神託の箱と匿名性〜デルファイ法〜
「次の新機能の追加、工数はどれくらいかかると思う?」
新が問いかけると、会議室は微妙な空気に包まれた。
声の大きいベテランの佐藤が「まあ、3日もあれば余裕だろ」と口を開くと、若手の陸は納得いかない顔をしながらも「……そうですね、3日あれば」と頷いてしまった。
新は二人のやり取りを見逃さなかった。佐藤の威圧感に押され、陸が本当の意見(実はテストに10日かかると思っている)を言えていないのだ。
新はニヤリと笑い、全員に白紙の紙とペンを配った。
「佐藤さんの前言を撤回する。これから古代ギリシャの神託に由来する『デルファイ法』で見積もりを行う!」
【PMP試験の重要知識:デルファイ法(Delphi Technique)】
概要: 専門家グループから「匿名」で意見を収集し、段階的に合意形成を図る定量的・定性的な予測手法。
実施手順:
1. ファシリテーター(PMなど)が専門家に個別に匿名アンケートを実施する。
2. 回答を集計し、要約(平均値や意見の分布)を作成する。
3. 要約を全員にフィードバックし、それを踏まえて再度匿名で回答させる。
4. 意見が一定の範囲に収束するまで、このサイクルを何度も繰り返す。
目的と利点: 「声の大きい人(声量・役職・権威)」の影響(集団浅慮・バンドワゴン効果)を排除し、全員が公平で客観的な意見を出せるようにする。
試験での出題ポイント: 「メンバー同士のバイアス(偏見)を避けたい」「偏った意見に引っ張られずに合意を作りたい」という場面で『デルファイ法』が最善の選択肢となる。
「いいか、名前は書くな。正直な日数と、その理由だけを書くんだ」
新が紙を集計すると、見積もりは「3日」から「12日」まで大きくバラついた。陸は「既存のデータベースとの整合性チェックに時間がかかる」と匿名で書いていた。
新は名前を伏せたまま「12日という意見が出た。理由はDBチェックだ。これを踏まえて、もう一度各自で日数を紙に書いてくれ」とフィードバックした。
2回目、3回目の投票を経て、最終的に見積もりは「8日」というリアルな数字に収束した。佐藤も「なるほど、DBの件を忘れていたな」と納得の表情を見せる。
「匿名だからこそ、若手も本音を言える。デルファイ法は、声の大きさに潰されがちな現場の真実をすくい上げる魔法なんだ」




