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俺をNTR系チャラ男と勘違いして上官口調の僕っ子生徒会長があからさまに口止め料のキスを毎日してきて困る。しかも月日と共に愛が重い通い妻化してメチャ可愛い  作者: 神達 万丞
第三話『その加減知らない馬鹿みたいなお人好し、僕は君を昔から知っている気がする…』とても不器用ないいやつ→友達
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49「キス二十九回目 神無月は初めての対等な友達(乙環サイド) 」

◆◇


八月十四日


 夜明け前には宿を立ったが、気がつくともう黄昏時を過ぎていた。

 原因はマスターが小田原城や箱根や芦ノ湖の観光地へ寄ってくれたから。 

 もちろん温泉も堪能。

 気持ちよかったなぁ。

 頑張った僕達へのご褒美だそうだ。


 その間にも神無月とマスターは喫茶店をハシゴして敵情視察。

 相変わらずあのコンビは喫茶店への情熱がひくほど凄い。

 オーラが半端なかったから行く先々で通報されそうになったのはご愛嬌。


 そして漸く観光地伊豆半島から都会埼玉へ戻ってくる。

 田舎と違いここは街のネオンで空が明るいから帰ってきたと実感。

 大自然の造形より人工的な構造物のほうが心地よい。


 出掛けるときは知らない土地にテンション高めだったが、帰り道は疲れ果てて気がついたら到着していた。


 そんな帰宅後、お茶を入れながらダイニングテーブルへ置いたぬいぐるみを凝視している。

 神無月から帰り際貰ったプレゼントだ。

 無理をきいてもらったお礼。

 なんでも僕にそっくりで一目惚れしたらしい。


 …………あいつ問題発言した自覚ないだろ?


 女の夜道は危険だからと神無月がボディーガードをかってくれ徒歩で送ってもらう。

 外見はあんななりだが紳士なのだ。

 容姿はかっこいいし、意外と気さくだし、頼りになる。

 

 しかし四日間も共に過ごしたからだろうか、一緒に歩くも取り立てて面白い話題が浮かばないので難儀した。

 そのまま長野家まで到着。


『お疲れ様だ、神無月。また連絡する』

『ああ、乙環さんまじでありがとうな』

『それはもういい、そんなに気を使うな。僕が疲れる』

『それもそうか』

『…………………………』

『…………………………』


 友達と受け入れ初めて共に帰る夜の道。

 色々あったが悪くないと実感する。


 取り引き二十九回目。


 自宅前だったからこいつへぬいぐるみを押し当ててキスをした。

 場所的にまかり間違ったらファーストキスしてしまう大惨事だったがそんなヘマはしない。


 今日はこれで許せと笑う。


 そうか、僕は神無月と友達になったのか……。

 改めて考えると恥ずかしいものだ。

 初めての対等な関係。

 不思議だな。

 この言葉だけで僕はあいつに受けとめられている気分になる。

 

「——でも、この目つきの悪い偉そうなペンギン、そんなに僕と似ているか?」


 頭を捻りながら疑問形が浮かぶ。

 僕はここまで無愛想じゃないぞ。


「…………………………」 

「なあ、どう思う彼方?」

「…………………………」

 

 僕より先に帰宅していた彼方はリビングでゲームをやっている。

 集中しているのか答えてくれない。


「どうした? お前も疲れているのか?」

「………………姉さん、またプロチームのマネージャーから誘いがきている。ごめん、全部俺のせいだ」


 彼方は立ち上がり頭を下げた。  

 こいつが非を認めて謝罪するなんて珍しいこともある。


 つい最近、ご飯をご馳走してくれたプロゲームチームのマネージャーという人物。

 スカウトするにあたって彼方のことを詳しく伺いたいと聞いたから了承したが、やたら僕のことを根掘り葉掘り質問してくる。

 何処か品定めするようなイヤらしい視線に心証が悪かった。


 あのときも途中で帰ろうとするも、


 プロになるのは幾ら実力あっても強力な運がないと到底無理な世界、ならば天から垂らされた蜘蛛の糸が汚かろうとも無下にしては駄目だとあの人は諭す。

 彼方の人生がこの肩に掛かっていると理解したとき、僕は椅子に座り直した。


「なぜ謝るんだ? 彼方は悪くないぞ」

「俺のやってきたことが正しいのかわからなくなって来たんだ。ただ乙環さん姉さんと並び立ちたくて努力してきたのに、どうしてこんなに曲がりくねったんだろ?」

「活動して結果は十分出したんだ。お前は胸を張っていいんだぞ」

「いや、今回の件、こんなオオゴトに発展するとは予想してなかった」


 インターネットに僕が顔が晒され、彼方との関係も暴かれる。

 更に彼方が悪事に手を染めていると文字が踊っていた。

 それなのにプロゲーマーのマネージャーは僕を食事へ誘う。

 いやな予感しかしない。


 上杉がなんとかリカバーしてくれたが、一度流れた悪い噂というものは中々冷却されないもの。

 下手したら退学もありえる。

 でも何故か、そんなに焦りはなかった。


 一筋の光。

 孤独の仲辿り着いた腐ったリンゴ亭と素敵なバイト仲間達。

 勉強して大学行くことだけが道じゃないと示してくれたマスターのスイーツ作り。

 どんなに悪い噂が立ってもけして己のスタイルを変えない神無月。

 確かにおじさん達を裏切ることになるけど、僕はもっと自由でいいんだ。

 そう、神無月と過ごすうちに強く実感する。


「あれは酷かったな」

「炎上の件は多分、ニッシーさんが関わっている。神無月と姉さんをなんとかしたいと愚痴をこぼしたのが要因。俺がこれからどう立ち回ればいいか色々と助言をもらった」

「その時向こうの口車に乗せられてペラペラ、プライベートの情報を話したと?」 

「ごめん。ニッシーさんは俺に色々してくれた大恩人だから全面的に信用していた。でも、お金払って手に入れた神無月の情報が誤情報だらけ。ネットだけで調べた適当なガセネタ。どうやらいいように金を吸い上げられていたようだ」


 もし彼方の信頼を利用して情報を悪用したのなら許せないな。

 僕は冷静さを装いながら静かな怒りが握りこぶしを作る。


「そのニッシーっていうやからに問いただしたか?」

「一切とぼけてるよ。まるで俺がすべて指示したかのような口振り。何が目的なのか真意が掴めないから今回は辞退した方が得策だよ。僕も少し距離を置く」

「いや彼方、一人で下手に動くのは良くないぞ。上杉が相談に乗るから連絡をよこせって」

「上杉か……」


 実際は神無月経由だが、まだあいつに疑いを掛けているので無用なトラブルは避ける。


「多分あいつは全て見通している」

「……………………分かった。従うよ。じゃあ姉さんは?」

「そのプロチームのマネージャーと話をつけてくる」

「いやいや、危険だよ」

「僕を信じろ」


 僕が行動してどう転ぶかは神のみぞ知るだが、謀って彼方の夢を侮辱することは断じて許容しない。


 ——深夜、自分の部屋で初めて友達とビデオ通話で繋がる。

 風呂あがりだからポニーテールにはしてない。


『神無月、元気か?』

『どうしたんだ乙環さん。さっき別れたばかりだろ?』

『いや、寝れなくな。君の声が聞きたくなった。友達なんだから当然だろ』

『そうなのか? まあ、乙環さんがいうのならそうなんだろ』


 結構強引だが意外と聞いてくれる。

 神無月にとって友達とはそれだけ大事なものなんだな。

 

『神無月は何をやっていたんだ?』

『珈琲豆の配合。今日飲んできたブレンド珈琲に刺激を受けて色々とミックスして試している最中だ』

『相変わらずの珈琲馬鹿だな』

『いいだろ? 放っておいてくれ』


 気持ちは分かるけどな。


『それより感想は?』

『感想? うーん、メガネバージョンでパジャマが意外と可愛い系?』

『本邦初公開、僕の自室&寝間着だぞ。うちの家族にしか見たことないんだから、もっと喜べ!』

『そいつはレアだな』


 僕はポーズをとりふふんと鼻を鳴らす。


『だからといってあまりジロジロみるなよ?』

『それは無理というもの。女子の部屋に大いに興味を惹かれる』

『女の子部屋っていっても基準がよくわからないから殺風景だと思うぞ』

『うん? 後ろに貼ってある写真は乙環さんと長野か?』 


 コルクボードに貼ってある写真、数少ない僕の幼い頃を写している。

 当時のことそんなに覚えてないけど、仲が良かったかなちゃんとツーショットなのだが、何処かよそよそしかった。


『ああ、まだ長野家へお世話になりはじめの頃だ』

『なんか男っぽい』

『僕の先生に憧れて髪伸ばし始めたからそうでもないが、昔は完全に男の子だったぞ』

『それもみてみたいな』

『残念ながらこれより前はないんだ』

『なら仕方ない』 


 そこら辺、記憶も曖昧だし大して語ることもない。

 ただ、田舎で暮らしていた頃はよく覚えている。

 一時期お世話になった大好きな先生の孫であるかなちゃんと一日中駆けずり回った。

 最初は祖父のかたきと思い込んで本当に殺そうとしていたっけ。

 毒キノコや毒草食べさせたり、崖から突き落としたり、でも海外で身につけたサバイバル技術で難なく回避される。

 とても同一人物だとは思えないほど今の彼方とはえらい違いだ。

 彼方も神無月と同じ、背中に傷がある。

 落石事故に巻き込まれ大怪我した跡。

 そしてこれは僕が生涯をもって償うべき罪だ。

 

『——というか神無月はどこでもタンクトップだな……』

『これは寝間着用タンクトップだ。色が違うだろ?』

『あははは! こんな時間に笑わすな』

『別に乙環さんを笑わす為にやっているわけじゃないぜ』 


 しかもビデオ通話に興味を示した神無月の飼い猫がウロウロしている。


『でも、元気をもらった』

『乙環さん? いやなんでもねえ』


 じゃあな、おやすみと僕は通話を切った。


 神無月に勇気をもらった。

 これで僕は戦える。

 命の恩人であるかなちゃんは僕が必ず守る。


 ソレガボクニカセラレタバツダカラ……。


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