報告-11の月、11日、1枚目
ホーマンの授業回
今日は執事長のホーマンからの講義を受ける予定の為、執事長室に向かう。
いつもより毛が逆立っているペアンのことは、ずっと撫でている。
猫様の気持ちは推しはかり切れないが、パンケーキは食べてくれていたので、サクラのことを心配していると受け止める。
入室すると、アドソンが既にいた。
「おー、サクラ、丁度良かった。文官は出来そうか?」
「スタンツェさんのようなお仕事ですか?」
「執事とはまた違いますが、国に仕える仕事ですね」
急な提案に、サクラは動揺する。
「公務員は試験が必要では?」
「コウムイン?」
ホーマンに聞き返されて、慌てて質問をぶつける。
「・・・国に仕えるお仕事ならば、試験とか資格とか伝手とかが必要だと思いますが、どうでしょう?」
「今のサクラもメッツェン様に仕えているので、国に仕えていることになっていますよ」
「あ、意外と軽いノリでしたね」
「軽いものでもないぞー」
まぁ考えてみて、と軽いノリでアドソンが声を掛けて、退室する。
改めて、ホーマンと向かい合って座る。
今日の執事服もきっちりと着こなすナイスオールドが、眼福だと笑顔になりながら、サクラも自身の侍女服を見る。
ウィスカーのメイド服ではなく、モースの侍女服と同じ形になる。
午前中の学習の時間は侍女服、午後のメッツェンのメイドとして仕えるときはメイド服に着替えるように、ホーマンとモースで取り決めた。
気分的にも切り替えられるし、ドレスと違って一人で着替えられる服なので、サクラも異論はない。
「メッツェン様の相談役となれば、文官の能力も必要です。サクラは先日の視察報告書を見れば、文章を書く能力は高いことが分かりますし、文官として働いてもよさそうですよ。そもそも、記憶がなくとも、書籍を与えられてスラスラと読むことが出来るのは、それなりの土台があるということでしょう。」
「・・・そうなりますね。あの・・・国家機密とか・・・触れてはいけない文章とかあると思うのですが・・・」
「それはこちらで処理致しますよ。メッツェン様やスタンツェ様、私でないと処理出来ない仕事で無ければ、サクラに振りますのでまずは体験してみても良いのではないですか?」
「色々と確認しながらやっていきますね」
「では、身近なところから、城の備品の購入依頼と住民からの嘆願をとりまとめてください」
「はい。やってみます」
長ソファにサクラが座り、ローテーブルに書類を並べる。
一枚目を読み解くと、どうやら調味料の購入依頼らしい。
二枚目を読み解くと、どうやら洗濯機が壊れたらしい。
三枚目を読み解く前に、ホーマンに確認する。
「あの、ここでは、依頼書というものはお手紙形式なのですか?」
「はい?嘆願書のことですよね?」
「いえ・・・・購入依頼に挨拶は不要ですし、何が欲しいのか分かってない人が書く文章は依頼書ではありません。相談書に変更すべきですね」
「ふむ・・・サクラは何か具体的な案はありますか?」
穏やかに微笑むホーマンを見て、サクラは墓穴を掘った気がしたが、ざざっと手書きで注文書や依頼書のテンプレートを作成する。
「なるほど。先に項目を書いておくのですね。数字だけ書いてもらえば良いし、このまま出入りの業者に渡せばよい、と」
「はい。もし注文したいものが曖昧であったり、どこに頼めばいいか分からない時には、備考に記載し、職場の人たちで検討してもらって、明確にしてもらいます。一人一人が欲しい物を依頼するのも良いのですが、皆が共通して欲しいものを購入したほうが、大口購入となって値段交渉も可能では?」
「なるほど。採用しましょう。同じものを何枚も作れますか?」
「そうですね、印刷機は無いので、手作りになりますが作っておきます。あ、この国の方は読み書きはどの程度出来ますか?」
「城の使用人はほとんどが読み書き出来ます。出入りの商人も読み書きは可能ですが、住民の嘆願書は領主などが取りまとめてから上がってきますね」
「なるほど、字が書けない住民の方は意見を潰される可能性もあるのですね。そうしたら、言葉を簡単なものに変えて、小さい絵もつけますか?」
「その意図は?」
「学んだうえで読み書きが出来るかたはいいのですが、経験的に読んでいる方や読めない方は絵の方が伝わることもあります。また仕事上の立場としては経験的に読んでいる方と読めない方は一緒にいることが多いと思いますので、絵と簡単な単語を一緒に書いておけば、読み解きやすいと思います。書く時も簡単な単語だけ書ければ良いと安心するでしょう」
「なるほど」
「枠と単語と絵で書いておいて、枠の中に絵を書いてくれても良いんですよ。長ったらしい挨拶文で半分埋められるよりも楽です」
「・・・まぁ否定は致しません。ただ西の国に絵画の魔術を使えるものが多いからという理由でしたら、すぐに却下致しましたのに」
「・・・絵画の魔術。思い至らず申し訳ございません」
「いえ、サクラは絵画の魔術を見たことはありますか?」
「スタンツェ様の使い魔召喚と、街の噴水を見ました」
「どちらも水の魔力で作られたものですね。私は絵画の魔術を使用しますが、火の魔力持ちですので、少々違いがあります」
「属性と個人の能力によって変わるとは聞いています」
ホーマンからの絵画の魔術の講義を受ける。
火の魔力で絵画の魔術を使うと、焼き印のような内側から焼き尽くすほどの長時間攻撃が可能らしい。
防御に関しては、聖なる火の力で攻撃力があがる効果を持つそうだ。
「攻撃は最大の防御という考えなのでしょうか?」
奥深い魔術の世界に興味が深まるサクラだった。
「脱線してしまいましたね。では、いくつかの用紙を作成してください。その間に嘆願書はこちらで取りまとめます」
「あ、嘆願書は私がやりたいです。地域の方の考えを知りたいのです」
「文書の作成はいつ行いますか?」
「今回は先に購入希望を整理して、嘆願書を取りまとめます。購入依頼書は今回から使わなくとも良いと判断しました」
「なるほど。ではそのように」
午前中に購入依頼、嘆願書のとりまとめを終えたサクラは、メッツェンの執務室でテンプレートを作成する。
印刷技術についてスタンツェと話し合い、近いうちにスティーブンの文具店に依頼を掛けることになった。
サクラはあの店に行けると喜んだが、王族は商人を招くことが普通だと言われ、落ち込んだ。
スタンツェがついでに文具も購入するから、品を持ってくるように頼んでやると、助け船をだす羽目になった。
記憶はなさそうだけれど、やはり訳ありの令嬢なのだなとホーマンは判断しました。
メッツェン様のために頑張るならばそれで良い様子。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




