報告-17の月、9日、5枚目
慌ただしい一日の終わりに
賑やかな夕食後、人外者が求める限りパンケーキを焼いたサクラ。
荷物の整理を終えた者たちが食堂に戻ってくる。
久しぶりに皆でお茶を飲む。
「さて、報告をしても良いですか?といっても、ずっと室内に居ただけなんですが」
「改めて聞くことではないのですが、手狭な部屋で過ごしていただきありがとうございました」
「すごく快適に過ごしていたとは言いづらい雰囲気にしましたね・・・」
「本当に快適だったのかーサクラはおもしれーな」
「我から見てもここの自室で過ごしているのと変わらぬ生活を送っていたぞ」
「それは凄いね、サクラちゃんって本当に平民だったんだ」
「一日二食、お茶が二回、申請すればほとんどの物は取り寄せてくださるし、屋根もトイレも風呂もあるんですよ?贅沢です」
「連日メイドと同じ服を着ているからって、わざわざ王妃がドレスを届けたと聞いていますが?」
「いえ、今朝、国王夫妻が共に朝食をと、声を掛けてくださったのです。ありがたく優雅な朝食を頂いて、ここに来ましたよ」
「えっ、今朝の話だったの?何時に起きたの・・・」
「日は出てましたよ」
「貴族ってもっとゆっくり起きるよね・・・」
サクラの起床時間よりも、身だしなみを整えてきた王妃とその周りの方々の起床時間を気にしてあげてほしいと、サクラは苦笑する。
「よぅし、サクラは元気にやっていたと分かった!」
「・・・では、私たちの報告を。サクラさんにはお辛い報告もあるかと思います」
「んー・・・それなら先に三つ質問をしても良いですか?」
「えっ・・・はい、なんなりと」
「おっ、久しぶりに三つの質問が来たね」
「はい。一つ目は皆さん、怪我と病気はしていないですか?」
「全員無事です」
「はい、分かりました。二つ目は皆さんはこれからお休みを貰えますか?」
「それは・・・」
「・・・サクラ、現状で休んでいる暇はないのを知っているよね」
「なるほど、分かりました。三つ目は」
「えっちょ、ちょっと待って。その説明で良いの?もっとしっかり説明を受けなくても良いの?」
「はい。質問の返答を受けられれば、その後の対応が出来ます」
「サクラってやっぱおもしれーよな」
「潔いという範囲ですか・・・」
「今はもうこの潔さに慣れた・・・」
「・・・では三つ目の質問に移りますよ?これから沢山の変化がありますが、皆さまがそれぞれ取り戻したいモノやコトはありますか?」
「取り戻したい・・・なんだろう・・・」
「あ、俺、忙しくても春の祭の日は皆で王都に行きたいー。うまいもんが沢山あるんだよー」
「へぇ、西の国の祭はどんな感じなんだろう。あっ、サクラちゃん。僕の畑、どうなったかな。担当の者たちで管理はしているけど、そのうち見に行きたい」
「なるほど、調整しましょうね」
「それであれば、父上に西の国のことを報告しないとなりませんね。手紙だけで終わらないこともあると思うので」
「そうしたら、西の国に置いてきている研究物品を持ってきたいと思います。コッヘルの体調管理について、こちらの国の医魔術師の方に説明したいので」
「では、今から帰ってくればいい」
「えっ?」
「ペアンくん、待て」
「分かった」
「まだお話が終わってないので、少し待ってくださいね。ペアンくんが私と一緒に送迎してくれるなら、明後日の午後に東の国へ報告に行きましょうか」
「・・・サクラさんの適応能力がすごい・・・」
「西の国にいたときから、この調子だから慣れてくれ」
「魔術は技術というサクラさんの考えの神髄を垣間見た気がします。なるほど利用できる技術は最大限に使うと・・・」
「サクラちゃんが一緒に行ってくれると話が早いね」
「ん?・・・あぁ俺か・・・研究時間を返してくれ」
「分かりました。調整しましょう」
「あぁ、本来はサクラからの案を理解して、魔術の織を考えるだけでも、結構な時間が掛かるものなんだ」
「スタンツェさんは睡眠時間を削って、色々なものを生み出してくれますからね。ありがとうございます」
「感謝しているなら、もう少しタイミングを考えて、案を出してくれ」
「あ、それなんですが、私の文字の魔術を誰でも使えるようにしたいので、今度手伝ってください」
「なぜ、今、それを言うんだよっ!とりあえず原案を見せてくれっ」
「・・・これがサクラさんの考えの神髄・・・」
「エレバー、帰っておいでー。新しい魔術が見られるよー」
「こちらにいくつか、紙を用意しました。それぞれ効果が違うので、ほんのわずかに魔力を込めてみてください」
アドソンは氷の粒が生まれ、コッヘルには微風が吹く。
「おっ、属性も変わるのかー。おもしれーな」
「私が風の魔術を使えるなんて」
「僕は火が出た。野営の時に役立ちそうだね」
「この・・・私の魔術のように見える文字が、魔術なのですか?」
「そうです。私が元々いた国の文字で、ダズンローズのブローチを作ったときに使った文字の応用です」
「これを誰にでも使えるようにするんだな?」
「はい、それぞれの効果を商品化して、どの属性の魔力でも効果を安全に発揮させたいです。そして、この魔術の織を一般の方が作れるようにしたいのです」
「商品化は理解出来るが、文字ではなく織なのはなぜだ?」
「この文字は私しか読めませんし、書けません。これを写すのでは間違っても気づかないので、事故に繋がります。ですが、織であれば魔術師の方に管理してもらえると思いますし、一般の方が簡単には写せないので品質の担保になります」
「なるほど、分かった。方法を考えてみる」
「はい、こちらは焦って商品化するものではないので」
「なぁサクラー、この氷が出る魔術の紙はまだあるか?せっかくだから飲み物に入れようと思ってさー」
「小さい氷を見ると、同じことを考えますよね」
「お、ありがとうー。試してくる」
「アドソン、僕にも見せて―」
話は終わっていないのだが、厨房の方にアドソン、ラスパは走って行ってしまう。
苦笑しながら、エレバが安全性を確認する為、追いかけて行く。
スタンツェはサクラの魔術の紙に集中しており、周りの声が聞こえていないようだ。
ゴッセがサクラの方を向き、姿勢を正す。
サクラも姿勢を正して、話を聞く。
「・・・ねぇ、サクラ、これだけ聞いて欲しい。・・・・メッツェンは恩赦の結果、生涯幽閉の処罰とされたよ」
「・・・分かりました。教えてくださってありがとうございます」
「うん。王女宮の尖塔に居ることになっているから、ウィスカーとサクラが世話をしているように見せかけてほしい。そして、君はクラとして西の国で働くんだ」
「えぇ、西の国の人たちのために沢山働きますね」
「うん。宜しくね」
「こちらこそ宜しくお願いします。それと、晴れて自由の身となられましたこと、おめでとうございます。お疲れさまでした」
「・・・うん。ありがとう」
下を向いたゴッセの頭を思わずそっと撫でる。
目を見開いて顔を上げるゴッセに、サクラは何も言わず微笑む。
サクラは人生がずっと幸せなことはないと知っているし、この世界も身代わりなんてものはいくらでもあるのも知っている。
昔のゴタゴタは知らないし、過去は変えられないので、これからの日々を大切に生きるだけだ。
氷が沢山入った飲み物を持って三人が戻ってくる。
それぞれの転機に慰労の意と、出会いに感謝し乾杯した。
そして、明日に向けて解散となる。
ペアンが空っぽになったコップを見ながら、サクラに話しかける。
「サクラ、君には何が見えているんだい?」
「ん?今の私には、お疲れの皆さんと美味しいご飯を食べて、のんびりするという課題だけが見えていますよ」
「それは、そうだが・・・」
「これからもずっと一生懸命働いて、皆でご飯を食べて、おいしいねと言い合うことが私の望みです。それが続くように、沢山の知識と技術を取り入れていくだけですよ」
「あぁ、君の知識を我の恩寵として捧げてくれるならば、我は君に力を授けるぞ。共にいつまでも居て欲しい」
「皆と守って守られて、成長していきたいですね」
「サクラ・・・まぁ今はそれでも良い。奴らが君の守護を高めてくれるのであれば、それで良い」
「はーい。あ、ちなみに今日はペアンくんは猫さんで寝てくださいね。ウィスカーさんと夜更かしの女子会をするんです」
「えっ・・・我も参加したい」
「女子会ですぅ」
口をとがらせたサクラに、後ろから肩をだくウィスカー。
「女子会ですぅ。ペアンはずっと二人だったでしょ。一晩位良いじゃない」
「良くない。良くないぞ!」
「だめですぅー。ねっサクラちゃんっ」
「さぁ張り切って女子会の準備をしますよー」
「サクラぁ・・・我も参加したい!」
結局は、朝から慌ただしく動いていたサクラの限界が来たため、空間魔術の奥の寝室でペアン、サクラ、ウィスカーの三人が手を繋いで眠るという妥協案になった。
「次の女子会はサクラちゃんと旅行にしましょっ!」
「我を置いて行ったら呪うからな!」
「二人とも、私は眠りますので静かにしてくださぁぃ・・・」
サクラの寝息を聞きながら、二人も眠りに落ちていった。
氷の欠片を出すのが楽しすぎたアドソンは、料理長のミテルに話してしまい、スタンツェが早々に商品化を考えるという事案が発生するとは、この時誰も考えていませんでした。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます
今日は23時にアップ出来た・・・。
しばらく都合により、更新が不安定です。




