報告-11の月、8日、4枚目
お仕事グレードアップ?
扉をノックする音がする。
知らない人の声がして、ウィスカーがすっとドアを開けて向こう側を確認すると、そのまま大きく扉を開ける。
偉い人が来るのが分かったので、立ち上がり頭を下げる。
「メッツェン様、お呼びでしょうか」
「えぇ、ホーマンとモース、二人ともそろったわね」
「お待たせしてしまい、申し訳ございません」
頭を下げ続けているので表情は見えないが、男性と女性が来たようだ。
男性の低めの落ち着きのある声で少しだけ早い口調なのは、冷静沈着なお仕事をされる方だろうか。
女性の凛とした声なのにゆったりとした雰囲気が伝わってきて、優しい大ベテランの方なのだろうと予想した。
「要件というのは、以前から貴方たちに侍女を増やすように言われていたでしょう?だから増やしたのよ。その子なんだけど、よろしくお願いね」
メッツェンの言葉が終わらないうちに一瞬鋭い視線を感じた気がするが、声を掛けられていないので、まだ頭を下げておく。
「・・・メッツェン様、侍女としての教育、承りました。しかし質問をしてもよろしいでしょうか?」
「・・・許すわ。でも、三つまでにしてね」
「畏まりました。まずは一つ目ですが、彼女はどこの家門の者でしょうか」
「知らないわ。落ちていたから拾ったの」
「なっ、身元の分からない者を城に招き入れたのですか?」
「モース、それは二つ目の質問としていいかしら?」
「・・・いえ、撤回致します」
「許可します。さぁ二人とも、よく考えて質問してね」
見えていなくともわかるくらいに、メッツェン様は黒い笑顔でいるのだろう。
質問しろと言っても、サクラという不審者について、メッツェンが気に入っているならばと、下手に質問出来ないのだろう。
圧迫面接のような空気が嫌で、挙手をする。
メッツェンの視線が一瞬こちらに向いた。
「・・・発言の許可を求めます」
「ふぅん・・・許可します」
メッツェンの口角が上がり、瞳孔が広がっている。
楽しそうだなぁと他人事のように考えてしまう。
発言の許可が出たので、ある程度は許されるだろうと、サクラは口を開く。
「・・・ありがとうございます。不躾ながら自己紹介をさせていただきます。私はサクラと申します」
二人に向かって一礼する、
男性のホーマンさんは、すらっとした背丈に焦げ茶の三つ揃えの執事服が似合っている、まさにナイスオールド。
赤みの混じった茶の瞳に、白いお鬚、白髪はオールバックに整えられ、乱れの一つもない。
侍女服のモースさんは、ホルスとウィスカーより小柄だけれど、サクラよりは背が高く、きりっと後頭部で纏めたお団子に、惹かれた。
黒に近い青の髪にメッシュのように入る暗めの水色、同じように暗い瞳に水色のラインが見える。
きりっと丸まったお団子は仕事への誇りを表しているようで、目元は小さな眼鏡を掛け、柔らかな目尻の皺に、メッツェン様を長年支えてきた優しさと厳しさを感じる。
「・・・シャ・・・クラ・・・」
「あっ・・・クラとお呼びください・・・」
「・・・クラ。分かりました」
「ありがとうございます。私は先日何かの事故に巻き込まれたようで、メッツェン様、スタンツェ様、アドソン様に命を救って頂きました。残念なことにこの世界で経験したことの記憶がございませんで、どこで生まれ落ちたのかも分かりません」
「事故に巻き込まれて記憶を失ったと?」
「はい、スタンツェ様に図書館から本を取り寄せて頂いて、様々な本を読みましたが、遠い世界のことのように新鮮な気持ちで読みました。文字の読み書きはある程度出来るようです。この国で読み書きできる方はそれほど多くないと聞きました」
「えぇ、貴族の嗜みではありますが、平民では大きな商家の令嬢くらい・・・なるほど」
返答をしながらも何かに気付いたモースが、メッツェンに視線を送る。
勝手に誤解していただこう。
「あたくしは何も言っていないわよ」
機嫌がよさそうで口角が上がっているメッツェンの顔が、こちらを向く。
まだ話してもよさそうだ。
「それともう一つ、私はある程度魔力はあるようなのですが、魔術を忘れております」
「魔力があり、魔術を忘れている・・・」
「えぇ、けれども、あたくしたちは先日、この者が無意識の魔術を使う所を見たの」
「無意識での魔術」
小さく呟くホーマン。
満足したかのように一度小さく頷くメッツェン様。
「えぇ、事態は飲み込めて?」
「記憶はないが、少なくとも読み書きが出来るレベルの生活水準で、貴族程度の魔力があるものの、扱い方を知らない者となれば、連れ去られて魔力の暴発など起きては大変なことになります。保護(監禁)しておくのが良いのでしょう」
「・・・畏まりました。この者はメッツェン様の許しがある限り、こちらに配属(監視下)と致します」
サクラは伏せられた内容を正しく理解したが、城の者たちが正式に受け入れてくれるのであれば、それで良いと判断する。
「宜しくてよ。では二人が納得したようなので、次の指示を伝えるわ。この者を王女付の侍女として恥ずかしくないように教育なさい。そうね、見込みがあれば相談役まで勤められるようにしなさい」
「・・・畏まりました」
「ふふ・・・クラ、これから午前中はこの者たちと過ごしなさい。一日目はモース、二日目はホーマン、三日目に休みを与えるわ。仕事の日の午後はここで過ごしなさい。」
「・・・畏まりました」
メッツェンに向かって三人で一礼する。
言いたいことを言ったメッツェンは書類に向かう。
やや呆れ顔のスタンツェと、楽しそうに皆を見ているアドソンの対比に、サクラは笑いを堪える。
「不束者ですが、よろしくお願いいたします」
ウィスカーさんから学んだ精一杯の跪礼を見せると、二人の目は細く光った。
「フッー」
小さくペアンくんが溜息をつく。
慌てて周りを見渡すが誰も気が付いてない様子だった。
私も溜息は付きたいけれども、スキルや知識は達人から学んだ方が、効率が良いはずなのだ。
「メッツェン様、今まで三日間サクラは働いておりますので、明日は休みを与えてください」
誰も気づいていなかった連勤をスタンツェが指摘する。
出来る上司は違うなと、サクラは感謝した。
怒っている人は恐れている人と考えているので、Haters , Come onなサクラ。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




