報告-11の月、8日、2枚目
「知識は自分の身を護る盾」のサクラ
ウィスカーのドタバタでスタンツェが執務室に戻ってこない。
街へ行く話は延期だなと、本を読みながら待機していたサクラは業務を教わることにした。
執務室内の掃除を教わり、扉で続いている寝室のシーツを変えた。
ウィスカーと執務室に戻り、午前中のお茶を淹れる時間となる。
昨晩のようにマイレシピとは行かないため、緊張しながら淹れた。
「・・・そういえば、サクラはあたくし達のことは聞かないのね」
執務室のソファに座ったメッツェンに、紅茶を差し出す。
アドソンはコーヒーを希望した。
まだ教わっていなかったので、ウィスカーの淹れ方を見学する。
「はい?・・・そうですね、知っておいた方が良いことは共有してもらえると思っていますので。あと、一般常識が分かっていないうちに、個人の情報を入れると分からなくなるんです。まぁ話してくださることは聞かせて頂きますよ」
個人的なことに全く興味がないわけではない。ただ、前提がないといらぬ誤解をするので、優先順位の問題だと考えている。
「んじゃ、俺の話を聞くかー?」
「話してもらえるなら聞きますよ。お仕事のことでも、好きな食べ物でも、お家のことでも」
朗らかにアドソンが声を掛けてくる。
くっきりとした目鼻立ちに、茶色のふわっと天然パーマ、エメラルドのような澄んだ瞳、明るくて穏やかだけれど、しっかり鍛えているから騎士としての仕事はきっちりこなす人だと捉えている。
「そっか、仕事は騎士だな。前にも話したけれど、俺の魔術は舞踏の風魔術だから、攻撃に使うときは重打撃になるし、物凄く体力を使うが一撃必殺の技もあるんだ。だから、剣だけという訳ではない」
「待ってくださいね、メモを取ります。・・・風に力を乗せて強い力をだす感じですか?」
「そうそう。ちなみに同じ風の魔術でも、歌の魔術のメッツェンは違う効果があるんだ」
「アドソン、それは機密事項なのだけれど・・・・・・えぇ、あたくしの歌の風魔術は細かい風の刃が切り裂くような攻撃と、戦闘意欲の向上よ」
「なるほど・・・風の歌の届く範囲で攻守の影響が出るんですね」
恐らく魔術の応用部分の情報だとサクラは捉えた。
基礎の魔力、魔術と個人差、応用について話されると、混乱するが、ひとまず『この人達の個性』として聞くことにした。
「あと、スタンツェは絵画の水魔術だな。使い魔は分かってるだろうから、それと魔術」
「使い魔が出せる時点で色々と出来るのに、まだ魔法が使えるんですね」
「そうそう、体力や魔力の限界値の兼ね合いもあるけれど、魔法の種類によって騎士と魔術師は変わる」
召喚士で魔術師で魔道具の研究に余念がなく、王女の執事もこなしている腹黒な人と、サクラは心のメモに残す。
腹黒なのは、そうしなければ生き残れなかったのだろうなぁとも思う。
三日間で面倒見の良さも、心配性なところも気づいた。
ただ、シルバーの長髪に水色の瞳で冷ややかに見ないで欲しい。
何も悪いことをしていないのに、背後に氷を背負っているような雰囲気は引っ込めて置いて欲しいと願う。
「そうするとメッツェン様の場合は、王女という立場があるので、攻撃より戦闘意欲の向上の歌を、人前で披露することが大切なんですね」
「えぇ、この国唯一の歌の魔術遣いよ」
「こいつ、歌の女神って呼ばれるんだよっ」
「なるほど、重要なお仕事ですね」
「・・・サクラはそう考えるのね」
メッツェンは伏し目がちになるが、サクラの言葉に目を瞬くことになる。
「えぇ、お一人しか出来ない仕事は重責があるかと思いますが、内容はなくてはならないものだと感じました。エンチャントは非常に助かりますよ」
この国で一人、しかも王族でということは、大切な儀式のときなどには必ず出席してきたのだろう。喉のコンディションを整えたり、魔力が足りないと思われてはいけないのだろうから、緊張も大きかったのだろう。
腰まである金色の髪に淡いピンクの瞳なので、前の世界にある白い宗教系の服を着たら、きっと神々しいのだろうと考え、冬は寒くてお腹を壊しそうだとサクラは思考を止める。
メッツェンが顔を上げると同時に、アドソンは話を続けた。
「んー・・・あとは・・・西の国はスタンツェみたいに絵画の魔法が使える者が多い。だから、絵画の魔術に関する産業が盛んだな。んと、他の国の話もした方が良い?」
「いえ、魔術の話をお願いします。他の国はそのうち関りが出来たら教えてください」
「はいよー。んで、スタンツェの魔術は・・・」
コンコンと、スタンツェが入室の許可を取る。
「・・・なんだ?お前ら、仕事は?」
お茶の時間を過ぎてしまっているのに、話し込んでいたようだ。
スタンツェが睨んでいるように見えるのは、罪悪感を持っているからだろうか。
「・・・サクラとこの国のことを案じていたのよ」
メッツェンが胸を張って答える。
「アドソンが目を逸らしましたので・・・嘘だな。アドソン、本当のところは?」
ばっさり切られたので、メッツェンは無の表情になる。
同じ顔をサクラもしている自信がある。
「仕事の話と魔術の話をサクラに教えていたんだー。騎士と魔術師の違いとか、俺とメッツェンの風属性の違いとかー」
「国家機密をペラペラと話すなよ・・・」
短い溜息をつきながら、眼鏡を直すスタンツェ。
さすがにアドソンだけを悪者にするわけに行かない。
「・・・すみません、勉強途中だったので確認していました。スタンツェさんは召喚が出来るという事ですが、他にも出来る方がいるのですか?」
「よくこの状況で質問したな。まぁ・・・街を見て少しは知識が増えたか。一般的な魔術の話をすれば良いんだろう?」
「はい。午前中も時間を頂いて、少し勉強しました。結局、お借りした本は魔術の特徴は書いてあるんですが、羅列されているだけなので分かりづらいんです」
「どこまで理解した?」
メモをしまい、本と一緒にまとめて置いたノートをスタンツェに見せる。
「ノートにまとめた分だと、この世界の魔術はメッツェン様の歌、アドソンさんの舞踏、スタンツェさんの絵画、あと料理があって、それぞれに火、水、風、土の属性があるようですね。表にしてみましたが、先ほどメッツェン様とアドソンさんの話を聞いて、もっと細分化されるのだと知りました」
「・・・なるほど、文章ではなくて単語を並べて表にしているのか」
「えぇ、全体を把握していないと、専門的な話は理解が及ばなくなるので・・・修正するところはありますか?」
「いや、全体像としてはこれでいい。さっき聞いたアドソンの話を付け加えるなら、どう書き足すんだ?」
「攻撃と防御の魔法もあるようなので、メモに書いています。各魔術の属性ごとに攻撃と防御があるようでした」
「あぁ、これは分かりやすいわね」
「サクラっておもしれーな」
「なるほど、この表の欠点は分かっているのか?」
「弱点?えぇ、書き足すのが大変なのと、同じ魔術、同じ属性の方でも出てくる効果が違うのであれば、修正が必要になります。枠が小さいので、一人一人の違いをここに反映するわけに行きません。それは個人用のページが必要になります」
「なるほど、そこまで分かっているのであれば構わない。それと加えるのであれば、一般人には攻防片方の魔術しか使えないものが多い。魔力の量も影響するし、魔術の生かし方を学ぶ機会が少ない。王族クラスになれば攻防どちらも使えるが、平民はその時使える分の魔力を仕事に使う程度だという者もいる」
「なるほど、では両方が出来るような方は魔力があって、生かし方を実践するか学ぶ機会があったのですね」
学ぶ機会を誰しもが持てる訳ではない、それが当たり前の国で、サクラはこうして学ぶことが出来ているということだ。
恵まれた環境を整えてもらえたことを感謝した。
スタンツェは小さく頷く。
「そういうことだ。さて、俺の魔術はこの表の絵画の魔術で水属性だ。攻撃は使い魔を召喚し相手に仕掛ける。防御としては魔力を向上させる魔術がある」
「使い魔さんは攻撃も出来るし、守ってもらうことも出来るんですよね?万能じゃないですか・・・」
「使い魔を単純攻撃のみに特化すれば魔力はあまり使わないが、複雑な動きをさせるのは消費魔力が大きい。それと魔力が多い魔獣を使役することも消費が激しいんだ」
「メイドさんと猫さんはそこまで消費魔力は大きくないんですか?」
「石を人型にしたのと、魔猫だからな。メイドの方はメッツェン様の指示でしか動かないはずだったんだが、・・・サクラの魔術で話すようになったな。」
「話すようになったのは私の魔術なのでしょうか?何かしたわけではないので・・・」
「そこは俺も分からない。しばらくは監査対象だ。何か変わったことがあれば言ってくれ」
「はい。分かりました」
ウィスカーとの約束を守りながら、情報提供はしていくつもりのサクラは、しっかり頷いた。
何が異変なのかを理解していない人に、変わったことを報告しろと言われても、出来ない。
「それで、もう少し勉強を進めて、この魔術の一覧表の空白を埋めたいのです。後で添削をお願い出来ますか?」
「・・・分かった。簡単に説明出来るところだけ、昼食を取りながら話そう」
「やったー飯だー」
「アドソンはさっき食べただろう?俺のは朝食だよ」
「そういえば、使い魔のことで、朝から色々走り回っていたわね」
「えっと、厨房で何か貰ってきましょうか?・・・それから、もしこの後もメッツェン様が私の話に加わるのであれば、準備が整うまで執務を片付けておいてくださいね」
「むぅ、分かった」
「では、メイドさんと一緒に厨房に声を掛けてきます」
サクラは話をまとめて、退室した。
全員分の食事を受け取り、部屋に戻る。
三人が食べ始められるように準備を整えたところで、サクラの分がないことに気付いたらしい。
サクラも一緒に食べると考えていたようだが、サクラはスタンツェが食事をしながら、講義をすると考えていた。
「一緒に食べてしまって、しっかり講義の時間を取った方が有意義だ」
何となく拗ねたように聞こえるスタンツェの言葉に、サクラは微笑む。
交渉の結果、ウィスカーとペアンが加わって、五人と一匹で昼食を取る異様な光景が見られた。
敵は叩き潰すか、他のやつらが肉の壁になればいいウィスカー
肉の壁にならず、全力で敵を殲滅する三人(バッファ兼短剣、拳&両手剣、Wizでサモナー)
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。




