報告-11の月、18日、2枚目
遠くから見守るつもりのスティーブン
お礼の記入が終わり、顔を上げたところで、スティーブンが支配人の姿になって近づいてくる。
「・・・本当は、貴方が装飾品を強請った時に贈ろうと思っていたものです。最後まで貴方は頼みませんでしたけれど」
ポケットから黒く細長い箱を取り出し、開封して、サクラに見せてくれた。
「素敵なネックレスですね。細身のチェーンに、羽ペンのモチーフがついていて可愛らしいです」
「お詫びの証に受け取ってもらえませんか?あぁ、変な魔術は付けておりません。貴方が怪我などをしないように守る魔術を付けたくらいです」
羽ペンの羽部分が、スティーブンの髪の色に近い灰色になっており、そこに魔術が込められているという。
「分かりました。有難く受け取ります。えっと、着けて頂くのが礼儀なのでしたっけ?・・・ペアンくん、ちょっと降りてください」
ネックレスを着けてもらおうとしたサクラは、首周りを撫でる。
周囲の者には見えないペアンが小さく唸る。
姿を見せてさらに威嚇するペアンに、スティーブンが目を丸くする。
「ペアンくん、抱っこに変えるだけです。床まで降りなくていいので、ちょっと首周りを開けてください。ちょっとだけで良いですから、ペアンくーん!」
サクラの肌に爪を立てることはしないが、留まろうと踏ん張るペアンを何とか胸元に抱きかかえる。
「・・・なんとも過保護な使い魔ですね・・・ずっと首周りに?」
「はい。他の方には見えないように出来るとのことで、護衛や連絡係をやってくれています」
「・・・そうですか、この使い魔は・・・貴方が?」
「いえ、職場の魔術師さんが付けてくださいました。おかげでこの場所は分からなくても、私が生きて無事だということは分かったそうです。・・・では、ネックレスを着けてくださいますか?」
サクラはスティーブンに背を向けて願う。
目を数回瞬かせた後、スティーブンは、目を細めて目尻に皺が寄った笑顔を見せる。
「なるほど、私は初めから皆様の掌の上で踊っていたようだ」
「えっと、それはどうでしょう?少なくとも私がこちらに移動したことは、メッツェン様たちは気づかなかったそうですよ」
「あぁ、それは・・・私が妖精だからですよ。魔術で転移しました。机の宝石も妖精でしたが、依り代の中で眠っていましたので、そのまま眠ってもらいました」
唐突に爆弾発言を落としてきた。
サクラはペアンを抱く手に力が入り、振り返る。
「・・・なるほど・・・それで朝まで気づかなかったんですね」
「私が妖精だというのは驚かないのですか?先程言ったように、私は貴方を・・・あぁ、そうすると私は貴方からの知識を取りこぼしてしまうのでしたね」
「妖精であることには驚いていますし、殺さないでいてくださったことに感謝します。妖精の方が人として店を切り盛りしていること自体に驚きはないですし、そういう方だからこそ作れる商品や手に入れられるものがあると思います。ちなみにどんな妖精さんなのかを聞いても良いのですか?」
「えぇ、構いませんよ。そちらの使い魔も少し安心するでしょう。文房具です」
ピクリとペアンが身じろぎするが、サクラに抱っこされているので大きく動けない。
スティーブンを睨んでいるが、当の本人はサクラのことを見つめている。
「わぁ、そうしたら、沢山の文房具についてお話が出来ますね!」
文房具の妖精だと聞き、思わずサクラは笑顔になる。
「貴方はそうやって笑うのですね・・・ふむ・・・元より今回の件は貴方に危害を加えるつもりはありませんでしたが、穏便に治めて頂いてよかったようです」
「・・・そこはスティーブンさんが承諾してくださったからですね。こちらこそありがとうございます。似合いますか?」
「えぇ、良く似合っています。騎士の剣でも魔術師の杖でもなく、貴方の知識としてのペンで、これからのご活躍を期待しておりますよ」
「ありがとうございます」
一礼したサクラの首元にペアンが戻り、姿を隠す。
「本来ならば王女宮にお送りしたいのですが、店の前まで王女の馬車が来ております。・・・では、お見送り致します」
「あら、過保護な主が、なんだか済みません」
「いえ、こちらがお騒がせ致しましたから」
スティーブンの部屋側の扉を開くと、文具店内だった。
同時に馬車からアドソンを従えたメッツェン王女が降りてくる。
貴族にしては早い時間なのに、盛りまくった王女の正装はサクラの少ない知識でも、ウィスカーが時間をかけて頑張ったのだろうなと微笑んでしまう。
「・・・お待たせしてしまい、申し訳ございません」
一礼したスティーブンさんの横で、サクラは同じく礼をする。
扇で口元を隠すメッツェンは、待たされた割には機嫌が良いとサクラは感じる。
「そうね、待たされたことはなかったから、多くの学びは得られたわ。優秀な侍女が勧める店だから、通り道に寄ってみたのだけれど、うちの侍女が先にお邪魔していたのね」
「殿下のお気に入りの一品を選んで頂きました。宮にお戻りになるとのことで、見送りをさせていただこうとエスコートの機会を頂いた次第です」
「そう、では侍女を連れて戻るわ」
「ありがとうございます」
普段通りの丁寧な対応のスティーブン、王女として威厳を保つメッツェンの含みの多い会話を聞く。
王女に一礼し、スティーブンに向かいあう。
「色々とお世話になりました。自己紹介がまだでしたね。私はメッツェン王女の侍女サクラと申します。どうぞクラとお呼びください」
「クラ様。ご紹介ありがとうございます。支配人のスティーブンでございます。末永くご利用いただけますよう、精進してまいります」
「今後とも宜しくお願い致します」
互いに一礼する。
アドソンの誘導に合わせて、馬車に乗り込む。
中にはスタンツェとウィスカーが座っていた。
久しぶりにウィスカーの顔が見られて、サクラはホッとした。
馬車の扉が閉まっても、メッツェンは何も言ってこない。
こういう時に上の者が話しかけるまで、下の者は話しかけてはいけないはずだ。
走り出した馬車はすぐに王女宮についてしまうだろう。
「・・・サクラ、何か言う事はあるかしら」
「お迎えありがとうございます。ここ数日間、色々と動いて頂いていたとのことで、感謝の気持ちを忘れずに、これからも精一杯働きます」
「そうね、スタンツェはサクラに何か言う事はあるかしら?」
「本当に不問で良いのか?」
「はい、打ち合わせの通り、ビジネスパートナーになっていただきました。メッツェン様のために役立てる文房具を開発していきます」
「・・・魔術具の一つにも文房具はある」
「ではスタンツェさんとの共同開発にしても良いですか?」
「どうしてそうなる」
眉間にギュッと皺を寄せているのに眉が下がるスタンツェをみながら、呑気にサクラは返事をしている。
その落差にメッツェンはとうとう噴き出す。
慌てて口元を扇子で隠すが、時すでに遅し。
「皆さんに心配をおかけして申し訳なかった気持ちもありますし、お迎えに来てくださったことが嬉しいと感じます。そして、これからも恩返しをしていきたい気持ちは強くなっています」
「・・・メッツェン様のために死ぬ気で働け」
「はい。それと、スタンツェさん、お帰りなさい。ただいま戻りました」
「・・・あぁ、俺も無事に帰った」
サクラはいつもの笑顔で話し、目を瞬いたスタンツェはいつもより柔らかい表情で返した。
スタンツェが窓を叩くと、御者席のアドソンが振り向く。
「サクラー、お帰りー」
サクラは手を小さく振りながら、答える。
「ただいま戻りました」
視線をずらしてウィスカーにも手を振る。
「ただいま戻りました」
ウィスカーは小さく頷き、微笑む。
サクラはここが自分の求める場所なのだと、首周りのペアンを撫でながら微笑んだ。
あの時のチョコレートは無事にサクラのお腹に収まりました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




