表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/64

46.白来路花の行方(2)


「ニコラさんの話を聞いていたら精霊祭に行きたくなったわ」

「私もご一緒します」

「精霊祭が出来るように明日までになんとかしなきゃね」

「なんとかなります」

「うまくいくかしら?」

「お嬢様なら大丈夫です!」


 私とアンは、ニコラさんに頼まれた薔薇を切りながらお喋りをする。この庭には、薔薇は少ない。赤、オレンジ、黄色の薔薇を切って、やっと50本になった。


「ニコラさんに頼まれた薔薇を集めることができてよかったわ。あとは、鈴蘭を探しましょう」

「はい。お嬢様」


 アンと二人で庭の中をゆっくり歩く。鈴蘭は小さな花だけど、香りと魔力は存在感がある。群生していれば、すぐわかるはず。私は魔力と香りで、アンは目で鈴蘭を探しながら庭を歩いた。

 立ち止まり、目を瞑って大きく息を吸う。やはりここでも鈴蘭の香りはしない。何年も放置したままだったから、植物の勢力図も変わってしまったのだと思う。鈴蘭は勢力争いに負けてしまったの? それとも、全くお門違いな場所を探しているの?

 悩みすぎて眉間に皺がよっていたみたい。薬草たちの優しい魔力がまとわりついてくる。植物の魔力が体中にはいりこんできて、身体が軽くなる。体中がポカポカ温かい気持ちになっていく。


「お嬢様、なんだか悩み事がなくなった感じがしますよ」

「そう? そうかもね」


 ここには鈴蘭はなかったけれど、ガルデオン様やエリックーもといエドワード様達が探している。きっと見つかるわ。大丈夫。すべてうまくいって精霊祭を迎えられるわ。精霊祭もちゃんとできるし、精霊祭が終われば、アレクが帰ってくる。


「そういえば、精霊祭が終わったらアレクが戻ってくるんですよ」


 アンも同じことを考えていたのね。


「ええ」


  きっと、この家に我が物顔で住んでいる私とアンをみてびっくりするわ。家に入ってきたらなんて言おう? 『おかえりなさい』? 『おじゃましてます』? 『ありがとう』?

 いろいろ考えていると、無性にアレクに会いたくなった。今どこで何をしているのだろう? 

 

 私はルッコラ村へ来るときにガルデオン様から教わった探知魔法を唱えた。庭の植物たちの魔力が私に力を貸してくれたのか、この前よりも大きな魔方陣を描くことができた。魔方陣の右上にアレクの場所を示す赤い点が見える。宵の杜の地形がわからない私には、アレクと私がどのくらい離れているかわからない。でも、確かにアレクがこの杜のどこかにいることがわかって、心が落ち着く。


 ――アレク、明日は宵の杜の泉にいる竜を助けに行くわ。どうか、貴方も無事に帰ってきて。


 魔方陣に祈っていると、赤い点がきらりと光ったような気がする。「お嬢様」と遠慮がちなアンの声が耳に届く。意識が揺れて、魔方陣が霧散する。


「ガルデオン様が戻ってきたようです」


 空を見上げると、ガルデオン様が降りてくるのがわかった。


「ルーの森にあった鈴蘭を取ってきた」

「ガル様、ありがとうございます」


 渡してくれたのは、白い鈴蘭の束だった。乱暴に引っこ抜いてきたのか、根っこがあちこち切れている。


「あれ? ルーの森で見た時は薄紫色だったのにぃ」

「鉢に植えてみましょう。抜いてきたから魔力が弱っているのかもしれません。少し様子を見ましょう」


 鈴蘭を空いている鉢に植え替えて水をあげる。鈴蘭たちは元気をとりもどしたけれど、花の色は白いままだった。「へんだなぁ」と言いながら、ガルデオン様が鈴蘭を眺めている。


「ルーの森では、薄紫色だったんだよ」

「そうですか」

「月明かりの中、一生懸命探したんだよ? ローゼ、信じて欲しい」

「信じていますよ。たぶん、ルーの森でしか薄紫色に見えない鈴蘭なのではないですか?」

「s……そう?」


 ガルデオン様はアンにまであれこれ言い訳をしている。いくらガルデオン様でも白い鈴蘭を持ってきて薄紫色と言うとは思えない。ルーの森の鈴蘭は、なにかしら条件が重なって薄紫色になるのかもしれない。精霊が好むとあって、不思議な花だわ。

 気を取り直したガルデオン様が、「ローゼの方は?」と聞いた。


「庭は一周しましたが、白い鈴蘭もありませんでした」

「そう? じゃ、あとは魔術師達が持ってくるのを待つしかないね」


 ガルデオン様が机の上の薔薇の花を見つけた。


「たくさんの薔薇を切ってどうするつもり?」

「これは、ニコラさんに頼まれたのです。明後日の精霊祭で泉に持っていきたいそうです」

「ニコラが来たの?」

「ええ。村の様子を教えてくれました。領主様は明日、討伐に出るそうです。私達も今日は準備をして、明日エリック様達が来たら泉に行こうと思います。クロッシェを作ろうと思いますが、ガル様の希望はありますか?」


 ガルデオン様の顔がぱあっと明るくなって、私の方に飛んできた。


「やっぱりボクは薔薇が好き! 薔薇のクロッシェを作って欲しい」

「わかりましたわ。薔薇ですね。アンには、茶樹を使った軟膏とかいろいろ頼みたいのだけど大丈夫?」

「はい! 問題ありません」


 明日のために、出来ることをしよう。まず、ガルデオン様のために薔薇のクロッシェを編む。ガルデオン様はそれを大事そうに抱えて、ドラゴネット様のところへ出かけて行った。ドラゴネット様はちゃんと帰ってこれたかしら? ラーシュの心は解放できたかしら? 竜王様もシーフウィル様もついているんだ。きっとうまくいっているはずだ。

 

 今は自分の出来ることに向き合おう。私は手を動かして、せっせと治癒用や毒消し用のクロッシェを編んだ。アンは、私のそばで軟膏やお茶を作っている。


 結局、夜になってもガルデオン様は戻ってこなかった。

 




******



 あくる朝、私はいつもより早く目が覚めた。まだ、庭には霧がかかっている。私は、隣のベッドで寝ているアンを起こさないようにそっと部屋をでた。

 庭に出てみると、ひんやりとした風が気持ちいい。野茨の白い花に朝露がキラリと光っている。綺麗だ。棘に気をつけながら、そっと朝露に触ろうとした。蝶が孵化するように朝露が、ふわりっと形をかえる。もしかして、精霊の誕生? 慌てて手を引っ込め、じっと息を殺す。でも、それ以上のことは起こらなかった。精霊が生まれるには、まだ、なにか足りないんだわ。何が足りないんだろう。あれこれ考えながら朝の庭を歩く。


 ふと、母屋の方に人影が見える。気づかれないように、そっと近づいた。扉の前に立っていたのは赤くて短い髪、真っ赤に焼けた肌、高い身長、逞しい腕、剣闘士の真っ青なくらいの巨漢の青年だった。横顔は見たことはないけれど、でも知っている人のような雰囲気がする。私の気配に気づいたらしく、青年は私の方に向き直った。


「ローゼリア」


 私に気が付いたその人はぎこちない笑顔をしながら、片手をあげた。


「?」

「人間の世界に行くなら、人間の恰好をしなくてはいけないとレヴィアタンに言われたのだ。しかし、人型は気に入らない」

「その声は、ドラゴネット様!」


 私は嬉しくなって駆け寄った。


「もう大丈夫なのですか?」

「ああ。ラーシュの黒い闇は祓うことができた。あとは、泉にいるラーシュを助けるだけだ」

「どうしてここへ?」

「ラーシュを迎えに行くのだろう?」

「ええ。でも、竜の方は悪しき精霊には近づけないとお聞きしました」

「それでも、なにもせずにただ待つことは出来ない」

「そうですか。しかし、まだ薄紫色の鈴蘭が手に入らないのです」

「聞いている。今、探しているのだろう?」


 二人で扉を開けて中に入ると、そこにはぷりぷりと怒ったガルデオン様が立っていた。


「どこへ行っていたの? 火竜。勝手なことをするとボクが怒られるんだからね!」

「外にいた」

「あ、ローゼ、おはよう! 火竜ってずるくない? レヴィに魔法かけてもらって人型になったのはわかるよ。でも、ボクより大きいっていうのも納得いかない」


 ガルデオン様が尾をバタバタさせながら飛び上がっている。


「おはようございます。ガル様もご苦労様でした」


 ガルデオン様の言葉はするっと無視しておく。アンが見計らったように入ってきた。ワゴンにはパンケーキが乗っている。お茶はガルデオン様の好きな薔薇茶だ。パンケーキに添えるジャムも薔薇の香りがする。ガルデオン様は匂いにつられて、興味がそちらへいく。ドラゴネット様をほってアンの方にぱたぱたと飛んで行った。

 私とドラゴネット様は顔を見合わせて、くすりと笑うと椅子に座った。


 バタンっと大きな音がして、扉があいた。ドラゴネット様が慌てて立ちあがった。殺気だって今すぐにもとびかかろうと腰を落としている。


「ローゼ! 薄紫色の鈴蘭が見つかったぞ!」


 扉の向こうから入ってこようとしたエリックーもといエドワード皇太子様達が殺気立っているドラゴネット様に気づいた。ルーカス様が剣を抜いてエドワード皇太子様を庇うようにドラゴネット様の前に立つ。


「ドラゴネット様! エリック様! ルーカス様! おやめください!!」


 私はあわてて、近くにいたドラゴネット様にしがみついた。


「ローゼリア、どけ!」

「嫌です。彼らは仲間です。薄紫色の鈴蘭を探し回ってくれたんですよ!」

「ふんぬうう」


 ドラゴネット様が顔を顰めたまま、ドンっと椅子に座った。納得がいかず、その視線はルーカス様達を捉えたままだ。私はどうしていいかわからず、三人の間でおろおろするしかできない。


「朝から大層な出迎えだな」


 ルーカス様が剣をしまって、警戒を解いた。


「おはようございます。エリックーええっとエドワード皇太子様?」

「エリックのままで構わないよ。ローゼ。そちらにいる不躾な大男は誰だい?」


 エリック様は、爽やかな笑顔を浮かべて、私に近づいて腰に手を回そうとした。私は慌てて2、3歩下がった。私と親密な関係であることをドラゴネット様にアピールしたいのだと思って、私は慌てて元の位置にもどった。


「ドラゴネット様です」


 私は、ドラゴネット様が怒らないようにと祈った。ドラゴネット様はいらいらしているのか、足をがたがた揺らしている。でも、我慢してくれているようだ。


「魔術師、火竜は気が短い。おまけに人間嫌いだ。喧嘩したいなら止めないけど、真摯に向き合え」


 パンケーキをほおばりながら、ガルデオン様が声をかけた。エリック様(本人がエリックでいいというからエリック様で)は、ため息をつくと、頭をさげた。


「火竜の方よ。私は、皇国皇太子をやっているエドワード。魔術師のエリックともいう。一応ローゼの元婚約者候補だ。今回の泉の討伐を任されている。こっちはルーカス。一応討伐隊の副団長だ」

 

 なんだかめちゃくちゃだけれど、嘘は言っていない。でも、元婚約者候補という情報はいらないと思う。私がむうっとした顔をしていると、エリック様が頬をつついた。


「怒っているのかい?」

「余計な情報はいりません」


 私はそっぽをむいた。


「そうかい? やっとの思いで、薄紫色の鈴蘭を手に入れて、馬を走らせてきたというのに、つれないな」


 茶目っ気たっぷりに言うと、肩から下げていた袋から、鈴蘭の鉢を取り出した。1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ……。ガルデオン様もドラゴネット様も取り出される鉢を見て、微かに首を振っているのがわかる。どれもこれも違うのだ。やっぱり、だめだったかと諦めた時、「これが、最後の一鉢だ」といって取り出した鈴蘭の鉢に全員の視線が釘付けになった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ