彼方サイド6「やはり人生はイージーだ。 全ては俺中心で都合よく世界が回っている」
◆◇
八月十四日
花火を堪能した俺は電車でのんびり観光しながら家路を目指す。
すっかり焼けて肌がヒリヒリしていた。
海の家で一発逆転の大成功を収め、それを自慢する為に電車で移動中だがLINEで幼馴染みへ報告する。
『彼方君災難でしたね。心配していましたよ』
『重労働で真っ黒だ』
『それは是非見たいです。剥けた皮もください』
『キモい。というか対価ないと俺の遺伝子はあげないよ』
こいつの名前は馬頭明鐘。
誰にでも敬語を使う起伏が薄い女。
裏の家に住む幼馴染みで、腐れ縁が長いクラスメイト。
引くぐらい尊敬している乙環姉さんのあとを追いかけ次期生徒会長になろうとしていた。
時折それ以上の重い感情も感じるが……。
『残念です』
『その代わりレアな乙環姉さんの水着写真送る』
『見返りは私の処女でいいですか?』
『お前の貰ってもな』
こいつには俺がいつも何しているのか話している。
見た目はクールビューティー、でも中身はむっつりなので会話するには相当な忍耐力が必要。
今日も宿敵神無月の話を語った。
新人バイトの乙環姉さんはあいつにイジメられていると告げる。
常に酷い目にあわされていると。
そのかいもあってすっかり神無月が大ッキライになっていた。
元々学園一の嫌われ者だから刷り込みは簡単。
——海から戻った俺は帰宅後、PCでチャットしている。
相手はニッシーさん。
もちろんりんご亭や姉さんが晒された件を問いただすため。
幾ら姉さんが美人だからといって、そんな簡単に炎上するなんて信じられない。
あんなこと出来るとしたら内情をよく知るニッシーさんだけだ。
だがしかし、相手に先手を打たれる。
『バッドなお知らせがあるでござる』
『いきなりどうしたんですかニッシーさん』
『ぐらすらんど氏に不正疑惑があがっているでござる』
『どういうことですか?』
俺に不正?
想定外な事態が訪れた。
匿名掲示板サイトで俺が吊るされている。
ゲーム配信界隈から起こった非難の嵐、俺が様々な悪事に手を染めていると文字が踊っていた。
短期間でここまで有名になったのも裏でインチキを続けていたからで、配信で披露したゲームテクニックもプログラムを使ったペテンだと悪意に満ちた言葉で煽る。
そのソースも提示されて俺は詰んでいた……。
『困ったでござるな。ぐらすらんど氏、悪いことに手を染めてはだめでござるよw』
『そんな! 元々俺は反対していたじゃないですか⁉ それなのにニッシーさんが皆やっていることだから、これは極めて合法的なグレーゾーンだって熱弁してたでしょう⁉』
『そうでござるか? でも決断したのはぐらすらんど氏でござる。拙者は手口の一つをあくまでもおすすめしただけ。責任は全てそちらにあるでござる』
『…………………………』
返す言葉が見つからない。
確かにその通りだけど、まさか信じていたニッシーさんからそんな冷淡な態度をとられるとは思わなかったので言葉を失う。
確かに口車に乗せられてゲームに細工したことは認める。
しかしそれも俺がプロになる為の必要悪だ。
だがそれよりも、姉さんが狙われた事とりんご亭が炎上していることも俺が首謀者になっている。
もちろん俺は関わってない。
『姉上様に申し開きができませんな』
『何で俺がりんご亭や姉さんを危険に晒した犯人になっているのか理解できない』
『それがしは何も知らないでござるぞ』
『でもネット詳しい人で俺の内情をよく知るやつにしかこんな芸当は無理ですよ』
俺はただ、神無月をなんとかしたいからニッシーさんに知恵を借りただけ。
あのクズ野郎の手から姉さんを取り戻したかった。
その結果 りんご亭の炎上で疑いをこちら側へ向けられないように二日目の営業妨害を謝罪し三日目は味方のフリして凌ぐ。
『ただの偶然でござろう』
『それと神無月の情報デタラメだったじゃないですか? 高い情報料払ったのにひどいですよ』
『情報とはいつも正確とは限らないでござるよ。たまにはガセも混ざることがある。されどぐらすらんど氏はそれでも構わないといったでござる』
『それにも限度があります!』
駄目だな。
弁舌に絶対の自信を持つ俺でもまるで歯が立たない。
先手先手にこちら側を攻めてくる。
まるでコンピュータみたいだ。
『紹介した向こうのプロチームがぐらすらんど氏を訴えると息巻いているので手遅れになる前に手を打たないと……』
『何か手はないんですか?』
『ならマネージャーさんに頼んで止めてもらうしかないでござるな』
『見返りは?』
『ぐらすらんど氏の姉上をご所望でござる。また食事がしたいと。たったそれだけで許してくれるんだから良い方ですなぁ』
損害出たから姉を差し出せっていうのか?
俺はすぐに答えが出ず考える時間をもらうことにする。
——まだ深夜にはならない夜。
「…………………………」
「なあ、どう思う彼方?」
「…………………………」
自宅に姉さんが帰ってきた。
嬉しそうにイスに座ってセンスの欠片もないぬいぐるみとにらめっこしている。
でも俺はそれどころではない。
言いたくないことを切り出さないとならないからだ。
その証拠にゲームやって気を紛らわしているが全然集中できない。
「どうした? お前も疲れているのか?」
「………………姉さん、またプロチームのマネージャーから誘いがきている。ごめん、全部俺のせいだ」
俺は立ち上がり頭を下げ、姉さんにまた救いを求める。
でも、失態を演じているので強く言えない。
「なぜ謝るんだ? 彼方は悪くないぞ」
「俺のやってきたことが正しいのかわからなくなって来たんだ。ただ乙環姉さんと並び立ちたくて努力してきたのに、どうしてこんなに曲がりくねったんだろ?」
「活動して結果は十分出したんだ。お前は胸を張っていいんだぞ」
「いや、今回の件、こんなオオゴトに発展するとは予想してなかった」
向こうの交渉を円滑に進める為、俺は姉さんへ反省しているようにみせた。
こうすればヘソを曲げず協力してくれる。
もちろん、こんなことはしたくはない。
でもこのままいけばプロへの道が絶たれてしまう。
それだけは絶対に阻止したかった。
「あれは酷かったな」
「炎上の件は多分、ニッシーさんが関わっている。神無月と姉さんをなんとかしたいと愚痴をこぼしたのが要因。俺がこれからどう立ち回ればいいか色々と助言をもらった」
「その時向こうの口車に乗せられてペラペラ、プライベートの情報を話したと?」
「ごめん。ニッシーさんは色々導いてくれた大恩人だから全面的に信用していた。でも、お金払って手に入れた神無月のプロフィールは誤情報だらけ。ネットだけで調べた適当なガセネタ。どうやらいいように金を吸い上げられていたようだ」
これは本心。
ちょっと信用しすぎる。
これを機に距離を置こうと考えていた。
「そのニッシーっていうやからに問いただしたか?」
「一切とぼけてるよ。まるで俺がすべて指示したかのような口振り。何が目的なのか真意が掴めないから今回は辞退した方が得策だよ。僕も少し距離を置く」
「いや彼方、一人で下手に動くのは良くないぞ。上杉が相談に乗るから連絡をよこせって」
「上杉か……」
上杉が海の件をほぼ一人で解決。
今の所絶対敵には回したくない。
でも、あいつに相談したら俺が裏で何をしていたか全て暴かれてしまう。
だからここは従うふりをしよう。
「多分上杉は全て見通している」
「……………………分かった。従うよ。じゃあ姉さんは?」
「そのプロチームのマネージャーと話をつけてくる」
「いやいや、危険だよ」
「僕を信じろ」
ごめん姉さん。
俺はこんなくだらないことで折角ここまで登りつめたのに失脚するわけにはいかない。
だからプロになるためなら姉さんの純潔など雑事。
あとでいくらでも労えればいいさ。
俺は覚悟を決める。
野望を実現するためには家族の犠牲も厭わない。
姉さんが余計なことしないようにスマホに盗聴していたが、何も怪しい動きはなかった。
——そして次の日、プロチームのマネージャーが詐欺容疑で逮捕。
元々活動しているかも怪しいところだったらしい。
神無月と上杉がすべてを暴き俺の不正もバレてしまう。
余計なことを……。
俺は被害者となり全てはマネージャーがやったことで収まる。
しかしまさかニッシーの正体がAIだったとは気づかなかった。
コンピュータを恩人だと思っていたなんて滑稽すぎて笑いが止まらない。
俺は笑いを堪えながら乙環姉さんに、『ごめん乙環姉さん』とLINEを送る。
やはり人生はイージーだ。
全ては俺中心で都合よく世界が回っている




