報告-11の月、8日、1枚目
サクラやらかします。
昨日新しいインクと手紙を買った。
大好きな色合いの青いインクで、万年筆を使って、やりたいことが出来そうだ。
夜のうちに、ウィスカーさんに眠ってもらった後で、ペアンくんもベッドの上で丸くなっているのを見ながら、手紙を書く。
何となく楽しかった今日が終わってしまうのを淋しく思い、目が覚めてしまったから。
丁寧に丁寧に・・・カリグラフィーなんて素敵なものは出来ないが、とにかく丁寧に感謝の言葉を綴る。
そして、ウィスカーという名前の綴りをいくつか書く。
アルファベットと片仮名と平仮名といたずら心で漢字を添える。
せっかく丁寧に書いたのに、観光地のお土産みたいになってしまった感があるのは大変残念だ。
――――それでも喜んでもらえたら嬉しいなぁ。
新しいレターセットに好きな色合いのインク、背伸びして買った万年筆で、大切にしたい人に手紙を書く。
なんて贅沢なのだろう、なんと幸せなことだろう。
書きあがった手紙に封をして、素敵な色合いに思わず口づけをしてしまい、照れながらベッドに入る。
薄く開けたカーテンで月明りが差し込み、机の上の封筒はインクの色と相まって、とても穏やかな色合いに映る。
夢に出てきてくれそうな素敵な色だと思いながら、改めて眠りに落ちる。
翌朝、身支度を整え、ウィスカーを起こしてもらう。
跪礼の練習をしてから、手紙を渡す。
「良ければお仕事が終わったあとに読んでください」
そう言って渡したものの、ペーパーナイフをどこからか取り出したウィスカーは、目にもとまらぬ速さでそのまま開けてしまう。
驚いているサクラを尻目に、零れ落ちそうなほど目を瞠って、手紙を読み進め、最後には口角がキュッと上がった。
喜んでもらえたようだとホッと小さく息を吐くと、突然ウィスカーは固まった後宝石に戻ってしまった。
「ウィスカーさん!」
「触るなっ」
驚いて叫んだと同時に、執事服のスタンツェさんが走りこんでくる。
伸ばしかけた手の動きを止め、背筋を伸ばす。
「ハィィィ・・・」
驚くサクラと目が合ったスタンツェが、お互いに一度小さく咳ばらいをして話しかける。
「・・・何があったんですか?」
「えっと・・・手紙を書いて・・・・お渡ししました」
「・・・手紙?」
床のウィスカーさんの本体である宝石の上に、手紙が乗っている。
眉を顰めて手紙を拾おうとしたスタンツェさんを、光の塊が飲み込む。
思わず目を瞑ってしまったが、光が弱まったところで目を開く。
「えっ?」
サクラとスタンツェの間に薄い黄色の膜が見える。
いや人の形に戻ったウィスカーがいて、その背中に蝶のような羽が生えていた。
「・・・ウィスカーさん?」
「はい」
「・・・は?」
羽の生えたウィスカーらしき人は間違いなく返事をした。
使い魔の主であるはずのスタンツェさんは、目を見開いて呆然としている。
だが、待ってほしい。この世界に一番馴染んでいないサクラが一番驚いて良いはずだ。
「サクラが・・・魔術を・・・使ったのか・・・」
「へ?」
「あぁ、そう来たか・・・サクラ、手紙はどこで何を使って書いた?」
「この机で、このインクとガラスペンで書きました。月明りとインクの色合いが素敵で、朝まで月光浴をしてもらっていたのを、先程渡しました」
「なるほど・・・朝に日光を浴びて、ウィスカーの魔力に触れて・・・祝福はどうした?」
「・・・祝福・・・ん?」
「インク、ペン、媒体、月光、日光、石、生贄、祝福・・・・特殊な環境で使い魔を変化させる魔術がある。禁術だし非常に珍しいことだが・・・この場合の条件は女神の祝福の口づけになるか」
「女性しかあってませんが、素敵すぎる色合いに思わず口づけしたのは、私です」
「・・・・それだな・・・・・はぁ、報告に行くぞ」
「へっ?・・・その・・・始末書はA4サイズ1枚のフォーマットから作成で良いですか?」
「はぁ?何言ってんだ?」
ウィスカーの件を報告すると、話が出来ないレベルの使い魔が『妖精もどき』になるなんて聞いたことがないそうだ。
妖精であれば使役は出来ない存在になるのだが、本人が拙い単語で、そこまでの変化ではないと言うし、サクラを気に入っているウィスカーはこのままメイドを続けてくれるそうだ。
最初は笑いをこらえていたけれど、限界を突破したのか、ケタケタと見たことがない笑い方をするメッツェンが見られた。
メッツェンがちょっぴり悪い顔をしたのが気になったが、詳しいことは必要なときには教えてもらえるだろうとサクラは思う。
ちなみに彼らの世界にはない言語で書かれた名前は、物珍しいようで、メッツェン様、スタンツェさん、アドソンさんから手紙を強請られた。
そんなに大変ではないので、少し待ってもらいその場で3人分を作成した。
祝福の口づけはいらないと再三言われたが、恥ずかしいのでもう二度とやるつもりはないと説明する羽目になった。
首周りのペアンがずっと尻尾をぶんぶん振っていて、周りが見えづらい。
「これ、サクラのいた国の文字?一昨日契約書で見た気がするけど、なんか一杯書いてある?」
「一番上がアルファベットでこの国の言葉に一番近いです。下が片仮名、平仮名です。一番下が先日書いた漢字となっています。他の国にもたくさんの言語がありましたが、私が扱えるのはこの4つですね」
「漢字は見せてもらったけれど、他の字を使ってサクラを表現するときはどうするの?」
「・・・私はアルファベットを使えば・・・Cherry Blossom、サクラ、さくら、桜です」
「それぞれ違う表現になるんだな」
「漢字は一つに色々な読みが付き、色々な意味が着きます。桜は春の穏やかな昼間に咲く小さなピンクの花であり、急に肌寒くなった夜にそこだけ内側から光るような淡い白を散らす花です」
「この世界に似たような花があるわ。今は季節ではないけれど、見てみたい?」
「見られるまで生き残っていたら、見せてください」
「確かにそうね。頑張って楽しい話をしてちょうだい。ふふふ」
「畏まりました。ふふふ」
メッツェン達からの依頼で厨房に向かう間、ウィスカーはしっかり喋ることが出来ると教えてくれた。
サクラが沢山話かけてしまったことでウィスカーの魔力がどんどん満ちていき、手紙に魔術が含まれていたことで、妖精に戻ったらしい。
宝石の妖精は身に着けたり、大切にされることで魔力を満たしていくそうだ。
「愛情が一杯になったから進化したと言うことで良いですか?」
謎システム過ぎて、サクラはそのまま受け止めることにした。
ウィスカーさんが微笑んで頷いてくれたので、『今後とも沢山話かけていく所存であります』とサクラは握りこぶしを作って気合を入れる。
ウィスカーは微笑みから真面目な顔に戻り、非常に面倒なことになるので、妖精に戻ったことは他の人には言わないようにと念を押された。
その代わり、サクラに命の危険があるときには、全力で敵を叩きのめすと約束して貰えた。
まだこの世界に来て3日目。
先は何も分からないけれど、心強い協力者を得られてサクラは毎日を穏やかに過ごせそうな予感がした。
結果オーライ?
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




