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報告-11の月、10日、1枚目

人に暴力を振るう表現が入ります。

苦手な方は避けて頂いても、話の筋は追えます。

何となく目覚めてしまった朝。

今日から教育が始まると考えると、眠りが浅かったようだ。

二度寝も出来なさそうなので、身支度を整える。

ウィスカーのために少し開けてあったカーテンを全開にする。


コンコン

小さくノックされる。

ペアンにウィスカーを起こすように頼み、返事をする。


「おはようございます。モースです」

「おはようございます。今開けます」

慌ててウィスカーの姿を確認してから、ドアを開ける。

「・・・少し早いのですが、一緒に食事をしながら、確認したいことがあります」

「はい、よろしくお願いいたします」

振り返ると、ウィスカーは手を振ってくれている。

「行ってきます」

サクラは首元を撫で、ウィスカーにも小さく声を掛ける。


モースの後について食堂へ向かう。

「手短に確認します。貴方の記憶はどこまでありますか」

「この国で生まれてからメッツェン様に会うまでの記憶がありません。文字は読めたので、本を借りて学んでいただけです」

「では、マナーなどは体が覚えている分だけが残っているのですね」

「はい。ただ・・・記憶がないだけで、急に何を拒絶したり、私自身でも思ってみない反応をするかも知れませんので、そこは先に謝罪いたします」

「分かりました。そこも含めて確認して参りましょう」


二人は食堂で小さなお弁当を受け取る。

バターロールのようなパン、スープ、小さなおかずが入っている。

毎回思うけれど、プラスチック容器がないので、お弁当用の籠に陶器のポットと小鉢、フォークが入っている。

洗ったり、在庫管理など、維持するのが大変だろうと推測する。

それを可能にするのが王家でお城なのだろうけれど。


侍女長室に通される。

メッツェンの執務室よりは小さいけれど、執務用の机以外に応接セットがある。

本棚や床材は落ち着いた色合いだけれど、綺麗に飾られた花瓶の花やレース飾りの敷物など、手入れの行き届いた部屋だと感じる。

事前に約束していた通り、ペアンは誰にも見えない姿で、部屋の隅から見守ってもらう。

「座って食べましょう。こちらへどうぞ」

「失礼いたします」


サクラが椅子に座ろうとして、それは起きた。

パシッ

背中が焼けるように熱くなり、一瞬何が起こったのか分からなかった。

けれど と、サクラは一つ思い当たる節があった。

そして、ペアンが小さく唸っているから、それは正解なのだろう。

モースは鞭を手にしており、恐らくラノベでよくある展開の、躾として背中をたたかれたのだろう。


「姿勢が曲がっています」

モースは無表情でサクラを見てそういった。

サクラは、左隣に立つモースの方に体を向け、笑顔を整える。

「そうですか、では先生・・・失礼・・・しますっ!」

サクラは、小さく振りかぶってモースの左頬を叩く。


一瞬呆然としたモースは、顔をカッと赤く染める。

「あっ、貴方は今何をしたか分かっているのですか!」

怒りのあまり顔を近づけたモースの頭についているお団子を掴み、サクラは歩き出す。

「ちょっ・・・ちょっと・・・」

小柄のサクラに頭を押さえつけられ、引っ張られる彼女は体のバランスが保てず、引き攣られるように歩く。


メッツェンの執務室の扉を許可なく開ける。

「失礼しますね」

「サクラ、扉を開けてから挨拶す・・・」

書類に向かっていたメッツェンが、横のスタンツェに肩を叩かれ顔を上げる。

自分の部下であるモースがサクラに頭を鷲掴みにされて、顔を真っ赤にしている。

メッツェンから見ると、モースの目が潤んでいるようにも見える。


「えっと・・・サクラ・・・落ち着きなさい」

「メッツェン様、大丈夫ですよ。私は落ち着いています」

物凄い笑顔で、今まで聞いたことのない低い声で返答するサクラ。

猫であったなら、逆毛が立っているような雰囲気を醸し出している。


「その者はサクラの講師役で上司であったはずだが?」

「えぇ、知っています。叩かれたので叩きなおしました。それでも文句を言う様子だったので、ここの教育体制を質問するために来ました」

スタンツェが眉をひそめて、サクラに問い、満面の笑みでサクラから返答が来る。


「・・・分かったわ。まずその者から手を離しなさい」

「はい」

サクラは大人しく手を離す。

モースは呆然として、口を開けず、床に手をついたまま座っている


「それで何を聞きたいの?」

「ここでは教育の名のもとに体罰が許容されているのですか?」

「それは・・・えっと・・・」

言い淀んだということは、黙認されてきたということとサクラは受け取る。

「分かりました。では、この方からの指導は受けますね。ただし、叩かれたら叩き返しますので、許可をください」

「えっ」

「え?ダメですか?じゃぁ叩かれたら、刃物で切り付けますね。許可をください」

「いやいや・・・」

「・・・ふぅ・・・我儘ですね。・・・ではこうしましょう。私が叩かれたら、それを命令しているのはメッツェン様だと解釈して、私がメッツェン様を叩きますね。それが良いですね!」

またしても、満面の笑みでサクラが決定事項を言い渡す。

サクラの笑みと共に、猫の使い魔も後ろに控えているはずのメイドも殺気を放っている。


メッツェンはこめかみを押さえならが、サクラを落ち着かせようとする。

「・・・サクラ・・・それは良くないわ・・・」

「え?何を言っているんですか?ここでは教育として叩いて良いんでしょう?教えた結果、分かったことを生徒から教師に返すのも、れっきとした教育ですよ」

「いえ、だからって、叩かなくてもいいじゃない」

「えぇ、だから、教育において叩く必要はないんですよ」

笑顔のサクラはより一層笑みを強め、目が細くなる。


「ん・・・そうね」

「でも、私は叩かれたんですよ。そして、私が叩いたことは間違っていると皆さんはおっしゃるんです」

「何もそこまでは・・・」

「では、命令した人としてメッツェン様に叩き返していいという事ですね」

「えっ・・・それは・・・いいわ・・・分かったわ」

反論しようとして、サクラの言い分を飲むメッツェン。

勝気な印象を与える普段のメッツェンと変わって、目を伏せてサクラに同意する。


「メッツェン様っ?」

慌てて顔を上げたモースは大粒の涙を流していた。

サクラはメッツェンのことだけに集中している。

「はーい、では、参りますね」

メッツェンに近づき、振り被ったサクラの手はメッツェンの頬に到達することはなく、モースがサクラの腕にしがみついていた。


「その方を傷つけてはなりませんっ」

「この方は同意されましたよ」

必死に止めるモースと笑顔で返すサクラの言葉に、誰も口を挟めない。


「その方は大切な方なんですっ!」

「だったら、貴方も貴方自身を大切にしてくださいっ」


「なっ関係ないでしょう」


「王族で尊い存在だから傷つけてはいけないのではないのです。私も、この方も、貴方も誰かにとっては大切な人なのです。傷つけられれば悲しむの。守るときに戦うことと、無意味に暴力を振るうことは違うのですよ」

モースの両肩を掴んで、サクラは伝える。

サクラはカタカタと震えるモースを見据えているが、肩から手を離すことはなかった。


「・・・私は躾のために」

「・・・ふぅ・・・躾をしてなんて言ってないわ。あたくしはサクラを相談役としてふさわしく・・・あぁそれが傲慢だったのね・・・ごめんなさい」

モースが何とか絞り出した言葉を、メッツェンが遮り、謝罪する。

メッツェンの言葉が意外だったのか、モースはメッツェンの方に首を動かす。

聞き間違いでなければ、メッツェンは何かに対して謝罪した。


「・・・メッツェン様・・・」

「・・・私は学ぶことは好きですので、いくらでも指導を受けます。ですが、叩いて人を従わせることが当たり前の人たちとは、笑顔で共にいることは出来ません」

「めっ・・・メッツェン様は何もご存知ありませんでした。私が勝手に」

モースはメッツェンがサクラに謝罪したと受け取った。

自身の行為で主に謝罪させてしまうことになったと、顔を青白くしている。


サクラは笑顔で話を続ける。

「だから、そういう問題ではないのですよ。叩いて躾をするのが当たり前だから、大人になっても叩くのが当たり前。なのに、見下している者から反撃を喰らうなんて考えていなかったのでしょう?」

「そっ、それは・・・」

「撃って良いのは、撃たれても良いと覚悟が決まっている者だけです・・・いえ、少なくとも教育の場において、体罰は必要ないのです。暴力を正当化しないでください」

「・・・サクラの言う通りね。これからは考えを改めるわ」

小さく溜息をつくメッツェン、心なしかいつもより椅子に深く沈み込んでいる。


「あの・・・宜しいですか?」

サクラが入ってきたときから、ずっと見守っていたスタンツェが口を開く。

「恐らく、これまでは躾の為の暴力が正しいと思い、そうやって育ってきた者には中々理解しづらい事です。ただ、サクラの言い分も一理ある。どこかで止めないと、強者が弱者を痛めつけて良いという社会は変わりません」

「そうね・・・男性だろうと女性だろうと、叩かれれば痛いのよね。そこは分かるわ」

サクラ自身も幼い頃に叩く躾を受けたことはあるし、体罰というものも見ている。

けれど、それを当たり前だという感覚は持ちたくない。


「はい。大切な人が叩かれれば、悲しい気持ちは誰しも持ちます」

「・・・サクラらしいわ。では、末端の使用人たちも含めて、全ての使用人を大広間に集めて頂戴。あたくしは、宣言するわ」

「そこまでなさるのですか?」

「えぇ、理不尽な目に合いやすい弱き者を守るのも王女の役目だと、昔からモースは話していたでしょう?だったら、それを今伝えるわ」


大広間に集められた使用人たちは、いきなり現れた王女に腰を抜かし、顔を上げることが出来なかった。

メッツェンはこれまでにパワハラや体罰、いじめがあっただろうと謝罪する。

覚えのあるものは顔を青褪め、震え、被害を受けた者は複雑な表情を浮かべた。

そして、王女宮の中だけでも職場環境を改善するために、色々な取り組みを行うと宣言した。



「えっ、サクラはメッツェンを本気で叩こうとしたの?」

「え?もちろんですよ。全力をもって叩こうと考えていましたが、ちゃんと自分の手を叩く予定でした。振り被った右手で自分の左手を叩くと良い音が出るんです」

「サクラー、それ叩くって言わないよねー?」

「えぇ、叩かれるのって痛いんですよ。叩かれるのは誰もが嫌ですから」

「結局、あたくしのことは叩かなかったんじゃない。覚悟してあげたのに・・・」

「私は撃たれる覚悟はまだないんですよ。こうみえて」

業務で執務室を離れていたアドソンは、事の顛末を聞いて、笑い転げるのであった。

どんな人だって、どこかの誰かの大切な人かもしれないから、蔑ろにしたくないサクラでした。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

連日23時アップ予定です。

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