62「新・キス六回目 なんで関係ない雪之丞がかなちゃんと重なるのか?」
◆◇
十一月十六日
背筋が伸びた凛々しい姿から気高さや頼りがいが滲みでている三年女子が、大きめなバスケットを手にこちら側へやって来る。
「雪之丞、うるは達は今日くるのか?」
「行く前に声かけておいたから大丈夫だろ」
秋も深まる昼時の校舎裏で弁当広げる俺と乙環さん。
今は封鎖されている入り口の踊り場に腰を掛けた。
「君と二人きりのお昼もいいなと頭によぎったが、独占したらうるはに悪い」
「弁当のことか?」
「はぁ……この察しの悪さがなければ恋人なんてわけないと思うぞ」
「俺はこれでいいんだよ。第一乙環さんと長野を恋人同士にする約束を果たすのが先だ。大好きなんだろ?」
しかし、それに対してあまり元気がない。
昨日の今日だから仕方ないが、俺はどんなことがあったって乙環さんの味方であることを誓う。
校舎裏の隅っこ。
ここは俺達四人のたまり場にしている。
元々は俺がぼっち飯を食うところだったが、中等部のとき流星が加わり、夏前にお竜が加わり、今度は乙環さんが新たに加入した。
日当たりはさほど良くないけど、この場所に人が訪れることはまずないのでほどよく生き抜きできる。
「今日はバイトにいく日か雪之丞?」
「オフだったんだけど、なんかマスターが混むかもしれないから頼むってさ」
「師匠の勘はよく当たるからな」
「だよなー。あれはもう神通力だぜ」
一応平然と振る舞っているけど、まだ乙環さんの名前呼びに慣れなくていちいち心臓が反応してしまう俺。
それはそうだろ、こんな凛とした文武両道の美人が俺と親しげに世間話をしている事自体ありえないことだ。
俺達は元々敵対関係。
キスの取り引き以前は、何かある度に何癖をつけられる。
巨悪の俺を退学させることが僕の使命だとぬかし、罠にはめられたことも……。
真面目だから事情を話せば味方になってくれると踏んで友達申請するも告白と間違われてワンキル。
だからこんな親しくなるとは予想もできなかった。
しかもお互いファーストキスの相手だしな……。
「なんか挙動不審だな雪之丞」
「そ、そんなことはない」
「今、何を考えているのか心の中を言い当ててみようか?」
「ほう、乙環さんに俺の心が読めると?」
「やっと名前で呼ばせることに成功したぜ。げへへへ」
「俺のことそんなふうに捉えていたのが驚きだ」
「中々核心をついていただろ?」
「的外れだ!」
こんな馬鹿話をして笑える日が来るとはな。
まさに人間万事塞翁が馬だぜ。
「ハロー! 話にまぜてよ!」
「おまたせ、雪ちゃんと鹿伏兎先輩!」
銀髪のイケメン坊主流星とショートカットのお竜が合流する。
乙環さんは流星も友達になった記念に呼び方を変えようと提案。
そうしたら元会長から鹿伏兎先輩になった。
乙環さんからは上杉呼びのまま。
本人曰く遠慮しすぎたとのこと。
折角流星ちゃんとかりゅうたんとか、名前呼びの大義名分を手に入れたのに勿体無い事をしたと後悔。
これがむっつりスケベの弊害というやつなのか。
「おお、これはシュウマイに餃子に中華まん、今日は中華か。勝てる自信ない」
「嘘ばっか、自分の方が上だって顔に出ている。アスパラベーコン巻きとか、手羽先の甘辛煮なんて、思いっきり俺を殺しにきているだろ?」
「うわーん! お腹のリミッターまた外れちゃう。私うまくジャッチできる自信がない」
「なあ雪ちゃん、俺も審査員でいいのか? なんか場違い感がある」
俺は頷く。
頼むからここにいてくれ、流星がいないと二人共パワーがあるから押し負けてしまう。
今日も俺と乙環さんは料理バトル。
どちらの料理が美味いか。
今回は審査員を流星とお竜に頼み白黒つける算段。
——十五分後。
食べ進める度に美味い美味いとはしゃいでいた流星とお竜はダウン。
ちなみに勝敗はまたドローになる。
中々決着がつかない。
「そうだ。後輩から聞いた話によると、近頃学園で妙な事件がおきているらしい。気をつけろよ雪之丞」
「何だそれ?」
「夜な夜な学園のガラスが割れていたり、ドアが壊されていたり、女子のロッカー荒らしとかが多発している」
「物騒だな」
「それでなくても君は巻き込まれ体質なんだ、十分に気をつけろ」
「トラブルとは無縁の生活をしたい」
「全く持って嘆かわしい限り。僕のときはこんなこと起きなかった」
「今まで乙環さんがしっかり目を光らせいたお陰だ。でも現役引退したんだから無闇に首は突っ込むなよ?」
今時こんなダサいことをしてる奴いるんだな。
ストレスがたまっているんだろうか?
そんな話を聞きながら俺は弁当を食べた。
乙環さんが持ってきてくれたおかずにも手を伸ばし、その代わりに俺の手作りプリンをあげる。
それはいいが流星とお竜、俺のことちらちら見るのやめてほしいな。
いい雰囲気だろうと俺が乙環さんに手を出すことはない。
たまに飲まれることがあるのは否定しないが……。
——食べ比べが終わって、俺は飲み物買いに自販機へ。
ここにしかない珈琲牛乳を味わうのが俺の日課。
その帰路、遠くから聴こえてくる三人の声。
『上杉、君のおかげで色々と助かってるありがとう』
『上杉君は最高の友だよ』
『何の何の——』
流星が普通にモテモテなのは珍しい。
全部は聴き取れないが流星が褒められるのは俺もしても嬉しいものだ。
そんな会話を聞きながら珈琲牛乳を飲む。
イケメンで社交性が高くチャラ男で何でもできる俺の親友。
なのに一切女にはモテない。
別名、全てを持っている代わりに女子にはいっさい興味もたれない呪いがかかっている男。
それが上杉流星。
そろそろ戻ろうとすると、見たことのある人物達が三人へ話しかけられる。
あれは担任の牛若八千流と新たな生徒会長。名前は知らんが、確か海の時に長野の友達グループで一緒にいた女だ。
牛若が三人は学園を代表する優等生達、将来の為にもいい噂を聞かない不良と付き合ってはいけないと注意する。
以前危惧した事態が起こった。
やっぱこうなるよな。
やはり大腕を振ってここで仲良くするのは良くなかったか……。
何か言いたそうな流星とお竜をとめ、乙環さんが代表者として語る。
『僕達は雪之丞の友達なんで裏切ることはできませんよ』
『あの汚点のせいで、このままでは君達の経歴に傷がつくのよ』
『鹿伏兎先輩、軽はずみにあんなクズを友と呼ぶのはいかがなものかと……』
『たとえここを退学することになっても曲げることはありませんよ。あいつは僕の誇りあって大切な友達だ』
『大体最近起きてる事件は神無月に違いないんです』
『状況証拠がそろってないのもあいつが裏で手を回しているからに違いありません』
『馬頭、机上の空論で語っては駄目だ。牛若先生、とにかくこの場はお引き取りください』
『鹿伏兎さん達また来ますよ』
『……………………』
三人の信頼はありがたいけど、本当にこれでいいのか……。
それより馬頭っていう生徒会長は冷ややかだ。
乙環さんが凛々しいというのなら、馬頭はクールな属性に入る。
そのまま入れ替わりで俺は合流。
お腹が破裂しそうなお竜と流星は教室へ帰還した。
「雪之丞話を聞いていたのか?」
「友になってもらってなんだが、やはり俺と付き合うのはマイナスじゃないのか?」
本来味方であるはずの教師まで風評被害のせいで敵に回ってるこの現状。
孤立無援の中頑張ってきたが、今あいつらのおかげで俺の心は保たれているといっていい。
「今度馬鹿なこと吐いたら怒るからな。ここまできたら今更君から離れることはないよ……っく!」
「どうした乙環さん?」
「いや、何でもない。ただの目まいだ」
「ならいいが……」
「ちょっと背中貸してくれ」
乙環さんは俺の背に寄りかかり体重を預ける。
「君の大きな背中でこうしていると揺りかごみたく落ち着く」
「お役に立ってなりより」
聴こえないが、おかしい。雪之丞が村にいた頃中々認められなかったかなちゃんとまた重なったと呟いていた。




