6「キス二回目、さいなまれる保健室の攻防。軋むベッド上にて」
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七月十七日
放課後。
鹿伏兎生徒会長との取引二日目。
なのだが……まだ屈服してない俺はこの茶番劇から脱却するために色々と模索中。
欲望に順従な一般男子高校生だったら喜んで口角を尖らせるだろうが、いかんせん俺は日本男児だ。
ヤマトのサムライだ。
無様な姿は晒したくない。
さりとて別段おなごに興味がないわけではない。
むしろ大いにある。
ましてやあれだけの大和撫子。
でもな……ブレーキがかかる。
理由は色々。
・まだ生徒会長の情報が不足気味。
昔からの知り合いではあるが浅い付き合い。
しかも生徒会が負えない厄介事ばかり押し付けてくる。
ようは苦手意識があるのだ。
・日本男児たる者安易に接吻は御法度。
確かにアメリカにいた頃はハグやキスをしていた。
でもあくまでそれは向こうの風習。
日本に帰ってきてからは恥ずかしさも相まって触ることもできない。
・目的が他にある、もしくは裏を疑う。
あの頭が切れる生徒会長にただ取引の為といえこんな苦し紛れで閃いたゲームを受け入れられることは到底考えにくい。
それでなくても飄々として普段から何を考えているか分からない人だからな。
大体たかがバイト目撃したぐらいでここまで過剰反応するだろうか?
なので迎撃できるメンタルを欠けている俺は、学園最後の砦である保健室へ避難していた。
先生もいないのでベッドで隠れてる。
無論、まだ授業中なので無断早退はしてない。
あの賢い生徒会長もここまではサーチできまいよ。
さりとて考えが甘かった……、「やあ神無月、体調が悪いのかい」ベッドを覆うカーテンを開けニコニコと俺の顔を覗き込んでいる生徒会長。
そう、見紛うことなき鹿伏兎生徒会長殿。
「ああ風邪拗らせて身動きがとれない」
会長の奇襲を受けるもおくびにもださずクールに対応するが内心穏やかではない。
俺は十分へどもどしていた。
何故ここを探し当てられた?
しかもここは中等部の保健室。
高等部の生徒は用がないはず。
俺は不良で通っているから通常思考なら保健室の選択肢は浮かんではこない筈。
でも、心配ご無用。
体調が芳しくないという大義名分があるので、真面目ちゃんの生徒会長だったらここは一旦退くだろう。
「それは大変だ。外見と違い君は繊細なんだな。わざわざ先に夏休みに入った中等部まで足を運んで安静にしているなんて」
「ああ。ということで風邪移すといけないので今日はなしだ。高熱だして死にそうなんだ」
「いやいやそれは心配ご無用だぞ。手の消毒とうがいのおかげで風邪を引いたことないんだ」
「そういうのが危ない。油断大敵だぞ」
「構わない。君とは覚悟が違うんだよ。それとしんどそうな割に随分饒舌じゃないか? あと高熱で死にそうなのにこんな離れた隣の校舎まで足を伸ばすほどの体力をどこに隠し持っていたんだい?」
目を細める生徒会長。
言葉尻をとらえるのが上手い。
俺じゃ勝てる気がしないな。
討論が得意なだけあって言い返す空きがない。
「なあ、何度も言って申し訳ないがこんなこと止めないか?」
「却下だ」
「どうしてもか?」
「僕は一度決めたことを途中で投げ出したことは一度もないんだ。諦めてくれ」
スマイルだが目が笑ってない。
なんならこのままナイフでも突き立てられてもおかしくない雰囲気だ。
「会長ほどのベッピンさんだ、彼氏は当然いるだろ? そいつに悪すぎる」
「残念ながらいないよ。とても大切な人ならいるけどね。だから尚更退けないんだ」
こうしてなし崩し的に今日も俺の悪あがきが失敗に終わる。
「ちなみに君を探し出した答えは選択肢総当り。考えつく限りの候補を出して手当り次第捜索した。脅迫罪の加害者を野放しにはしないよ」
「クレイジーだな」
俺が脱出を思案している間にも保健室の鍵、窓のカーテン、周囲に第三者がいないかの確認、会長は矢継ぎ早に行程をこなす。
「それは僕の褒め言葉だよ。普通の精神じゃ生徒会長に立候補しないさ」
「そもそも俺は加害者じゃねえ被害者だ。会長の暇つぶしに一番迷惑を被っているのは俺の方だ」
「それを決めるのは君じゃない。大衆だよ。人相と評判がすごぶる悪いチャラ男と、優等生生徒会長、どちらがネット民は支持してくれるかな?」
これみよがしにスマホを突き出す。
こいつは脅しているんだ……。
俺が快楽に身を委ねる一本道へ誘っている。
「汚ねえぞ」
「さあ好きなところを選ぶがいい。手のひら以外だぞ」
してやったりとほくそ笑む会長、対してくそと悪態をつく俺。
気分は蟻地獄だぞ。
しかも一番無難なところは選べないのきついわ。
いきなり難易度が上がる。
首から上は問題外として腕か足が妥当。
「すまない、せめて右左統一は止めてくれ。選択肢がすぐになくなってしまう」
「確かにそれではこの余興も面白くない。あと残り十三日もある」
「余興って何だ。ただの罰ゲームじゃないか」
「だからだ。ただの作業にするぐらいだったら楽しんでやった方が面白いだろ」
「悪い冗談だ」
だから同じ場所のキスを禁止したのか。
悪趣味というか馬鹿と言うか。
俺にとってはただの苦行なんだからとっとと終わらしたいんだが。
今の女って奴は恥じらいというものがないのか?
まだたったの二日目だし何とも言えないけど、主導権は完全に生徒会長が握っている。
由々しき事態。
しかも今度は誰も相談できないから、独自の力で解決を模索か……。
相手は学園一の才女。
とても勝機があるとは宣言できない。
「さあ神無月、将棋の対局ではないのだから長考してないで今日の分をしたまえ。僕も君に時間を割いているほど暇じゃないんだ」
「やればいいんだろ、やれば」
やけっぱちになりながらも、頭は冷静に昨日が右にやったので今日は左手を選択。
昨日とはうって変わって無理やり手を握り簡単に接吻。
ベッドから出るのも億劫だから簡潔だ。
「君は随分乱暴だな。女子にモテないぞ」
「余計なお世話だ。俺をムカつかせる会長が悪い」
はいはい女の子どころか友達もほぼいません。
痛いところ突かれてナーバスだ。
「ところで話は変わるが竜石堂君とはどういう関係なんだい?」
「お竜か? 俺の幼馴染みだ」
どうやら昨日あった時、会長も感づいていたようだ。油断した。
「ほう、君にもそういう類のものがいたのかい? どこまでもロンリーウルフだとばかり想像していたよ」
「見くびるなよ」
「そんな素振りも噂もなかったから驚いた」
確かについ最近まで気づかなかったから、仕方ないと言ったら仕方ない。
「では、彼女と交際しているわけじゃないのか?」
「ああ、そうだ。この間彼氏と別れたばかりだし、仮にフリーだとしても妹分と俺が付き合う可能性はないだろう」
「なるほどなるほど」
「何でそんなことを質問する?」
会長はベッドで寝ている俺に顔を近づけ、「無論君が好きだからだ……」頬に手を当てた。
「——で、本心は?」
「いや何、彼女がいるのに知らない女と毎日接吻してるとなったら良い交渉材料もとい色々と悪いかなと」
「心のないこと言うんじゃねぇ悪魔」
生徒会長は悪びれもなく冗談を吐く。
不愉快だ。
ちょっとドキドキしてしまったじゃないか……。
ちなみに俺のネクタイが行方不明になる。




