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報告-11の月、13日、スタンツェ

スタンツェとサクラの話

午後のスティーブンとの商談が終わるころ、雨が降り始めた。

11月とはいえ、もしかしたら肌寒い夜になるかもしれない。


「この前頼まれていた調査に、今夜行ってくる」

夕食時これから任務で城を空けると伝えるスタンツェ。

他の2人は頷くが、サクラの表情が硬い。

「なんだ?」

眉を顰めて一瞥するが、サクラの方から視線を逸らされて、夕食が終わる。

出掛ける準備が整ったときに、ペアンを連れたサクラが訪室する。

薄く開けたドアから青白い顔のサクラが見えて、思わず部屋の中に入れてしまう。


独身の男女が夜間に二人きりなど、醜聞に関わることだとサクラも理解しているのか、薄く扉を開けたままにしている。

扉のすぐ前にたち、終わるからと話し始める。

サクラは幼いころに、父を雷雨の夜に馬車の事故で無くした。

母の手一つで育てられ、のちに再婚と至ったが、その新しい男も豪雨の夜、馬車の事故で無くなり、その後母は心を病んでしまった。

サクラ自身も結婚しているが、折り合いが合わず離婚する。諸事情あって、夫と子二人はサクラの元を去ることになった。

離婚の話し合いが終わった雨の夜に、三人は『祝賀会』と称して夕食に出て馬車の事故でなくなったそうだ。


「向こうの言葉でトラウマというのですが、勝手に心配になりました。済みません」

同じような事象が何度となく起きて、自身に降りかかった呪いのようなものなのだろうと理解した。

今回の任務は夜間に調査する必要があるだけで、危険はない。

「サクラの過去は、俺には関係のないことだ。それを今聞かされるのはまるで予言のようだな」

なんとなく苛ついて、皮肉ぽい言葉を口に出す。

目を見開いたサクラは微笑み、謝罪して部屋から出ていった。

「・・・何が、そうですね、だ。言葉の呪いとして成立させるようなことを言うなよ」

サクラに謝ってもらったというのに、余計苛ついた。


任務に向かう途中、馬車の中で使い魔たちからサクラの情報を得ようとするが、阻害される。

今までも時折あったのだが、サクラが入浴中だったり、近くにいないときにそうなるようだ。

「まぁいい。覗きの趣味はないからな」


基本サクラは笑っている。

モースとの件も、執務室に乗り込んできたときから笑顔だった。

冷たく黒いオーラを放つ笑顔だったが、先程の退室したときのサクラの笑顔からは、感情が読み取れなかった。

あれは苛立ちだったのか、怒りだったのか。


サクラの普段の笑顔を、俺自身のように張り付けた仮面のような微笑みだと思ったことはない。

だが、今まで本当に笑っていたのだろうか。

今回は心の中で何を考えていたのだろうか。

「自分が理解されないと泣くなら、結局面倒な女だということだな」

長い息を吐き、馬車の背もたれに寄りかかる。

到着前に雑念を追い払い、何度も読み込んだ調査内容を振り返る。


王都の外側は宮ごとに町が区切られている。

そこでのトラブルは各宮の主が担当することになっている。

領主は別にいるが、俺自身も王女宮の安全を守るためにも対応は必要だと考えている。

王女宮から町を抜け、その外の領地との境目に、夜な夜な妖精が出現すると噂がある。

被害は出ていないとのことで、ひとまず調査だけと足を運んだのだ。


――――雨の夜の馬車に嫌な思い出が結びついただけだろう、ああやって言いに来るなど、わずらわしい。

――――あんな言葉を吐きながら、どうせ夜は寝ているのだろう・・・呑気なものだ。

――――あいつがメッツェン様の役に立つように、色々手配しただけだ。謝って欲しかったわけじゃない。


それぞれの出現した場所があまり遠くないため、徒歩で妖精の痕跡を調べていく。

仕事を淡々とこなしているうちに雨が上がり、日が昇るころには、調査を終える。

馬車を走らせ、まもなく城に到着するが、やはり何も起きない。

――――当たり前だな。それでも、と思ったのだろうが、心配するほど親しい間柄ではないだろう。くだらない。


調査のあとは、そのまま休暇として良いと言われていたので、少し早いがスティーブンの店に寄ろうかと、方向転換の指示をだす。

開店時間となったばかりのお菓子屋が目に入る。

――――メッツェン様が、利用価値があると見込んでいたようだから、機嫌を損ねないようにするか。


甘い物を食べるときは、より一層明るい笑顔になっているからと、チョコレートを一箱購入する。

なんとなく、スティーブンの店には寄らず、王女宮に戻ることにした。

「目的地を変更して、王女宮へ。お待ちかねだろうからな」


馬車から降りて、裏口から入る。

目につく使用人たちから穏やかとは言えない空気を感じるが、気にも留めずに執務室に向かう。

「・・・何があった?」

青白い顔のメッツェンとアドソンから、サクラが消えたと報告を受ける。


渡せると思っていたチョコレート。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時アップ予定です。

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