報告-17月、8日、3枚目
サクラとペアン回
昼食後少しだけ昼寝休憩をしたサクラは、魔術の実験を再開する。
以前ウィスカーが使い魔から妖精に戻ったときに、スタンツェはいくつかの条件があると話していた。
もちろん条件が全て備わっても成功しない場合もあるが、プログラミングに近い形かもしれないと気づく。
結果を見るのではなく、プログラミングに意識を集中して魔術を見るようにすること数十回、サクラはやっと魔術の織が見えるようになってきた。
「この魔術の織は、私の見え方とペアンくんの見え方は違いますか?」
「・・・サクラ、見え方というのは織だけのことか?結果や効果を含めるのか?」
「えっ、あぁ、今の質問は織の模様だけでしたが、結果や効果が変わることもあるのですね」
「あぁ、全く同じ織を作ってもスタンツェとウィスカーと我では効果が変わるのだ。それは種族の特性という変化だな」
「ふむ・・・そうすると、私が気になっている織の細かな部分は、スタンツェさんかエレバさんに聞いた方が伝わるということで良いですか?」
「・・・い、いやっ、サクラ、我は知識の魔物であるぞ。織の細かな違いでも理解しておる。心配せずに頼ってくれ」
「わぁさすがは知識の魔物さんです!」
慌てるペアンに、笑顔を咲かせたサクラが誉める。
満足そうにペアンが頷く。
「そうであろう、そうであろう」
サクラは人外者という方々は、案外素直に感情を出すのだろうかと疑問を持つ。
次に西の国に行ったら、スティーヴンに聞いてみようと、頭の中のメモに記す。
「では、さっそく聞きたいのですが、この『清浄』のための魔術を書いた紙だけでなく、空間に拡大したい場合は、織のどこを変化させたら良いですか?」
「この魔術の場合、穢れを風で飛ばす、水で流す、火で浄化する、土で安定させるなどが組み合わさっている。それぞれの力を順番に配置し、力を均等にするのであれば、この織を変えるのが良いのだが、そこはスタンツェの空間魔法の一部を使おう。書き換えてみたぞ、魔力を流してみると良い」
戻された紙に触れ、そっと魔力を流す。
織を見るためには、発動するかしないか程度の僅かな魔力をじっと流し続けることになる。
結果だけを知りたいのであれば、適量の魔力を一瞬流せばいい。
僅かな魔力のために集中力を使うため、ここ数日間のサクラは疲れやすい状態ではある。
「んーと、ここが変わって・・・・わぁ、厨房いっぱいにフワフワと光が飛んで行きました。先程の清浄の紙からこんなに広い範囲に行きわたるなんて素敵です!」
「そうだろう、知識の魔物が調整したからな」
「さすがのペアンくんなので、今日のお夕飯はペアンくんが選んでください!」
「おぉ、では、前にパンケーキを昼食のように食べたことがあったであろう。その食べ方をまたしてみたい」
「それなら、お夕飯のメニューに合わせて食べられるように、甘さは控えめに致しますね」
「あぁ、よろしく頼む」
サクラは誉め言葉と簡単なプレゼントを準備して、ペアンが快く協力してくれるよう取り計らっている。
愛し子は望めば、人外者が何でも願いを叶えてくれるような存在ではある。
ただ、サクラはその一方的な望みは最後まで使う気はなく、自分が返せる限りの感謝を返すようにしているのだ。
「あの、ペアンくん、前に試した『氷』があったと思うのですが、紙に文字を書くのではなく、織を何かに書けばその書いた物が凍るということでいいですよね?」
「ん?あぁそうだ。どうした?」
「水属性の魔力を持たないものでも、氷を作れるようになって貰いたいと思ったんです。夏に冷たい飲み物が飲めたら、最高ですから」
「そうだな、道具に織を組み入れて特製の魔道具としてもいいだろう。併設空間魔術はスタンツェ独自の魔術ダだろう?」
「えぇ、私独自の魔術は文字ですが、織は独自のものではないと予想しています。ただ私は書き写すにしても見本がないと今はかけません。練習の書き損じはペアンくんが破壊してくれていますが、魔術書として編纂するべきか、秘匿とすべきか・・・」
サクラは自身が出来る範囲の外でトラブルが起こることを恐れている。
管理者を立てられるなら良いが、独自の魔術であれば、悪用を避けたい。
「それは追々検討していけば良いだろう。諸々の処理が終われば、あやつらが戻ってきて、次の段階に進むのだろうからな」
「・・・そうですね。今日の実験はここまでにして、お夕飯の準備をしてもいいですか?」
「あぁ、ゆっくり作ると良い。我がサクラに擬態して、監視の者たちを対応しておく」
「ありがとうございます。皆に手紙を書きたくなったので、時間が出来て嬉しいです」
「皆はサクラと手紙のやりとりが出来るのだな・・・」
「そうですね。何かご不満ですか?」
「あっ、いや、そうではない。そうではないんだっ。サクラからの手紙が羨ましいだけだ」
「んー・・・確かにダズンローズ以降は何も差し上げていないですね。では先にペアンくんのお手紙を書いてしまいましょう。書く間は中身を覗いてはダメですよ?」
「分かった。では我は、サクラが書き散らかした織の片付けでもしておこう」
「かっ、書き散らかしてはいないです!今から片付けようとしていたんですよっ」
「はいはい。おっ、人間たちが近づいて来た様だ。対応してくる。扉は隠しておくよ」
「はい、お願いします」
東の国の騎士と侍女は、昼間は鍵を開け放していた。
夕食と着替え、サクラが依頼しておいた本やレターセット、インクなどが渡された。
退室の際、鍵を閉めずに出て行ったので、夜間も逃亡しないかを監視するのだろう。
こちらとしては侵入者があっては困るので、鍵は閉めずに壁一面に断絶・防音・障壁の魔術を重ねておく。
サクラは身の危険を冒してまで外出する気持ちはないのだから、そっとしておいてもらいたい。
「戻った」
「お帰りなさい。あ、今日の差し入れは豪華ですねぇ」
「あぁ、依頼しておいたものが届いたようだ。それと、夜間も鍵を閉めないことにしたようだ」
「あら、それは無用心ですね。困ります」
「そういうと思ったから、色々と細工しておいた。さて、今日のお夕飯は何になるのかな?」
「ありがとうございます。今日はお城のシチューとサラダがあるので、予定通りパンケーキにしましょうか。追加でペーコンと卵を焼きますね」
「あぁ、それは楽しみだ。我は片づけをして、サクラを手伝えばいいのかな?」
「・・・片づけが終わったら、そちらのソファーに座ってくださいな。のんびり待っていてください」
「そうしよう」
サクラは予定していた料理を作り終わる。
作っている途中でペアンが船をこぎ始めたので、そっと寝かせていた。
「ペアンくん、ご飯の用意が出来ましたよー」
「・・・あぁ・・・サクラ、我は眠っていたのか?」
「えぇ、そうですよ。少しだけうとうとしていました。どこか体の調子は悪いですか?」
「・・・いや、変わったところは何もない」
「それなら良かったです。こちらの手紙を渡しておきますが、ご飯を食べ終わってから読んでくださいね」
「今、読みたい」
「読んでいる隙に、私が全部ご飯を食べちゃいますね」
「いや、それはダメだ・・・我が食べる!」
「ふふ・・・では食べましょう。手紙は逃げませんよ」
サクラが西の国にペアンが現れたことを知って、笑顔で問い詰めるまであと半日。
普段の感謝を述べただけの手紙を、ペアンが永久保存して城に飾っていると、サクラが知るまであと半年。
ゆっくり、でも確実に、進んでいる世界。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
連日23時にアップ予定です。




