14. 渡せなかった贈り物(2)
「お前らは俺をおちょくっているのかあ」
地響きのような大声を響かせて、ドラゴネット様が私達の前に立っている。私とアンは手を取り合って言葉も出ない。ガルデオン様はご機嫌が急降下しているのがわかる。ファニール様は、やれやれと翼を揺らしている。
この前よりも怖さ倍増状態のドラゴネット様に会って、今までののほほんとしたピクニック気分が一変した。
「そんな恰好で俺を騙そうなんて・・・・・」
ドラゴネット様がわなわな震えている。顔を真っ赤にして今にも火をふきそうな勢いだ。私は、アンをかばおうと一歩前に出る。
「ファニールが珍しくちび竜を連れて火竜の塔を歩いていると聞いて来てみれば、ガルデオンお前までなんという恰好をしているのだ」
「ローゼとお揃いの竜のコートだよ。鱗をイメージした布を探すのは大変だったんだからね。それに、ほら、耳と尻尾とついていて可愛いでしょう。ボクの魔法で翼も動かせるようにしたんだよ。可愛いでしょ?
・・・・・・脳筋の火竜には、ボクの幻惑でいちころだと思ったんだけどなあ」
ガルデオン様、それじゃあ火に油だよ。
「お前の幻惑に騙されるほど俺は落ちぶれてなーい。がぉぅ」
ドラゴネット様が私達に向かってどぉっと炎をはいた。慌てて、私は目の前に盾の防御魔法をかける。私の防御魔法に水色の防御魔法が重なる。ガルデオン様かファニール様の援護?
「ふん。姑息な格好をするわ、一人では俺の相手はできないわ、最低だな」
ドラゴネット様がふんと鼻をならした。すごい臭いの熱気が通り過ぎていく。怖い。逃げ出したい。でも、ドラゴネット様を分かり合えないのは仕方ないとあきらめてはいけない。それでは今までと同じだから。私は竜のコートのフードをとるとドラゴネット様の前に立った。今にも飛び出しそうなガルデオン様をファニール様が押さえ込んでいるのが見える。大丈夫。私の声、震えるな。息を大きく吸ってなるべく平静さを失わないように。
「・・・・・・為政者は民の心を知れと言われます。なので、私は、竜の気持ちを知ろうと、姿から真似てみました。ここまでくる間、他の火竜の方たちと話をしてきました。100年前、火竜は騙されて宝を失ったと聞きました。ドラゴネット様が火竜の鱗のことで今でもとても責任を感じているともおっしゃってました」
「・・・知ったようなことを言うな」
ドラゴネット様が炎を吐こうと口をあけたけど、・・・・・気を変えたようだ。
「・・・・・人間は嘘をついて俺に近づいてきた。お前だってそうだ。引き裂いてやる」
ドラゴネット様の顔が私に近づく。思わず目をつぶりそうになったけど、私は両手をぐっと握りしめた。アンが私の前に立とうと一歩前に足を出した。私は、アンの手を取ると、正面をぐっと見た。
「わ・・・私はまだドラゴネット様とお話していません」
じたばたとファニール様の押さえつける足から逃れてようともがいていたガルデオン様が叫んだ。
「ローゼは嘘つかないし、可愛いし、美味しいクロッシェを作ってくれるいいこなんだよおー」
ガルデオン様、ちょっと黙っていて! 今はドラゴネット様が話しているのだから、思わず大声で呼んでしまった。
「ガル様!!」
ガルデオン様が何か言うと話が変な方向にいくから。だから今は黙っていて、と目で話したつもりだったんだけど、ガルデオン様には通じなかったみたい。援護してくれと思ったのか、ますますとんでもないことを言い出した。
「そうだ。その火竜の口にローゼが編んだ薔薇のクロッシェを放り込めば、ローゼの素晴らしさがわかるよ。ローゼの編むクロッシェは最高なんだから」
「それはできません。ものでつっても友とは言いません」
私はきっぱりと否定した。そんな私の気持ちがわかってくれたのか、ドラゴネット様もすこし落ち着いて話をきいてくれる雰囲気になってきた。さっきまでの怖さが少し減った?
「ふん。・・・・・・・しかし、なぜ、他のやつらが人間のお前に100年前の話をしたのか・・・・」
「ローゼリアは、『ドラゴネットと仲良くしたいから人間を毛嫌いしている理由を教えてほしい』と一生懸命頼んでいたぞ」
まだ、もごもご言っているガルデオン様を押さえつけながら、ファニール様が言った。
竜のいい(人のいい?)ドラゴネット様のことだ。きっと、鱗のことで人間に騙されたのだろうとは想像していた。他の竜の方の話を聞いて、火竜の都に来て確信が持てた。ドラゴネット様の騙された時の怒りはすごかっただろうし、ご自分をかなり責めただろう。
「ドラゴネット様は、ご自分が許せないのではないのですか?」
「なに?」
ドラゴネット様の目が細くなる。言われたくないことを指摘された子どものようだ。
「火竜の鱗の交換をしたのはドラゴネット様だったとお聞きしました。商人をこの火竜の都にいれたことを悔いていらっしゃるのでは?」
「ふん。人間は俺に宝石菓子と偽り毒を盛り、盗んでいった」
「確かに一部の心ない簒奪者にドラゴネット様は嵌められたのでしょう。しかし、人間の中にはドラゴネット様の友もいたはずです。ドラゴネット様は今もその思い出を大切にしていらっしゃるではありませんか」
「・・・・・・・」
「火竜の都は、地面の温度も高く植物が育ちにくいとききました。しかし、この火竜の塔の周り一面には、酢漿草が生えています。ドラゴネット様が毎日水をあげていると聞きましたわ。それが理由です」
「酢漿草を育てているのは俺の趣味で、友との思い出ではない。知ったようなことをいうな」
ドラゴネット様の言葉に歯切れがなく、目を細くしたり広げたりしている。
「明日、ここでそれを証明して見せますわ」
私はにっこりと笑うと、アンに帰りますといって、その場を立ち去ることとした。
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・・・・・話は数刻前に戻る・・・・・
私は火竜の塔の入り口で酢漿草を取ってはアンとお揃いのポシェットに入れながら、ぶつぶつぼやいていた・・・・・
「この恰好は、どう考えても無理があるような気がするのだけど・・・・」
「これでばっちりです。お嬢様、とてもお似合いで可愛らしいです」
「うん。ローゼ、よく似合ってる。今日はボクもお揃いにしちゃった。どうどう?似合ってる? 侍女も一緒というのは気に入らないけどさ」
「私はガルデオン様の分を作る必要性は全く感じませんでしたけど」
「それはさ、ボクとわかったら、すぐローゼだってわかっちゃうからって昨日説明したよね?」
「・・・・・・・・」
昨日、帰ってから珍しくアンとガルデオン様が仲良くしていると思ったら、これを作っていたのね。今も二人のテンションがとても高い。さっきまで揉めていたかと思ったら、『やはり布は青でよかった』とか『お嬢様は何着てもかわいい』と、今度は手をとりあって踊っている。二人の考えていることはさっぱりわからない。
ファニール様はなるべく私とアンの方を見ないように翼の中に頭を入れている。絶対笑っている。だって、翼が震えているもの。
・・・・・どうみても、これ、着ぐるみじゃない?コートというけれど、耳があり、尻尾がついている。袖にはふわふわした生地で作った鉤爪がついている。もちろん翼もついている。ぱたぱたしないけど。
まだはしゃいで踊っている二人をじとっと見たのがわかったのか、ガルデオン様がアンの手をぱっと放した。私の方に向き直り、にっこりと笑う。
「大丈夫だよ。ちゃんと、ボクが幻惑の魔法をかけるから・・・・・」
「それでは、このコートはいらないと思いますが・・・」
「いや、必要だよ。それを着ているから、ローゼの竜姿もイメージしやすくて魔法もかけやすい」
ガルデオン様がにこにこしながら、幻惑の魔法を唱え始めた。
「そういうものなのですか。・・・・・わかりました。全力で竜になりましょう。アン!行くわよ。」
「はい!お嬢様。お供します」
やるとなったら一生懸命しなくちゃ・・・・ね。




