21.お菓子と絵本と花束と(2)
「ところで、ガル様」
「なあに?ローゼ」
「どちらに行けば、ギルドに行けるのでしょか?」
「さあ。どの道でも行けるんじゃないの?」
「・・・やはり、アンも一緒に来ればよかったですね」
「そんなことはないよぉ」
私とガルデオン様は、昨日アンと行った噴水の前のベンチに腰掛け、アンが書いた地図を広げている。ガルデオン様は昨日私が串刺しのお肉を買った露店で、姫林檎の蜂蜜漬けが串に刺さっているものを食べている。私はぱくりとかぶりつく自信がないから、檸檬水をちびちび飲んでいる。さっきから、ガルデオン様は姫林檎の蜂蜜漬けに夢中なので、私の心配事―ギルドへの道順―には気がない。
だいたい、アンの地図は大雑把すぎるのよ。噴水から伸びる道は7つあるのに、アンの地図には5つしかない。昨日寄った露店やケーキ屋の印は書いてあるけど、名前も書いてなくてわからない。はあとため息をつく。
「ギルドに行けなければ、ケーキ屋さんにも行けません」
「それは困る」
「では、どちらに行けば、ギルドに行けるのでしょうか?」
「さあ」
困った。どうすればギルドに行ける?運よく、デニスさんでもニコラさんでもいいから、知っている人通らないかな?(除くルーカス様)
それとも道を歩いている人に聞いた方がはやいかな?
私はきょろきょろあたりを見回した。あの日傘をさしている恰幅のいいご婦人に聞こうかしら?にこにこしながらとなりのご婦人と話しているし。でも・・・。
あっちの野菜を売っているお店のおじさんにしようかな?なにか買わないと教えてくれないかな?
誰かに道を聞こうと思って、きょろきょろしていると、見覚えのある制服を見つけた。
・・・あ・・・。あの制服は辺境騎士団のもの。あの蜜柑のようなオレンジの髪は、さっき荷物をもって部屋に入ってきた人かも?
「ガル様、あの野菜を売っているお店の向こうから歩いてくる人って、さっき部屋にきた辺境騎士団の人でしょうか?」
「あん?辺境騎士団?・・・ああ、あれはドレスを持って入ってきた人だよ。あの横柄なルーカスとやらに指図されてね。」
やっぱり。道を聞くならあの人しかない。今、知っている人と言えば彼しかいない。よし!
「じゃ、あの人に、道を聞きましょう!」
私は立ち上がると、ガル様の手をひいて、辺境騎士団の人の方へ歩いて行った。向こうもすぐ気づいたらしく、立ち止まってくれた上に、軽く手を振ってくれた。よし。お願いしてみよう。
「あの・・」
「薬師見習いか。何か用か?」
「はい。ギルドに行こうとして、道に迷ってしまいました。行き方を教えてくださいませんか?」
アンが渡してくれた地図を見せた。あれ? すごく困った顔をしている。やっぱりアンの書いた地図はわかりにくいのね。しばらく地図をみていたけれど、大きなため息をついて首を振っている。
「・・・ギルドに用事なのか?」
「はい」
「何の用だ?」
「実は、私達は兄弟子を探していて・・人探しの依頼をしようと思っています」
アレクって兄弟子設定だったよね?
「ならばネル商会でよいだろう。あそこは旅人の出入りも多い。確か人探しも請け負っていたはずだ。
案内しよう。私もちょうどネル商会に用事がある」
やった。これで迷わず、行ける。でも、ネル商会って何? ギルドじゃないの?
「ルッコラ村にはギルドがいくつかあるのですか?」
「ここは皇国でも田舎だからな。何でも屋みたいな商会が3つある。主に旅人相手にしているのがネル商会だ。宵の杜を超えてカシュール共和国に行く道には、どうしても護衛がいる。だから、皇国側ではネル商会が、カシュール共和国では別の商会が、旅人に護衛を斡旋・紹介している」
今の話の裏を考えると、宵の杜を通るにはネル商会で手続きをしなくてはいけないってこと?
魔獣がでるから護衛が必要というのはきっと建前ね。おそらく、ネル商会は皇国からカシュール共和国へ行く人、カシュール共和国から皇国に入ってくる人を監視している。そう考えるのは考えすぎかしら?
ものごとの裏ばかり考えるのは、きっと皇太子妃候補のための講義のせいだわ。
「旅人に護衛ですか?」
「薬師見習いも遭遇しただろう?宵の杜には凶暴な魔獣が出没するのだ。皇国を旅するのとは違って、宵の杜を通るということは危険も多いからな。ところで、薬師見習いはなぜ、あの場にいたのだ?」
これは密入国者と間違われている?ここは、嘘だとばれないように、自信をもって言おう
「迷ったのです」
「・・・・・確かに宵の杜は迷いやすい。あのような落書きを地図だと思うあたり、迷わない方がおかしいか・・・」
あれ?なぜ、アンの地図で納得してしまった?
その時、私の横で姫林檎を食べ終わったガルデオン様が棒を振って呪文を唱えていることには気がつかなった。だから、アンの地図のおかげで話を誤魔化せたと信じてしまったわけだけど・・・。
**********
「ここがネル商会だ」
ネル商会と言われたそこは、3階建ての大きな建物だった。扉の上には木製のプレートに金字で『ようこそ ネル商会へ』と書かれている。初めての場所。わくわくする。
中に入ると、正面にカウンターがあり、薄紫色の髪を1つに束ねた綺麗な女性が一人座っている。あの人が受付嬢ね。壁には数多くの紙が貼られている。きっと、この紙一つ一つが依頼ね。入り口側には、背の高い小さな丸いテーブルがあって、男の人が二人立って喋っている。冒険者かしら?旅人かしら?マントを羽織っているから、どちらかだわ。きっと商談をしているのだわ。
「いらっしゃい ガッシュ」
正面に座っている女性が声をかけてきた。あ、辺境騎士団の人の名前はガッシュさんっていうのね。
「やあ、ミザリ。支配人は2階か? ・・・このお嬢さんたちが依頼があるそうだ」
辺境騎士団の人もといガッシュさんは、私達をミザリさんに紹介すると、受付のカウンターのそばの跳ね上げ板を上げて中に入っていった。
「ここまで連れてきてくれてありがとうございました。ガッシュ様」
私は、ガッシュさんの背中に向かって大声で礼を言った。ガッシュさんは、手を上げてひらひらさせながら、奥に入っていった。
「さて・・・と、こんにちは。お嬢さんがた。ご依頼って何かしら?」
「初めまして。私達、人を探しています。人探しの依頼をお願いしたいのです」
人探しの依頼ってどうするのかしら?
「人探しの依頼ね。ネル商会での値段の話を先にするわ。それから、依頼をするかどうか決めて頂戴。
人探しの依頼は10日間で金貨1枚。10日で見つけられない場合は、要相談ね。追加料金を払って継続してもいいし、依頼を取り下げてもいい。」
金貨1枚かあ。
今朝アンにお金の価値を聞いてきて正解だったわ。さっきガルデオン様が食べた姫林檎は銅貨1枚。銅貨200枚で金貨1枚の価値になるっていう話だったら、この依頼と姫林檎200個分と同じ金額になるというわけね。確かに高いかも。それに10日見つからなければ、追加料金がかかるのよね?即答できる金額ではない。
でもアレクは宵の杜近くにいることは間違いないし、冒険者になると言っていたから・・。
「依頼をお願いします。私の兄弟子にあたる人なのですが、どうしても連絡を取りたいのです。」
アレクは兄弟子設定だったよね?
ミザリさんは、引き出しから1枚の紙を取り出した。
「髪と瞳、肌の色、背の大きさ、など特徴を教えてもらってもいい?」
「髪は、黒っぽい緑・・いえ青かしら?ほとんど黒に近かったような気がします。瞳は黒だわ。背の高さは6fはなかったような・・今一緒だったガッシュ様と同じくらいです。肌の色は、肌色?」
「黒っぽい髪ね。珍しい髪色だからルッコラ村付近にいればすぐわかるような気もするわ。他に特徴はない?例えば刺青があるとか?」
「アレクは、小さな花のピアスを片耳だけしているよ!」
今まで、部屋の中をきょろきょろしていたガルデオン様がカウンターに身を乗り出して答えた。
「アレク?花のピアス?黒い髪?・・・・」
ミザリさんが、書いていた手をとめて顔をあげた。
「なんだぁ、アレクを探していたの?アレクなら商会で雇っている護衛だから人探しの依頼を出さなくていいわ。・・・あんたたち、アレクの知り合いなの? 彼、最近ここに来たんだけど、すごく評判いいわよ。剣の腕もいいし、愛想もいい。おまけに顔がいいし態度が紳士的だから女性の旅人からの指名も多いのよ。
最初に言ってくれれば依頼料とかの話もしなくてよかったのに。なんか損した気分だわ」
そういうと、書いていた紙をびりびりとやぶきだした。
「そうなんですか。知りませんでした。お手数をかけてごめんなさい」
よかった。これでアレクに会える。アレクって女性に評判いいんだ。ちょっと誇らしいような、いらいらするような・・変な気分。
「でも、今は仕事で、カシュール共和国に行っているわ。10日くらいで戻ってくる予定よ。戻ってきたら私が連絡してあげるから、ここに連絡先を書いてくれる?」
連絡先?私は横でカウンターに身を乗り出しているガルデオン様を見た。ガルデオン様は首をふる。
「ルッコラ村の宿屋なんですけど、名前まで知らなくて・・・あっ、ガッシュさんなら知っています!」
「貴女達って、・・・どれだけ・・・・なの?・・・・。わかったわ。ガッシュが戻ってきたら聞くわ」
ミザリさんはすこしあきれ顔で私達を見た。自分の頬が羞恥で赤くなるのがわかった。ミザリさんがコホンと咳ばらいをしてくれた。
「・・じゃ、他に用事はある?」
他の用事・・他の・・そうだ!絵本を探さなきゃ。
「あの・・絵本を探しているのですが、売店はどこですか?」
「右側の扉のむこうよ。ここは主に旅人むけの商品ばかりだから、絵本は置いてあるかどうかわからないけど、探してみて」
ミザリさんが指さした扉を開けて中に入った。そこは壁一面棚があって、いろいろなものがごっちゃに置かれていた。部屋の一番奥に、老婆が一人椅子に座ってうっつらうっつら寝ていた。私は、ガルデオン様の手をひいて、宝探しのような気分で部屋の中を歩き回った。旅に必要なバックや日用品、退治して手に入れただろう魔獣の一部、薬草、・・・いろいろある。
「いろんなものがありますね。これって旅の時に使うフード付きマントですね。あれは魔獣の毛皮?
あ、ここには干しブドウや棗まであります。少し買っておきましょうか?」
私はなるべく小さな声で、ガルデオン様に囁いた。
「干した果物は、生の果物より魔力は落ちるけど、甘いから食べたい」
ガルデオン様も小さな声で答えた。私は、干しブドウ、棗、林檎、檸檬、の袋を手に持った。蜂蜜も手に取る。どんどん手の中がいっぱいになる。
そこで、老人の隣の机に手の中のものをおいた。その音で、老婆はやっと目を開けて、眼鏡のずれをなおした。ここにいるってことは店番よね? 私は老婆に声をかけた。
「あの・・・、少しずつでかまわないので、ください。
あと、『ゆうしゃをめざすきみへ』の第1巻と第2巻を探していますがありますか?」
老婆は、私ではなくてガルデオン様の顔を覗き込んだ。確かに絵本だから、ガルデオン様くらいの子どもが読むと思われるのが普通だろう。
「坊が読むのかい?」
「ううん。姉さまが読むんだ」
「そうかい。そうかい。坊が読むのかい。坊は勇者を目指すのかい? いい子だねぇ」
老婆はガルデオン様の頭をよしよしと撫ぜた。ガルデオン様「ボクじゃない。姉さま」と言ってむっと唇を尖らせているけど、頭を撫でられるのは嫌ではないらしい。おとなしく撫ぜられている。
ガルデオン様を撫でたくなる気持ちわかるわ。可愛いもの。私も嬉しくなって、ガルデオン様と老婆を見ていた。ひとしきり撫ぜると老婆は、ゆっくりと立ちあがって、歩き出した。自分が座っていた近くの棚から、本を2冊取り出してきた。
「お探しのものはこれじゃ。坊、勇者をめざすなら、精霊や竜と仲良くしなければならんぞ」
「もちろんだよ。だって、ボクは・・・「私も精霊や竜に会えたら仲良くしたいです。おばあ様は精霊や竜にお会いになったことがあるのですか?」」
私はガルデオン様が自分は竜だという前に、言葉を重ねた。ここで竜だとばれてはまずい。絶対、皇国中枢か騎士団の息がかかっている商会だもの。用心したことには間違いない。
「・・・ある。・・・・精霊はちゃんといる。これが証拠じゃ」
そう言って出してくれたのは、かぎ針だった。私が持っている精霊のかぎ針と同じ模様が入っている。でも、このかぎ針、かぎがない方が細長くなっている。同じだけれど違うもの? そのかぎ針も精霊のかぎ針?
私とガルデオン様は顔を見合わせた。
「それってかぎ針なの?」
ガルデオン様が単刀直入に聞く。老人は、顔をくしゃくしゃにした。
「坊はよく知っておるな。これを『かぎ針』といったのは坊が初めてじゃ。大抵は『へんな棒』と言われるわい。確かにこれは『精霊のかぎ針』じゃ」
「じゃあ、おばあさんは『編み手』なの?」
「『編み手』とはなんだ? 儂は宵の杜の魔女にもらっただけじゃ」
「宵の杜の魔女?」
老婆は何かを思い出そうと、空を見ている。
「宵の杜には魔女がおってな。優しくて綺麗な魔女だった。儂も大好きでな、よく遊びに行ったものだ。魔女のまわりにはいつも精霊様がおった」
「その魔女はどこにいるの?」
ガルデオン様の質問には答えず、老婆はかぎ針を眺めている。
「このかぎ針はな、儂がこの村を出るときに、餞別だとくれたんじゃ」
「その魔女はどこにいるの?」
ガルデオン様がゆっくりとでも大きな声でもう一度聞く。でも、老婆の耳にははいらない。老婆はしばらく黙っていた。何を考えているのだろう。老婆の言葉を私とガルデオン様はじっと待った。しばらくして、老婆はかぎ針を見、ガルデオン様を見、私を見、絵本を見て、にっこりわらった。
「坊は勇者をめざすのだろう? それではこのかぎ針をやろう。精霊様に会ったら、渡しておくれ」
老婆がガルデオン様にかぎ針を差し出した。ガルデオン様は首をふって、かぎ針を持った老婆の手を握った。
「これはもらえないよ。おばあさんの大切なものでしょ?」
「大切だ。だが、儂はもう宵の杜へは行けない。精霊様にも会えない。だから、坊に頼む」
「・・・わかった・・・ボク、ちゃんと精霊様に返しに行くね。約束する」
老婆はガルデオン様の言葉を聞くと、幸せそうににっこりと笑った。
1f=約30cmくらい?
金貨1枚って5万円くらい?
設定が曖昧で・・・・・m(__)m




