61「新・キス五回目、もみじ舞う中、神無月から雪之丞へ」そのニ
◆◇
色んなやつの思惑絡まり、急遽決まった紅葉狩り。
ただし小さい子供もいるのでそんな遠くにはいけない。
なので電車で揺られ比較的近場のとても大きな公園へ足を運ぶ。
説明書きに面積二十ヘクタールって記載されていてもピント来ないけどな。
敷地内へ進むにつれ梅・桜・蓮・桃と広大な空間には数多くの木々が植えられていた。
もちろん今日メインの紅蓮に染まるモミジは来る者たちを魅了させている。
ただ、立ち入り禁止の森にはイノシシがいるので注意。
それさえ気をつければ、公園というだけあって子供の遊具が多々あるので楽しく遊べた。
「ほうほう……見ろ神無月、説明書きには元々は大名の館があったところ一帯を改築したと書いてある」
「勉強になると言いたいが墓以外なんもないな」
まあ、歴史の片鱗が何もなくても、街のシンボルとして巨大な庭園が来場者を楽しましているのでいいだろう。
どうでもいいが乙環さんの距離が近い。
幸いモミジを見向きもしないガキ共とお竜は公園広場をはしゃぎ回り、長野も動画撮影に夢中でこちら側は目もくれず。
その物陰で鮮やかな紅の木々を鑑賞しつつ乙環さんは俺へ寄りかかる。
「真っ赤だ。赤一色……」
「なんかアイデア湧きそうか?」
「そこまではいかないけど、参考にはなるぞ」
「俺も写真とっておこうかな。うん?」
前触れなく色鉛筆取り出した乙環さんは、朱く染まっている世界をこのスケッチブックへ閉じ込めるかのように色を塗りつけた。
これもスイーツ作りのヒントになる。
「紅と黄色のコラボは綺麗すぎて手が止まらない」
「それを絵で捉えられる乙環さんは神だよ」
「僕はただ、このきめ細かい色を楽しんでいるだけ」
「来てよかったか?」
乙環さんは肯定するかのように微笑んだ。
——暫く後、行きがけに珈琲を飲んだせいでおしっこ催した俺がトイレから無事帰還を果たすとお竜からストップかけられる。
緊急避難警報発令らしい。
お竜が指差した先に映るのは長野と乙環さん。
ついこないだまでは以心伝心だったが、今はどことなくぎこちない。
「すっかり秋だね彼方。うーんいい空気だ」
「秋といえば乙環姉さんはもう生徒会長を後進に譲ったからフリーなんだよね?」
「お陰様でやりたいことできるよ」
「でも料理学校に試験はないんだろ?」
「だから喫茶店でみっちり勉強出来るんだ。スイーツ職人目指している以上、知っておかなければならないことが沢山ある。師匠が紹介するから外国のレストランで修行することも念頭に入れておけだとさ」
「りんご亭と神無月……姉さんをそそのかした元凶か……」
長野は苦虫を噛み潰した顔となった。
「そんな酷い言い方するな彼方。お前相手でも許さないぞ」
「あ……乙環姉さんごめん。あれだけみんなに迷惑かけて何口走っているんだ俺は……」
親交を深めようとお竜の提案で集まった俺達。
メンバーは俺と竜石堂家兄弟と乙環さんと何故か長野も加入して変則ダブルデートとなる。
仲直りするため仕組んだことなのに、先程から二人の会話が噛み合わない。
乙環さんは元の関係に戻りたいと望んでいるからなんとか妥協案を探っていた。
原因は感覚的に分かる。
今まで散々サポートに勤しんでいた乙環さんが、自身の見つけた夢へ全身全霊で挑んでいる為、人任せにしていた長野が狂いだした。
「心配かけてすまない彼方。でもお前のサポートはもうできない」
「俺も散々迷惑かけたから文句はいえないよ」
「そうか」
「でも、俺最近姉さんのご飯をまともに食べたことない」
「作っているだろ?」
「レンジでチンは何か違う」
「仕方ないだろ。僕も夢に邁進したいんだ」
「それは家族の団欒削ってまですることなの?」
「全てをないがしろにしてきたお前にだけは言われたくない!」
「くっ! 姉さんのわからず屋!」
対話は失敗。
痛い所を突かれ我慢できず長野は走り去っていく。
いたい! いたい!
険悪のムードにお竜もこわいよーと兄弟達を抱きしめ震えてる。
乙環さんがいうにはエールを送ってくれるが、長野はまだパティシエになることを認めてないらしい。
だから彼女の望みはなんとか冷戦状態を解除して認めてほしい事。
しかしどうなんだろうか?
自分のことを最優先してきたやつが、そんな簡単に協力してくれるとは思えない。
歪ながら相思相愛だと見守ってきたけど綻びが浮かび上がる。
もし長野が乙環さんを男に都合がいい女扱いしているとしたら……考え過ぎか。
あいつはあいつなりに乙環さんを大切に思っているのは事実。
なら部外者の俺は静かに見守るだけしか出来ない。
——子供達が遊び倒したあと、昼食を取ることにした。
みんなで手を洗う。
俺もガキンチョに混ざったので手が真っ黒。
俺が持参した重箱と、乙環さんがクーラーボックスから開けると竜石堂家の子供達は目を爛々に輝かせる。
正月のおせち料理見劣りしない豪華絢爛なお弁当とおやつ。
子供達は乙環さんへ食べていいのか聞く。
「もちろん。みんなの為に作ってきた。遠慮はいらないぞ」
お竜にアイコンタクトで確認を取り喜んでかぶりついた。
「ほら、北斗慌てない! 麗日と秋桜は迷いばししないで」
竜石堂達へ作り立て渡したいと、あれから頑張って作ったスイーツ。
乙環さんが専念出来るように俺がお弁当制作を担当した。
「お前らどんどん食べろよ。俺特製のコロッケと唐揚げもあるからな」
頑張って作ったからみんなに喜んでくれると嬉しいものだ。
タッパじゃ足りないから久しぶりに重箱を使用。
甘い玉子焼き・筑前煮・ロールキャベツ・ミートボール・ハンバーグもある。
お竜からリクエストを聞き子供が喜びそうなものを詰め込んだ。
勿論たこさんウインナーも忘れない。
どんどん小さな怪獣達が平らげていき、気がついたらあるのは漬物と煮物の人参だけだった。
「良かった。あれだけあったスイーツがほぼない」
「鹿伏兎元生徒会長ありがとうございます。雪之丞もありがとう」
「お竜、ガキども喜んでくれてよかったな?」
「その……竜石堂お願いがあるんだか……僕も名前で呼んでくれないだろうか? 友達なのに苗字だと何か壁を感じる」
「いいんですか?」
「まじか?」
「君がよければうるは」
「分かりました、おとわちゃん」
「ひゅっう♪ さすが乙環さん。行動力があるよな」
子供達はまた自由に遊びだす。
お目付け役としてお竜も駆け出した。
お竜も乙環さんとの関係が一歩前進してとても嬉しそうだ。
「これで一件落着だ」
「そうだな」
「どうした? なんか不満そうだな」
「別に」
「なんだ君も名前で呼んでほしいのか?」
「いや別にそういうのはいいんだけど」
「確かに僕だけ名前呼びは不公平だ。一番の友達だもんな」
「だから別にいいって」
乙環さんが悪戯っ子ぽく微笑むと、「ゆきの——」タイミング悪く長野がだるそうに帰ってきた。
動画撮影から戻ってきた長野は売れ残った煮物の人参を手づかみで食べる。
乙環さんはなにか言いかけたがやめ、長野を睨みつけ何処か不満そうにお竜達と合流した。
「神無月、これ姉さんが作ってるやつと違うね」
「俺が作ったんだよ」
「すげえ。凶悪な見かけによらない」
「凶悪は余計だ。喧嘩売っているのか、こら」
俺はクソ野郎を睨みつけた。
「何でも一人でこなせる君が羨ましいよ。これなら生涯独身でやっていけるもんね」
「なんかトゲないか?」
「今まで全部才色兼備の完璧な姉さんにやってもらっていたから、俺にはこんな芸当は無理」
「いちいち嫌味言うよな。てめえは……」
それでも長野は動じず話を続ける。
「なんか乙環姉さんが親父達にパティシエになると打ち明けてからこっち、話すたびに俺との関係がこじれてるような気がするんだ」
「はぁ……元会長も同じことで悩んでいたぜ」
呆れてため息しか出てこねえわ。
「そうなのか?」
「彼方が職人になること認めてくれないって」
「そんなことはないよ。ただ最近姉さん帰ってくるのがもっと遅くなったから流石に心配かな。今日なんて朝になっても家へ帰ってこなかったんだぜ。ラインしても既読スルーだし」
「ああ、それなら心配はいらない。毎日修行しているから。早く納得できるスイーツを完成させて彼方に食べさせるっさ」
「そうか。ならいいんだ……」
「だから心配するな」
修練のためとはいえ、まさか俺の家に通っているとは口が避けても告白できないな。
「あんなによそよそしくなったのは、まさかお前らが姉さんになにか脅迫…………いやなんでもない」
「なんなんだ?」
長野はあれから物思い更け、気がついたら消えていた。
結局、乙環さんとの仲直り作戦は失敗に終わる。
一番喜んでいたお竜達は先に帰った。
「どうやら僕らしか残ってない」
「もう時期閉園だから早くでよう」
「神無月ちょっとまて」
「なんだ?」
まるでスローモーションみたく乙環さんは俺をモミジの木へ押し込み壁ドンすると、「今日の分がまだだぞ、ゆ・き・の・じょう」振動で紅い葉が舞い落ちる中、頬に時間掛けて唇を押し当てた。
取り引き五回目。
名前呼びとキス同時攻撃は卑劣ではなかろうか。
お陰様で家に帰宅しても胸のバクバクは中々静まらなかった。




