報告-17の月、8日、スタンツェ
ゆるゆるとした一区切り。
「スタンツェ、戯曲を作りたいんだけど、これはどう思う?」
メッツェンから声が掛かったのは一年前。
とある騒動が起こって、爆発しそうな怒りを執筆に向けていたそうだ。
「現実にするつもりか?」
西の国でクーデターが起こり、国王、王子が殺害された。
殺害の騒動の直前に、身を危ぶんだ国王は、東の国に嫁ぐ予定だった王女に救援を頼んでいたという。
東の国の王子は婚約者の為に、この騒動を治めた。
完全なる被害者である東の国はこの地を隷属とし、国を存続させるために領主として王子を派遣することにした。
被害を被った形の東の国は王族を処刑することとして、国の再編を望んだ。
西の国の最後の王族である王女は毒を飲んで自害した。
そんな話を現実にするため、王女の代わりになる女を探していたときに、サクラに出会った。
この筋書きが完成しなかったのは、自害する王女役が東の国にいたからだ。
本物の王女は西の国に来て、また王女を演じている。
結局、恩赦を受けた形で、一人の女に下り生涯幽閉の身分となる。
実際はその女は存在せず、メッツェンはゴッセに戻るだけ。
ホプキンスと他全員が一旦王城に戻り、亡骸は広場に安置することになった。
防御の魔術が施されているため損壊は出来ないが、国王が死んだことを嘘だと言われないようにするためだ。
そして、王城の隅にある牢屋にメッツェンは隔離されていた。
護衛騎士ではなく、傭兵が牢屋の護衛をしているが、牢屋全体の扉の前に立っている。
元々の身分差がありすぎて誰も近づけなかったらしい。
牢屋の中でメッツェン(ゴッセ)が何をしていても気づかないだろうと、苦笑する。
王城内会議室に移り、今後の話を進める。
「なぁ、お姫さんは、どこに連れて行けばいいんだ?」
ホプキンスはあくまで人道的にメッツェンを扱うようだ。
身分を奪われたのだから、どう扱かわれても文句は言えない立場だが、俺たちが国のために働くならば、メッツェンの周辺環境は整えると言われている。
「ホプキンスは優しいよなー。誰にでもそうなのか?」
「歯向かうやつには容赦しねぇが、抵抗する気がないお嬢さんに暴力を振るうほど、落ちぶれてはいないぜ?」
「それなら、宮の尖塔でも良いのか」
「ん?あぁ、脱走しなければ良いぜ。飯を運ぶのだって、遠いと面倒だろう」
「ホプキンスは優しいよなー」
無理な願いだと分かっているが、一応提示した条件をホプキンスは全部飲んだ。
メッツェンは王女宮の尖塔の最上階に幽閉となり、身の回りはウィスカーとサクラが行う形をとる。
ここの王城は状態保存の魔術を掛け、今後の活用方法は追々検討するとして、執務の最前線は王女宮に移す。
「このまま保存するってなら、俺達もこの城から一旦離れるぞ」
「アジトに戻るのかー」
「あぁ・・・なんだ・・・化けて出られても後味が悪い」
「・・・化けて・・・えっ、ホプキンスって怖がりなのか」
「いや、そんなことは言ってねぇよ!」
「アドソン、事実を指摘するな」
「怖がりじゃねぇよ!」
「ホプキンスさんもそう言っているので、そういうことにしておきましょうよ」
慌てたコッヘルが仲裁に入るが、ホプキンスが分かりやすく、顔を赤らめていた。
追い込まないでやれよ。
コッヘルは、ほとんど口を挟まず話の成り行きを聞いている。
他の二人は書記とこの国の現状把握に努めているようで、少し離れたテーブルで図書館から本を持って来てもらっている。
王城内の混乱は避けられているのか、反国王派の騎士や侍女たちが協力している。
と言っても、国王・王太子派の貴族はほとんど捕らえられており、追って沙汰を言い渡すと通達している。
今回のクーデターの協力者はなにも平民だけではない。
災害後の慰霊に行ったことがある地域の領主、辺境伯たち、『愛し子』を好む人外者たちも、暗躍している。
メッツェンの行き先が決まったところで、牢屋を開放する。
全員王城敷地内から退避を命じ、ウィスカーとペアンを呼び出して、保存の魔術をかけた。
身柄を拘束されている貴族たちは、王子宮が本日の寝床になる。
「なぁ、あんたらも色々訳アリだろ。しばらくはコッヘル・・・さんが領主になるんだ。領主の責任でお姫さんは対応してくれ。今日の夜は俺たちはここで離れる」
ホプキンスからの提案は意外なもので、アドソンも詳しくは知らないと首を横に振っていた。
なお法律などの平民には難しい問題は全て俺達がこなすようだ。
予想の範囲内ではあるが、しばらく研究が出来なくなるだろうと予想し、溜息をつく。
王城から王女宮へメッツェンを移送する。
元国王により閉鎖されていたはずの王女宮は、俺たちが宮を出発する前と全く同じ美しさだった。
「お帰りなさいませ」
メッツェンに揃った礼を見せる使用人たちは、クラが贈った制服を身に纏う。
衣料店の姉妹はあれからも制服を作り続けていたそうだ。
尖塔に向かう廊下を歩きながら、新情報が出てくる。
結論から言えば、王女宮の古株たちは皆、メッツェンとゴッセが同一人物であることを知っていた。
ゴッセは、城を守っていた使用人たちにそっと労われ、なんとも言えない表情をしていた。
「ずっと女だって顔して、城を歩いていたんだぜ?バレないようにメイドも減らして、なんでも自分で出来るようにしたのに、全部バレていたんだって・・・恥ずかしくない?」
首まで真っ赤にしたメッツェンがふるふると震えながら悶えている。
執事長のホーマンは微笑み、侍女長モースは泣いている。
「貴方様の自由を我々は望んでおりました。クラ様がいらっしゃったときに、もしかしたらと予想しておりましたので、この城を守り通せて本望でございます。ゴッセ様、この度の代替わり、宜しゅうございました」
「あぁ、そのことだけど、俺はもう一騎士で良いんだ。これからは平民が国を動かす時代になる。今は東の国の王子が代理となるけれど、クラもそれに皆も国民に仕える形に変わるんだ」
「そうでございましたか。では、新しく着任された騎士のゴッセさんと、この城で働けることをお祝いいたしましょう」
「・・・あぁ・・・・そうだね。これからよろしく頼む。いや、よろしくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願い致します」
そして、尖塔の最上階にメッツェンは幽閉された。
鍵はウィスカーとサクラの魔力とする。
傲慢で人を寄せ付けない我儘王女であり、祭事には人を惹きつけてやまない王女は、ここで役目を終えた。
ご都合主義がすごい!と作った本人も感じております。
下地は最終話まで出来ているのに、実際見直すと迷走が酷い。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
連日23時アップ予定です。




