報告-11の月、16日、ゴッセ
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サクラがどこかに隔離されて三日目。
あの朝にウィスカーから報告を受けた俺たちは、青褪めた。
王女宮にはスタンツェを越える魔術師は居ない。
結界が破られたという報告はないし、夜警のものたちも不審者は見ていないという。
そもそも王女の執務室横の部屋に侵入するなんて、よほどの実力者かバカしかいないだろう。
報告を受けたスタンツェは、使い魔との交信を行い、サクラは生きていて、使い魔の傍にいると判明した。
使い魔の感情の波を見ると、今のところ生命を脅かされることは起きていないらしいとまで判明した。
こちらは場所が分からないと動けないのだが、スタンツェが苛立っていたいたから詳しくは聞けなかった。
「ひとまずサクラが眠っている間に居なくなっているということは、この城に侵入者がいるということになる。使用人全ての身元の確認をホーマンに指示し、魔術師たちで結界を強化している」
「騎士団にも訓練と警備の強化を命じてあるぞー」
「王都にも怪しい動きは見られない・・・か」
サクラがいなくなっただけであれば、動揺する必要はない。
王女の執務室の隣部屋に侵入者がいるという事実が、王女宮全体の緊張感に繋がっていた。
王女宮の中でも執務室の近くを担当する者は、中級以上の貴族ばかりだ。
雑用をこなす使用人も下級貴族や、貴族の籍を返還した平民などで、出入りの業者も身元がしっかりしている所を選んでいる。
それでも何らかの方法で侵入を許したのであれば、今までよりも厳しく選定しないとならない。
「そもそも、なんでサクラなんだー?金目当てなら街中で貴族の令嬢を攫った方が早いだろうし、王女宮に侵入すること自体が目的なのか?」
「サクラが異世界から来ていることを知っている者という線は?」
「サクラは魔力もほとんどないし、そもそも魔術は使えない。あるのは異世界の知識だけだ。それを知っている者はほとんどいないはず。というより、王女宮自体から出たのはまだ一回だけだ。申請せずに出て行かないように、あいつも承諾していた」
「・・・その一回の外出で、サクラとトラブルになった金の亡者団は、動いてないし、依頼も受けていないそうだ」
「ん?そこまで調べたのか?」
「うん。ホプキンスっていう一番トップの男と仲良くなった。あいつ、サクラの言う通り、本当は義理堅いやつだった」
「お前は相変わらずの人たらしだな」
「まぁな~アドソンも一緒に飯に行ったんだ」
「おー、良いヤツだったぞー」
「騎士が犯罪集団と飯を食うなよ」
「まぁまぁまぁ、そういわずに。金を払ったから、王都に異変があれば教えてくれることになったぞ」
「・・・相変わらずの人たらしだな」
サクラが連れ去られても金の無心はないし、メッツェンに脅迫状が届くこともなかったため、緊張感のあまりない報告会となった。
宵の口、三人はそれぞれの部屋で夢を見た。
少し離れたところから、サクラが小走りで近づいてくる。
「あ、皆さん、会えて良かったです」
「お、サクラー、久しぶりー」
「何を呑気なことを・・・ここは夢の中か?」
「みたいだねぇ。それでもサクラに会えてよかった」
ゴッセの勝手な願いかもしれないが、なんとなく目の前にいるサクラは本物の気がしていた。
何となく悔しいから『その服は、買わなかっただろ』とは、口にしなかった。
いつも通りの笑顔のサクラは、少し不機嫌そうなスタンツェにも話しかける。
「はい、元気にしています。あ、スタンツェさん、お帰りなさい」
小さく息を吐きだして、スタンツェはサクラを見据える。
「・・・今度はお前がいなくなったんだ。その言葉はまだ早い」
「そうですね。皆で揃ったら、また言います」
「・・・土産を、買って来てある。腐る前に食べた方が良い」
「そっ、それは、早く帰りたいです!」
「サクラって、おもしれーな」
慌てだすサクラを見て、朗らかにアドソンは笑う。
「・・・それでお願い事があるんですが良いですか?」
急に明るい声を出したサクラは、『お願い』をしてきた。
内容を聞く前に、アドソンが引き受ける。
「おー、楽しそうなことなら良いぞー」
「おい・・・まだ俺たちはサクラがいるところを把握できていないんだ。それでも良いか?」
「もちろんです。まだ、私も確定的なことは言えないので、構いません。アドソンさんにスティーブンさんがいる文房具屋に行ってもらえますか?私が白いインクを欲しがっていたことを話して欲しいんです」
「白いインク?白?」
「はい、さりげなく・・・聞けますか?」
「それぐらいやれるさー」
「それなら俺様も付いていくよ!」
「ありがとうございます。無理はしないでくださいね」
サクラは買い物ではなくて、世間話をして来いという。
先日登城した文具店の支配人に対して、確証はないが疑問はあるのだろう。
確かにスティーブンはサクラに興味を示していた。
スタンツェも訝しむ。
「サクラ、お前は何を考えている?何が見えているんだ?」
「んー・・・まだはっきり分かっていないのです。ただ、気になることを確認したいんですよ。ちなみにゴッセさん、支配人のスティーブンさんとお話するときに、相手がサクラと名前を呼ぶように誘導して貰えますか?」
「ん、何とかしてみる」
サクラとスティーブンの繋がりはアドソンと店を訪れたときと、商談のときのはずだ。
「以前、アドソンさんと伺ったときには、私の名前を伝えていないはずです。宮でお会いしたときは、私の名前をあえて伏せていてくださったので、スティーブンさんは私の名前を知らないはずです。その上で、サクラのサを初めて聞いて綺麗に発音できる人は、この世界にあまりいないと推測しています」
「そうだなー、俺もシャになったわー」
「はい。今、私と一緒に閉じこもっている人にはサクラと呼んでもらっていますので、もしスティーブンさんが同じ方でしたら、綺麗に発音されると思います」
「なるほど、もし発音が正しくなければ、一応除外出来ることになるか」
証拠がなければ確保は出来ないとスタンツェは頷く。
俺はサクラがいつも通りの笑顔でいることが気になった。
命の危険がないことは使い魔からの情報で分かっているが、怖い思いをしていないのだろうか。
「・・・ちなみにサクラはその支配人が加害者だった場合はどうするの?」
「もちろん、交渉します。今の生活は、恐らく普通の軟禁よりも自由にさせてもらっています。悪意を感じていないので、罰して欲しいとは考えていないです。ただただ、皆さんの下に戻りたいだけです」
「捕まえなくて良いのか―」
「あれだけの品ぞろえの良い文房具屋さんを、閉店させてしまうのは悲しいので、捕まえなくて良いです。印刷技術は欲しいですし、今後もお付き合いは致します。必要なら文房具店にも伺います。とにかく、私としては生活の基盤はメッツェン様たちの近くが良いんです」
笑顔であくまでも自分の都合だと言い切るサクラに、溜息をついたスタンツェが同意する。
「・・・サクラの気持ちは分かった。穏便に済ませよう」
「わー、ありがとうございます」
「まぁとりあえず、サクラが無傷で戻ってきたら・・・という条件は付けさせて。」
「はーい」
目覚めたら、早いうちに夢の内容を共有して動き出そうとゴッセは決める。
他の2人も同じ夢を見ていたそうで、ゴッセとアドソンは開店時間に文具屋へ、スタンツェは先程見た夢の分析を行うことになった。
楽しい夢を見た後、サクラは目覚めた。
明るい陽射しに目を瞬くが、青年が覗き込んでいるのを見つけて目を見開く。
「・・・どうしました?」
「ううん、トイレに行こうと思って前を通ったんだ。なんだか楽しそうに寝言を言っていたから、何だろうと思って聞きに来たんだ」
「ねっ・・・寝言を聞いていたんですか?」
「ほんのちょっとだけだよ」
「これでも一応恥ずかしさは持っている人間です・・・うぅ恥ずかしい」
「ははっ、気にしないのに」
青年は朗らかに笑いながら、青い扉に入っていった。
青年と入れ替わり、お風呂の入り口にで着替えを行い、髪に櫛を通す。
部屋に戻ると、朝食が準備されていた。
いつも通りに食事を行い、少し会話をして、青年は自室に戻っていく。
サクラは外に出ることが出来ないが、逃げなければ生活が保障されているので、隣の部屋を覗くことはしない。
青年と初めて会話をしたときに、トイレが共用だと話す割には、日中一回くらいしかトイレを使用していない。
尿量が少ない方もいるし、以前罹った病でコントロールしている方もいるだろうけれど、目の前の青年は、トイレを使用しなくても良い環境に居られるということだ。
サクラは与えられた書籍やノート、ペン、雑貨などを楽しみ、時間を潰しているため、この部屋から出ることはない。
だからこそ、青年がこの部屋に訪れたタイミングや、部屋で得られた情報を事細かに書き出している。
時計はないが、サクラのいた世界の先人たちは太陽の光の角度で時間の経過を把握していたのだ。
同じ場所で同じ角度で、光の角度のメモを添えて、情報をまとめる。
恐らく今夜も夢の中で三人に会えるのだろうとも予測する。
「さて、何か進展すると良いですねぇ」
膝の上で丸くなるペアンをそっと撫でながら、サクラは紅茶を口に含む。
マイペースなサクラと、知らず知らずにホッとしている三人。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
連日23時アップ予定です。




