画面の向こうの「PASS」
試験会場を出ると、すっかり秋めいた冷たい風が頬をかすめた。
自動ドアを抜けた瞬間に吸い込んだ外の空気は、これまで何度も吸ってきたはずなのに、どこか違って感じられる。
スマートフォンを取り出し、画面を見る。
そこには、先ほどパソコン画面で目にしたものと同じ、素っ気ないほどシンプルな文字が並んでいた。
『結果:合格(PASS)』
「……受かった、んだよな」
ぽつりと呟いた自分の声が、風に消えていく。
何ヶ月も前からこの日のために時間を削り、テキストと格闘し、諦めそうになりながら積み重ねてきた日々。
「PASS」というたった4文字の英単語が、そのすべてに終止符を打ったのだ。
もっと劇的な衝動が押し寄せると思っていた。
飛び跳ねるような歓喜や、思わず涙がこぼれ落ちるような感動。そういうドラマチックな瞬間をイメージしていたけれど、実際の感覚は驚くほど静かだった。
ただ胸の奥で、小さく温かい灯火が点灯したような――じわじわと込み上げてくる、確かな何か。
実感は、まだ湧いてこない。
だけど、足取りは不思議なくらい軽かった。
帰り道の雑踏に混ざりながら、もう一度だけスマートフォンの画面を開く。
画面に反射する自分の顔は、自分でも見たことがないくらい、穏やかで誇らしげな笑みを浮かべていた。
「よし――帰ろう」
長い戦いは、こうして静かに、けれど最高の形で幕を閉じた。
― 完 ―




