報告-11の月、7日、6枚目
無事帰宅?
お腹がいっぱいになった後、家具屋と薬局に寄る。
王都内部から王女宮に向かうのは徒歩でも可能なため、街を散策しながら三人は移動した。
乗って来た馬たちは、既に他の騎士の方々が回収してくれたそうだ。
宮に入るとスタンツェから開口一番に指示が出る。
「メッツェン様の夕食までに報告書を作成しておいてください」
荷物はゴッセの手配で既に部屋に届いていた。
自室に戻ったサクラは、荷物を横目に、手洗いうがい、着替えをして机に向かう。
「フォーマットはないけれど、箇条書きと余白を多めにして追記したものを、後日正式な報告書としても良いのかな?」
スタンツェが用意しておいてくれた紙と万年筆を見ながら、報告形式を考える。
無いのは分かっているが、パソコンが欲しい、もしくは定規。
遅れてウィスカーが入って来たので、購入予定リストと購入結果を書いたメモを渡すと、テキパキと仕分けしてくれる。
サクラが書類に集中していたらお部屋はあっという間に片付いていた。
「色々とご配慮ありがとうございます」
ペアンとウィスカーに声を掛けて、メッツェンの執務室に移動する。
視察報告を基に質疑応答を行うつもりで、メッツェンの執務室に伺った。
そしてなぜかばっちりのタイミングで、夕食が配膳されてきた。
しかし、どう見ても給仕する人はウィスカーのみで、なぜかサクラも一緒に食卓に着くことになった。
サクラは前の世界でマナー講座は一応受けたことはあるが、こちらの世界のマナーは分からない。
フルコースなんてものは、本当は箸が欲しい。
「それで、この報告書なのだけれど・・・」
メッツェン様からの声かけに、報告書を渡したことすらすっかり忘れていたことに気が付いた。
「あ・・・雑な報告で申し訳ないです、どこをどう捉えるかに悩んでしまって・・・」
「いえ、・・・そうじゃないのよ・・・・サクラは以前諜報部にいたことはあるのかしら?えっと、報告に関わる質疑応答は、今日の三つの質問とは関係なしでいいかしら?」
「はい、きちんと報告させてください」
「んー・・・・この報告書はきちんと書けているし、視点が斬新なのよ。そこまではサクラだから、予想の範囲内なんだけど・・・なぜサクラはこの国が危ないと感じたの?」
「まず第一に、私は諜報部にはいませんでしたよ?仕事はこの世界で言えば、医魔術師の手伝いのようなものです。単語が存在していないので、回りくどい説明になります」
「そこは信じましょう。あとで説明を受けるわ。うまくまとまらなくても構わないから、指摘してちょうだい」
報告をしながら、マナーに配慮した食事は出来ないと判断し、サクラはカトラリーを置く。
「そうなんですよね。まずは教育と医療が勿体ない。それは人の命に関わることなので、危ないと感じたんです」
「敢えて聞くのだけれど、教育と医療はそこまで重要かしら?」
「そうですね・・・メッツェン様のお考えはお考えでそのままにおいておいてください。私が気になったところは、昼間に子供たちが働いているところです。もちろん職人さんたちの技術の継承には時間がかかるので、早めに見て覚えてもらうことは大切です。たただ出来ないからと怒られている姿を見ていると、まずは何を見るべきかなどを学んでからの方が、効率が良いと感じました。」
「職人への教育体制ということ?」
食事をしながらの質疑応答だけれども、仕草がとてもきれいで、上品だなぁとメッツェン様を見る。
洗練された動作が身に着くまでに、ずっと努力してきたのだろうと、サクラは尊敬の念を抱く。
「職人だけという訳ではなく、魔術の知識や読み書きなどをある程度まで一律に伝えて、それから修行する方が、効率が上がるのではないかなと考えました。口伝は大切ですが、同じことを何度も言うことに痺れを切らしてイライラするくらいなら、紙に書いて伝えた方が、お互い楽だと考えています」
「なるほど。どうしても口伝しなければならないもの以外は書いておけば、いつでも読めるものね」
「読み書きが出来る人はどのくらい存在するのかが分からないので、なんとも言えませんが、そこも教育の一つとして組み込んではいかがでしょうか?」
小さく頷きながらも、メインディッシュの肉料理を食べ終えるメッツェン。
豪快そうに見えるアドソンも、ブカブカのローブを着ているスタンツェも綺麗な仕草で食べている。
市場での食事風景の方がサクラのいた世界に近いわけだが、二人の食べ方は豪快だったので使い分けているのだと分かった。
それは、本人たちの望むものかは別として、教育を受けられる立場であり、努力することが許された結果であると、気づいているだろうか、とサクラは思う。
「それと・・・市場で見かけた男性は偽関節がありました。治療を受けられずに、骨がくっつくまで放置した可能性があります。そこから推測すると、平民は治癒の魔術があっても、医魔術師に見て貰えないのではないかなと。ですので、お子さんの感染症の罹患率を知りたいと感じました。」
「サクラはそこまで考えていたの?」
「考えていたというか・・・そうですね、なんとなく気になってしまいました。職業病です」
「スタンツェ、医療の現状については明日以降、書類を見せてあげて」
「畏まりました。ついでと言ってはなんですが、医魔術師ギルドを視察に行っても?」
「あの・・・国家機密とかであれば、見なくても良いので」
「許可するわ。明日スタンツェに同行なさい。サクラがどう感じるかを教えて欲しいのよ」
「はい」
美味しそうに完食し、箇条書きを見ていたアドソンから声が掛かる。
「なぁ、サクラ、この治安っていうのはさっきのやつらのことか?」
「そうですね。あのような人たちを取り締まるのは、騎士団のお仕事ではないですよね?」
「そうだなー、騎士団も取り締まることはあるが、衛兵や傭兵とかの仕事でもある。あぁ、自警団もあるよー」
「・・・先程とは?」
一段と低い声のスタンツェから質問が飛ぶ。
笑顔なのに背筋が寒くなったのはなぜでしょうか?とサクラも咄嗟に逃げ腰になる。
「あっやべ、言ってなかったか」
「サクラが迷子になったとは聞いています。荒事があったとは私には報告が上がってきていませんが?」
「えっとぉ・・・・」
慌てて説明するアドソンさんを尻目に、何か考え事をしているメッツェン様が見える。
藪をつついて蛇が出てこないように、サクラも存在感を消すことにした。
「・・・そういうことでしたら、迷子になった時点で報告してください。サクラも、そのネックレスに魔力を通して呼びかければ、こちらがすぐ対応出来ますので、次回からそうしてください」
存在感を消していたはずなのに、こちらにも飛び火してきた。
「あっ、はい。・・・あの、魔力ってどう通すのですか?」
「・・・魔力を・・・・はぁ・・・そうですね。あなたにはほとんど魔力がなかったですね」
「はい、すみません」
「サクラには使い魔がいますので、大抵の事からは守ってくれます。使い魔に私たちへ連絡を取るように言ってください」
「分かりました!」
「くれぐれも自分でどうにか出来ると思わないでください。良いですね」
「はい!」
返事をした後、右にいるスタンツェを見られなくて、左を向いたらスープ用のスプーンを持ったウィスカーがいた。
スプーンを差し出されたので、思わず口を開ける。
サクラが飲み込んだのを見て、ウィスカーが満足そうに微笑む。
食事の手が完全に止まっていることを把握されていた。
幼子のように食事を介助され、心配させてしまったとサクラは赤面する。
もう一口と差し出されそうになって、きちんと食べることを伝える。
スタンツェからのお説教というおまけがついた視察報告は、明日以降も確認したいことが出来次第、メッツェンからサクラに声が掛かることとなった。
サクラが欲しかった本はスタンツェが図書室に手配済みだと、説明を受ける。
報告が落ち着いたのでお土産を渡す。
なお、新しい仕事が入ったとのことで、不在のゴッセには、金の亡者団と名乗る荒くれ者たちの『落とし物』をプレゼントする。ぜひとも街の治安に役立てて頂こう。
買い出しに付き合って頂いたアドソンには、市場の方々からの一年間割引券。荒くれ者たちを大人しくさせてくれたお礼だそうだ。昼食を取っているときにサクラにそっと渡してくれたものだけれど、一人で出歩かない方が良いのであれば、食に詳しいアドソンが有効活用してくれることだろう。
居残り組のメッツェンには、最初に立ち寄った文具屋さんで購入した美しい羽根ペンだ。
以前の世界の羽ペンはボールペンに羽がついたものも見かけたが、こちらの世界はつけペンのタイプだった。金属部分は金色で、飾り模様に見えるような美しい綴りが彫られていて、『どうぞ自由に羽ばたいて』と読める。
羽の根元に淡いピンクの宝石がついているのも、メッツェンを思わせた。
「まぁ、あたくしはいつだって自由なのよ?そうね、面白そうだから、四か国を支配して唯一の王となるくらいに羽ばたこうかしら」
同じく居残り組のスタンツェには、ペーパーウエイト。
忙しい机の上に癒しがあるように、ガラスのような透明な置物で、きりりとした獅子のような動物が、青い森の中に佇む姿が見える。
絵画の魔術で使い魔を召喚する方だから、この獅子のような魔獣もいつか召喚して欲しいなと、サクラは考えている。
「・・・この品物に関して、何を考えているのかも後で報告してください」
サクラの考えは、案外バレているようである。
巻き込まれ説教の原因はサクラです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




