第二章 騎士の道
「わしが若かった頃はな、ポミル堡の戦に参加したんじゃよ。人の屍が山のように積み上がって——」
ベリットは歩きながら、自らの過去の輝かしい武勇伝を語り続けていた。
アイラは興味津々に聞き入り、時折「うんうん」と頷いていたが、ハドは少しうんざりした様子だった。
「城が落ちたあの夜、我らは敵軍に散々に蹴散らされてな。わしは運よく森へ逃げ込んだ。そこで見たんじゃ……」
老人は語り続け、その目にふと、この上ない喜色が浮かんだ。「あのお方だ——黒い外套をまとっていて顔はわからなかったが、とても親切な方だったよ。あの方が、魔界へ行けばまた会えると教えてくださったんじゃ!」
「……」
ここに至り、ハドとアイラは揃って沈黙した。
トンネルを歩き続けているのは、ハド、アイラ、ベリットの三人だけだった。他の傭兵たちは地精霊の襲撃を経て、この狂った老人にはもう付き合いきれないと言い出したのだ。
そしてハドたちもまた、「魔界への冒険」に興味があるわけではなかった。彼らがここに留まる唯一の理由は、あの莫大な報酬に他ならなかった。
「わあ——魔界って、いったいどんなところなんですか?」
「ふふ、これは話せば長くなるが……」
少なくとも、ハド本人はそう思っていた。
狭い通路を行き着くところまで進むと、ハドの三人はある開けた空間へと出た。
岩壁にまばらに生えた蛍草が、夜空の星々のように洞窟を照らしている。洞内には、耳障りな地精霊やその他の醜い生き物の姿はなかった。
「……どう思う、アイラ?」
「うう……想像を絶するほど気持ちの悪い臭いが……」
ハドは横目で、二人の傍らにいる、妙に高ぶった狂った老人をちらりと見やった——
「おおお——もうすぐだ!感じるぞ——あのお方がすぐ先におる!」
「急にやる気が失せてきたな。今すぐここを引き払おう。」
「え——!そんなの、どうしてですか!」
「この狂いじじいは死にたがっているんだ。誰が付き合うか、こんな——」
ハドの声がぷつりと途切れた。悪寒が背筋を駆け上がる。
一同から数十メートル離れた石壁で、濃い闇が一点から膨れ上がり、しだいに人の形を成していった。
黒いフードを被った、痩せこけた人影が、ハドたちを見下ろしていた。
「やはりお前か!ずっと俺を待っていたんだな——」
ベリットの狂言が終わる前に、ハドは瞬時に腰の得物を抜いた——
空を切る音が響き、三本の弩の矢が正確に黒影へと放たれる。だが、まるで遮るものがないかのようにその身をすり抜け、矢じりは後方の石壁深くへと突き刺さった。
「ちっ、物理的な攻撃は効かないのか。アイラ!」
アイラの杖に霜が結晶し、強大なエネルギーが先端に集まっていく。
——enuma delu.
陰鬱で悪意に満ちた呪文とともに、ハドたちは一瞬、目まいを覚えた。
「こ、これは……幻術?それに、この呪文はいったい……」
ハドの視界が、一瞬にして暗闇へと沈んだ。
メロフィエ——フレライオン王国の騎士家門の一つ。後帝国暦232年、その家門の一人息子が、メロフィエ家の領地であるポミル堡に生まれた。
少年が初めて馬の背に跨ったのは、歩けるようになる三か月前のこと。最初の長剣は、背がまだその刃の半分にも満たない頃、父から授かったものだった。
「謙遜、誠実、慈悲、勇敢、公正、犠牲、名誉、精神」——これは、少年がこの世界で最初に口にした言葉だった。
彼は生まれながらの戦士ではなかった。父が押しつけた使命に、抵抗したこともあった——少年が九歳の年、城に迷い込んだ魔獣に半死半生に噛まれても、父はあるべき慈しみを与えず、それどころか床に伏す少年を三日三晩飢えさせた。
その理由は、メロフィエの後継ぎでありながら、たかが魔獣に怖じ気づいて醜態をさらすとは、体面に関わる、というものだった。
その日を境に、少年は自ら進んで厳しい鍛錬に励むようになった。父の期待に応えられなければ、それは自分にとって死を意味しかねないと、彼は理解していたのだ。
恐怖が彼を、父の望むところの、あの勇敢な騎士へと成長させていった。
後帝国暦248年、少年は成人の儀を迎えようとしていた。わずか十六歳にして、彼はすでに幾度となく盗賊や山賊との戦いで勝利を収めていた。
晩餐の席で、成人の儀は最終段階へと進む。老領主は、託した言葉が刻まれたペンダントを若い息子に授けようとし、少年もまた、ここ数年の功績と引き換えに、自分だけの名を得ようとしていた。
だが、宴会場に飛び込んできた斥候が、そのすべてを打ち切った——トレイオ帝国の辺境伯、ヘルセン・テポルスが軍を率い、深い夜の闇に紛れて、ポミル堡を水泄不通に包囲したのだ。
帝国宰相の新政策を支持するこの辺境伯は、保皇派であるフレライオン王国の横暴な気炎を、徹底的に叩き潰そうと誓っていた——ポミル堡への進攻こそ、その始まりだった。
攻め手の軍はおよそ八千人、守る側はわずかに千人にも満たなかった。それでもポミル堡の守備兵たちは、高い士気と地の利を恃みに、戦いの初期には陣地を守り抜いた。
続いて訪れたのは、長きにわたる包囲戦だった。単なる軍事施設にすぎず、自力での補給能力を欠くポミル堡は、ひと月を経て限界を迎えた。
その夜、若き騎士は老領主に、夜陰に紛れて敵軍の本営を奇襲してはどうかと進言した。
「お前は幼い頃から臆病者だ。メロフィエの命運を、お前の手に委ねられるものか」——父の言葉は、騎士の心を氷点まで突き落とした。
老領主はひとり城門を出て、辺境伯に堂々たる決闘を挑み、若き騎士は城内に残された。
翌朝、敵軍はもはや投石機を使わず、腐った動物の死骸を城内へ投げ込むことはなかった——代わりに投げ込まれたのは、城の中庭に落ちた、ひとつの首だった。
騎士は一目で父と悟った。自らの心の中で神にも等しかったその男が、他人に首を斬り落とされ、市場の腐った白菜のように、路傍へ無造作に捨てられている。
騎士の精神は崩壊した。彼はひとり城の地下室へと駆け込み、領主の一族しか知らぬ抜け道から、蛆虫のように身をよじりながら、ポミル堡を這い出た。
その日、騎士は領地を、家門を、肉親を——そして自らの名さえも、失った。
「こんな荒れ果てた地で、何を探している?」
枝葉や蔓に覆われた密林の奥深く、影のような姿が虚空に現れた。
これは、若き騎士が森で三日間道に迷うなかで、初めて見た「人」だった——少なくとも、人の形をした何かだった。
「私はただ道に迷っただけだ。探しているものなど、何もない。」
騎士は気だるげに答えた。
黒影は、乾いた笑い声を漏らした。
「生とは、すなわち探し求める過程だ。お前が生きている限り、必ず欲するものがある——すべてを失った者にとっては、なおさらだ。」
「……いったい、何が望みだ。」
「私の得意技は、人の心の最も深く渇望するものを手に入れる手助けをすることだ——私に会いに来い。私のもとへ来れば、お前の望むものを得られる。たとえ、すでに過ぎ去ったものであってもな……くくく——」
黒影は不快な笑い声とともに消え失せ、それと同時に、強烈な想念が無理やり騎士の体内へと注ぎ込まれた。
父、母、長剣、ペンダント……そしてあの神秘の洞窟——一連の映像が、騎士の脳裏に閃いた。
「ああ……そうか、会いに行かねば……そうすれば——」
「はっ——あああああ!」
ベリットがヒステリックな咆哮を上げる。幻術を受けた三人のうち、真っ先に正気に戻ったのは彼だった。
彼の視線は、ちょうど黒袍の男の視線と交わった。男は、わずかに驚きの色を浮かべた。
「やはり、お前か……私は約束を守って、ここまで辿り着いたぞ……」
ベリットは狂笑しながら、背に負った盾を前方へ掲げ、腰から闊剣を抜き放った。
「騎士の徳……そして、俺の名を、ついに取り戻せる——お前を完全に消し去りさえすればな、魔人よ!」




