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20.お菓子と絵本と花束と(1)

「で、これがお詫びってわけ?」


 ガルデオン様がデニスさんのブルーベリータルトをぱくぱくと次々に平らげながら、私とアンを睨んでいる。


「戻ってきたら、ローゼはいないし、部屋の中は鈴蘭の香りでいっぱいだし、どれだけ心配したと思っている!」

「ひゃっ・・ご・・ごめんなさ・・い」


 アンと二人でひたすら謝る。ガルデオン様は怒っているのにタルトを食べることはやめない。竜もお菓子は食べるのだと変なところで感心してしまう。いやいや、今はそれどころではない。氷点下になったこの部屋の空気をなんとかしなくては!


「そりゃ・・・今日くらいには目が覚めると思っていたけど、ボクを置いて出かけるなんてひどいじゃないか!ボクだって一緒に行きたかったのに」

「ご・・ごめんなさい」


「いつ戻るかおっしゃらなかったではありませんか」というアンの口を押える。火に油を注ぐようなことはしてはいけない。


「どうせ、ボクのことなんか考えてくれなかったんだ・・・・ローゼってそういうところあるよね・・・」


 タルトを全部召し上がってしまったガルデオン様がぐずぐず言い出した。濃い群青の目がうるうるしている。今にも泣き出しそうだ。美少年の泣きそうな顔は、妙に絵になるなぁ・・・そんな現実逃避な妄想をしてはいけない。ちゃんとガルデオン様に向き合わなくては!


 看病していた私が帰ってきたらいなかったらどれだけ心配しただろう?ガルデオン様が怒るのもわかる。ここは言い訳せずにひたすら謝ろう。


 私は、ガルデオン様の手を握り「ごめんなさい」と誠意を込めて謝った。何度謝っただろう。

 ガルデオン様が「ローゼは無茶ばかりするんだから・・」ともごもご言っているけど、しばらくしてやっと機嫌は治ったようだ。


「こほん・・・。でね。今日は、竜王国に一度戻ったんだ。いろいろ気になったしね。

 あ、そうそう、ファニールがローゼに渡してって薬草と本を預かっている」

「薬草と本?」

「うん、ベットと机の上にある」


 窓側の私が使っていないベットの上に、来路花(セージ)万年朗(ローズマリー)の薬草が置かれている。私が使ってしまった分の補充だ。他に香水薄荷(レモンバーム)薫衣草(ラベンダー)もある。ファニール様が私の体調を気遣ってくれているんだとひしひしとわかった。ファニール様にも心配かけたのだわ。ごめんなさい。心の中で謝る。


 そして、机の上には、本が2冊あった。1冊は『これでわかる薬草のすべて事典』で、もう1冊は『ゆうしゃをめざすきみへ ーだい3かん―』という絵本だった。

 まず、『これでわかる薬草のすべて事典』を開いた。薬草から効能を、効能から薬草の名前を調べることが出来る本だった。抗菌・防腐作用というページには来路花や万年朗の名前がある。わかりやすい。今まで自分の知識が頼りだったけど、本があると自信を持って薬草を使うことが出来そうだ。


「薬師見習いなんだから、薬草の本は持っていなきゃだってさ」

「とても分かりやすい本です。私の知っていること以上のことが書かれていますし、効能から薬草を調べられるのも助かります」

「それはよかったね」


 もう1冊の『ゆうしゃをめざすきみへ ーだい3かん―』は、読んだことのない絵本だった。絵本?それも第3巻? ファニール様が選書した意図がわからない。


「この本は・・・?」

「『レッドウルフの弱点も知らずに、レッドウルフの前に飛び込んでいく子どもには、ちょうどよかろう』って」

「?」


 レッドウルフの前に無謀にも飛び出したことを怒っているのかな?確かに、あの時はレッドウルフの弱点を知らずに立ち向かおうとした。力がないなら知恵を持っていないと駄目だわ。


「ファニールからの伝言『おとぎ話だが、竜や精霊が存在しているこの世界のことが描かれている。多少誇張されているが、嘘はない。第3巻の魔獣が住む森のモデルは宵の杜だ』だってさ。

サイレントベアやスコーピオンは実際に宵の杜にいるよ。ボクも見たことがあるもん」


 絵本だからといって軽く思ってしまったことを反省しなきゃ。きっと、わかりやすく書いてあるから選んでくれたに違いない。ぺらぺらっと中を見てみる。『まずゆうしゃをめざすには、たいりょくをつけること、あきらめないこと・・』

 ふふふ。挿絵が可愛い。あ、ここに書かれている竜は、ガルデオン様みたいな翼が長い空竜だ。


「・・・・じっくり読むことにしますわ。・・・ところで、この絵本は第3巻ですが、1巻と2巻は読まなくてもいいのですか?」

「うーーん。どうだろう?読みたければ、人間の本だからギルドにでも売っているんじゃないかな?」

「それなら、アレクのこともあるし・・・明日、ギルドに一緒に行ってくれませんか?

その後はケーキ屋さんに行きましょう。今日のタルトはご用意できませんが、果物のケーキならあるかもしれませんよ」

「ボク、甘いもの大好き。嬉しいな。楽しみだな。

・・・そうだ! 今日は侍女と出かけたから、明日はボクと二人でデートだよ!!」

「デートだなんて・・・可愛いことをおっしゃいますね」


 ふふ。私との外出をデートだと言ってくれるガルデオン様が可愛くて、近づいてぎゅうっとした。すぐに、アンに、「ご褒美をやりすぎです」と引き剥がされてしまったけど・・・・。











***********


「ガルデオン様、くれぐれもお嬢様に悪さをしないようにしてください」

「大丈夫だよ。ボクが悪さをするように見える?」

「まったく、信用できません。いつもあざとくしているじゃないですか。すぐお嬢様に甘えるし!」

「えー」

「お嬢様も、ガルデオン様を甘やかさないようにしてください」


 朝から、アンにはいろいろ注意されて、アンとガルデオン様はいつも通りもめていて、楽しくなりそうな予感しかなかった。ガルデオン様とギルドに行って、それからデニスさんのところによって美味しいケーキのお店を教わって、・・とうきうき考えていた時だった。


『トントントン・・・』


 扉を強くノックする人がいた。

 アンが、渋々と言う風に扉を少し開けた。アンが「今日はこれから出かける予定なのでご遠慮ください」とか「また後日お伺いしてください」と断っている。面倒ごとかしら?私の隣にいるガルデオン様と顔を見合わせた。


「おやめください!」


 アンの強めの言葉にも動じず、その人は、扉を無理やり開けて入ってきた。


 青地に金のラインの制服―皇国軍の騎士様だった。右腕を布で吊っていらっしゃる。

あ、この方がルーカス・コンプトン様?確か、ルーカス様は赤茶色の髪をしていた・・・この方も赤茶色の髪だ。


「薬師見習いの目が覚めたと聞いた。礼をしなくてはと思い・・・・」


 ルーカス様と思われる騎士様は、そこまで言うと、黙って立ち尽くしてしまった。顔を真っ赤にしている。ばれた?ばれた?私の心臓の鼓動はどんどん早くなる。何か言わなきゃ。何か・・。


「突然、押しかけてくるなんて、騎士様でも、失礼ではありませんか?これからボクと姉さまは出かけるところなのですが・・」


 私の隣にいたガルデオン様が口を開いた。いらいらしているのがわかる。騎士様相手に失礼だって言えるあたりすごいと思う。

 ガルデオン様が暗に出ていけと言っているけど、ルーカス様と思われる騎士様は、立ち止まってじっと私を見るばかりだ。私も何か言わないと・・・でも、喉がひりついて言葉がでない。

 騎士様は我に返ったように、話し出した。


「すまぬ。驚かせてしまったようだ。そんなに怖がらなくてもいい。私は、ルーカス・コンプトンという。先日、お前たちに助けてもらった騎士のうちの一人だ。昨日、薬師見習いが目を覚ましたと聞いて、助けてもらった礼をしなくてはと思い、気が急いて来てしまった」


 やっぱり、ルーカス様だったんだ。私がジュドお兄様の妹だとばれないうちにお帰り願いたい。どうすればいい?私は手をぎゅっと握った。すると、その手を包んでくれる小さな温かい手があった。ガルデオン様がそっと私の手を握ってくれている。私は思わず、ガルデオン様を見た。ガルデオン様は大丈夫だという風に1つ頷いた。


「ご用件はそれだけですか?・・・騎士様のご都合だけで来られても迷惑です。騎士様ってそんなに偉いのですか? ボクは、皇国の騎士様ってもっと礼節を貴ぶ方々だと思ってました。お帰りください」


 ガルデオン様が冷たくいう。見た目が小さな子どもに睨まれて、ルーカス様がたじろぐ。


「ま・・・待ってくれ。誤解だ。今日は約束もせずに来たことを詫びよう。し・・しかし、・・・せめて、持ってきた礼だけでも受け取ってはくれないか。おい、持ってこい」


 ルーカス様に呼ばれ、扉の向こうにいた辺境騎士団の騎士様が箱を抱えてはいってきて、机の上で箱を開けた。中から出てきたのは、ピンクのドレスだった。


「私の手当てに、私の腕の治療のために引き裂かれた布は、薬師見習いのドレスだっただろう?助けてもらった礼にしては足りないかもしれないが、受け取って欲しい」


 ルーカス様が、ドレスの箱をそっと押してこちらに渡そうとする。この場を切り抜けたいしか考えられない私には、どうしていいかわからない。


「・・・・・えん・・遠慮します・・・」

「色が気に入らなかったか?それとも宝石の方がよかったか?」


 ルーカス様は私が断るとは思っていなかったようで、びっくりしたような顔をしている。

 チラっと見る限り、あの時使ったドレスより高価なものだ。こんな高価なもの受け取る理由はない。


「・・・・そういうわけではありません。あの時は、見習いとはいえ、薬師として当然のことをしただけです。私が勝手にしたことなので、お礼を頂く必要はありません。私の侍女の手当てもしていただいたと聞きました。昨日、お花も頂きました。それで充分です。騎士様の気持ちは十分いただきましたわ。このような高価なドレスは必要ありません」


「それでは、私の気持ちが済まない。・・・実は、助けてもらってから、ずっと君のことを考えていた。おぼろげな記憶だが、懸命に部下たちの手当てをしていた君は、・・その・・まるで聖女・・・いや・・・とても印象的で、私の頭から離れないのだ。・・・今日は急に来て本当に悪かった。明日、改めて挨拶に来る。予定をあけておいて欲しい」


 それだけ言うと、ルーカス様は、あわてて部屋を出て行った。ドレスは机の上に置いたまま、勝手に明日来ると宣言したまま。明日も来る? どうして? 


 アンが思いついたように、ぱんと手を叩いた。


「お嬢様、厄除けに来路花を扉に吊るしておきましょう!」


 アンの明るい声が部屋に響く。アンの気持ちは嬉しいけど・・。

 私はどっと疲れて、椅子に座った。私の動揺の理由がわからないガルデオン様は、こてんと首をかしげている。


「ローゼ、さっきの奴には会いたくなかったの?」

「・・ええ。お兄様のお友達かもしれないと思っていたので、正直会いたくなかったのです」

「シメとく?魅了の魔法でもかける?」


 ガルデオン様が、手をくるくるとまわした。ここで首を縦にふったら、絶対やりそうだ。ガルデオン様にお願いしたら、きっと私は後悔すると思う。だって、一人魔法で誤魔化せば、みんな誤魔化していかなくてはいけなくなるから。だから、ここは強く否定しておかなくては。


「いいえ。そんなことをしたら、もっと大変になります。ただ、私の心の準備が出来ていなかったので狼狽えただけですわ。これから、人間の世界にいる限り、知っている人に会う可能性はなくならないのですから、自分でなんとかしないといけないと思います。苦手だからといって逃げ回っても解決したことにはなりませんから」

「明日も来るってよ」

「それまでには、対策を考えます」




「・・・今日は・・どうする?」


 ガルデオン様が心配そうに上目遣いで聞いてくる。そうだ。今は気持ちを切り替えよう。


「・・大丈夫。出かけましょう。ガル様と約束したのですから、ギルドと美味しいお菓子。これはぜひとも行かなくてはいけない最優先事項です。明日のことは、考えてみます。ガル様と出かければきっといい案が思い浮かぶかもしれません」

「うん。それじゃあ、早速行こう!」


 私がガルデオン様に笑いかけると、ガルデオン様もにっこり笑い返してくれた。





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