11.ポシェットつくり(1)
恒例となった、アンとのベットの上でのお喋りタイム。
「竜王様の髪って、深緑色で皇都の神殿にある泉のようにきらきらしているの」
「そうですかー」
「竜王様って、まつげが長いのよ」
「そうですかー」
「竜王様って」
「そうですかー」
アンにいかに竜王様が綺麗な方だったか力説しても、あまり気乗りのしない返事しか返ってこなかった。あまり興味ないのかしら? 皇国のお茶会だったら、大変な騒ぎになると思うのに・・・・。
それよりもアンの興味はクロッシェなのかしら?
今日は、持って帰ってきた途端、ガルデオン様が口に入れられてしまったのをみて、わなわなと震えていたものね。私は、竜王国へきて初めて、魔力糸を紡ぐ方法を教わったことを話した。
「スピンドルを使って魔力を紡ぐのよ」
「魔力を紡ぐというのはとても不思議で見てみたいものです。私の想像するところでは、綿花から糸を紡ぐ“紡ぎ車”と同じようなものですか?」
「ううん。棒よ。それもこのくらいの長さかな。紡ぎ車があったら、もっとたくさんの魔力を紡げるのかしらね?」
もっとたくさんの魔力を一度に紡げたら、もっとたくさんのものを編めるのかしら。スピンドルが回る様子も楽しいけど、やはり編んでいたいもの。もっとうまく紡げるようになったら、ファニール様に相談してみよう。
「そういえば、お嬢様。お嬢様のそのかぎ針で編めるものは花ばかりなのですか?」
「そうねえ。おばあさまに教わったのは花ばかりだったわ。それがどうかして?」
「花だと、ガルデオン様がすぐぱくっと食べてしまうではないですかぁ。花でなければ、ガルデオン様の口に入らないのではと思って・・・・」
「ふふ。アンって面白いこと言うのね。」
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朝、ミントの香りですっきりと起きることができたすっきりした私は、早速、図書館に向かった。そして、昨日、机の上に置かれたままだった薔薇の魔力糸の前に座ると、ふふん、ふふんと言いながら編み始めた。どのくらい時間がたっただろう。糸が残りひと塊になってしまった。ちょっと残念。ふう。一度、私はかぎ針を机に置くと、大きく伸びをして、首をまわしながら肩をほぐした。ボキボキ音がする。ちょっと、根を詰めすぎたかしら?
「朝から、ずいぶん作ったのだな。・・・・・・ローゼリア、クロッシェを作るならば、閲覧机ではなくて、奥の部屋を使うよう言っただろう」
ファニール様が私のすぐ後ろに立っていた。まずい。クロッシェを編むのに夢中で全然気づかなかったよ。私は、慌てて立ちあがると、「おはようございます。ファニール様」とにっこり笑って(かなりひきつってたかも)おじぎをした。ファニール様はやれやれといった風に尾を振ると、ついてこいとばかりに歩き出し、図書館の奥の小さな部屋の隣の部屋の扉を開けた。中には、木の作業台と丸い椅子があったけど、私は、壁の棚に目が奪われた。そこには、いろいろな大きさの壺が所狭しと置かれ、スピンドルはちょこんと飾ってある。あとは、ちょっと変わった壺やら石ころやら布切れはしやら枯れ枝やら箱やらいろんなものが雑多においてあった。ちょっと、アナ様のこと身近に感じたかも。ふふ。よく見ると、壺には月桂樹、セージ、匂菫、松明花、薄荷などいろんな名前が貼ってある。ということは、ここに書いてある植物の魔力を使ってクロッシェを作ることができるってことかしら?
「壺の中はもう何もない。温室に行って、魔力を集めなくてはならない。お前は何を編むことができる?」
「5弁の花、巻き薔薇、葉ぐらいです。」
「・・・・ならば、他の物を教えよう。何を作りたい?」
うーん。なんだろう。アンにプレゼントできるものがいいかな。花だとガルデオン様がすぐ召し上がってしまうし・・・・
「そこの籠に編んだ薔薇を入れたら、温室に向かうぞ」
ファニール様の後を歩きながら、私は何を作ろうかと考えていた。籠?そうだ。籠みたいなのがいいかも。持ち運べる籠といえば、バスケット?
うーん。・・・・・いまいち。
「身に着けることができる籠のようなものを作れればと思うのですが・・・・」
「肩からさげるのではどうだ?」
肩から下げるってポシェットのこと?それじゃ、ちょっとしかはいらない。できるなら、いろんなものがたくさんはいる大きさのものがいいわ。
「それではものが少ししか入らないのではないですか?」
「いや、野茨とすぐりを混ぜて作れば、いくらでもはいる袋を作れる」
なんですと?野茨とすぐりを混ぜる?いくらでもはいる袋?まるで魔法のポシェットだわ。絶対、アンも喜ぶわ。
「それでは、その袋を作りたいです」
「しかし、その袋はいれただけ伸びてしまうのだ。今、お前が持っている壺は内側が野茨とすぐりの糸で編んだのだ。伸びても壺があるから大きくならない。中身はいくらでもはいる。」
確かに、この壺は魔力を入れてもいっぱいになる感じがしない。しかし、壺を肩から下げるには硬すぎるし、重すぎる。なにか・・・・・なにか・・・・・・。あっ!そうだ。さっきの棚にいいものがあったじゃない?あれを使おうっと。
「それでは、これから、その野茨とすぐりの魔力を集めに行きましょう。・・・・・とても楽しみです!」
ファニール様に案内されて、野茨の木の場所へいった。ファニール様に今回は花ではなくて、棘に気を付けて枝と葉っぱの間の魔力を集めるように言われた。せっせと集めて、さて、すぐりの木の場所に行こうとした時だった。
遠くから、どたどたと大きな大きな音が聞こえてくる。音の方をみると、真っ赤な竜が土ぼこりをあげながら走ってくるのがわかった。翼は短く、大きさはアレクより少し大きいくらいの高さだ。全身真っ赤な鱗で覆われているけど、とても引き締まっている。竜にもいろんな姿があるものだと感心してしまった。でも、その真っ赤な竜は、私の前に立つと、ぎろりと睨んで、顔を近づけてきた。怒ってる?
「人間臭いと思ってきたら・・・・・ファニール、どういうつもりだ?」
「ドラゴネット、そんなに脅かすんじゃない」
ファニール様が静かな声で赤い竜をたしなめてくれる。でも、赤い竜の荒い鼻息が私にかかり、怖い。なにか悪いことでもしたの?
「ふん。・・・・俺は人間なんて認めない。」
赤い竜は大きな口を開けて、私に襲い掛かろうとした。ぎゃあ、食べられてしまう。怖くて目をつぶる。
「ドラゴネット、この娘はレヴィアタンに認められている」
「それがどうした?レヴィは騙されている」
「おまけに私の弟子だ」
熱い。鼻息が頭にかかる。目をつぶっていてもすぐそばに大きな口があることがわかる。・・・・・ばさっと音がしたと思ったら、鼻息を感じなくなった。立っているのがやっとの私をファニール様の翼が覆ってくれたんだ。でも、赤い竜はますます怒り心頭になったようで、雷のような大きな声で怒鳴っている。
「はぁあ?俺が退治してやる。よこせ」
赤い竜は私を掴もうと腕を伸ばしてくる。
「やめろ、ドラゴネット。ローゼリアはお前の敵ではない」
「はぁん。その人間を名で呼ぶのか?笑わせるぜ。もう俺は騙されない。人間は嘘つきで強欲だ。油断すると、奪われるではないか。お前だって、その翼を失って怒っていたではないか。俺だって信じたばっかりに、欠片は取られるし、炎は封じられるし・・・・散々な目にあった」
「もう100年も前の話だ。人間はかなり変わったぞ」
「俺は変われない。おい、人間、俺はお前を認めない。今度会ったら、殺してやる」
赤い竜はそういうとどたどた大きな音を立てて去っていった。私は、赤い竜の怒りがどうしてむけられたのかわからない。まだ、心臓がバクバクいっている。すっかり腰が抜けてしまい、座り込んでしまった。怖かった。ただ怖かった。ぽろぽろ涙が出てくる。
「あー。ファニール、ローゼをいじめたなあー。ローゼ、大丈夫だよ。ボクが来たからね。もう泣かないで。」
人型のガルデオン様が、私を、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「ありがとうございます。ガル様。もう大丈夫です」
ガルデオン様は「よかった。悪いファニールはこうやってお仕置き!」と言うと、ファニール様に近づいて行ってげしげしと蹴っ飛ばし始めた。
「そうではない」
竜王様がガルデオン様の首根っこをもって引きはがしているのが見える。ガルデオン様は空中で足をバタバタさせている。ふふふ。思わず笑みがこぼれた。
「よかったぁ。ローゼが笑ったよ」
ガルデオン様は竜王様から逃れると、とととっと私のそばに来て、手を握って立ち上がるのを助けてくれた。
「ガル、ファニールのせいではない。少し怖い思いをしただけだろう。ファニール、何があった?」
竜王様が落ちていた壺を拾って渡してくれながら、ファニール様に尋ねた。
「ドラゴネットに会った」
「えーっ。あの火竜にぃ?またぎゃんぎゃん言っていたんでしょう。脳筋だから、まわりのことがわかっていないんだよ。」
「ガル、ドーラのことを悪く言うのではない」
ガルデオン様は顔を顰めて言うと、竜王様がぺちっとガルデオン様の頭を叩いた。ガルデオン様は「いたーい」と言っているけど、竜王様もファニール様も無視している。じゃれている二人を見ていたら、もう大丈夫な気がしてきた。そうよね。竜にとって、私は異形だわ。拒絶する竜だっているかもしれない。殺されるかもしれない。それをわかっていなかったのは私だ。のほほんとうかれすぎていた自分を反省。
「・・・・ドラゴネットのことはすまない」
しばらくして、ファニール様が呟いた。ファニール様は悪くない。私が赤い竜とちゃんと向き合って話せればよかったんだ。多分、今回の件は警告だ。この世界で生きていくには、もっとしっかりしなきゃ。
・・・・・でも、どうしてあの赤い竜は私に怒っていたのだろう?
「・・・・・大丈・・・・・夫です。ちょっと・・・びっくりしてしまって・・・・。」
私は、へにゃりと笑ってみた。
「無理することはない。ドーラにはよく話をしておく」
「私が怖くて泣いてしまっただけなので、あまり気にしないでください。それに・・・私は出来るなら、ドラゴネット様とも仲良くお付き合いできればと考えております。
しかし、ドラゴネット様はどうしてあんなに怒っていらっしゃるのでしょうか?」
「わからぬ。しかし、前は、・・・・・・そうだな。ガルがローゼリアにまとわりつくみたいに、アナの後ろばかりついて回っていた。それこそ、ファニールに煙たがられるくらいに・・・な。」
竜王様が、私の手を握っているガルデオン様をみてからかうように笑った。
「そういえば、アナが笑って、『ドラゴネット様のキラキラ好きには困ったものよね』とよく言っていたものだ」
ファニール様もとても懐かしそうに、瞳を細めている。
「キラキラ好きとはいったいどういうことですか?」
「昔からドラゴネットはキラキラするものを集めるのが好きだった。確か、朝いた部屋に、アナがドラゴネットにあげるんだと言っていたものが入っている箱がある。結局あげられず仕舞いだったが・・・・」
「それでは、その箱を見せていただけませんか?もしかしたら、ドラゴネット様のお怒りの理由がわかるかもしれません」
そこで、私達は図書館の奥の部屋に向かうことになった。




