速度の罠とチームの歩調〜ヴェロシティ〜
アジャイル開発の振り返り(レトロスペクティブ)の場。
他部署のマネージャーが部屋に乗り込んできて、新のチームのボードを指さした。
「高橋君! 君たちのチームの『ヴェロシティ』は『20ポイント』らしいじゃないか! 隣のBチームは『50ポイント』出しているぞ! 君たちのチームは生産性が半分以下じゃないか、もっとスピードを上げさせろ!」
新は静かに立ち上がり、他部署のマネージャーの前に立ちはだかった。
「他チームとのヴェロシティの比較……それはアジャイルにおける最大の禁忌です」
【PMP試験の重要知識:アジャイルにおけるヴェロシティ(Velocity)】
概要: アジャイル(スクラム等)において、チームが1スプリント(固定の期間)内で完了できた作業量(ストーリーポイントの合計)のこと。
目的: チーム自身の「予測可能性」を高めるために使用する。「自分たちは1スプリントで約20ポイント消化できるから、次のリリースにはあと3スプリント必要だ」という予測を立てるための指標。
絶対的な注意事項(試験超頻出):
他チームとヴェロシティを比較してはならない: ストーリーポイントの基準(1ポイントの重み)はチームごとに独自に決めるため、数値の絶対値に意味はない。
評価やノルマの対象にしてはならない: ヴェロシティを評価基準にすると、チームは数値を良く見せるためにポイントの見積もりを不当に高く吊り上げる(インフレを起こす)ようになり、指標として崩壊する。
「いいですか」新は言葉を強めた。
「Bチームの『1ポイント』と、うちのチームの『1ポイント』は尺度が違います。単位の違うメートルとインチを数字だけ見て比較するようなものです。もしヴェロシティで評価しようとすれば、メンバーは見積もりを水増しし、数値上のヴェロシティだけが増えて品質がボロボロになります」
他部署のマネージャーは気圧されて口をつぐんだ。
新はチームメンバーに向き直り、ニッコリと笑った。
「僕たちが気にするべきは他人との比較じゃない。自分たちの過去のヴェロシティだ。安定して『20ポイント』を出し続けられていることこそが、予測可能で健全なチームの証なんだよ」
メンバーから小さな拍手が湧き起こった。新のノートには、チームを守り抜き、正しく導いた誇らしい1ページが刻まれたのだった。




