48「キス二十八回目、サマフェス三日目、偉大で強固たる幼馴染み達の絆」その三
日も落ち三日目の夜を迎える。
田舎の観光地だけあって暗闇が深く星空が綺麗だ。
メイン会場のスピーカーからは軽快なBGMが流れてくる。
サマーフェスティバル最終日オーラス、納涼花火大会。
これ目当てに地元・観光構わず入り乱れ結構な賑わい。
もちろんレストラン・軽食エリアは最後の稼ぎ時、一番活気溢れていた。
祭りの屋台も戦列に加わり、客をめぐり美味そうな香りを武器として凄まじい奪い合い。
しかし残念ながら俺達リンゴ亭はこの戦いに参加しない。
何故なら現品と材料がほぼなくなったから。
なのでマスターからの提案、俺達と来てくれた常連客への計らいでリンゴ亭が確保している席を開放してくれる。
場所的には食事エリアで一番見晴らしのよい場所なので、みんな喜んでいた。
『いえーい! お前らつづけー!』
『ヒャッハー!』
『二人共、羽目を外さないでくだいね』
フリータイムになったので花よりダンゴの女バストリオは買い食いツアー。
『きゅ〜〜』
『彼方……幾ら注目を浴びようともペース配分ぐらいは守れ。情けない』
長野はダウンして寝てるから乙環さんはその付き添い。
結構残った常連客達はおもおもに花火を満喫。
マスターはキッチンカーからそんな光景を肴にちびちびウイスキー入り珈琲を飲んでいる。
最後に俺はというと、一般人に恐怖しか与えられないから離れた場所へ座り込んでいた。
タッパたけーうえに人相悪いからしゃーなし。
ただ、砂の上にじかだからまだ温かい。
『雪ちゃん、お客さんの相手しなくていいの?』
「お礼言いたいけど、プライベートでわざわざこんなところまでご足労させているのに、こんな悪人顔みたらいい思い出が台無しだろ? それよりありがとうな。間違いなく今回のMVPは流星だ」
『雪ちゃんの助けになるんだったら幾らでも力を貸すさ』
「それは心強い」
家が旅行雑誌にも掲載させるほど由緒正しい有名なお寺だけあって流星はコネクションが半端ない。
だから各界隈から聞き耳をたてずともニュースが飛び込んでくる。
情報戦で流星に勝てるやつはそうそういないだろう。
『リンゴ亭が炎上した件なんだけど、誰かが作為的にやった可能性が高い。容疑者はわかってる』
「長野か?」
『うんにゃ、俺も当初疑ったけど外れだった。第一あいつにそんな度胸も力もない』
「なら誰なんだ?」
確かにあいつは仮にも乙環さんの弟分だ。
自己中だけど善悪の区別つかないほど愚かではないはず。
『実は長野ちゃんをわずかの間に知名度アップさせたブレーンが存在するんだ』
「そいつが臭うのか?」
『ああ、プンプンだ。信頼できる筋からの情報によると、そいつはいい噂を全然聞かない。親切のふりして近づき言葉巧みに犯罪スレスレのことやっている』
「下手したら長野が会長を悩ましている金遣い荒い原因にも一枚噛んでそうだな」
『ああ、完全にカモられているよ。配信者のやり方は人それぞれだけど長野ちゃんは金遣いの速さが異常だ。間違えなく上手く踊らされている』
「乙環さんが犯罪に巻き込まれたら厄介だな。任せていいか?」
『そのための俺だろ』
短くサンキューと伝え通信を終わる。
——鑑賞へ浸る暇もなく、それと同時にサクサク砂を踏みながら近づく音。
「こんなところにいたのか神無月。花火を一人で眺めても虚しくないか?」
「ぼっちは慣れているから淋しくないぜ乙環さん」
パーカーを羽織っていた乙環さん。
さすがに水着じゃないか。
よく見たら俺が前に貸したタイプと同じデザイン、偶然もあるものだ。
まだ外してないポニーテールが揺れる。
手にはうちの珈琲を持っていた。
「ほら、マスターからの差し入れだ」
「おお、ありがたい」
マスターが淹れてくれたリンゴブレンドだ。
これを飲むといかに俺がまだ修行不足なのかよくわかる。
しかもこれはいつもと配合がちがう特別製。
試作品を俺で試す気か?
生憎マスターに心酔している俺は全て美味いとしか答えられないぜ。
「花火綺麗だな……」
「本当だ」
見上げるとスターマインの派手な光りで、暗闇からポニーテールした乙環さんが美しく浮かび上がる。
「折角の花火なのに僕としたことが浴衣を忘れるとは……」
「しかも長野がいるのに結局アピール出来ず仕舞いだもんな」
「……ああ」
「俺も見たかったぜ」
「君は今日随分攻めて——いや、そんなことより僕のせいみんなに迷惑をかけて申し訳ない」
「あれは事故だ。ただ単に乙環さんがめちゃくちゃ美人ってだけだろ?」
茶化すなと乙環さんは俺の背中を叩いた。
特製珈琲こぼれるからやめてほしい。
「なあ神無月」
「ん?」
「君はこれからどうするんだ。将来の夢とかあるんだろ?」
「いんや、はっきりとしたビションはない。ただ家に干渉されたくないから早く自立したい」
「それがマスターに弟子入りした理由?」
「ああ。それに生き方がかっけーからかな」
俺はスマホで写したマスターが珈琲注いでいる一枚を披露する。
ダンディーだぜ。
「僕は長野家に恩返しをしようと頑張った。あそこが僕の居場所だから。でもリンゴ亭が居心地よくてそれがだんだん曖昧になっている自分に戸惑っている」
「やりたいことをやればいいんだよ。それを止める権利は誰もい」
もちろん、乙環さんが長野を大切に思っているのはわかっている。
でもよ、自分の人生は自分のものなんだぜ。
他人に振り回させるなんてナンセンスだ。
「もし、もしもだよ、君が将来喫茶店をやる気があるのなら僕を雇ってくれるかい?」
「乙環さんを?」
「君と一緒に仕事したら面白そうだ」
「それは嬉しいね」
「そうだろう。ということで僕もマスターに弟子入りする」
「それは認めん。マスターの弟子は俺だけだ」
「きみはスイーツ作り下手くそだろ?」
「う、それは否定できない」
覚えていてくれと俺の頬にキスをする。
取り引き二十八回目。
それとこれが前金だとパーカーを脱ぎ捨て、「か、神無月! 自分なりに頑張って選んでみた。か、可愛くないならそう言ってくれ⁉」ヤケクソ気味に純白のビキニが姿を現した。
これは……フロントリボンビキニ。
破壊力抜群の巨乳をハンカチのような布切れで結んでいる。
よほどスタイルに自信がないと着れないとお竜が語っていた。
「綺麗だ」
「ききき、綺麗いうな、恥ずかしい。でも、ああ、ありがとう。恥ずかしいの我慢して着たかいがある」
「長野には見せなくていいのか?」
「昼見せたから十分だろ。僕は君だけに見てほしいんだ」
「……ごめん言葉が見つからない」
ならばとたくさんのお礼を込めて俺は額へキスをした。
しかし、乙環さんが俺を離してくれない。
余韻に浸りたいのだろうか?
ならば、今がチャンスだ。
今日、俺はずっと告白するつもりだった。
もう、ガマンできない。
「花火大会そろそろ終わりだな……」
「乙環さん」
「ん? どうした真剣な顔をして?」
「こんなゼロ距離からなんだけど、とても大事な話がある」
こんな状況下でも乙環さんはホールドした腕を緩めない。
「どうした改まって?」
「俺のこれからの人生に関わる大事な話だ」
「…………もももももももも、もしかして? まって! まだ僕はその、心の準備ができてない!」
「それでも言いたいんだ! 今しかない!」
「&#@=*〜わ、分かった! 分かったから興奮するな」
「俺と、」
「………………………」
「俺と、」
「………………………」
最後の花火が盛大に打ち上がる中、
「俺と友達になってくれないか⁉」
「僕でよければ喜んで!」
想いが同じだったのか、申し出と同時に返事が帰ってきた。
「やったー! これで三人目の友達だ。また友達百人計画が一歩前進だぜ」
「………………………」
「乙環さん?」
「忘れていた。考えてみればまだ僕らは友達ですらなかったのだな」
「濃い毎日過ごしていたからな……。乙環さんありがとうな。これからよろしく」
「どういたしまして! これからよろしくたのむぅ‼」
「痛い! なんでヘッドバットする?」
知らんと俺を突き飛ばした。
なんかキレてない?
ちょっと友達は烏滸がましかったか?
さてと友達要請成立したところで、もう一つの厄介事を片付けておこうか。
長野と乙環さんにまとわりつく寄生虫を全員潰す。




