56「新・キスニ回目。第二次元生徒会長VS幼馴染み戦争 校舎裏の奇襲戦」そのニ
「ゴホン。それより鹿伏兎元生徒会長、そろそろ教室へ帰った方が良くないですか?」
「竜石堂、心配してくれてありがとう。でも大丈夫。今日は自習だから遅れても問題ない」
「邪魔ならふけるけど?」
なんか居づらくなった俺は立ち上がろうとするも、
「雪之丞はここにいてね」
「神無月はここにいろ」
両手を引っ張られて打ち上げ失敗。
二人ともニコニコなのだが、どこか恐怖を感じる。
「鹿伏兎元生徒会長、うちの(クラス)雪之丞に餌付けやめてください!」
「失敬な、餌付けではないぞ。たまたま多く作ってきたから、うちの(バイト仲間)神無月に処理を手伝ってもらってるだけだ」
「その割には俺の好物をダイレクト狙ってきて——いてー! 足をつんつんするな!」
「しびれているのに正座していたんだから、可愛い足が大事なら君は余計なこというなよ?」
「こうなったら私も料理で対抗するしかない」
「いやいや、お前の料理は暴力的すぎてお腹が受付けない」
それだけはまじでやめて。
乙環さんの珈琲に匹敵するからさ。
あのペースト状のディストピア飯、もう二度と食べたくない。
何でもかんでもミキサーでペースト状にすれば簡単って考えはやめてほしいもの。
食事には食感が大事なんだ。
歯ごたえのないマグロはただのシーチキンだと気づいてほしい。
水がない味噌汁はただの揚げと豆腐の味噌和えだ。
「そんなことはないぞ神無月。努力すればどんなものも美味しくなるものだ」
「雪之丞と会長はどちらが料理うまいんですか?」
「俺は完全に会長の方が美味しいと思うぜ」
「そうか? 僕は神無月が作ったやつも美味しいと思うか。サンドイッチとかスパゲッティが絶品だろ?」
「私はよく雪之丞に作ってもらってますけど、同じぐらいだと思うんだけどね」
「この味音痴め」
褒めてやったのにとお竜はうんべーとベロを出す。
「……………………」
「あんれー、鹿伏兎生徒会長どうしたんですか?」
「どうした?」
「神無月、僕も君の手料理食べたい」
「私も雪之丞弁当を所望!」
「わり、今日はパンなんだわ。昨日帰ってきたばかりだから疲れが抜けね」
お竜はなんですとーと俺を小突きまくった。
夏に発ってあれから三ヶ月経ったが、お竜の活動的なショートは健在で、衣替えで冬服になったけど、ブレザーは着ずクリーム色のニットベストを着用している。
そんなお竜を呼ぶ声。
げ、部長と慌てて逃げる。
げじゃない、昼練あるっていったわよねと告げると、嫌がる駄々っ子を捕まえズルズル引きずり連行されていった。
頑張れお竜。
「あいつも相変わらずだな」
「あの女部長、元全国区のバスケ選手に追いつくって何者だよ」
「凄いだろ? あいつは演技劇にパラメーターを全振りしているやつだから体力も半端ないんだ」
「えらい人に気に入られたな」
俺は乙環さんからもらった最後のおにぎりを頬張る。
中身は昆布の佃煮。
市販よりアジが濃いめ。
俺は味わうように噛み締めた。
「まあ、竜石堂は凄い才能の塊って評価していたから張り切っているんだ。もう二年の後半だ。在学中に自分のすべてを叩き込むってさ」
「知り合いなのか?」
「クラスメイト。実は竜石堂を演劇部に推薦したのは僕だ」
「それは初耳」
「あいつの才能はもったいないからな。なにかないか思案していたら、たまたま相談した彼女が気に入ったみたいなんだ」
「そうか……流石元会長だな。乙環さんありがとう。お竜の兄貴分としてとても感謝する」
よせ、神無月に礼を言われるとこそばゆいと照れた。
「うーんでも、元会長かぁ…………、その響き未だに慣れないな」
「生徒会長じゃなくなったことか?」
「ああ、そうだな。会長して駆け抜けていった日々が嘘のようだ」
「かっこよかったからな」
「そうなのか? 僕は前々から疎まれているとばかり思っていたよ」
「そんなことはない。くそ真面目な乙環さんは最高にイカしていたぜ」
「そうか」
「しばらくここにいなかったから言いそびれたが、乙環さん生徒会長お疲れ様でした」
もうない生徒会長の腕章があった位置へ手を当てる乙環さん。
ありがとうと優しげに微笑んだ。
「しかしまだ実感がわかないから、今でもついつい生徒会室に足を運んでしまう」
「乙環さんのことだ、歓迎されそのまま仕事も手伝ってしまうんだろ?」
「よくわかったな」
「一ヶ月の間、あんなに共に過ごしたんだ。お陰様で嫌でもどういう行動を起こすか予測出来てしまう」
「それは心を見透かされそうで怖いな」
「それはない」
そんなこと出来るのなら、毎回キスであんなにドギマギしない。
「でも後任が皆いい奴らでよかった。生徒会も安泰だ」
「前期の生徒会役員達と違って慕われているしな」
「お陰様で」
「こんなにカリスマ性があるのに、なんて今までまともな友達ができなかったんだ?」
引退しても女帝は健在。
登校中、生徒達は必ず乙環へ挨拶する。
悪いうわさも聞かない。
完璧だ。
「理由は簡単。誰とも対等な関係になれなかったからだ。一番身近な彼方でさえイーブンな関係じゃない」
「乙環さんなんでもそつなくこなすからな。珈琲に関してはあんなにポンコツなのに」
「ポンコツいうな。これでも頑張っているんだぞ」
「すまんすまん」
笑いながら俺は頭をさげる。
ということは俺とは対等な関係が築けているということか。
そのことが何だか嬉しかった。
「いいや許さん。頭にキタからここで今日の取り引きを行う」
「ちょっとまて、いくら何でも無謀だ。目撃されて変な噂だったらどうする気だ?」
「別に僕も君も関係ないだろ? もし退学になってもリンゴ亭があるからな」
「確かにそうだけどな。乙環さんは生徒会長なんだからちゃんとした卒業したほうがいい」
誰も聞いてないと思って乙環さんは問題発言を連発。
腕章を返上した途端、自由になりすぎているぞ。
「神無月の魅力を理解できない白川桜華学園に未練はない」
「いやいや、それでもこんな所でキスするのは流石にリスク高すぎるぜ。誰が見てるかわかんないからやめないか?」
「大丈夫だ。場所的に誰も通らない」
「待って、待ってって」
しかしスイッチが入った乙環さんにそんな安っぽい言葉、届くわけもない。
「聞かないぞ。その選択はありない。君にはいっぱいいっぱいお世話になったんだ。だからいっぱいお礼するのは至極当然」
「分かったから乙環さん近づくな!」
乙環さんは真面目だから、義理は義理で返す。
相変わらず言い出したら話を聞かない。
「なら、仕方ない。譲歩して耳かぶで勘弁してあげよう」
「それでも結構難易度高いぜ」
「文句が多いと女子に嫌われるぞ」
「乙環さん達がいるから俺は幸せだ!」
新・取り引き二回目 。
乙環さんはカプッと、「また神無月は僕の母性本能を刺激することをいう……」耳たぶを何度も甘噛みした。
性感帯責められているみたいで結構きつい。
多分、俺は恥ずかしさマックスで真っ赤になっている。
校舎の窓からは死角になっているとはいえ、こんなところでやられると相当な背徳感があるな。
乙環さんは生徒会長引退したから気が緩んでいるのだ。
未だに学園のファンクラブが活動していることを警戒してほしいもの。
「これだったらまだ耳掻きと膝枕の方がいい……」
俺がぼそっと漏らした一言。
「ほう、確かに前、彼方にやってことがあると話したら興味津々だったもんな。よし覚えておこう」
「ごめん! なしなし!」
俺は失言してしまった。
言葉のあやとはいえ妙なことを口にしてしまう。
このイタズラっ子のような笑みは良くないこと考えている時……。
その高難易度のシチュエーション、とてもじゃないが恥ずかしさで耐えられないぞ。
でもさすがに冗談だろ?
これがやがて実現してしまうことになろうとは、この時の俺はまだ知らなかった。




