報告-11の月、7日、7枚目
チルタイム
「よし、サクラ、約束してたロイヤルなんとかを作ってくれよ」
「約束?」
突然アドソンさんが言い出したことに、スタンツェが片眉を上げて反応する。
「はい、こちらの世界にはない、私の好きな飲みものです」
「ねぇサクラが作るの?コックではなくて?」
「えぇ、私のレシピなので作りますよ?色々と飲み比べて頂きたいので、お待ち下さい」
自室に寄ってから、ペアンとウィスカーと一緒に厨房に行き、コンロを二カ所借りる。
事情を説明するとパティシエのミテルが残っているとのことで、味見と引き換えに色々な材料をみせてくれた。
こちらの世界では紅茶にミルクは入れないし、砂糖をたっぷり入れるのはお子さまの味覚なのだそうだ。
知ったこっちゃないので、自分のレシピで作り始める。
「この茶葉はどこの名産で?」
黄色い瞳でちょっと強面のパティシエさんは、表情の割に興味津々のようで、様々な質問をしてくれる。
ベレー帽をきっちり被り、茶色の短く整えた髪がぴょこんと跳ねているので、案外可愛らしいと感じる。
ウィスカーとペアンは厨房の椅子に座って待っていてくれる。
「どこでしたかね・・・お店の方にいくつかの条件に合うものを選んで頂きました」
購入しておいた茶葉をそれぞれの鍋に入れ待つ。
「ふむ、牛乳の鍋と水の鍋がありますが、いくらなんでも多すぎませんか?」
「こちらは二つの別のお茶になります。私がたくさん飲みたいので・・・多めに・・・」
「左様か・・・ではこの砂糖と蜂蜜の多さは?」
「これは好みの問題なので、最終段階で決めるために取りそろえています。・・・さて・・・」
茶葉の処理をして、ティーポットに分ける。
茶葉や淹れ方により、ティーポット六個分になったのはご愛敬と受け取ってもらおう。
本来のロイヤルミルクティーの作り方と、即席ロイヤルミルクティーの作り方の味の違いを試して貰う。
ペアンがソワソワしているのが分かるが、今は対応出来ないので苦笑してしまう。
「ほう、やはり同じ茶葉でも煮出し方を変えればこうも違うとは・・・そして確かにこの味ならば甘味は強い方が良い。さて、砂糖にするか蜂蜜にするか・・・」
腕組をしながら、味の調整を検討する職人さんを見て微笑ましくなる。
菓子職人ということもあるが、どの世界でも職人さんは研究熱心なのだろう。
ウィスカーは手酌でミルクティを足して、蜂蜜を足すところだった。
「・・・・ウィスカーさんは・・・牛乳濃いめで蜂蜜たっぷりですね。お口に合って安心しました」
「ふむ・・・これは茶葉の違いでも大きく変わるのだろうか?」
「そうですね、あっさりとした味わいの茶葉では、ミルクの濃さに負けて苦みが先行する場合があります。個人差がありますし、牛乳や砂糖の味でも変わります」
「確かに・・・中々奥深い飲み物だ」
茶葉違いの一杯を二種類置いて、お礼を伝え、メッツェンの部屋に戻る。
既に三人とも着替えてリラックスしていた。
ペアンを首周りから下ろし、離れてもらう。
だいぶソワソワしているけれども、もう少しだけ我慢して頂きたい。
「お待たせしました。青い縁取りのカップが王道の作り方で、金色の縁取りのカップが簡易版の作り方になっています。すでに最低限の甘味は入れて居ますが、一口飲まれてから甘さを決めて下さい。」
「サクラ、王女に簡易版を飲ませるおつもりですか?」
「味の抽出方法の違いなので、お好みに合うものを提供するためには必要な検討です。それとも美味しい味があるのを知らずに一つだけの味を試しますか?」
「む・・・」
「良いわよ、あたくしは二種類飲みますわ」
「ありがととうございます。茶葉違いと煮出し方の違いでポットが変わり、味付けでまた変わります」
軽口をたたきながら、お茶を提供する。
三人の優雅な飲み方を見惚れながら、無意識に手を握りしめていたらしい。
美味しくないと言われるかもしれないと、緊張していたのだ。
「・・・まぁ!紅茶そのものの味は壊していないのに、ふくよかでまろやかな味わいね。甘みも感じるけれど、あたくしはもう少し甘くて良いわ」
「俺はサクラのレシピの方が良いな、スッキリしてる。お替わりっ」
「悪くは無いが、むしろここに甘みを足す必要が有るのか?」
「まだ有るので、足す甘味を変えて試しますか?」
「じゃぁ俺はこっちの砂糖」
「俺は・・・アドソンと同じ砂糖で違いを見るかな」
「あたくしは蜂蜜にしてくださる?」
結局それぞれが味を変えて三杯飲んでくれた。
お気に入りの味が決まったようで、ホッとした。
夜も深まってきた為、退室となる。
二つのミルクティーがポットに半量ずつ残ったので、自分の分として確保し、食器類を厨房に片付けに行く。
菓子職人ミテルはまだ残っており、紅茶の飲み過ぎに注意するよう伝えて、部屋に戻る。
サクラがクッションの上に座ったところに、ペアンが膝の上に座った。
ぺしんぺしんとふさふさな尻尾で顔を叩かれ、抗議を受けていると感じる。
「もしかして、ペアンくんも飲みますか?」
「ナーオ」
あ、これは怒っていると確信し、ソーサーに少しずつ注いで飲み比べ出来るようにする。
王道の煮出し方が気に入った様子で、手抜きの方は少しだけ遠ざけていた。
茶葉はしっかり目の方が、よく飲んでいる。
「甘くしますか?」
「ニャーン」
頷いてくれたので、砂糖を入れて、優しくかき混ぜる。
「ニャ、ニャ」
言葉は分からないが、しっかり飲んでくれているので、気に入ってもらったと考えよう。
どちらも好きなサクラを除くと、アドソンは簡易版であっさり味、他の人たちは王道の煮出し方を好む。
今回の茶葉はそこまで大きな差はないため、どちらでも良いという意見が多かった。
蜂蜜たっぷりはメッツェンとウィスカー、お砂糖たっぷりはペアンくん、甘さほどほどがアドソンとスタンツェの好みだと判明した。
購入したノートにメモを取る。
ペンがとても書きやすくて、インクの乾きも早い。
とても素敵な文具でサクラは笑顔になる。
すでに丸まっているペアンの邪魔をしないように、ベッドに横たわる。
この世界はお風呂や歯磨きなど衛生に関しては、ある程度レベルが保たれているように思う。
「また明日、色々と聞いてみよう」
今日はたくさんのことがあったけれど、久しぶりに誰かと買い物をしたり、一緒にお茶を飲んでゆっくり過ごした気がする。
月の光を浴びて輝く宝石を眺めながら、明日も晴れますようにと願いながら、サクラは目を閉じた。
作者も一日をこんなに長く書くことになるとは思いませんでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




