7「キス三回目、体育倉庫はエロとNTRの定番シチュエーション」
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七月十八日
放課後、黄昏時。
吹奏楽部の調子外れな音と共に体育会系の気合入った掛け声が響く。
取引三日目。
本日も性懲りもなくかくれんぼを敢行。
通常なら断念するが、ここまでくると意地でも勝ちをもぎ取ろうとするのが男道だ。
幸い前は不覚を取ったけどお陰様で竈に火がくべられた。
マジになった俺、もう同じ轍は踏まない。
今回の姿を隠している場所は体育倉庫。
校舎裏にあり、出入りもさることながら人目につきにくい。
立て篭るにはうってつけのポジションだが、難点は冷房設備がないから暑い。
さりとて会長は一般人相手に変なところで100%容量フル活用してくる。
だから対抗する為こちらも作戦を練った。
一辺の悔いもない。
その一環として流星に協力してもらい、時間が来るまで外から鍵をかけてもらってる。
次、第二弾はお竜とその部活仲間達に頼み足止め。
次々とトラブルを起こし揉め事に巻き込む。
あの真面目ちゃんのことだ、無視はできまい。
第三は俺の痕跡を完全に消している。
授業中も影に徹して存在感をゼロに。
やり過ぎではと良心が痛むも、念には念をだ。相手は才女。
大人げないと後ろ指を指されようが、もう手段を選り好みしている段階は過ぎた。
ここまでやれば生徒会長も勘付かれまいよ。
ふうと息をつき、体操マットの上であぐらをかく。
あとは持久戦。
完全下校時間までの勝負だ。
「——やあ神無月、ご機嫌いかがかね?」
「…………………………」
隣の跳び箱が喋りだした。
しかも最近慣れ始めている鈴が鳴るような通った耳当たりいい声。
幻聴だろう。室内が暑いからな。
「おやおや無視かい? いい度胸だ」
「…………………………」
仰天するあまり悲鳴さえ発声出来なかった。
ホラーは平気な方だが状況確認に時間掛かる。
どこの某米国ホームコメディーだ?
錯覚だろうか、ブラウン管から笑い声が聴こえるぞ。
「ここは絶好の密会場所だね。昨日の保健室といい君はスケベの才能があるようだ」
「そんなものはいらねえわぁ! 褒められても全然嬉しくないぞ、跳び箱会長」
「そうかい?」
「どうして俺がここに逃避すると勘付いた?」
跳び箱から姿を現した生徒会長はオレンジ色の光を浴びる。
ミロのヴィーナスみたいなポーズをつけて……。
しかし、何時間ここにいたのか?
体操着がしっとり濡れていた。
鍵をかけていた以上俺より先に潜入したに間違いない。
即ち俺がこう来ると読んでいたんだ。
「NTRエロシチュエーションのパターン的にここは外せないだろ?」
「あああああ! そのチョイスは大馬鹿だがまんまと乗った俺も大マヌケだよぉ!」
白旗白旗、完全に敗北。向こうの方は一枚上手だ。勝てる気がしない。
過ぎたるは猶及ばざるが如しが十分身にしみた。
「ふふん、実力差が分かったかい。頭脳戦で僕には勝てないよ」
「勝ち誇るな変人。たまたまだろうが! もうキスはイヤだぞ」
「ふむ、ならばこの場でヴァージンを貫いて貰おうか」
男前だが言っていることがお下劣すぎる。
もうげんなりというか辟易だ。
「冗談でも止めろ! あんたはもっと自分を大事にしやがれ。それは好きでもない相手とぽいぽいするものじゃないだろ!」
「…………おー、それもそうだ。同感だ。僕も君じゃなかったらここまで積極的じゃなかったかもしれない」
「え? それって……」
心なしか会長の顔が赤面していた。
「知らない相手より見知ったやつのほうが気分的に楽」
「そうかよ!」
ただおちょくられただけだ。
落胆してないぞ。
うん。
「さあ気を取り直して何処にする? また前回とは逆のところかな?」
「いや、今日は別のところを指定する」
あまり簡単なところだと後々大変な目に合うので保険はかけた方がいい。
「ここだ」
太ももにする。
汗の味がした。
体操着なのが幸いして罪の意識が少なくて済む。
「これは大胆だね……ハァハァ」
「普段じゃ狙えない場所だからな——って、おい。顔赤いじゃないか⁉」
「大丈夫だ。心配ない……」
「馬鹿野郎!」
おそらくは熱中症だ。
体操着を身に付けているということは、体育の授業後にここへ侵入したのだろう。
従って最終下校が近い今、少なくても四時間は余裕で経過していることになる。
無茶しやがって。
フラフラいる会長を抱き寄せ、所持していたペットボトルの水を無理矢理飲ませた。
「すまないな」
「いいってことよ。こんな所で倒れられたら、また大事になり誤解で学園長の呼び出しを食らってしまう。もっと自分を大事にしやがれ」
日焼けヤンキーのルックスのせいでよくある。
「不良も大変だな」
「話をはぐらかすなや。俺は不良じゃねぇ。夕暮れになったとしても気温はまだ高い。夏はまだ始まったばかり。幾ら何でもやりすぎだぞ」
「僕は一つのことに集中すると周りが見えなくなるたちでね」
「お利口な生徒会長がすることじゃない」
「面目ない」
しかし、これでは俺がまるで悪人だな。
生徒会長のこと侮っていたな。
俺が素直に従っていればこんな事態には発展しなかった。
これ以上馬鹿な知恵を回さないほうがお互いの為か……。
「何故リスクも顧みず口封じに拘る?」
「幾度となく説明するが裏切らないようにするためだ。絶対深夜バイトをしてることを発覚させる訳にはいかないんだ」
「生徒会長として? それとも学年一位の名誉のため?」
「そんなものはどうでもいい。僕は……」
ここでいい淀む。
会長には会長なりの複雑なの事情がありそうだが、これ以上はプライベートのことなので首は突っ込まない。
そんなに俺のことを信用できないのなら相手が満足するまでやってやるしかない。
「そういえばこれもキスだな?」
「でもペットボトルは間接キスだからカウントに入らない」
「いいじゃないかよ。ファインプレーしたんだし今日の分は明日に回せ」
「駄目だ。もう遅い。どっちにしろ一日一回だ。持ち越しは容認できない。残念だったな命の恩人」
「ジーザス!」
天を仰ぐ俺。
この地獄に終わりはあるのだろうか?




