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12.ポシェットつくり(2)

「なあんだ。がらくたばっかじゃん」


 箱の中身を作業台の上に並べてみた途端ガルデオン様が言った。綺麗な細工がされているフォーク、ナイフ、スプーン、コップなどの食器ーみんな黒ずんでいたけどー、緑がかったコインらしきものや黒ずんだ粒、動かない懐中時計等々。

 ガルデオン様は机に並んだものをみて完全に興味を失ったようだ。


「以前見たときは輝いていたような・・・どうしたのだろうか?」


 ファニール様も箱の中を覗きながら考え込んでいる。


「100年たっているのですもの。ドラゴネット様は人間が作った食器や道具や貨幣に興味があったのでしょうか?」

「ああ。そういえば、山を越えてくる人間とよく交換していた」

「では、ドラゴネット様も昔は人間を嫌っていらっしゃらなかったのですね?」

「アナにもアナの両親にもとてもよく懐いていた」


 じゃあ、ドラゴネット様は何か人間に裏切られるようなことがあって、人間嫌いになった。そして、ずうっと怒っている。


「これらのものをお預かりしてもよろしいですか?アンと相談して元通りにならないかやってみますわ」

「ああ」

「それでは、ガルデオン様、この箱を持ってお屋敷に戻っていただけませんか?」


 作業台の隅にある籠の中の薔薇のクロッシェを一つ取り出して、口に入れているガルデオン様に声をかけた。さっきから部屋の中をごそごそしていると思ったら・・・・・・箱の中身に興味があるというのは部屋に来るための口実だったに違いない。ぜったい、クロッシェ狙いだわ。


「これをくれるならいいよ」


 勝手に探して食べていたガルデオン様は悪びれもせず、籠の中の薔薇のクロッシェを手にいっぱいかかえた。


 私ははあぁっと1つため息をついた。食いしん坊め。


 ファニール様は、がぅぅと口を開けてガルデオン様を脅したが、ガルデオン様は全然気にせず、手の中のクロッシェをもとにもどそうとはしなかった。ファニール様もはあぁとため息をついた。


「それをやるから出て行ってくれ。お前がいると全部食べられてしまう」





**********


 私とファニール様はすぐりの魔力を集めに、急いでもう一度温室にもどった。今度はドラゴネット様に会わなかった。

 ドラゴネット様のことは、すぐりの魔力を集めるときにすっかり忘れてしまった。だって、初めて見るすぐりの魔力はとても綺麗だったのだから。

 集めた野茨の魔力は凛とした雰囲気の黄緑色で、すぐりの魔力はほわほわっとしたオレンジだった。この2つの魔力を混ぜたらどうなるのだろう。とてもわくわくする。

 私は、2つの壺から魔力を少しずつ引き出して、1つの魔力糸を紡ぐ方法をファニール様から習った。1つの魔力を紡ぐよりは少し面倒だったけれど、昨日の要領でスピンドルを回すと、2色の色が螺旋状に混ざった糸になる。とても綺麗。


 魔力糸が出来上がると、ファニール様が戸棚から布で作られたケースを大事そうに持ってきた。作業台の上で器用にリボンをほどいた。中には私のかぎ針と模様が同じだけれども、大きさがそれぞれ違う9本のかぎ針が入っていた。でも、5番目の場所にかぎ針が入っていない。


「この編み針ケースの中で、ここだけかぎ針がない。お前のかぎ針のあるべき場所だ。これらのかぎ針はお前にやろう」


 ファニール様は大事そうに、鉤爪の先で、編み針ケースを触ると、私のほうに押し出した。


「それは、ファニール様の大切なものではないのですか?」

「ああ。大切だ。だが、私にはそれを使って編むことはできない。お前は編み手の後継者だ。つまり、精霊のかぎ針の持ち主だ」

「ありがとうございます。大切に使わせていただきますわ。」


 ファニール様に最大のお礼をこめて、私はゆっくりとスカートを持って頭をさげた。

 

 袋を編むのは、ファニール様から頂いたかぎ針を使うことになった。2つの魔力で作った糸は少し太めで、硬い。糸の種類や太さでかぎ針を変えることも教わった。編み物って、ほんと奥が深い。ますます好きになりそう。

 同じ編みで、横に編みすすめてある程度の長さで、ひっくり返し、また横に編むという編み方は、初めてでとても新鮮だわ。今まで3段ぐらいしか編んだことがなかったから、クロッシェがどんどん布のようになっていくことにもびっくりした。ふふふん。いろいろ思いながら夢中で編んでいるとあっという間に、ポシェットの大きさのものを2つ編み上げることができた。

 私とアンのおそろいのポシェット。きっとアンも喜んでくれる。でも、このままだと使えないのよね。部屋から裁縫道具を持ってこなきゃ。ファニール様にお屋敷の部屋からポシェットに使う材料を取りに行くと断ってから部屋に取りに行った。部屋には、ガルデオン様に頼んだ箱が無造作に置かれていたが、アンの姿はなかった。アンに会えなかったのは、ほっとしたような残念なような~。でも、アンもいろいろあるのかもしれないと思いなおして、材料と裁縫道具を抱えると図書館に急いで引き返した。戻ってみると、部屋の片隅で、ファニール様が丸くなって寝ていた。私は、ファニール様を起こさないよう、そっと作業台に戻ると、せっせとポシェットを作ることにした。





「・・・・・できたわ」


 小さく呟いたつもりの私の声に、ファニール様が目を開けて、顔をあげた。


「ファニール様、できました。これです。」

「・・・・布か?」

「ええ。着ないドレスを崩してポシェットに使いました。これなら、いつでも肩から下げておけますわ。」


 そう。公爵家を出る日、着ていた丈の長いモスグリーンのドレス。逃亡するとき売ってお金にしようと思っていたくらいのものだから、今の私にはもう必要がない。私は、ポシェットを1つ肩から下げてみた。私のポシェットには薔薇の刺繍を、アンのポシェットには小鳥とベリーの刺繍をしてある。


「・・・・編み針ケースをしまっておくといい。それから、蓋をとめるものが必要であろう。ただ、ここには1つしかない」


 そう言って、ファニール様は、棚の引き出しから、赤いきらきらしたボタンを出してくれた。


「これは?」

「ドラゴネットの鱗を加工したものだ」

「ドラゴネット様の鱗?」


 ボタンを手に取り、よくみると、ボタンにスジがついている。同じようにボタンを見ていたファニール様が思い出したように言った。


「アナがドラゴネットと交換したと言っていた。そういえば、ドラゴネットは人間と自分の鱗を交換していた」

「ご自分の鱗を交換?」

「火竜は脱皮する」

「脱皮?」

「何年かに一度、火竜は脱皮する。脱皮した鱗は塔の地下に持っていく。火の魔力がこもっているからな。ドラゴネットはそれを地下に持っていかず、人間と交換していた」

「火の魔力ということは、その鱗を使えば、火を灯したり、ものを温めたり焼いたりできるということですか?」

「できる」

「人間には魅力的なものですね」

「そういうことだ」


 皇国にも火の魔石というものはある。魔術師から買うのだけど、とても高価で、貴族くらいしか持つことができない。お父さまはそれを惜しげもなく、庭の明かりとしてお使いになっていたけど、それは例外だって元老院の講義でわかったし。

 でも、もし、100年前、火竜の鱗があったら、それが自分たちの持っているもので交換できるとわかったら・・・・・そう思うと、ちょっとぞっとして背中が寒くなった。




**********


「あー。また、ファニール、ローゼをいじめているでしょ?」


 扉をバンとあけて入ってきたガルデオン様が大声出して、ファニール様にむかって飛んで行った。ファニール様にぶつかっていくと思った私は思わず、ガルデオン様の尾を触った。「ひゃっ」とガルデオン様は言うと全身真っ赤にして私の胸の中に入ってきた。「・・・・・ローゼったら、積極的なんだから・・・・」などとごにょごにょ言っている。私は、ガルデオン様の頭をほふほふと撫でた。


「ファニール様には火竜の鱗のことをお聞きしていただけですわ。人間にとっての火竜の鱗のことを考えたらちょっと怖くなっただけです。お迎えに来ていただきありがとうございます。」

「え・・・・・そうなの?ローゼが肩を押さえて震えていると思ったから、てっきりファニールに意地悪されたと思っただけど・・・。

 火竜の鱗? どこにあったの?」

「これですわ」


 私は、ポシェットに取り付けた赤いボタンをみせた。


「ふううん。その袋から魔力を感じるけど、そのせいなのかな」

「いいえ。今日は、魔力糸でこのポシェットの中袋を編みましたわ」

「ええっ」


 ガルデオン様はポシェットを二度見ると、しょんぼりと、「それは食べられない・・・・・」とつぶやいた。それでも諦めきれなかったか、私の肩から下がっているポシェットの紐の部分をがしがしかじっていた。


「これは差し上げませんわ。アンと私のために作ったのですもの。ガル様には、朝編んだ薔薇のクロッシェを差し上げたではありませんか」

「っはっは。諦めろ。ガルデオン。それは野茨を使っている。苦いぞ」

「ファニールのけちー。ボクは美味しいものが食べたいんだあーーー!」


  小さな部屋にファニール様の笑い声とガルデオン様の声が響いた。






*************



「こ、これ・・・・これを私にくださるのですか・・・?もったいなさ過ぎて、私・・・・なんといえば・・・・あ・・ありがとうございます。

お嬢様。これからもお嬢様のために不肖アン、精一杯お世話させていただきます。」


ポシェットを受け取ったアンの声が震えている。


「しかし、この手触り、色・・・公爵家でお嬢様がお気に入りで着ていたドレスではないですか?」

「そうよ。でも、あのドレスは、家を出るとき、売ってお金にするつもりだったからいいのよ。

家出にも嫌な顔もせずついてきてくれたわ。私がどれだけ心強く思っているか知っていて?アンがいるから毎日が楽しいの。だからちょっとしたお礼よ。

 

 ほら、私とお揃いよ。でも、私のは薔薇を、アンのポシェットには鳥とベリーの刺繍を入れたから、間違うこともないだろうし、赤いボタンもついているでしょ?」

「鳥とベリー・・・ああ・・・可愛い。赤いボタンも見たこともないくらいキラキラしています。宝石ですか?」

「いいえ、火竜の鱗だそうよ。そのボタンは小さくて魔力はすくないそうだけど・・・・・ちょっとくらいなら温められるのかしら?でも、やってみていないからわからないわ」

「火竜の鱗?」


 私は、今日会ったドラゴネット様のことを話した。ドラゴネット様が昔は人間と仲良くしていたのに、今は人間嫌いなこと、アン様がドラゴネット様にあげようと思っていた箱があること、ドラゴネット様火竜の鱗は火の魔石のような働きができることなどなど。アンはうんうんと頷きながら話を聞いていた。


「・・・・だから、その箱が部屋にあったのですね。無造作に置かれていて汚れているので、怪しいと思って無視しておりました。しかし、今お話をお伺いして、その箱の中のものを元通りにする必要性を感じました。このアンも元通りにするお手伝いをぜひともさせてください。

 その箱の中身をキラキラしたものにすることができれば、きっと、そのドラゴネット様とやらもお嬢様に敬意を払わざるを得なくなりますよ。

 

 ・・・・・それに、火竜の鱗があれば、温かいお茶をお嬢様にだすことができるかもしれませんよね?

 」



  箱を目の前にしてにっこり笑うアンだったけど、私にはとても腹黒い悪人の笑みに思えたのは気のせい・・・・?


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