報告-12の月、1日、1枚目
職場復帰
「改めまして、本日よりよろしくお願いいたします」
そう挨拶するサクラは、アイロンの掛かった侍女服を着て職場復帰となった。
そうは言っても、サクラの家は王女宮であり、実家は遠い異世界なので、まったりと王女宮の中で二日ほど過ごしただけだ。
部屋の外に出るときはメイド服を着ていたし、食事は賄い料理を他の使用人と共に取っていた。
図書館で調べものをしたり、ホーマンとモースのお茶の時間にこっそり合流していた。
「これからもあたくしの為に働きなさい」
いつも通りの笑顔で言い切るメッツェンが、スタンツェに目配せをする。
スタンツェはいつも通りの眉間に皺が寄った表情で、手紙を読む。
「朝方、印刷の試作品が出来たと連絡がそうです。・・・仕事として謁見に同席することが可能ですが、どうしますか?」
「もちろん同席させてください」
「宜しいのですね?」
「はい。せっかく文房具の妖精さんとご縁が出来たのですから、逃す手はありません」
「・・・はい?」
「はい?」
あの日、文具屋から王女宮はすぐに到着してしまい、宮に入ってからはすぐに休むようにと執務室にも入れてもらえなかった。
休暇の期間も執務室に入れなかったため、今になって報告することになった。
「・・・そういうことは優先的に報告しなさい」
「そうします」
「それで・・・サクラが持っているネックレスは、妖精殿より賜ったということよね」
「はい。身を護る加護をつけているそうです」
いつも通りサクラの首周りにいるペアンの尻尾がぶんぶんと視界を遮り、煩わしい。
小さな溜息をつくスタンツェ、こめかみを押さえて眉間に皺が寄るメッツェン。
この世界でも難しい問題のときには頭が痛くなって、こめかみを押さえるものなんだなと、妙に納得するサクラ。
いつも通り、温度差が激しい。
「・・・サクラ、魔物や妖精という人外者から加護を賜ることは、この世界では大変名誉なことなのだ」
「あ、では結果的には罪に問わなくて正解だったのですね」
「罪・・・・そうなるわ・・・はぁ・・・これからどうしましょうね」
「何も?・・・何も変わりませんよ?ビジネスパートナーですから」
「・・・それはさすがに・・・」
「いえ、ビジネスパートナーです。ここは譲りません」
メッツェンの執務机に一歩近づき、テーブルの天板に両手をつくサクラ。
笑顔だけれど、以前も見られたような黒いオーラが二人には見えた気がする。
あと、奥の方から睨んでいるメイドも圧が強いと感じている。
「・・・サクラ、それは人間側の都合であって、人外者の都合ではないわ」
「スティーブンさんは人間としてあのお店を守っていて、文房具に関して私の知識や感想をもっと知りたいと言ってくれましたよ。妖精の愛情はとても深くて、閉じ込めて最後に殺すことも愛情になると学びましたが、彼自身がビジネスパートナーとして末永いお付き合いを選んでくださったんです」
「想定していたよりも、気に入られていて命の危機が迫っていたようね。無事に帰ってきてなによりだわ」
「本読んで、メモ取って、ご飯食べて、寝ていただけですけれど、ね」
「それで文房具の妖精を満足させていたサクラが凄いわ」
本日何度目か分からない溜息をつくメッツェン。
妖精から向けられる深い愛情が契約となり、サクラの知らないうちに契約者になっていなくて良かったと感じる。
――――けれど、サクラが契約者になれば、それはそれで女王に仕立てあげられたのでは?
メッツェンが仄暗い妄想を始めた頃、サクラは軟禁生活の話を続けていた。
「差し出される文房具を試して、感想を言って、作成時の拘りの点や希少性、他の関連商品について聞きました」
「知らず知らずに、文房具の妖精本人の存在意義を最大限に尊重していたのか」
「そうなりますね。そういうわけで、これからもビジネスパートナーとして、文房具に関する知識はスタンツェさんとスティーブンさんに流していきますね」
「あぁ、俺も関わっていたほうが安心だ。ただ、俺は魔術具には詳しいが、文房具は趣味の領域だぞ」
メッツェンよりも魔術師として人外者との接触の機会が多かったスタンツェは、スティーブンがサクラを気に入った理由がなんとなくつかめた。
サクラへの興味を上手くメッツェンの力に繋げて、ゆくゆくはメッツェンの後ろ盾に人外者との契約を絡ませたいと考えている。
「大丈夫です。スタンツェさんにはカデンを作って頂くつもりですから!」
「サクラ、その『カデン』という物がが良く分からないのだけれど、あまりスタンツェの気持ちを研究に向けないでね。数日飲まず食わず、徹夜して仕事と研究をするような男だから」
「あ・・・それは・・・身に覚えがあるので気を付けます」
「身に覚えがあるのか・・・」
「はい、二日間でほんの少しの仮眠だけして、仕事と趣味をこなしたことも、良くあります」
残念ながら社畜経験者のサクラは、研究熱心なスタンツェを他人だとは思えない。
こちらでコントロール出来ることは、頑張りたいと考える。
スタンツェとメッツェンが何とも言えない表情で、サクラを見つめている。
サクラの後ろにいるメイドの視線が痛いのは、巻き込まれ事故だと思いたい。
「それと、こちらの暦は1年間が400日なので、換算すると30歳は超えています。色々経験しています」
「・・・私たちよりもだいぶお姉さんだったのね」
「はい。朝起きて、見た目の若さに驚く毎日です」
「サクラは色々規格外なのよ」
「そう言われましても、この国のこともこの世界のことも良く分かっていませんので、まだまだ伸びしろがありますね」
年齢なんてただの数字です、とにこやかに笑うサクラを、脱力したように見ているメッツェン。
なんとなく面白くなってしまって、メッツェンも釣られて笑う。
「そうね、どんどん成長して、あたくしを楽しませてちょうだい」
非常にマイペースなサクラさん。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
30話となり、少しずつサクラの行動範囲が広がります。
稚拙ですが、読んでくださる方がいることが、励みになっております。
これからも読んでいただけるよう、精進してまいります。
どうぞよろしくお願いします。
連日23時にアップ予定です。




