ、騎士の仕事は誉れ高いものです、けれど、それとは別に仲間や家族が、無事に仕事を終えて帰ってくるように願う気持ちがあるのも、確かだと思うんです」
「それは・・・」
サクラの持っていた資料を見ていたアドソンは、目を見開いてサクラを見る。
勝手な意見を言いアドソンを怒らせたのではないかと焦ったサクラは、小さく顔の前で手を振る。
「あ、賛同しなくても大丈夫です。私が平和な世界に居たので・・・こちらの感覚とは違うものですから。・・・行ってきますと送り出して、ただいまと言えることは、実は幸せなことだと知っています。騎士様たちや魔術師様たちが戦ってくれるからこそ、毎日の生活が成り立っていると学んだばかりです」
サクラを見ながら、アドソンは首を傾げる。
「んー・・・サクラのいた世界には魔物はいなかったんだろー?なんでそう思ったんだ?」
「前にお話した仕事に関わることですね。災害が多い国でしたし、疫病や怪我がないということはなく・・・何より薬はありましたが、たちまち骨折が治るような魔法はありません。死んだ者は生き返らない世界でした」
目を伏せたサクラ。
「・・・サクラ」
「あ、この国は国家間の戦争は可能性が少ないと聞いています。魔獣の討伐のときには、万全の状態で向かっていますか?」
顔を上げて、いつも通りの笑顔で、サクラは問う。
「うちは辺境伯たちが頑張ってくれているから、王都とか主要都市に大きな魔獣が出ることはないな。その辺りの予算配分は国王と王子の領域だから、俺たちも手は出せない。メッツェンが渡した資料の中の、王女宮の部分を改善してくれると嬉しい」
「では、全力でアドソンさんたちのお仕事を学びますね。面倒でなければ、色々と教えてください」
お願いをするために頭を下げるサクラは、鼻筋を掻きながら、照れくささを隠すアドソンの顔に気付かなかった。
「あぁありがとう。あっ!じゃぁ、サクラに一つ騎士のことでお願いしてもいいかー?」
「何か出来ることがあれば何なりと?」
「・・・女性騎士がいるんだけど、どうしたら良いかなって・・・」
「どうというのは?」
「んー体調が悪そうだけど何も言わないとか、今の待遇に不満はないかとかかな」
アドソンの言葉に、しばし考えるサクラ。
「・・・分かりました。一度お会いして、話を伺うことは出来ますか?」
「あぁ、分かった。今から呼んでくるー」
「あっ、くっ、訓練の邪魔をするわけには・・・」
ソファーから勢いよく立ち上がるアドソン。
慌てて制するサクラは、大型犬を散歩させている映像が頭をよぎった。
「いや、今日は体調が悪そうなんだ」
「あ、それなら・・・って休ませてあげてください!話はあとで良いのでっ!」
「いや、どちらにしても休まないからさ・・・話の間くらいは座るように言えるから、それでどうにかしてやって」
「もちろんです!」
廊下を歩きながらアドソンは、サクラに末端の騎士たちの境遇を見せるべきか悩む。
平民でも傭兵や騎士を目指すことが出来るため、体付きが良い男の志願者は多い。
ただ、長く活躍できる職でもなく、退職金や殉職の見舞い金を目当てにしている現状もある。
加えて、実際の魔物との戦闘に、サクラを連れて行くわけには行かないので、王女宮の部下と話をしてもらって何か改善案を出してもらえば良いと考える。
メッツェンはひとまず、王女宮の騎士たちの境遇を改善出来れば、合格点を出すのだろうと。
「戦っているやつらの家族のことまで気にしてるんだなー。サクラっておもしれーな」
中庭で訓練を行っている女性騎士の一人に声を掛ける。
アドソンが国から文官が来ており、話が聞きたいと言っていると話すと、渋々頷く。
真面目な騎士でしっかり鍛練を積んでいるのだが、屈強な男性騎士と比べてしまえば華奢だった。
部下が仕事を長く続けられるきっかけになれば良いと、アドソンは知らずのうちに願っていた。
声を掛けたいけれど、忙しそうなときって邪魔したくないものですよね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




