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16.渡せなかった贈り物(4)


「ふん。逃げずに来たな。その勇気、誉めてやろう」


 ドラゴネット様は鼻息荒く、火竜の塔の前に立っていた。私はアンから、アナ様の箱を受け取ると、ドラゴネット様の前に置いた。


「これは、アナ様が貴方に渡せなかった贈り物です」

「よくそんなものを見つけたな。・・・もしや偽物を用意したのではないか?」


 ドラゴネット様がぎろりと睨む。その姿が、怖くて腰がひけそうだけど、ぐっとお腹に力をいれて踏ん張る。女子たるもの、いざという時はやらなくてはいけない。私が口をあけて言おうとしたとき、後ろにいたファニール様が言った。


「私が保証しよう」

「ファニールが言うなら、本物だな。だからって、俺はお前たちを信用しない」


 ドラゴネット様はびたん、びたんと尾を地面に叩きつけると低い声で威嚇を始めた。こっちだって負けてない。私はできるだけ優雅に、そして、冷静に言った。


「とりあえずは開けていただけませんか?」


 一瞬、ドラゴネット様の尾が止まる。よし!この調子。


「お・・おぉ」


 ドラゴネット様が箱を開けると、箱の中からぱあっと光がこぼれた。


「・・・・きらきらだ・・・・」


 ドラゴネット様の目がすうっと細くなるのがわかった。心なしか頬が緩んでいるように見える。叩きつけていた尾は完全に止まってしまった。逆に鉤爪がふるふる震えている。きらきらにくぎづけ作戦大成功!


「その箱の中にはある銀食器や銅貨は人間が使うもので、竜には必要ないものですよね? しかし、アナ様が贈ろうとしたということは・・・・ドラゴネット様はこのきらきらしたものがお好きなのですか?」


 わざとらしく聞いてみる。


「・・・・・悪かったか」


 そう言いながらも、ドラゴネット様の目は箱の中にくぎ付けだ。鉤爪を伸ばしたり引っ込めたりしている。


「いいえ。ちっとも。

ただ先日、この箱を見つけた時には、銀食器も銅貨も汚れてしまっておりました。100年もたっているので、仕方ないですわね。そこで、私達は箱の中のものを綺麗にすることにしました。中でも、銅貨を綺麗にするためには、今、ドラゴネット様の足元にある酢漿草(カタバミ)がとても役に立ちましたの。酢漿草は雑草だと思われがちですが、ドラゴネット様は一生懸命育てていらっしゃった。きっと、『酢漿草は銅貨の汚れを取ってくれるいい植物だ』と教えてくださった方がいらしたのでしょう」

「・・・・」


 ドラゴネット様は目をつぶった。


「黙っているということは肯定と思ってよろしいですか?」

「・・・・・確かに、酢漿草のことは人間から聞いた。それだけだ」


 ドラゴネット様はぶっきらぼうに言う。でも、さっきのようには威嚇されなくなった。このまま話を進めて大丈夫だ。私は、後ろにいるファニール様に頷いて見せた。ファニール様も頷き返してくれた。


「そうですか。しかし、人間には、強欲で嘘つきな人間とそうでない人間がいることはお認めいただけますか?」

「・・・・・・・認めよう。・・・・・・・・・・・しかし、お前が強欲で嘘つきでない証明にはならない。・・・・お前は、この箱を俺に渡す代わりに火竜の鱗を要求するに違いない」


 だんだん、ドラゴネット様の声が小さくなっていく。きっとこの方はわかっている。ただ、まだ認めたくないだけに違いない。


「そのようなことはしませんわ。この箱は、アナ様がドラゴネット様のために用意したもの。ただ、渡せず仕舞いだったので、私がお持ちしただけですもの」

「・・・・・・・」

「それから星糖は100年の間にだめになってしまったようです。申し訳ありませんが、今の私にはそれをご用意することはできませんでした。・・・・・・・それから、この懐中時計は直しておきました」


 私はポシェットから、さもついでのように、懐中時計をだした。修理され磨かれ、カチコチ心地いい音がする。これは、アンが直せる伝手があるからと直してきてくれた。ドラゴネット様の目が釘付けだ。細かった目が眼孔いっぱい開かれている。鉤爪もわなわな震えている。


「・・・そ・・・・それは・・・・・ルシルの・・・・」

「直している時に、この懐中時計の上蓋の内側には、『親愛なるドーラ 永遠の友情を誓おう ルシル』と書かれていることに気づきました。大切なご友人からの贈り物だったのですね。とても大切なものだったことは私でもわかります。

 ただ、箱の中で見つけた時、この懐中時計には鎖がありませんでした。そこで、差し出がましいと思いましたが、酢漿草と紫丁香花(ライラック)の魔力糸で鎖を編みました。ドラゴネット様の首にかけても?」

「・・・・ああ・・・・お願いする」


 ドラゴネット様が足を曲げ、首をまげ、私が懐中時計をかけやすいようにかがんでくれた。私は、鎖を広げると、懐中時計を空に投げ、1つ呪文を唱えた。懐中時計はゆっくりとドラゴネット様の首におさまった。

「・・・ありがとう・・・」

ドラゴネット様はそう言うと、とても大事そうにそっと懐中時計を撫でた。







「・・・・解決したか?・・・・・」


 その声にはっとして後ろを振り向くと、そこには、翼をばたばたさせて逃れようとしているガルデオン様をしっかりと抱えた竜王様が立っていた。


「はい。ご心配おかけしました」


 私はスカートを摘まむと腰を落として礼をした。竜王様は『ふむ』と頷いた。


「ドーラもローゼリアを威嚇したりしないだろうな?」


 竜王様がドラゴネット様の方をむいてドラゴネット様に聞いた。ドラゴネット様も大きく頷いた。


「この懐中時計に誓って、そこの人間には危害を加えることはしない」


 ああ。よかった。ほっとした。第一関門通過ってとこかな?これから友達になって名前で呼んでもらえるように努力しよう。そのためには、まず『星糖』を作らなきゃ。お菓子作りはからっきしできないから、アンと相談だ。あとは、できるなら、火竜の鱗を・・・・だめだ。それでは、強欲嘘つきになってしまう。私が妄想の中でうんうんうなっていると、『ローゼリア』と言う竜王様の声が聞こえた。はっとなって前をみると、竜王様が、にっこり笑っている。初めて竜王様を見たアンは、顔が真っ赤になっているのが、はたから見てもわかる。あの美しさで笑うなんて、罪だ。自分をしっかり持とう。


「これで、1つ問題が片付いた。・・・・・・・さて、ローゼリア、クロッシェのことはわかってきたか?」

「少しずつですが、ファニール様に紡ぎ方や編み方を教わり、知識を増やしております」


 竜王様の真意がわからない。私は今までのことを思い出しながら、ゆっくりと答えた。


「・・・それでは、我の頼みごとも1つ聞いてくれぬか? 宵の杜へ行って調べてきて欲しいのだ」

「宵の杜へ?」

「ガルに、ローゼリアはファニールに任せて、『一人で先に宵の杜へ行け』と言ったのだ。しかし、ガルは『嫌だ』と言って逃げてな。やっと、捕まえて、こうして説得を・・・」

「ボクはローゼと一緒にいる。一人で宵の杜には行かない!」


 竜王様の腕の中で暴れながら、ガルデオン様が叫んだ。確かに、ガルデオン様に初めて会った時、ガルデオン様は宵の杜に行く途中だと言っていた。私もクロッシェの勉強をしたら、一緒に行くと約束している。でも・・・・。


「・・・とこの調子なのだ。

我は、精霊王の悲鳴が気になっていて、一刻もはやく状況を知りたい。もし危機的状況ならば救いだしたいのだ。確かに、クロッシェに学び始めたところで、不安な気持ちもわからなくはない。だがな、ガルは一人では行きたくないと言っておって、我もどうしたものかと悩んでおるのだ」


 竜王様が憂いを帯びた目で見てくる。それって、行けって言いたいんでしょ? 喉まででかかった言葉を飲み込む。


「宵の杜に行くことはガルデオン様と約束しております。しかし、クロッシェのことを理解したかというとまだ不安なことばかりです。ですので、私でお役に立てるかどうか・・・・」


 私は、まだ自信がない。ファニール様にまだいろいろ教わりたい。でも、ガルデオン様と約束している。竜王様の頼みは断ることはできない。困った。


「心配することはない」


 ファニール様が近づいてきて、私の頭を翼で撫でてくれた。ドラゴネット様も頷いている。


「・・・わかりましたわ。竜王様。ガルデオン様と宵の杜へ行きますわ」

「ほっ・・・行ってくれるか。準備はファニールに任せればいいが、なるべく出発は早い方がいい。頼むぞ」


 竜王様の顔がぱああと明るくなって、ふわっと微笑んだ。アンは、その色気にあてられて、失神寸前だ。一瞬身体がかしいだように見えた。


 竜王様は、「よかった。これで我の憂いも1つ晴れた」と言うと、アン様の箱を抱えているドラゴネット様に近づいた。「ドーラ、そのお前の宝物を見せてくれないか?」と言いながら、火竜の塔の中に入っていった。


 残された私は、アンと二人で大きく息を吐いた。


「びっくりしました。竜王様を初めてみましたが、破壊力半端ない顔立ちですね。倒れるかと思いました」

「でしょ?」

「竜王様と話が出来るお嬢様はさすがです!」

「いいえ、・・・・・・私、アンに相談もせず、宵の杜に行くと答えてしまったわ」

「大丈夫です。予定通りではありませんか。」

「そうだったわ。宵の杜に行くとアレクに言ったものね」


 そうだ。アレクに、宵の杜へ行って調査をお願いしている。あの時、半年以上会えないと思ったから、・・・・・思い出すだけでも恥ずかしい。血が頭にのぼって耳まで赤くなっているのがわかる。


「ローゼ、あの護衛のことを考えているの?顔が赤いよ」


 いつのまにか、ガルデオン様が傍にいた。私は、自分の顔が赤いのをごまかそうと、こほんと、咳ばらいをして、ガルデオン様を抱き上げた。温かい。


「ガル様はアレクの居場所がわかるようにしたとおっしゃいましたね。さっそく、合流して、竜王様のご依頼の調査をいたしましょう」

「ボクのほうからもお願いしなきゃいけないね。急だけど、ローゼ、一緒に宵の杜に行ってくれる?」

「ええ。私でよければ、ご一緒させてください」


 ガルデオン様の頭をそっと撫でた。ふわふわしている。竜といっても、いろんな姿があることもここにきて初めて知った。

 ガルデオン様がもぞもぞっとして、顔をあげて私をみた。なんだろう。


「でも、昨日、約束したよね?・・・桜のクロッシェを編んでくれるって」

「そうでした。クロッシェを編まなくてはいけませんね。それから宵の杜へ行く準備を始めましょう」


 そうだ。ガルデオン様と約束していた。昨日、葉っぱを2枚持って小躍りしていたガルデオン様を思い出した。思い出したら思わず、くっくっと笑ってしまった。


 まずは桜の花の魔力糸を紡いで、それから、たくさんたくさん編むことにしよう。そう思ったら、私は、なんだか気持ちが軽くなった。


いつも読んでくださり、ありがとうございます。


         やっと、人の世界に戻れそうな予感・・・・。

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