密談-暁の男と月夜の男
閑話
秋から冬に変わる日の夕刻。
西の国王都の市場は、夕食を外で済ませようとする者が集まっていた。
「橙色の髪に目の上の傷、君が彼女の協力者だな」
「おっさん、誰だい?」
「私も彼女の協力者です。これから何度も会うことになるでしょうから、少しだけお話に来ました」
「そうか」
市場の中央には広場があり、取り囲むように食材を調理した店舗が並んでいる。
幌の屋根がつき、椅子とテーブルが置いてあるため、そこで食べて帰る者も多い。
一人で椅子に座っていた男に、黒い髪に灰色の瞳の男が声を掛けたのだ。
声を掛けられた男は、注文するために並んでいた仲間の方に振り返り、声を張る。
「おい、ちっと知り合いがいたんでな、他で夕飯食ってくるわ。俺の分は誰か食っておいてくれー」
「へーい」
「食い終わったら、戻ってますわー」
返事をするかのように右手を挙げた男は、声を掛けてきた年配の男と共に広場を出て行く。
王都の中央よりにある文具店に二人で入る。
「んで、ここがあんたの店か」
「はい。ご利用いただいたことがあるかと思いますが、ここの支配人をしています」
「こんなしっかりした店を構えているのに、国に不満があるんだな」
「国というよりはあの男たち二人に不満があるのですよ。あの男たちは美しくない上に、まともな絵も描けない」
「辛辣だな」
「誰も聞いていないですからね」
内容と声のトーンの落差に、若い男は苦笑する。
「そりゃそうだな。・・・そんで、俺に何かやらせたいことがあるんじゃないのか」
「頼みたいというよりは、王女の処遇について意見を聞きたいのです」
「それは、お姫さんは処刑で良いと言っているらしい。俺の個人的な意見はどっかで大人しくしてくれていれば良いと思ってる」
「ふむ。貴方の治世に役立てばいいということですね」
「チセイ?」
「あぁ、貴方が国王に立ったときに邪魔をせず、役に立つなら命までは奪わないということですね」
「あぁ、そうだな。結局は、今の王族の傍にいるやつらも、貴族も敵のままじゃ、俺たちは進めないからな」
「分かりました。それであれば私も心おきなく協力出来ます」
「へぇ、こんな返事で信用するのか」
「えぇ、あの王女は偽りの姿ですからね。死体が必要ないのであれば、準備は簡単です」
「偽り?どういうことだ?」
若い男は目を見開き、怒りを露わにする。
穏やかな表情の年配男性はそのまま会話を続ける。
「あぁ、聞いていないのですね。彼らは貴方を騙したというわけではありませんよ。貴方と王女の部下たちが会ったのは、偶然だったでしょう?」
「あぁ、迷子になったお嬢ちゃんを、うちの若いやつらが連れてきちまっただけだ」
「それですら万死に値する」
「なんかいったか?」
「いえ、その時に男が二人いたと思います。ゴッセとアドソン」
「あぁ、ゴッセが王女なのですよ。王妃が王に偽りの申請をした。彼は今まで女であることを強要され、その通りに生きてきた」
「なんだそりゃ、あいつが・・・女?」
「いえ、王女が男です」
「同じことだろーが。なんであいつはそんなことやってるんだよ。逃げ出せばいいだろうが」
「そうもいかないのが、王女なのでしょう。ただあるきっかけで、今回の計画を思いついたわけです」
「なるほどな、この話は貴族の中じゃ有名なのか?」
「いえ、完璧な情報操作と彼の強靭な意志で、ほとんどの者は知りません」
「そうか・・・俺は聞いちまって良かったのか」
「・・・貴方はこんな時に人を心配出来るのですね」
「あ?俺は難しい話は分からねぇよ。ただ、男してのアイツが素なんだったら、それで良いんじゃねぇの」
「なるほど。甘いというか優しいというか、面白い人ですね」
年配の男は先程までの覇気が消えた若い男をみて、苦笑する。
「ところで、先程聞きました王女への処罰は幽閉ということで、お気持ちに変わりはありませんか」
「あぁ、ゴッセに死なれると、これからの予定が変わるしな」
冷静さを取り戻した男は、王女がゴッセであるという現実を受け止め、先を見据えている。
「それは良かった。私としては、王女付のクラ嬢を保護させて貰いたいので、それは構いませんか?」
「お嬢ちゃんか。俺は構わないが、そこもゴッセと話し合ってくれ。彼女もあっち側の人間だろう?」
「・・・そうですね。ではゆくゆく彼らと話し合うことに致します」
双方小さく頷きあう。
「こちらからお伝えしたいことは、伝えられました。追加で確認しておきたいことは、ございますか?」
「あんたはお嬢ちゃんを気に入っているようだが、手出すなって釘さされてないのか?」
「おや、既に釘を刺されておりますよ。それでも、彼女が素晴らしい人ですので、ぜひとも私が傍にいたいのですよ」
釘を刺されているのに諦め悪く追いすがるほどの女なのかと、若い男は疑問に思う。
「まぁ、そこは自分でどうにかしてもらうしかないかな。俺とは女の趣味が違うようで安心したよ」
「そうですね。彼女の魅力は私だけが知っていればいい」
若い男は、目の前の男を要注意人物として心に刻んだ。
「では、これから宜しくお願いします」
「・・・あぁ、よろしく頼む」
この日サクラが居ないところでされた会話の結果、王都の文具店は新領主館御用達の店としてさらに勢いを増す。
サクラ、スタンツェと共に、文具をベースにした新しい魔術具は、他の三国とも実用性を評価し、こぞって購入することになる。
「ビジネスパートナーさんが有名になりすぎて、私も頑張らないとと毎日気合が入ります!」
「毎日思ってくださっているんですね。嬉しい限りです」
ある日、サクラは訪れていた男に声を掛け、男は笑顔で返答している。
首周りにいる魔猫の使い魔は、機嫌が悪そうに尻尾を振っている。
若い男にとって、もう何度も見た景色になりつつある。
「あれは男が単純なのか、クラが扱いに慣れているのか、どっちだ?」
「文具の妖精も知識の魔物も虜になる『愛し子』らしいから、クラが扱いに慣れたんだろうよ」
「ある意味、不憫だな」
あの日、要注意人物リストに入れた判断は間違っていなかったと、男は溜息と共に言葉を飲み込んだ。
愛は人を盲目にするものでして。
人ではないのですが、人として生きている者ですね。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時頃上げられるように生きてます。




