彼方サイド8「彼方、カースト一位から転がり落ちる」
◆◇
十月十六日
屋上でようやく涼しくなってきた秋風を受けながら、フェンス越しに座ってランチタイムと興ずる。
ただ、外で食べるのは好きだけど、風強いので折角セットした髪はすぐに流されるのが難点。
そんな中、大事な話があるからとダメ元で乙環姉さんへ連絡したら付き合ってくれた。
「屋上だから風に勢いがあるなあ。最近、学園とバイトと自宅の往復しかしてないから新鮮な感じするぞ」
「毎晩頑張るのはいいけど、あまり根を詰めると痩せるよ姉さん?」
「研究のためスイーツ食べ過ぎて逆に太ったかもしれん。馬肥ゆる秋関係なしで……」
「どちらにしろ頑張りすぎじゃないの?」
乙環姉さんは冬服へ衣替えした制服をめくり自分のお腹をプニる。
太ったは大袈裟、今お昼食べたばかりだから腹が膨れているだけだ。
「いや、生徒会長からの重責がなくなった分、気はとても楽になったぞ」
「その代わりに明鐘が現在進行系で苦しんでるよ。朝も書類とにらめっこしていたな」
「引き継ぎで相談を受けているから知ってる。でも馬頭は頑張っているんじゃないか?」
「憧れの乙環姉さんと同じ役職だから気合は入るさ」
乙環姉さんが生徒会長を任期満了につき退任する。
そのあと、立候補多かった生徒会長選挙の激戦を制して明鐘が就任。
選挙演説で無口な明鐘が、目を輝かせながら乙環姉さんの偉業を語って伝説になっていた。
「なら幼馴染みの彼方も負けてられないぞ?」
「まあ、勉学の方はぼちぼち頑張るよ」
「それで要件は何だ?」
「あのこと考え直してくれないだろうか?」
ロールキャベツを食べながら聞いてくる乙環姉さん。
俺の弁当は豚の生姜焼きメインで、野菜はそんなに入ってない。
残すの分かっているからね。
日中の屋上へ乙環姉さんを呼び出したには訳がある。
最近は深夜に帰ってくるのでここでしか会えないからだ。
「支援の件なら断わったはず。お前は僕に頼りきりなんだ。それでは自立した時、独りで暮らしていけない」
「姉さんがずっと側にいてくれれば済む問題だ」
「いや、僕もこの先どうなるかわかんない。だから他人にばかり頼る癖をやめろ」
「誰がそんなこといったの? 乙環姉さんが思いつくわけがないよね」
「神無月だ」
「……………………」
か〜ん〜な〜づ〜き〜!
どこまで俺をコケにすれば気が済むんだ、あのクズ野郎は!
俺の大事な乙環に余計なこと吹き込みやがって。
「了承してくれないか? 僕も苦しいんだ」
「……だったら今回だけ力を貸してほしい。最後にするからさ」
「配信か?」
「そう」
駄目だと首を横に振る。
困った、乙環姉さんを繋ぎ止める手札がない。
俺の為という大義名分で、どんな言葉を並べてもキャンセルが掛かってしまう。
この機会失ったら都合のいい姉というスキルが使用不能だ。
考えろ彼方。
どうすれば姉さんを再びへスポンサー戻せるか?
・泣き落とし。
自他ともに厳しい姉さんには効かない。
・恐喝。
悪人へ立ち向かうぐらい心が強いのに無謀。
・親しい友人に頼む。
いない……というか昔から俺だけに依存するよう邪魔な存在は排除してきた。
余計な入れ知恵されて今回みたいな感じになるから。
ならウイークポイントはどうだろうか……。
幼馴染みとしての立場を利用するとか?
昔は俺のことをかなちゃんと呼んでいる。
どうやら実際に存在していたそのかなちゃんという幼馴染みと俺を一緒くたにしているみたいなんだ。
このジョーカーはまだ切りたくはなかったが、にっしーを失い強力な手駒が不足している今、万が一に備え姉さんを味方に引き入れたい。
例え騙してでも……。
「じゃあ僕は教室に戻るからな」
「姉さん待って。俺はプロゲーマーになることを諦めてないんだ。前と違い無理のない方針へ変えて続けている。地道に一からやり直すからそれで期間を設けて延長してほしい」
「無理だ。諦めろ」
「かなちゃんとしてのお願いでもか? あのとき乙環姉さんを助けたよな? あの時の傷がまだ痛む」
もちろん乙環姉さんの落石事故は実際立ち合ってないから詳しくは知らない。
全て本人から聞いたこと。
なので例え白々しい演技だとしても乙環姉さんはそれが一番効く。
「くっ……彼方」
「毒飲まされて生死彷徨ったんだよな。あの時は死んだと思ったぜ。でも姉さんが大切だから俺は警察に訴えなかったんだ」
「そうだよな……けど今回限りにしてくれないか?」
「うん。ありがとう助かるよ」
承諾したけどもちろん嘘。
毎回毎回言い続けて金を引き出してやる。
姉さんのものは全て俺のものだ。
人生含めてな。
「その代わり僕がパティシエになるのも認めてほしい」
「それはまた話は別。でも前向きに検討するよ」
前向きに検討するはいい言葉。
実際は先送りするは都合のいい方便なんだけどな。
姉さんを認めるということは、神無月に負けるということ。
絶対あいつに取られるわけにはいかない。
◆◇
十月二十二日
朝、いつも通り、フレンドリーに教室へ入るもなにか空気がおかしい。
廊下まで響くぐらい喧噪が激しかったのに来た途端静まり返ったからだ。
「…………………………」
「…………………………」
「二人共おはよう。そんな神妙なツラしてどうしたんだ?」
「彼方、お前が事情聴取受けたんだってな? この前よくあんな関係ないフリができたと感心するよ」
「あのぐらすらんどの鬼畜野郎がお前だと知ってがっかりしたよ」
「ちょっとまて? 何処からそんな情報を?」
「マスコミが生徒達にお前のことを聞き回っていた」
「そのときに知ったんだ。なんで黙っていたんだ? 俺達との友情は嘘っぱちなのか?」
「まて、それは誤解だ!」
ぐらすらんどの正体が俺だってことを明かしてないからこの反応は当然だが、どうすればいい?
今更誤魔化しても意味がないぞ。
「とにかく、もう俺達に近寄るなよ犯罪者野郎」
「こうなったらお前との縁を切るしかない。共犯扱いされるとここにいられなくなるからな」
「話をきいてくれ!」
一番仲の良かった仲間が簡単に手のひらを返す。
更にクラスメイト達の様子もおかしかった。
あからさまに俺を遠ざけようとする。
この様子だと全校生徒に知れ渡ったと見ていいだろう。
その証拠に乙環姉さんや明鐘からも連絡が来る。
幸い、二人とも俺の関係者だとは知られてないから被害は行かないと思う。
それにしても、全て悪い方に悪い方に事態が転がっていく。
なんでこんなことになってしまったんだ?
俺は全く悪くない。
うまく世間をわたれていたはず。
原因があるとすれば、神無月の存在。
行方不明になる前に裏で何かしたんだ。
そこまでして僕を陥れようとしてるのか?
姉さんが変になってしまったのも、うちグループの様子がおかしくなったのも、俺が警察に捕まったのも、全部あいつのせいだ。
そうすれば全ての辻褄が合う。
俺に悪くない。
俺は被害者だ。
「かなたくん、災難だったね」
「会津さんか」
俺が孤立して意気消沈しているとき、クラスメイトの一人が話しかけてくる。
こいつの名前は会津樹林。
うちのグループに名前を連なるギャルだ。
よくつるんで遊びに行く。
頭がちょっと弱いがちょろいくて使いやすい。
「ウチは信じているからね」
「ありがとう」
「みんなも薄情だよ。今まで仲が良かったのにちょっとしたことで縁を切るんだから」
「仕方がないさ、みんな自分が可愛いからね。立場を悪くしたくないから離れるに決まってる。俺が逆の立場のときでもそうする」
負け惜しみにしか聞こえないだろうな。
「何かあったらウチに相談してよ。こんなの嘘に決まってるからいくらでも協力するよ」
「ありがとう」
他のやつもこれだけチョロければ使い勝手がいいんだけど、こればかりは仕方がないか……。
◆◇
十一月十三日
俺は屋上で大の字に寝っ転がり雲が多い秋の空を眺めていた。
今までならゲームやっているけど、こんな状況化なのにノリノリでプレイするほど心臓に毛が生えてない。
何もやらないと案外時間は止まって感じるなと悟りをひらいたとき、屋上の鉄扉が押しあけられ俺を上から見下ろす者あり。
「彼方、ここにいたのか?」
「どうしたの姉さん?」
「外の空気を吸いにな。彼方は?」
「なんか居場所がなくて、ここに逃げてきた」
「辛抱しろ。お前のやるとこが裏目に出ただけだ。暫くしたら収まる」
「別にいいんだけどね。それならそれでやりようがあるからさ」
最近放課後はやる気ある新生徒会体制へ移行後、秘密基地的な生徒会室へ入りづらくなったので、屋上で過ごすことが多る。
「もっと元気だせ。それでも学年カーストナンバーワンだった僕の弟分か?」
「やけに機嫌がいいね。新作スイーツまた採用されたの?」
「聞いてくれ。実はゆき——神無月が帰国してきたんだ! あのバカ、散々心配かけたのに連絡無しで店へ来るから叱咤してやった」
「……そうか戻ってきたのか。乙環姉さんよかったね」
「ああ、今日から出勤だから僕の成長した姿を見せつけてやろうとワクワクしている」
「あははは……」
神無月が帰ってきた。
音信不通のままだったからてっきり死んだとばかり。
なんか無性に腹が立つ。
でも俺はそんなことをおくびにも出さないで対話出来る男。
怒りをこらえながら適当に姉さんと話を合わせる。
——そのあと不快な神無月の話を散々聞かされて、姉さんは鼻歌口ずさみ職場へ向かった。
…………………………。
そんな俺はというと、帰ることはせず、怒りを格ゲーにぶつけていたらいつの間にか星がでる。
「何やっているんだろ俺……」
ズルズルと屋上のフェンスに寄りかかったまま力なく座ると、「ありゃ、かなたくんじゃん! やっぽー」上の給水塔から手を振る頭が悪そうなギャル。
「会津さん授業のときにいなかったけど、ここでサボっていたの?」
「うん。お昼食べたら眠たくなってさ。気がついたら夜になっていた。てへ」
会津か。
こいつも明鐘と同じ話すのが疲れるタイプだからあまり相手にしたくなかった。
でも、味方は一人でもほしいから贅沢は言わない。
「あまり俺にかまっていると君まで仲間はずれにされるよ?」
「かなたくんは悪くないじゃん。みんなが悪いんだ。だからウチは気にしない」
「ありがとう」
「良かったら話聞くよ。皆からは聞き上手って言われているからね」
それはただ単にお前が馬鹿なだけだろ?
でも何故か会津に俺の正当性を語る。
俺だけ悪いことが立て続けに起こっているのに、姉さんの周りだけいいことばかり起きていた。
本当に腹立たしい
これも全て姉さんに余計なことを吹き込んでおかしくしたあいつが元凶。
神無月さえいなければ俺の全ては順風満帆だったろう。
深夜のもう誰もいない校舎を会津と歩く。
腹が煮えたぎった腹いせに、俺は廊下のガラスというガラスを割る。
でも大丈夫。
全部あいつの神無月のすればいい。
幸い誰も相手のことなんか信用しないだろう。
本当俺がいい子ちゃんでよかった。
俺がやることは常に正しい。
◆◇
十一月二十日
星が見える白川桜華学園の屋上で俺達は密会をしていた。
「会津さん、何か情報はないかな」
「うーんないよ〜」
「……………………」
今回のメンバーは、俺と会津とそこにもう一人。
タバコを吸いながら様子をうかがっている。
大神、一個下の後輩。
見た目通りの不良。
会津の知り合いで仲間に引き入れてくれた。
俺達は共通の目標がある同士。
「神無月を何とか排除したい。そうすれば姉さんは俺の元に戻ってくるはず」
「神無月くんに接触してみたけど、ウチ的には皆が噂してるほど悪いやつには見えなかったな」
「けっ、テメエはビッチだからな。筋肉ある男なら誰でもいいんだろ?」
「早く姉さんを正気に戻さないと、俺以外に心を開くなんてありえない!」
「かなたくん顔が怖いよ」
「いいツラだ」
昨日、俺と大喧嘩した乙環姉さんは結局帰ってこない。
幾らお菓子作りが好きとはいえ、キレて家出まですることなのか?
LINE送っても冷却期間設けようと説得は失敗。
俺は姉さんが心配。
お人よしだから簡単に騙されてポンポンお金を渡してしまうだろ?
「だから姉さんがその気なら俺も手段は選ばない。力を貸してくれるよね会津さん?」
「いいよー! かなたくんが望むならね」
「俺も長野に力貸してやるよ。けけけっ」
俺はここから出来るスマートな返り咲きを思案している。
神無月が俺からすべてを奪取して、このままでは学園にいられなくなってしまうからだ。
目障りな神無月を完全にこの学園から追放させるのはどうしたらいいんだろうかと思い馳せていると、全てをひっくり返す一石二鳥の妙案が閃く。
見てろよ神無月、姉さんを必ず取り戻してお前にとどめを刺してやる。
「大神、お前はどうしてチカラを貸してくれる?」
「ああ、神無月くんに個人的恨みがあるんだって。鹿伏兎先輩追いかけてバイトに入ったはいいけど追い出されたって泣いていた」
「うるせえビッチ! 泣いてねえ。また突っ込んでアンアン鳴かせるぞコラ。……あの神無月の野郎はなあ、折角楽して稼げる場所から追い出したんだよ。この恨みは深いぜ」
「それは頼もしいな」
「大神くんウチと一緒でおバカだけど、腕力だけはあるから頼りになると思うよ」
「その代わり神無月追い出しら、お前の姉ちゃん貸してくれよ。バイトの時に狙っていたからな。あの気の強い顔を快楽に染めてえんだよ! けけっ!」
わかった、それで手を打とうと俺は手付けに十万円ずつ置いた。
口約束は信用できないから協力を求める場合、必ず現金を相手に握らせる。
危ない橋渡るには少ないと大神は文句言ったが成功したらなと言いくるめた。
こんなグズに金はやらんし、姉さんを触れさせるわけがないだろ?
終わったらお金だけ回収して、神無月とまとめて少年院にでも入ってもらうさ。
「——誰がそこにいるのですか?」
「…………………」
ライトが俺の顔を照らす。
誰かが来る。
それと同時に二人は消えた。
「彼方君?」
「明鐘、どうしたんだこんな時間に?」
「ちょっと自主的に見回りです。立て続けに破壊活動が起こっているのでうちの学生なら止めないと……」
「馬鹿、女一人でそんなことするな。もし強姦魔ならどうする気だ?」
「そこまで考えてませんでした。まあ、レイプが初体験は流石に嫌ですね。それで彼方君はこんな夜更けにしたんですか?」
「ここでゲームやっていたら寝てしまったんだ」
相変わらず淡々とした語り口で相手にするのが疲れる。
「不真面目ですね」
「いいんだよ」
「それで今誰かと話してませんですか?」
「電話していただけだ」
「そうですか。あ、幽霊が怖いので家まで送っていてください」
「だったら来るなよ……」
明鐘は俺を離そうとしない。
今日も学園の備品壊して鬱憤晴らそうと思ったができそうもないな。




