7.アミュレット
「そうと決まれば、早い方がいいよね?となると・・・・迎えを呼ばなきゃいけないな。」
ガルデオン様が、ふふふんと嬉しそうに鼻歌を歌いながら、腕組みしている。そして、ぽんと手を打った。可愛い。
「そうだ!さっきの花畑にしよう。あそこなら、竜が降りてもそんなに目立たない。
ローゼ、さっきの花畑まで戻って、ボクを待っていてくれる? 竜王国に行って迎えと一緒にくる。
そんなに時間はかからないと思うから!」
私が頷いたのを了承ととったらしく、ガルデオン様は「約束だよ!」というとパタパタっと小さな翼を動かして、飛び立ってしまった。
「はああ」
私は大きなため息をついてしまった。自分で決めたことだけど、アレクと離れ離れになってしまう。
アレクもアンも私も難しい顔して黙ったまま、荷馬車は来た道を戻って行った。アレクと離れ離れになると思うだけで、きゅうと胸が締め付けられる。今まではイメルダの側使えだったけど、姿が見えない日はなかったし、廊下とか食堂とかで会えば、くだらない話をしてくれてた。でも、アレクを自由にしてあげようと決めたのは私だ。それならば、せめて何かしてあげよう。そう思うけれど、いい案は思いつかず、花畑についてしまった。
荷馬車から降りて、アレク、私、アンの順で森の中を歩いて行く。な、なにか言わなきゃ。
「ア・・アレク、お金とかある?荷馬車とか売ってしまっていいからね。あと、薬草もそれなりに売れるからね。あれは、温室で育てた最高の痛み止めと咳止めの薬の材料だから、薬屋で高値で売れるからね。そ・・・・それから」
「わかってる」
「あまり危ないことはしないのよ。今まで魔獣とか相手したことないでしょ?ギルドに登録しても最初は簡単な仕事からするのよ?お金より身体が大事よ」
「わかってる」
「それから、身体には十分気をつけるのよ。お金をケチらないで、ちゃんとした宿で泊まるのよ?あ、あと、お腹をだして寝たら風邪ひくからちゃんと・・・・」
「わかってる。こどもじゃない」
怒ったようにアレクが前を向いたまま言う。え?怒らせた?
「でも・・・」
「大丈夫だって。そう心配すんな」
「そうですよ。お嬢様。アレクだって、そこそこできますよ。性格も身体も神経も相当しぶといし?」
「アンは口を挟むな!」
アレクが振り返って、睨んだ。ひえっと私とアンは小さくなった。そして、また黙って歩いて行くと、お花畑についた。魔力をまとった茉莉花が風に揺れている。そうだ!いいこと思いついた。
「アレク、いつも使う剣とかある?」
「あ?ああ・・・・剣はどさくさで置いてきちまった。今あるのは、これくらいだな」
そう言って、左の袖口から短剣を出した。ああ、それは、おばあさまがアレクにって、小さいころあげた剣だ。丁度いい。
「ちょっと、貸してくれない?」
「なんに使うんだ?」
訝しんだ感じだったけど、アレクは、短剣を渡してくれた。私はその短剣で自分の髪を掴むと肩あたりでバッサリと切った。後ろでアンがひっと息を吸ったのがわかった。私はアンにへにゃりと笑って、短剣をアレクに返した。アレクも唖然とした顔つきだ。
「大丈夫よ。アン、私、アレクに何かしてあげたいの。私に出来ることはこんなことしかないから・・・ね?」
私はそう言うと、自分の髪を両手で持ち、“アレクを守ってください”と何度も心の中で唱えて、呪文を唱えた。すると、髪は、房に変わった。私は、もう一度アレクから剣をもらうと、柄の先に剣穂のようにその房を結び付けた。
「お守り代わりになるといいのだけど・・・」
アレクに剣を返すと、アレクは無言でしばらくじっと剣をみていた。ダメだった?
「お嬢。お願いがあるんだ。」
「なあに?」
気に入らないなんて言わないでね。出過ぎたことをしたかもしれない。思わず私は身構えた。
「ここで、・・・・・・・剣を捧げてもいいか?」
「え?そんなことしたら、アレク、貴方は自由になれないよ」
「いいんだ。俺も何かお嬢と繋がっていたいからな」
アレクはそう言うと、いつになく真剣な顔つきで、片膝をついた。
「この茉莉花の花畑で、ローゼリア・リッチモンドに命ある限り忠誠を誓う。
私こと、アレク・ルーフィスは全身全霊をもって、
御身のための剣となろう
御身のための盾となろう
御身を害するすべてのものから守ろう」
「ありがとう。アレク。貴方の忠誠を受けとりました」
それから、ガルデオン様がくるまで、他愛もない話を三人でした。自由に街を歩けるようになったら、食べたいものとかしたいこととか。なんて、穏やかな時間だろう。いつまでも続けばいいなあ。でも、そんな雰囲気も、空から届いた声にかき消された。
「ローゼー!迎えにきたよーー!!」
空を見上げると、翼を広げると私の3倍もありそうな竜が2頭、大きな籠を足に結び付けて降りてきた。竜が、ばさっばさっと翼を動かすとすごい風が巻き起こって、花びらが雪のように巻き上がった。籠の中からガルデオン様の顔が見える。あれに乗って行くのかな?アレクにさよなら言わなきゃ。
「じゃあな、お嬢」
アレクが行こうとするので、思わずアレクの服の裾をにぎってしまった。
「まったくう。」
アレクが、振り向いた。短くなった私の髪の先をそっと撫でた。顔を近づけてくる。近い!!と叫びそうになった瞬間、自分の頬に温かい感触があった。もしかして、キスされた?そう思った瞬間、全身の血が逆流したようになって、私は、・・・・・・意識をとばしてしまい、アレクの「俺のこと忘れるなよ」と「ちぃっ」という誰かの舌打ちを聞くことはなかった。
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「お嬢様、そろそろリッチモンドのお屋敷が見えますよ?」
アンの声に、目が覚めた。起き上がって目をあけると、目の前にガルデオン様がいた。ガルデオン様も近い!
あれ?近いといえば・・・・・・・さ・・・さっき、・・・ああああああ。アレクにキスされた?
顔がぼわっと火照ってしまう。頬にキスされるなんて初めてで、びっくりしたぁ。アレク、何を考えてたのかしら?
私はあわあわしながら、手で顔を仰いだ。ちょっと落ち着いてきたのでまわりを見渡してみた。
あれ?ここどこ?
ばさっばさっという翼が風を切る音がする。あ・・・・・もう、籠の中なんだ。
・・・・・・・もう、空を飛んでいたのね。アンもガルデオン様も意識なくした私をそのまま籠にいれて出発してしまったのね。アレクに文句の一つも言えなかったじゃない!・・・・・あ・・・私、アレクにきちんとさよならを言えなかった・・・じゃ・・・ない。
アンは、興奮したように籠から外を見ている。
「お嬢様、お嬢様。お屋敷が小さく見えますよ!」
アンの言葉に私も立ち上がって籠から顔をだした。たしかに、眼下に見えるお屋敷はマッチ箱みたいに小さい。私ってあの小さな箱庭みたいな世界に16年いたのね。家出しなければ、それがすべてだったんだ。
いっぺんにいろいろありすぎて、ちょっと感傷的になり、涙が零れた。ガルデオン様が私の涙に気づいたようで、鉤爪で頬を撫でてくれた。
「ありがとうございます。今までのことを考えたら、ちょっと感傷的になってしまいました」
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お屋敷を過ぎた後は、ずうっと森だったけど、たまに川があったり、草原を馬が走る様子が見えたりと見飽きることはなかった。どのくらい飛んだのだろう。不意に森がなくなり、砂漠と岩山になった。
「あれは?」
「あれね、皇国的に言うとクヴァロック山脈。僕たちは静かなる山と呼んでる。あの先に竜王国がある。疲れた?」
ふとアンを見ると、疲れたのか居眠りをしている。アン、疲れたのね。アンが安心して少しでも休めるよう、アンのそばに座る。
「大丈夫ですわ。空からみると、いろいろなものがとても小さく見えてとても楽しゅうございますわ」
「そう言ってもらえると嬉しいな。山を越えるともっと驚くから、楽しみにしてて」
山を越えると、あ・・・・・・・・っと思わずため息が出るくらい幻想的な世界が広がっていた。世界が一変したという言葉がふさわしいんじゃない?
山脈を超えた先には4つの世界が広がっていた。それらは空から見てとても大きかった。
1つは山脈の続きに岩が散らばっている草原、1つは中心に高い塔がある他は赤茶けたむき出しの土地、1つは巨大な神殿らしき(高い柱が何本も立って屋根を支えているからそう思った)建物と湖、1つはいくつも建物が立ち並び私が知っている街のような場所だった。
「びっくりした?」
「ええ。とても素敵な世界なんですね」
「でしょ?でしょ?」
ガルデオン様はぴょんぴょんはねている。
「竜王国は、竜王がいる水竜の都、地竜の都、火竜の都、そして空竜の都があるんだよ」
「どの世界がどの都かお教え願ってもよろしいですか?」
私の興奮した声でアンがもぞもぞっと起きだし、「おじょうさま、もう着いたんですか?」と目をこすった。
「もうすぐのようよ。アン、起きて外を見てごらんなさい。とても素敵な世界よ」
「あの、水竜の都は、水を司る水竜が住んでいるから大きな湖と神殿がある。地竜の都は大地の竜がいるから草原と洞窟がある。ちなみに岩みたいに見えるのは地竜達。それから、なんにもないとこが火竜の都、あいつらすぐ短気を起こして喧嘩して火を噴くからさ。あの高い塔は、地下深くマグマの近くまでいけるって話だけど、ボクは行ったことがない。あと、一番おしゃれで洗練されているところが、ボクの世界。ボクが好きなものを集めて作ったんだ。素敵でしょ?」
「ええ、とても」とアンと二人で声を揃えて答えた。
「とりあえずぅ、ボクのうちに来てね。今日はもう疲れたから、竜王に会うのは明日でいいよね?」
ガルデオン様はそう言うと、空竜の都へ行くよう言い、やがて大きなお屋敷の庭に降り立った。
私はちょっと恐かったのでアンと手を握って籠の外にでた。
そして、ここまで連れてきてくれた竜達に礼を言い、ガルデオン様について歩いて行った。
お屋敷の扉を開けると、そこには、私の2倍はある竜と女性が待ち構えていた。
「ガルデオン様、お帰りなさいませ。ローゼ様、お待ちしておりました。」
竜は深々と頭をさげ、私の顔のところに鼻をよせた。きっとこれが竜流のあいさつの仕方なんだろう。この鼻をなぜていいものだろうか?悩んだ末、やめることにした。私もアンも竜について知らないことばかりだもの。これからしばらくお世話になるのだし、礼を欠いてはいけない。
「はじめまして。ローゼです。よろしくお願いします。」
私は、ドレスをちょっとつまむと腰を落とした。




