報告-11の月、13日、1枚目
スティーブン登城回
モースから二回目の授業を受けて、お互いに意見交換が出来た。
やられたことはやり返したサクラは、モースに対しては『仕事に対して真面目な人』という評価をしており、メッツェンにも伝えてある。
モースは先日のことがあるため、初めは気まずそうであったが、改めて謝罪し、メッツェンを支えるために必要な知識を共有した。
モースから与えられる情報は、服装、マナー、贈り物選びなどの常識、貴族の人間関係など想定内のものが多く、書き出していてもサクラに驚きはなかった。
しかし、そこに相談人という肩書が加われば、素材や産地の歴史から最新情報までを網羅し、お茶会や夜会の準備、運営など多岐に渡る知識や人脈が必要だという。
サクラは貴族への人脈作り以外は、なんとか出来そうだと判断し、モースに改めて指導をお願いして本日の授業が終わった。
昼食の賄い料理は西の国北部の海岸沿いの領地から、クラムチャウダー風パスタだった。
サクラの休日中に、ホーマンやモースが使用人たちとメッツェンたちの間を取り持ち、同じメニューであっても不敬ではないと確認した。
王女としての体裁を整えなければならない場面では、王家の威光のためにも華やかで贅沢が必要だが、訪問客もいない普段の食事に郷土料理を出すことはメッツェンの学びになるとされたのだ。
一応、メッツェンたちはコース料理にしてあり、使用人たちはお弁当の形にしてある。
料理人たちが賄い料理を王女宮のコース料理として出してもあまり見劣りしないものにしようと奮闘しているそうだ。
「色々な料理を知ることが出来ますね」
楽しそうに笑うサクラが諸々の原因になっているのだが、全く自覚はない。
午後になり、王女宮から招聘を受けたスティーブンが丁重な挨拶をする。
メッツェンの侍女として付き従うよう言われていたサクラは、主が座るソファの後ろに控える。
今日はメッツェンからの質問に手短に答えるだけにして、ボロが出ないようにするのが仕事だ。
サクラの前にはメッツェンの一人掛けソファ、その右手側にスタンツェ、左手側にスティーブンが座る。
スティーブンのソファから応接室の扉までに、メッツェンたちへの贈り物と行商用の品々が置いてある。
使用人たちへの品は、羽ペン、ノート、インクなどの一般的な物や、キャンバスや筆など魔術具の元になる物も入っているそうだ。
淡い色合いのリボンに包まれたプレゼントはバレーボールくらいのサイズで、ワインレッドのような濃いめの包み紙の箱は平たく薄い。
御用達の店としての贈り物なのだろうけれど、サクラは包み紙とリボンが欲しい。
後でメッツェン達に交渉してみようと心の中で誓う。
デザインペーパーとして、ブックカバーにしたいし、小物を折りたい。
上司たちの挨拶が恙なく終わり、スタンツェが最新の印刷技術に関して、スティーブンに問う。
「今でも公式文書などは手書き、魔力込みの署名が必須ですが、注文書のような同じ文面をあらかじめ大量に書いておくのであれば、絵画の魔術の土魔力持ちを雇うでしょう。紙に魔術を焼き付けておく作業が必要になります。細かな作業が出来るものであればより大量生産が可能となります」
「なるほど、絵画の魔術を扱える者が少ない地域は難しいわね。ねぇあなたはどう思う?」
スティーブンの意見を踏まえ、サクラの意見を聞く。
サクラは活版印刷のイメージで、小さな文字スタンプを沢山作り、並べて一括で印刷できないかと聞く。
長期間使えるスタンプはシーリングスタンプのように金属製になるだろうから、彫りを入れるのが大変なので、そこを絵画の魔術を使える人に頼んで作成してもらうのはどうかと提案する。
魔力が少ない地方の平民でも、文字を読み書きできるのならば、扱えるだろうと話す。
「魔術師の方や職人さんのお仕事を邪魔したい訳ではないのです。代筆業などは今後も必要な物だと思いますが、定型文で済ませられるところは誰でも簡潔にやりとり出来た方が良いかと」
スティーブンは面白いと乗り気になる。
サクラは追加で情報を提供する。
「絵画の魔術師さんが何個も彫るのは大変だと思います。一文に同じ文字が出てくるならば、その分を用意しておかないといけませんから」
初期の文字を作る労力と、毎回文字を並べるのが大変だと伝える。
しかし、注文書のように決まった文字を並べて置くものは一ページ分作ってしまえば、あとは楽だと。
文書の変更もあり得るため、組み直せるようにはしておいた方がいいとも加える。
新しい技術の提供に笑みを深めるスティーブンと、スタンプを彫るための絵画の魔術を魔術具に応用できないか気になるスタンツェ。
「絵画の魔術で土の魔力を持つものだけではなく、他の属性の者も魔力で削れるような魔術具を作れば良いのか。打撃を与えて削っていく形にするか、刃物を強化して削りやすくするか・・・」
スティーブンの提案にスタンツェが質問や提案をだす。
そのやりとりを聞きながら、前の世界の活版印刷やスタンプについて楽し気に話すサクラ、様子を伺うペアン。
業務が楽になるならば嬉しいと、優雅に紅茶を飲むメッツェン、お茶菓子を追加するウィスカー。
和やかに時間が過ぎて行く。
実際やってみるとうまく行かないかもしれないからと、戻ったらすぐに試作品にとりかかると、スティーブンが話す。
本来ならば下の者が上の身分の者を置いて帰るなど許されないが、今回はメッツェンの依頼に答えるためなので、許可された。
後日、試作品をサクラに見てもらえるようスティーブンが申し入れる。
「えぇ、あたくしの為になるものを期待していますわ」
メッツェンが承諾し、スティーブンは立ち上がりながら、サクラの方を見て微笑む。
会話に夢中でメッツェンのソファーの横にまで出てきていたサクラの方に、急に近づく。
「王女陛下は素晴らしい侍女をお持ちですね。ぜひお名前」
「あたくし以外の者を誉めようだなんて、失礼ね。あたくしの『物』に勝手に触れないでくださる?せっかくの商談なのですから、気分を害したくないわ」
サクラを誉めながら近づき、手を取ろうとしたところを、メッツェンが扇で遮る。
和やかな雰囲気から一気に冷えた空気となり、全員の背筋が伸びる。
扇自体で叩かれたわけではないが、スティーブンはすぐに手を引き、メッツェンに深々と礼をして、謝罪の意を表現する。
「・・・大変失礼致しました」
「謝罪を受け入れますわ。あたくしは実利を求めますの。成果を見せてくださいね」
メッツェンは冷たく微笑む。
その後の打ち合わせはスタンツェが代行するとして、メッツェンとサクラ(ペアン付)、ウィスカーは退出する。
「・・・メッツェン様、守っていただいてありがとうございます」
「なんのこと?あの中での優先順位はあたくしが一番のはずよ。それを他のことに気を許すなんて、失礼極まりないから教えてあげただけよ」
胸を張って、持論を展開するメッツェンに、素直じゃないなと苦笑するサクラだった。
悪役令嬢ぽく振る舞う可愛いメッツェンさん。
サクラの頭の中には『ツンデレ』という言葉が浮かんでいました。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




