表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/64

33.閑話 ある皇国軍 副団長の心労



( あの方には今日はいつも以上に驚かされた。よりにもよって、あそこにどうしていたのか、さっぱりわからない )



ルーカスはとぼとぼと暗い廊下を歩いていた。仮の執務室兼宿泊部屋としてルッコラ村の領主の館の一角を使わせてもらっている。今日も、領主とその家族との晩餐に呼ばれ、疲れ切っていた。


( しかし・・・・追いかけてきてくれるとは思わなかった)


そのまま家をでてしまったルーカスを追いかけてきたローゼのことを思うと心が軽くなる。知らず知らずのうちに顔が緩んでくる。


( 怪我をしてベッドに寝ている間、頭から離れなかった短い銀の髪の少女。涙を流して必死に治癒魔法をかけていたから、笑ったらどんな顔をするんだろう、そればかり考えていた。だから、彼女が覚めたときいて居ても立っても居られず、押しかけてしまった。

 ライトスティールブルー色の瞳でまっすぐに自分を見返してくる少女に、目が離せなかった。無礼を少年に咎められ自分がどれだけ恥ずかしかったか。思い出しただけでも顔が火照ってくる。

 

 銀の髪、ライトスティールブルー色の瞳。どこかでみたことがあると自分の記憶を辿っていくと、思い当たるのは友人の妹。まだ自分が騎士見習いの時に友人の屋敷に遊びに行った時、声をかけたら逃げられたことを覚えている。そして、その少女は薬草が原因で顔がただれてしまい、皇太子妃候補を辞退して修道院行きを望んでいると聞いた。だから初めは別人だと思っていた。

 

 しかし、・・・・。


 所作をみていると、どうみても商家の娘ではなく生粋の貴族だ。人に(かしず)かれることに慣れすぎている。おまけに名前も友人の妹と同じローゼという。

 

 だからなんだっていうんだ。もし、彼女が友人の妹なら、何らかの事情があってルッコラ村に来たに違いない。その理由を問いただして元の世界に連れ戻すことは彼女の幸せにはならない。

 今は、竜をつれ、薬師見習いとして生き生きと暮らしているではないか。皇太子妃としてぎすぎすとした貴族社会で生きてくよりは、きっと彼女にあっている。

 植物の話をするときの彼女のはにかんだ様な嬉しそうな顔。きっと今は幸せなんだろう。私は、その笑顔をそばで見ていたいし、守ってあげたい。


 今日は、次回彼女に会う約束をしたのだから、よしとしよう)


 ルーカスはそんなことをとつらつら考えていた。


 ふと、見ると、ルーカスが仮の執務室兼宿泊部屋として使っている部屋の明かりが扉の下から漏れている。誰かいるとしたら、心当たりは一人しかいない・・・・。


 ルーカスは、はあぁと大きくため息をつくと、部屋の扉を開けた。そして、本来、自分が座るべき椅子に座って外を眺めている紫紺色の髪の人物に向かって声をかけた。


「やはり、いらっしゃったのですね・・・・」

「後で報告に行くと言ったではないか?」


 その人物はゆっくりと椅子をまわしてルーカスの方をみた。その悪戯っ子のような笑みにルーカスはさらに肩を落としてため息をついた。


「はあぁ・・・・。どうして、貴方がルッコラ村にいらっしゃるのですか? ()()()()様」

「ルッコラ村に派遣された皇国軍第3師団のルーカス=コンプトン副団長を含む騎士7名がレッドウルフと遭遇し討伐できず重体1名、重傷6名。・・・・『皇国軍はレッドウルフ一匹退治できないのか?』と元老院はおかんむりだ」


 エリックは、机の上にあった一枚の紙をとるとひらひらとさせた。ルーカスは、何も言い返せなくてぎゅっと唇を噛んだ。


「・・・・」

「で、うち5名は治療のため本部へ帰還とあるがこれは?」


 エリックが紙の一部に線が引いているところを指した。それは、本部も元老院も指摘をしなかったことに感謝している、治療と称した厄介払いだった。


「魔物に対する知識もないばかりか、傲慢な態度が目立ちまして・・・・」

「ほぅ。確かに第3師団は貴族の坊ちゃんばかりだが、ひどかったのか?」

「・・・・はい。村でも少々問題になっておりまして、治療を理由に追い返しました」


 彼らは魔物だけに傲慢(ごうまん)だったわけではなかったのだ。調べてみると、村でも傲慢な態度をとっていていろいろ問題を起こしていた騎士達であることがわかった。このまま怪我が治って復帰しても、また問題を起こしかねない。ここは皇都から遠く共和国の国境に近い。ここでの皇国軍のイメージはとても大事だ。村人や領主とのトラブルはなるべくなら避けたい。彼らの怪我は彼らのプライドを傷つけずさっさと追い返すいい理由になったのだ。


 エリックは、ルーカスの判断に賛成を示すように1つ頷いた。


「それから、この報告書には記載がないが、レッドウルフにやられた騎士を手当てしたのは銀色の髪の薬師見習いだったと報告を受けているが・・・・」


 遠回しに報告書のことを聞いてきたが、エリックが一番言いたかったことは銀色の髪の少女のことだなとすぐにわかった。ここは正直に話した方がよさそうだとルーカスは判断した。


「・・・・実は、レッドウルフを追い払ったのは、薬師見習いとその侍女です。侍女は負傷し、薬師見習いは我らを手当てするために魔力切れを起こしたので、副団長権限で保護しておりました。

 それより、どうしてあなたがここにいるんです? まだその答えを聞いておりませんが」


 ルーカスは、語気を強めて言った。

 魔物との遭遇の件については、すでに本部に報告して回答ももらっている。その回答には、エリックの派遣ははいっていなかったはずだ。

 だから、なぜ、エリックがここにいるかがわからない。もし彼女が友人の妹だとしたら、なおさら遠ざけておきたかった。


 ルーカスの思惑を知っているかのように、エリックは、緑色の目を細めるとにやりと笑った。


「やはり、魔物には魔術師が必要だろうと陛下が言ったからだよ」

「は? 陛下が?」

「そ。陛下が」


 エリックは、からからっと笑いながら答えた。どう考えても、陛下に言わせたんだろうとルーカスは思ったが、それを口にしたところで無駄だとわかっているので大きくため息をついた。


 ただ、エリックがルッコラ村に来たことは、陛下は承知の上だということはわかった。ならば、身分を隠し名前を偽る必要はないはずだ。


「ならば、なぜ、認識障害の魔法を?」

「髪の色か? 名前のことか? それは銀色の髪の少女に会いたかったからだよ。もし、その娘が一度逃げられた少女だとしたら、本当の姿で会いに行った場合また逃げられるかもしれないじゃないか? ま、ガルにはすぐばれて追い返されそうになったけどな」


 ルーカスは、「追い返されればよかったのに・・・・」と心の中で呟いた。


「ん? よからぬことを考えたな、ルーカス。それより、お前はどうして理由をつけて魔女の家に行ったのだ? 薬草なら第3師団でも簡単に用意できるだろう? それ以外に目的が?」


 エリックが意地悪い顔をして、ルーカスをみる。ルーカスは、ローゼに会いたかったからだとは言えず、もっともらしい答えを答えた。


「・・・・祭壇に現れたという悪しき精霊がとりついたなにかについてガルデオン殿の知恵を拝借しようと思いまして・・・・」

「ほぅ。祭壇に現れたのはやはり竜らしいぞ。幼い火竜に悪しき精霊が憑りついているから、毒を吐くらしい。他に理由は?」


 エリックの目が細くなって、ルーカスをじっとみる。全部お見通しってことか。ルーカスは開き直ることにした。


「ローゼもガルデオン殿も個人的な友人です。友人を訪ねるのに理由が必要ですか?」

「ふっ・・・・。俺は、お前は真面目な性格だから、てっきりローゼの正体を・・・・いやなんでもない。それより、俺は・・・・・」


 エリックは椅子から立つとちょいちょいっとルーカスを手招きして、机の前にあるソファーに座らせた。そして自分も隣に座ると、結界魔法と認識障害魔法をかけた。ルーカスはごくりと唾を飲んだ。これからエリックが話す内容は外にばれては困る話だということだ。おそらく、エリックは、この領主の館には間諜が潜んでいると見ているのだろう。


「今回の騒動の黒幕は共和国だと見ている」


 共和国の仕業だと思っているから、結界魔法と認識障害魔法をかけたんだとルーカスは納得した。


「理由は?」

「まだ、たんなる勘だ。悪しき精霊というのは、『澱み』から生まれるそうだ。そこに俺は、ひどく作為的な意図を感じる。『悪しき精霊を生み出し、竜に憑りつかせる』、これが共和国が皇国を揺さぶるために仕掛けた罠だと仮定すると、いろいろなことが気になってくる」


 エリック自身確信が持てていないようだが、こういうエリックの勘はかなりの確率で当たることをルーカスは知っていた。ここは慎重に行動しなくてはいけないなと気を引き締めた。


「具体的指示は?」

「ああ。まずは手始めに花売りのジョアンと言う少年と接触する大人を徹底的に調べてくれ」

「花売りのジョアン?」


 ルーカスは聞いたこともない名前を言われて戸惑った。村には10人ほどの花売りがいると聞いている。その中の一人だろうが、顔は全く知らない。


「今日、魔女の家にいた少年だ。ローゼが村に入ってきたときから跡をつけていた。そして、侍女が離れた隙に、ローゼのポシェットをひったくった。そいつの境遇に同情したローゼはそいつを受けいれた。出来すぎていると思わないか?」

「ひったくり? そんなことがあったのですか?」


 確か、ローゼはちょっとしたトラブルに巻き込まれただけだと言っていたことをルーカスは思い出した。


「おかげで俺もローゼと知り合いになれたがな」


 エリックはにやりと笑うと先を続けた。

 

「・・・・しかし、俺も朝から銀色の髪の少女を探して村をぶらぶらしていたからわかる。この村は、ひったくりをすれば、すぐ誰かわかってしまうくらいの小さな村だ。もちろん、ローゼのことも噂になっている。心優しくて勇敢な薬師見習いだと、誰もが口にしている。

では、どうして、ジョアンはローゼのポシェットをひったくったのか? 恐らく、ジョアンはローゼの知り合いになりたかったからと推論するのが普通だ」

「そう言われれば確かに。しかしなぜ?」

「わからん。しかしひどく気になる。だから調べて欲しい。これは他言無用だ。」

「わかりました」



 ルーカスが頷くと、エリックは満足したような顔をして、結界魔法と認識障害魔法を解いた。そして、手でしっしと追い払うようなしぐさをした。そして何事もなかったかのように、話し出した。


「・・・・ルーカスは明日も魔女の家に行くのか?」

「はい。お昼過ぎに行こうかと思っていますが・・・・?」

「俺も一緒に行こう。俺達が仲良しだとローゼに示さなくてはいけないからな」

「・・・・わかりました。声をかけます」


 いつもエリックには振り回されている。まだ、明日は一緒に行くだけましかと自分自身に言い聞かせても、胃がきりきりする。





 そうだ。彼なら、エリックの暴走を止めてくれるかもしれない。いつもルーカスと一緒に振り回されている友人のことを思い出した。


「ところで、今回の派遣ですが、ジュラルドは何か言っていませんでしたか?」


 遠征は面倒だからと逃げ回っている友人が、今回のルッコラ村への派遣には自分を任命するようと元老院の一人を捕まえて脅しているのを目撃した。相当行きたかったらしい。結局、派遣に任命されたのは自分だったので、ジュラルドに散々ぼやかれたのを思い出した。あの時は、珍しいこともあるものだと不思議に思っていたたが、彼女が来ることを知っていたのだろうか? 呼べば飛んでくるだろうか? そうすれば、エリックに振り回されて胃が痛くなることも少なくなるかもしれない。

 しかし、ルーカスの思考はエリックの言葉で遮られた。


「あまりもねちねちと言うので、嫌がらせのように大量の仕事を押し付けてきた」

「は? それでは・・・・」

「体調を崩して皇太子が療養中だから、側近のジュラルド=リッチモンドが代理で元老院との協議にでることになっている。だから今回は、ジュラルドはここへは来ない。っはっは」


 ルーカスの心の内を見透かしたように、エリックは高笑いをしながら部屋を出て行った。



 ルーカスはがっくりと肩を落とすと、カバンの中に入れておいた胃薬をとりだした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ