13.渡せなかった贈り物(1)
恒例となったアンとのベットの上のお喋りタイム~。
「それにしても、ドラゴネット様でしたっけ?お嬢様を泣かせるとは不届き千万。私が今度会ったらがつんと言ってやりますわ。」
「アン、そんなにわなわなしなくても・・」
「いいえ、侍女として当然です。ふんぬぅ・・・」
アンは手をぐっと握りしめて怒っている。私は急いで話題を変えることにした。
「・・・そうそう、箱の中身よ。アン、どうしたら元通りになると思う?」
机の上に並べられた箱の中身を見た。どれもこれも、黒く汚れていてガルデオン様の言うようにがらくたに見えてしまう。アンはしばらく考えていたけれど、細工されたカラントリー類を指した。
「・・・・・・それは銀食器です。磨けばぴかぴか綺麗になります。わたしもセバスさんのお手伝いで何回かしたことがあります。」
アンがえへんと胸を張って答えた。銀食器ならキラキラしていて綺麗だわ。私は自分が使っていた食器がぴかぴかしていたのを思い出した。食器が綺麗であることは当たり前だという生活をしていたけど、いつも誰かが綺麗にしてくれていたのね。
「で、どうやって磨くの?」
「それは、セバスさんに磨き布をもらって・・・・・」
「アン、ここにはセバスはいないのよ」
「そうでした。・・・・・・そういえば、たくさんの銀食器を綺麗にするとき、お塩と何かを入れて煮ていたような・・・・」
「何かって何?」
「それは、セバスさんに聞かないと・・・・」
「アン、・・・・・・・・・・ここにはセバスはいないのよ。」
おいおいっ。セバスはここにはいない。
銀食器については少し保留ね。そのうちいい考えが浮かぶかもしれない。
まだ、箱の中にはたくさんあるから考えることはたくさんあるもの。
「じゃあ、丸い形をした黒緑のものは?」
「うーーー。見た目からすると、お金?今の皇国の銅貨より少し小さくて紋様も違いますが、100年前のものだと考えると銅貨だと考えるのが妥当だと思います。銅貨は古くなると黒ずんだり緑がかったりすると、私の父が教えてくれました。
・・・・いい方法があります。酢漿草の葉っぱででこすればいいんです。昔、自分の家で、古くなった銅貨をこすってくれたことを思い出しました。あと、酢漿草って食べると苦いんですよぉ。えへへ・・・・」
「酢漿草?黄色い小さな花を咲かせるどこにでも生えてくる草のこと?」
「そうです。そうです。どこにでもある草なのですが、ここには生えているでしょうか?」
「あまり気にしたことがなかったわ。今度ファニール様に聞いてみるわ。」
へえぇ。酢漿草ってそんな風に使うことができるのね。今まで、どこでもすぐ生えてくる雑草で、見つけると抜いてしまう厄介者だと思っていた。それにしても、アン、貴女は食べたことがあるの?アンのプチ知識にびっくり。
「そうそう、黒いといえば、塊も黒いわね。なんだと思う?」
「硬いので、金属か宝石の類かと。よくわかりませんが、とりあえず洗ってこすってみるのはどうでしょうか?」
そうよね。とりあえず洗うことも必要だわ。
「壊れた懐中時計は直せる?」
「それなら、直せそうな人物に心当たりがあります。しばらくお借りしても?」
「お願いするわ」
アンは、アンで私がいない間にお屋敷を調べているのは知っている。ミントの葉っぱやコップをどこからか手に入れてきているもの。・・・・・・箱の中身をどうするか決まって満足して、私は眠りにつくことができた。
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「ということで、ファニール様、酢漿草の生えていそうな場所をご存じではありませんか?」
今日は、アンと一緒に図書館にやってきた。ちゃっかり、ガルデオン様もついてきているけど。
「酢漿草か。温室にはない。」
ファニール様はしばらく考えて、首をふった。
「そりゃ、温室では酢漿草は雑草だから、すぐ消してしまうんでしょ? じゃなくて、他でだよ。例えば神殿とかさあ」
ガルデオン様が「ちゃんと考えてよぉ」と言いながら、がしがし尾でファニール様を叩いている。
「神殿にもない」
「あとは・・・・地竜のとことか?」
「あそこはヒースばかりだ。あるかもしれないが、わからない。・・・・・そういえば、・・・・・火竜の塔の近くで見た」
「火竜の塔?・・・ふん、火竜は脳筋だから、酢漿草なのかシロツメクサなのかわからないってとこか」
ガルデオン様が馬鹿にしたように鼻をふんと鳴らした。ガルデオン様はいつもドラゴネット様のことを悪く言う。どうしてだろう?
「でも、あそこは、火竜がいるじゃん。火竜がまたぎゃあぎゃあ言ってローゼを泣かすから却下」
「他は思い浮かばん」
「火竜の塔に行けばよろしいのですね。じゃあ、行きましょう」
確かに、ドラゴネット様は怖い。ドラゴネット様のことを聞くだけでぶるっと身体が震える。でも、怖いからって避けてしまってはだめだ。毅然と優雅にしていれば・・・・大丈夫。きっと大丈夫。
「ローゼリア、そんなに無理しなくてもいい」
「そうだよ。ローゼ、そんなに我慢しなくてもいいんだよ。ボクが取りに行ってくるから・・・」
ガルデオン様が私の手を握って、顔を覗き込んでくる。そんなに泣きそうだった?
「ありがとうございます。しかし、私が酢漿草を摘みにいきたいのです。ですから、私が火竜の塔に行きますわ」
私はそう言い切ると、前を向いてにっこり笑ってみた。怖いから逃げてしまってはだめだ。苦手でも真摯に向き合えば、きっと仲良くなれる。
「・・・・・お嬢様。そのような危ない場所に行くことはお勧めできません。私がガルデオン様と取ってきます」
いつもは黙って後ろに立っているアンが声をかけてきた。そして、私の手を握っているガルデオン様をぺりっと剥がした。
「ううん。アン。私、怖いからって誰かに頼るのはちょっと・・・・嫌なの。だから自分で行きたくて・・・・」
「・・・・・・そうですか。それならば・・・・・準備をします。だから今日はおやめください。ガルデオン様、準備があります。ついて来てください。お嬢様、それでは失礼いたします」
アンは、そう言うと、ガルデオン様の首をむんずと掴んで、ずるずるとひきずって行ってしまった。
「・・・・・・・・・こほん。では火竜の塔に行くのは他の日にしますわ」
「う、うむ。・・・・・・では今日は何をする?」
アンの態度にぽかんとしていたファニール様だったけど、気をとりなおしたように答えた。
「アンに銀食器を磨く布があると聞きました。どのようなものかわからないので、いくつか肌ざわりや材質のことなる布を編んで試してみたいと思うのですが、いかがでしょうか?」
昨日編んだポシェットの内袋って、見方を変えれば布じゃない?だとしたら、いろいろな魔力糸で同じように編んで試してみるっていうのは手じゃない?
「わかった。それでは花より葉や枝の方がよかろう」
「そういえば、ガル様が茉莉花の花をお召し上がりになったとき、『とても幸せな夢を見れた』とおっしゃっていました。昨日は『野茨と酸塊の布は伸びる性質があって苦い』と知りました。魔力糸の性質は、もとの植物の外観や効能に由来するものですか?」
「そうだ。春楡のような棘のある葉のものはざらつきがあるし、綿千代呂木のような柔らかな手触りの葉のものはベルベットのような肌触りになる。また、薄荷など効能があるものはもとの効能をもったものが出来上がる」
今までの自分がどういう風に編んできたか、場所、時間、編む量いろんなことに制限があったことを思い出した。紡ぐってとても凄い。
「確かに、今まで、直接花から魔力を絡めて編むと、途中で切れたり、うまく糸にならなかったりしました」
「だろうな。
さらに、花の場合は、その花の香り、効能、魔力も魔力糸にこもるので、我ら魔力を糧としているものにはとても魅力的だ。さらにローゼリア、お前はお前の魔力をその花に籠めている。だから、ガルデオンは見境もなく食べてしまう」
「他の竜のかたにとっても・・・ですか?」
「ああ。だから、図書館の奥の部屋を使えと言っているだろう。図書館に大勢の竜が押し寄せてきたら敵わん」
「・・・・・・・ドラゴネット様も?」
思わず、口からこぼれてしまった。ま、まずい・・。
「・・・・・・お前はそれで満足か?」
ファニール様がぎろりと睨む。一瞬、空気が凍った。私は、一瞬でもクロッシェでドラゴネット様を手懐けようと考えた自分を恥じた。それは、決して私の望むところではない。
「いえ、私は、ドラゴネット様のお友達になりたいですわ。支配したいわけではありません」
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私は、春楡、楓、桜、松、椿、・・・といった木の葉や、綿千代呂木、目箒、万年朗、薫衣草、薄荷・・・といった薬草の魔力を集めた。植物の種類のよって魔力の色も質も違い、糸もいろいろな種類のもの紡げる。せっせ、せっせと糸にして、両手いっぱいくらいの大きさの布を編んだ。編みあがった布もざらざらしていたり、つるつるしていたり、ふわふわしていたり、1つとして同じものはできなかった。植物の魔力って本当に凄い!
「・・・・・・ファニール様、編みあがりましたわ。でもこれらに私の息を吹きかけていいものでしょうか?明日、アンに手伝ってもらって銀食器を磨きたいと思います。しかし、アンには魔力が見えないのでこれらの布も見えないのではないかと思って・・・」
「息を吹きかけたら、お前の魔力が残ってしまう。それでは効果が消える。・・・1つ呪文を教えよう。」
ファニール様は、私からかぎ針を受け取ると空中に魔法陣を書き、呪文を唱えた。すると、魔方陣が網のようになって、布の上に被さった。私のように魔力が見えるものにとっては、変化がないように見えるけれども、きっとアンには見えるようになったのだわ。この魔方陣、忘れないようにしなきゃ。
「反対に、魔力のあるものを見えなくする魔法ってあるのですか?」
「ある。今の魔方陣を逆さに書いて呪文を変えればよい。しかし、見えなくするだけでその香りと残滓は消せない。魔力が見えるものにはあまり意味がない」
意味があるのかわからんという顔をしながらも、ファニール様は魔力のあるものを見えなくなる呪文を教えてくれた。なんでも覚えておくことは大切よ。たぶん。
「あとは、この黒い塊ですね・・・・。洗ってみようと思うのですが、どうでしょうか?」
「やってみるがいい。洗い桶は棚にあるだろう。水は・・・用意してやる」
私が棚から洗い桶を取ってくると、ファニール様は呪文を唱え、洗い桶いっぱいに水をだしてくれた。
「・・・・対価も魔方陣もなしで・・?」
「水を出すのは得意だ。水竜だからな」
ファニール様が水竜? でも水竜と言えば、竜王様のイメージが・・・・。ファニール様は竜の姿のままで、不器用そうに鉤爪を使ってクロッシェを編もうとしていた光景を思い出した。人の姿になれば、糸を紡ぐことも編むこともできるのではないかしら?
「私は人型にはなれない」
私の疑問がわかったのか、悲しそうな顔をしてファニール様が呟いた。理由は聞かない方がよさそう。話題を変えよう。
「そうですか。・・・・・・・では、この黒い塊を洗ってみますね」
できるだけ明るく言うと、塊を手洗い桶の中に入れて、ごしごし洗い始めた。あれ?なんか、ぐちゃっと・・・あれ?あれ?
頭の中が??になった私は、手の中をよくよくみた。すると、黒い塊は、私の手の中で、ほろほろっと崩れると、そのまま底に沈み・・・・そして溶けてしまった。
「ファ・・・ファニール様。と・・・溶けてしまいました・・・・」
「ん?」
ファニール様も手洗い桶の中を見た。私は黒い塊をもう一つ水の中に入れて、丁寧に洗ってみた。すると、やはりほろほろっと崩れて、溶けてしまった。
「・・・・やはり、溶けてしまいましたね」
「そうようだな。汚れた宝石類ではなかったのだな」
「どうしましょう・・・・・」
「・・・・・・」
・・・・・・・・・「ローゼ、迎えに来たよ~」という空気を読まないガルデオン様の声が扉を開ける音とともに静かな部屋に響き渡った。とりあえず、気まずい空気から救われた!ナイスです、ガルデオン様。




