63「新・キス六回目 なんで関係ない雪之丞がかなちゃんと重なるのか?」その二
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下校途中の帰り道。
街まで続く田園風景の中、乙環さんと二人肩を並べて歩く。
秋から冬に変わる十一月だけあって温度は低くなっていた。
そんな俺達の話題は、
「ふふっ、今日も雨は降りそうにない。僕の予想は的中したぞ。またその傘の出番なかったな」
「たとえ降らなくても折りたたみ傘を忍ばしておくのは紳士としてのマナーだ」
「負け惜しみか?」
「うっせー」
雲一つない秋晴れへ手を掲げる乙環さんが、容赦なくからかってくる。
なのでわずかだけ不機嫌。
今日も乙環さんと天気予報勝負でテレビ対ネットのデスマッチを繰り広げる。
今のところはテレビ派である乙環さんが圧勝。
たまたま偶然が続いているだけ。
季節の変わり目は気象予報士でも中々的中させることは難しいのだ。
「もし降ってきても僕を助けてくれるんだろ雪之丞?」
「はて、見捨てるかもよ」
「よく言う。この不器用な優しさの塊が」
「これは褒められているんだろうか……」
中高一貫校の白川桜華学園は規模が大きいので街中には建てられない。
だから見晴らしのいい郊外にあるので周りの景色は田んぼだけだ。
バス通学と自転車通学以外は結構苦行である。
そんな乙環さんは徒歩と電車通学。
距離的にバスと電車なんだが、可能な限り節約したいのと健康のため学園と駅の間は歩いている。
俺も歩きだが乙環さんと違いそんな崇高な理由ではなく、ただ単に乗るとみんな降りてしまうので、バス会社から乗車拒否されていた。
バイク通学できればいいんだが完全禁止なのでしょうがない。
そんな可哀想な俺も最近はいい思いをしているかもしれん。
今日も今日とて見なれた光景の一つに一点集中。
横顔というのは美少女または美女にとって重要だったりする。
髪・高い鼻筋・湿った唇・バランスのいい輪郭、それいかんで左右される。
結果シルエットでもスタイリッシュに映った。
「何だ雪之丞? じっと見つめて」
「いや、夕陽に映る乙環さん綺麗すぎるなーと」
「そ、そうか。ありがとうな」
「それを怒られないで幾らでも見放題の権限与えられた俺は幸せだ」
乙環さんのトレードマークである目を惹く綺麗な長い黒髪、時間と共に降りてきた直射日光で髪の一部はオレンジ色に変化する。
「いや、僕だってあからさまに観察されたら拒否するぞ」
「え?」
「半分冗談だ」
「半分か……」
大体美人の自覚ないから登下校にて学園生達に注目されても元生徒会長だからと思いこんでいる節がある。
逆に重責から解放されて明るくなった乙環さんに野郎共は盛った犬状態だと早く気づいてほしい。
だから恋人ができるまで暫しの間、俺は友を守る番犬代わりとして丁度いいポジションにいるのだ。
がるるる!
この時たまたま目があったバスに乗った大学のお姉さん、俺へ手を振り微笑みかける。
そう、白川桜華学園のそばには大学があった。
うちの学生はだいたいそのまま白川大学へ進学する。
付属高校みたいなものなので試験的に優遇、内容を簡略化してくれるので合格者が出やすいのだ。
「雪之丞、顔がにやけてるぞ。そんなに女子大生が好きか?」
「そんなことはない。あの人うちの常連さんだなと」
「そうだったか……君はああいう大人の女性がタイプなのか?」
「いや露出が高いのより、凛としたヤマトナデシコがタイプだ」
「ほう。その割には胸の方ばかり視線がいっていた気がするが?」
「男だったら誰でもそうだろう」
「たわけ!」
「痛い!」
「まったくかなちゃんは——ぐっ! またか……」
「乙環さん?」
バランスをくずして俺にもたれかかる乙環さん。
俺にしがみつきなんとか体勢を持ち直す。
しかし何でここで長野の名前がでてくるんだ?
「いやごめん、なんか最近おかしいんだ」
「情緒不安定?」
「いやもっと漠然としたやつなんだ。わけわかんないだけだ」
「目まいがあるなら医者で診てもらった方がいいんじゃないか?」
「そういうたぐいのものじゃない気がする」
「うん?」
じゃあ幽霊とか呪いと言いたいわけか?
今の時代、そんなオカルトや迷信なんて誰も信じねえよ。
「それより君は賭けに負けたんだ。さあ、わかっているよね?」
「今日は俺からするのか……」
「それも僕が納得するレベルだよ」
今日の天気予報勝負は負けたら外で相手に凄いキスをするということになっていた。
気乗りしないけど外でするなら今のところ人気ないこの通学路をおいて他はない。
段々ハードル上がっているこの儀式に終焉は訪れるのだろうか?
新・取り引き六回目。
乙環さんの肩へ手を置きゆっくり近付くと、「——鹿伏兎先輩少しよろしいでしょうか?」突如俺達の間を割り込み、見慣れないやつがキススレスレで現れた。
「「うわあああ!」」
これには俺も心臓飛び出るほど驚く。
気配がまるで感じなかったからだ。
「…………………………」
「め、馬頭? どうしたんだ」
「新・生徒会長様が何用だ?」
人形のような美少女、馬頭は俺の方を見る。
どうやらお邪魔虫のようだな。
俺は気をきかせて先に行こうとするが、乙環さんは服を掴み手放してくれない。
「…………先輩がそれを望むなら構いません」
「ありがとう馬頭」
馬頭明鐘。
現生徒会長であり、うちの学年に知らないものはいない優等生。
学力は常にトップテン入り。
乙環さんとは中等部からの付き合いで、仲が良かったようだ。
ただあの通り、前生徒会長と違い別ベクトルのクールビューティーだったりする。
コミュニケーションが不得意で、ついたあだ名が無表情の氷姫。
よくあれで選挙に勝ったな?
俺はさすがに気を利かして少し距離をとる。
「……………………」
「それで何か用か?」
「先輩。彼方君と何かあったんですか?」
「急にどうしたんだ?」
「最近 二人とも様子がおかしいので、気になってしまったんです」
「どうということでもない。長く付き合っているんだ、考えが合わず喧嘩することもあるだろう」
「そうですか」
「でも君の話はそうじゃないだろ。こいつのことか?」
俺に指をさすと馬頭はコクリと頷いた。
「何故この人と一緒にいるんですか? 学園の特級危険人物じゃないですか」
「同じバイトだからな。一緒にいても不思議ではないだろ?」
「何か弱みでも握られてるんですか?」
「神無月……いや雪之丞は僕の大切な友達だから過小評価するのはやめてくれ」
しかしこのタイミングで乙環さんに電話がかかってくる。
そのままこの場を離れた。
それは良いけど乙環さん、敵対心隠さないこいつと二人っきりにさせないでくれ……。
どう接すればいいかわからん。
「ねえ、神無月君、お願いがあるんだけれどいい?」
「なんだよ生徒会長さん」
「私が君の遊び相手になるから鹿伏兎先輩を解放してくれないかな?」
「はぁ……思いっきり誤解しているな」
馬頭も乙環さんと負けじと劣らない美貌を兼ね備えている。
白川桜華学園が誇る七大美少女の一人。
長めのボブヘア、何処か見透かされているようなハッキリとした目、きめ細やかな白い肌、整った顔立ち。
乙環さんが日本人形なら、馬頭はフランス人形。
そこはかとなく高貴で上品な振る舞いだった。
ただ違う点は自己主張が激しい乙環さんに比べ、だいぶ胸がおとなしいというか慎ましやかなところ。
「まだとぼける気なの?」
「正直に言ってる。乙環さんとは正真正銘の友達なんだ」
「セフレのことを指しているのね。どこまで腐れ外道なのかしら」
「違うわ! プラトニックの友達だ!」
若干脱線しているけど……。
「とても信じられないわ。問題ばかり起こす貴方のような害虫に、誠実なあの先輩が心を許すなんて万が一にもないでしょ?」
「事実は事実」
「私はお金ないけど、この身体を自由にして構わないからどうかお願い、オトワちゃんとはもう金輪際関わらないでほしいの」
馬頭は頭を下げた。
またか。
なんで女ってやつは思いつめると、簡単にポンポン自分の身体を売ろうとするのかね?
もっと大切にしなきゃダメだぜ。
と俺は慈悲無き空へ仰ぐとぽつぽつ雨が降ってきた。
さっきまで雲がなかったのに……通り雨か。
「雨……」
「俺の予想は当たってしまったじゃないか」
馬頭は雨が強まっても微動だにせず、その姿は人形みたいだ。
どうやら傘は持っていない。
「話はここまでね」
「馬頭、俺の傘を使え」
「え?」
「濡れたくはないだろ」
「何故見ず知らずの貴方から施しを受けなければならないの?」
「いいから受け取れ馬頭。お前は今やこの学園の中核にして手本だ。それが風邪なんてひいたら目も当てられないだろ?」
「何か企んでない?」
「捨てたかったら捨てていいからな。これはただの俺のエゴだ」
俺は格好つけてこの場から離れた。
「お、かっこつけマンお疲れ様」
「乙環さん」
暫く過ぎた住宅街の十字路にて乙環さんが待っていてくれた。
傘をさして。
「入るか紳士殿?」
「乙環さん傘持っていたのか?」
「折りたたみ傘を鞄に忍ばしておくのは淑女として当然だからな」
「一本取られました」
こんなところで友達と相合傘するとは思わなかった。
だいぶ昔、お竜としたきりだな。
乙環さんは先程の仕切り直しを要求。
改めて、新・取り引き六回目。
雨降ったから結果的に俺が勝ったのけど、雰囲気に飲まれたので首筋にキス。
だが、すぐ離したからクレームが入る。
業を煮やした乙環さんが力ずくでハグすると、もう一度要求するのだった。
多少雨に濡れながらもこんな美人に抱きしめられている現実。
乙環さんの身体は柔らかくて砂糖とバニラの匂いがした。




