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32.加密列のクロッシェ(2)


「ちがう! ボクとしたことが気づかなかった。・・・・それは精霊だ!」

「「精霊???」」


 私とエリック様の声が重なった。どうみても綿埃にしか見えない。訝しげに見ているのがわかったのか、綿埃がぼおっと黄色く光った。そしてふわふわっと右、左と揺れ動くと、力尽きたのかすとんと机の上に落ちてきた。私はそれをそっとつまむと手のひらにのせた。ほんわか温かい。でも全然重さを感じない。不思議な感じ。


 ガルデオン様は机の上に降り立つと、綿埃もどき(精霊)にがるるると唸っている。


「ガル様」


 私は、静かにガル様に声をかけた。どうみても、綿埃もどき(精霊)は弱っている。


「・・・・今回は見逃してやる」


ガルデオン様はそう言うと、机の上にあるクロッシェを全部腕の中に抱え込んだ。しかし、エリック様が手を伸ばして、ひょいっと1つ取った。


「あー。魔術師! 1つ取った!」



 ガルデオン様は、これ以上は取られまいと、翼も使って残りのクロッシェを押さえ込んだ。8つは死守するつもりらしい。エリック様がくっくと喉を鳴らして笑った。


「欲張りな奴だ。世界を達観している竜の所業とは思えない行動だな。

それにしても綺麗なものだ。魔力糸の時の輝きよりもさらに輝きに深みが出ている。魔力量があがっているのか? なぜだ?」


 エリック様が、まじまじとクロッシェを見ている。


「ローゼが上手に編むからだよ。網目が揃っていて形が綺麗なクロッシェは魔力糸以上の魔力量を持ってとても美味しいんだ」

「美味しい・・・・? さっきもそう言って食べていたな。 食べて魔力の補給をするのか?」

「そう」


 クロッシェをほおばりながらガルデオン様が答えた。


「私も食べれるだろうか・・・・?」


 エリック様がごくりと唾を飲み込むのがわかった。ガルデオン様とクロッシェを交互に見比べながら悩んでいるように見える。そして、「ええい、ままよ」と言って、クロッシェを口の中に入れた。私はびっくりして、エリック様を凝視してしまった。エリック様はしばらくかみしめるように咀嚼してごくんと飲み込んだ。


「・・・・ほろほろっとした甘さがあって口の中で溶けていったぞ。体中に魔力がいきわたるのがわかる。ああ、魔力回復剤よりは断然こちらの方が体に優しい」


 エリック様が斜め上方向を見上げなら呟いている。本当に食べてしまったわ。魔力で作られているものだから、体内に魔力をたくさん持っている魔術師のエリック様には害はない・・・・と思う。でも、本当に食べるとは思わなかった。勇気があるというか無謀と言うか・・・・。


「クロッシェを口にする人間なんて久しぶりに見たよ」


 ガルデオン様があきれたようにエリック様を見た。


「そこそこ勇気は必要だったぞ? しかし、ガルが言うほど美味しいとは正直思えなかった・・・・。残念だ」

「クロッシェは竜と精霊のためのものだからな。これ以上、無駄に争いを引き起こすのはよくない」


 エリック様が、「確かに」と言うとゆっくりと頷いた。そして、私の方をみた。


「ところで、ローゼ、その綿埃、どうだ?」

「温かさはあるのですが、あまり動きはないようです。・・・・ガル様、どうすればいいですか?」

「ほっとけば?」

「・・・・クロッシェを食べれば、元気になりますか?」

「そりゃそうだけど・・・・」


 ガルデオン様が綿埃もどき(精霊)と自分の手元にあるクロッシェを交互に見比べている。ガルデオン様は迷っているのかしら? 大丈夫。まだ魔力糸はたくさんある。編めばいいだけだわ。


「ガル様、もう少しクロッシェを編むことにします」


 ガルデオン様がほっと息をはくのがわかった。


「精霊様・・・・クロッシェを編むので、少し待っていてもらえますか?」


 私の手の中の綿埃もどき(精霊)がふるふるっと震えたような気がする。私はそっと、机の上に置くと、加密列のクロッシェをまた編み出した。


「ガル、精霊というものはどれもこれもこの綿埃のような形をしているのか?」


 エリック様がじっと綿埃もどき(精霊)を指で触りながらガルデオン様に聞く。


「それが綿埃のような姿になっているのは、それが本来持っていた魔力よりも魔力が圧倒的に足りないからだ。魔力が回復すれば元の姿にもどるだろう。精霊の姿は様々だが、綿埃はいないな」

「そうか。しかし、なぜ、魔力切れを起こしたのだろうか?」

「わからない」

「花が枯れやすくなったことと関係があるのだろうか?」

「わからない」

「悪しき精霊とやらが現れたのも関係があるのだろうか?」

「わからない」

「わからないって、お前、竜だろ?」

「そういったってわからないものはわからない! 魔術師のいじわるー!」


 机の向こう側で、エリック様が、エリック様の質問に答えられないガルデオン様をからかっている。ガルデオン様が言葉では勝てないと思ったのか、尾でペシペシと叩き始めた。エリック様は全く気にせずからかい続けている。


 私にとばっちりがこないように祈りながら、せっせと黙ってクロッシェを編んだ。


「・・・・ふう。ガル様。15個ほど編むことができましたが、これからどうすればいいでしょうか?」


 ガルデオン様は、私の言葉でエリック様を叩くことをやめて机のこちら側にやってきた。


「バスケットの中にクロッシェを入れて、こいつを放り込んでおけば明日にはもとにもどるよ。バスケットに入れるクロッシェは10個で十分だと思うから、残りの5個はボクがもらうね!」


 ガルデオン様がささっと手を伸ばしてくる。私は断る理由を見つけられなかったので、加密列を5つ机の上に置くと、残りをバスケットの中に入れた。そして、綿埃もどき(精霊)をそっとつかむとその中にいれた。


「ローゼ、そのクロッシェというのは、その花の形だけなのか? それでは、お前が持っているポシェットを作ることは出来まい?」


 エリック様が、声をかけてきた。


「今は加密列の魔力だったので、加密列の花を編みました。あと・・・・そうだわ。この来路花を使って、少し編んでみましょう」


 私は、来路花の糸を使って、葉を数枚と四角いクロッシェを編んで見せた。


「これは?」

「来路花の魔力で編んだので、傷口にあてれば治療ができるかと」

「ほほう。 この魔力糸はもとの植物の効能を持っていると? しかし、その大きさでは小さな傷しか治せなさそうだ」

「そうなんです。だから、どうしようかと思っていて・・・・」

「・・・・難しいな」


 傷口の大きさの合わせて来路花のクロッシェを編めればいいのだけれど、編むのには時間がかかってしまう。といって、あらかじめある程度の大きさのクロッシェを編んだ場合、傷口の大きさに合わない場合も出てくる。やっぱり、細長く編んで、必要な分だけ切って使うって感じにするのがいいかしら?


 エリック様が、腕組みをして考え始めたので、私は『精霊のかぎ針』をポシェットにしまった。バスケットの中にハンカチを広げて、加密列の花と来路花の葉を並べなおして、その上に綿埃もどき(精霊)を置きなおした。スピンドルは、バスケットの空いたところにいれた。


 はああ。いろいろ疲れたな・・・・。私は大きく息を吐くと、冷めてしまったお茶に口をつけた。




「お嬢様!」


 バタンと乱暴に扉が開いた。その音に驚いて扉の方を見ると、ジョアンがアンに支えられながら扉のところに立っていた。ジョアンは右足と右腕から血を出している。


「どうしたの?」

「いて・・て・・・。大したことないです。ちょっとへまをして藪に突っ込んだんだ・・です。ちょっとした擦り傷です」


 ジョアンが、痛そうに顔を顰めながら答える。


「申し訳ありません。油断していました。藪に貧乏葛と一緒に鉄葎も絡みついていることに気づかず・・・・。ジョアンが、鉄葎の棘で怪我をしてしまいました」


 アンが、おろおろしながら答える。


「わかったわ。アン、水を桶に入れて持ってきて。・・・・ちょっと待って! やはり、一気に血を洗い流しましょう。ジョアン、水屋の裏の井戸へ歩いて行ける?」


 一瞬、ジョアンの目が泳ぐ。痛いのだろう。困った。私では抱きかかえられない。


「そこへは私が抱いていこう。ローゼは案内を。アンは先に行って水をくみ上げているように」


 エリック様が椅子から立ち上がると、ジョアンを抱き上げて、そのまま扉の外にでた。私はあわてて、その後を追う。

 

 井戸につくと、エリック様はジョアンをおろして、井戸のへりに座らせた。そして、水で血を洗い流し始めた。ジョアンは滲みるのか眉間に皺を寄せながら口をぎゅっと閉じている。血を流すと、足と腕に無数に擦り傷がついているのがわかった。


「よかったわ。擦り傷だけだったわ。今から、薬草を取ってくるからちょっと待っていてね」


 私は慌てて薬草室へ行って来路花の葉を取ってきた。そして、傷口にあてると治癒魔法を唱えた。


 ・・・・ぞわり・・・・・・。


 背中にぞわりとした感じが走る。私は思わず、身震いをした。


「どうした? 顔色が悪いぞ」


 ジョアンを支えていたエリック様が声をかけてきた。


「わからない。なんとなく背中がぞわりとして・・・・」

「代わろう。アン、ローゼをつれて中に入れ。・・・・このくらいの傷なら治癒魔法をかけるほどでもない。傷口に薬草をあてればそのうち治る。な?ジョアン」

「はい。ありがとうございます。痛みもひいてきた・・です」

「さっ・・・・お嬢様、こちらへ」


 私は、手当の続きをエリック様に頼むとアンに抱きかかえられるように水屋の中に入った。私の意識があったのは、水屋の扉までだった・・・・。





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