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47.白来路花の行方(3)


 「でもさ、なんか、薄紫色をしていても他の鈴蘭とあんまり変わらないんだね。なんかがっかり」


 ガルデオン様が机に並べられた鈴蘭を見比べながら、残念そうに言う。確かに、どれもこれも大きさも魔力量も香りもそれほど変わらない。鈴蘭の爽やかな香りと魔力が零れる。部屋中が鈴蘭の香りでいっぱいになる。


「確かに、大きな違いはなさそうですね。でも、言われた色をしているのはこの鈴蘭だけなので、これで作ればいいのかしら?」


 シーフウィル様に同意を求めようとして、部屋を見回す。……いない? 


「あっちにいる」


 ガルデオン様が薬草室の方を見ながら言う。ということは、竜王国にいるのね。


「そうですか。では、ここは皆様にお任せして、作ってきますわ。アン、あとはよろしくね。昨日作ったものを説明しておいてくれる?」

「はい。お嬢様、お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 私は、部屋にあるすべての鈴蘭の鉢をポシェットにしまった。ルーカス様がぎょっとした顔をしたけれど、するっと無視することにした。軽くみんなの前で膝を落とすと、竜王国へ通じる扉にむかった。

 

 竜王国の図書館奥の小部屋から顔を出すと、図書館の真ん中で、ファニール様が丸くなっていた。私が近づくと、顔を上げて私の方を見た。


「ローゼリア、鈴蘭は見つかったか?」

「ええ。1鉢見つかりました。しかし、他の鈴蘭とあまり魔力量も香りも変わらなくて……」


 私は、ポシェットから1鉢ずつ取り出して近くに会った机の上に並べていく。ガルデオン様がルーの森から取ってきた鈴蘭が7鉢。エリック様達が集めた鈴蘭が7鉢―こちらは鉢の形がバラバラだから、きっといろんなところからもらってきたものなのね。今気が付いたわ。エリック様達はあちこち探してくれたのだと思うと感謝の気持ちでいっぱいになる。


 えっ? ……すべての鉢の鈴蘭が同じ白に見える。目を擦ってもう一度鈴蘭を見た。魔女の家では1鉢だけ薄紫色だったはず。私は首をひねりながら何度も鈴蘭たちを見比べた。


「どうした?」

「……1鉢は薄紫色だったのですが、今並べてみるとどれも同じ白色になってしまっていて……」


 やっと1鉢薄紫色をしているものを見つけたと思っていたから悲しくなる。せっかく集めてきてもらったのに。1鉢だけでも薄紫色だったのに。これでは、悪しき精霊をおびき寄せるための鈴蘭の花束が作れない。どうしよう。どうしたらいいの?


 茫然と鈴蘭を見ている私に対して、ファニール様の声は驚く風でもなく落ち着いていた。


「ふむ。やはりな。おそらく、どれもシーフウィルの言う『薄紫色の鈴蘭』なのだろう。薄紫色になるには条件が必要だということだ」


 ファニール様が持ってきた鈴蘭をじっと見て言った。


「条件?」

「ああ。こちらの机の上の鈴蘭と比べてみよ。これらは温室の鈴蘭だ」


 ファニール様の顎の先の机には、別の鈴蘭が10鉢ほど置いてあった。確かに、それらと持ってきた鈴蘭を見比べてみると、香りにも魔力量にも歴然とした差がある。まるで、違う種類の花のようだ。


 でも、持ってきた鈴蘭もシーフウィル様の言う薄紫色をしていない。ガルデオン様がルーの森で取ってきた鈴蘭も、ガルデオン様が見た時は薄紫色だったと言ってたのに持ってきたときは白くなっていた。


 色が変わる? どうして? よく考えてみて! ローゼ! 私は自問する。


 条件が必要とファニール様は言った。条件とは何だろう? 植物に必要なものは、……光、土、水、空気、……。私が考え込んでいると、ファニール様の声が届いた。


「あれから私も考えた。どうして、私が薄紫色の鈴蘭を見たことがないのか? どうして、精霊にとって特別な植物なのだろうかと。私の仮説は水だ」


 ファニール様の方をみると、今度は右側にある場所を指した。そこには、桶が3つ置いてあった。


「1つは神殿の水、1つは地竜の住む洞窟の水、1つは私が唱えて出した水だ。温室にある鈴蘭で試してみたが、あまりいい結果は現れなかった。その原因は、お前に持ってきた鈴蘭を見て納得した。種類が違ったのだ。お前が持ってきた鈴蘭で試してみることにする。ローゼリア、まずは、神殿の水で試してみろ」


 言われた通り、神殿の水と言われた水を持ってきた鈴蘭にかけることにした。これは温室でも使っている水だ。1つ……駄目だわ。1つ……駄目だわ。14鉢すべてにかけてもどれも色は変わらなかった。私は大きくため息をついた。


「だめです。どれも白い鈴蘭のままです」

「やはりな。次は地竜の住む洞窟の水で試してみろ」


 まず、ガルデオン様がルーの森で取ってきた鉢に水をかける。白い鈴蘭がぱあっと濃い紫色になる。

やった! 色が変わったわ。私は嬉しくなって、次々と水をかけていく。ルーの森の鈴蘭はすべて濃い紫色になった。けれど、ルーカス様達の持ってきた鈴蘭は白いままだった。


「やりました! やりましたわ! ルーの森の鈴蘭は濃い紫色になりました! ……でも、シーフウィル様がいう薄紫色とは違うと言えば違います。薄紫色と言うよりんは藍に近い紫です」


 喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないまま、感想を述べた。シーフウィル様がいう色とは違うけれど、水を変えることで色が変わることがわかった。


「確かに。では、ルーの森以外の白いままの鈴蘭に、魔法で作った水をかけてみろ」

「はい!」


 ルーカス様達が持ってきた鈴蘭に、ファニール様の魔法で出来た水をかけた。最初の4鉢は白いままだった。私は、祈るような気持ちで、5鉢目に水をかけた。あれ? この鉢、どこかで見たことがあるわ。どこだったかしら? そんなことを考えていると、白い鈴蘭が薄紫色に少しずつ変わっていった。

 

 「ファニール様! ファニール様! やりましたわ! 薄紫色に変わっていきます!」


 私は嬉しくなって、残りの2鉢にもファニール様の魔法で出来た水をかけた。少しずつ、少しずつ薄紫色になった。

 

 ああ!! 見つけた!!


 シーフウィル様がいう薄紫色の鈴蘭だ。私は嬉しくなった。よく見ると、纏っている魔力も少し変化したような気がする。


「ファニール様、やっと薄紫色の鈴蘭を見つけることが出来ましたが、この鈴蘭の魔力を集めてクロッシェを作ればいいのでしょうか?」


 薄紫色になった鈴蘭の鉢を抱えて、ファニール様のところに運んだ。


「……それは、シーフに聞いてみるがよい」

「竜王様?」


 突然の竜王様の声にびっくりして振り返った。そこには、シーフウィル様が寝ているバスケットを小脇に抱えている竜王様がいた。


「ご苦労であった。よく見つけてきた。おい、シーフ、起きろ」


 竜王様が、バスケットをひっくり返した。すると、シーフウィル様がふわふわと現れた。


「ぞんざいに扱わないでくれ。いろいろと事情があるのだ」


 シーフウィル様は、小さくコホンと咳払いをすると、私の前に飛んできた。少し元気がなさそうな気がする。夢の世界でドラゴネット様とラーシュを会わせるのは思った以上に大変なことだったのかもしれない。私の時も白来路花(ホワイトセージ)が私を助けてくれた。それを思い出し、シーフウィル様への感謝の気持ちでいっぱいになった。お礼を言おうと思っていたのに、言えずにここまで来てしまった。そんなことを考えていると、シーフウィル様の声が聞こえてきた。


「ローゼリア、これで、クロッシェが編めるな」

「はい。これで編めばよろしいのですか?」


 私は、持っていた薄紫色の鈴蘭を見せた。シーフウィル様は、「違う」と小さく首を振った。


「それは、ファニールの鈴蘭だ。こっちの鈴蘭で編んでくれ」

「え?」


 シーフウィル様がふわふわっと飛んで行ったところは、ルーの森の鈴蘭が並んでいる場所だった。


「でも、それは色が……」


 私は首をかしげた。


「ああ、色か? 濃い色は、恐らく水の中の魔力が濃いせいだろう」

「そうなのですか?」

「十分すぎるくらいだ」


 シーフウィル様に言われた鈴蘭で魔力糸を紡ぎ、クロッシェを編むことにした。鈴蘭から魔力をかき集め、糸を紡いでいく。この鈴蘭の魔力糸は透明な少し青みがかった紫色に仕上がった。あえてその色に名前を付けるなら宵の空の色? 光の具合で、その青さが赤っぽくも黒っぽくもなる。すごく不思議な糸だ。

 糸を紡ぎ終わると、次はクロッシェ作りだ。鈴蘭ということは、この花のクロッシェに茎になる部分と葉をつける必要がある。茎と言えば、そう思って私はポシェットの中をごそごそを探して、ドーラ糸を取り出した。 


「ブーケとなると、茎の芯になるものが必要ですが、このドーラ糸で作っても大丈夫ですか?」

「ドーラ糸?」


 今度はシーフウィル様が首をかしげた。


「これです」と言って、シーフウィル様にドーラ糸を1本手渡した。シーフウィル様は、手に取ると、上に持ち上げて透かして見たり、かじって見たり、振り回して見たり……。やっと納得がいったのか、私に返してくれた。


「ドラゴネットの鱗で作った糸か。まあ、今回はこれでもいいだろう」


 鈴蘭の花を編むと、一つ一つがふわっと光っているような気さえしてきた。私は、驚きとため息をつきながら、クロッシェを編む。そして、鈴蘭の花に枝をつけたものを7つと、大きめの葉を1つにまとめた。それを5つほどまとめると小さなブーケが出来上がりだ。思った以上に手間がかかる作業だ。それでも集中してみんなの幸せを祈りながら編み上げる。


 そして、私のそばで、うとうとしているシーフウィル様のために同じものをもう1つ作った。それは、シーフウィル様に見えないようにスピンドルと壺のそばに隠した。


「出来上がりましたわ」


 その声を聞いて、シーフウィル様がはっと顔を上げた。


「もう、出来たのか?」

「はい」


 ブーケの一つをシーフウィル様に見せる。シーフウィル様の顔がぱあっと輝くのがわかった。すごく満足げにうんうんと頷いている。


「綺麗に仕上がっている」

「どれどれ?」


 竜王様も近づいてきたので、ブーケを渡した。


「ああ。素晴らしい。鈴蘭が輝いているようだ。竜の私でさえ、この鈴蘭に惑わされそうだ」

「ありがとうございます」

「これに私の祈りも入れておこう」


 竜王様が、鈴蘭に向かって小さく呟く。竜王様の呟きで魔方陣が浮かび上がると鈴蘭のクロッシェのブーケに青いリボンがかけられた。海のように深い青のリボンはブーケを一層神秘的なものにしていく。


「これで準備はできた。さあ、宵の杜にもどる時間だ。みな、お前を待っている」

「はい」

 

 私は、小さく頷くと、椅子から立ちあがった。そして、シーフウィル様に向き直った。スピンドルの陰からもう一つのブーケを手に取る。


「シーフウィル様。私の夢の中にも現れて私を助けていただいたことのお礼がまだでしたわ。本当にありがとうございました」


 私は、それをシーフウィル様に差し出した。シーフウィル様はとてもびっくりした顔をしたけれど、すぐにすごくうれしそうに笑った。そして、おずおずと手を出すと、ブーケを抱えた。ブーケの大きさとシーフウィル様の大きさがほとんど同じだったから、シーフウィル様がよろけてしまったのはご愛敬ということで。


「ありがとう。ローゼリア。ああ。いい香りだ。宵の杜の泉を思い出す」


 







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