47「キス二十八回目、サマフェス三日目、偉大で強固たる幼馴染み達の絆」そのニ
太平洋の熱い海風に乗って磯の香りが漂ってくる。
遠くの景色を眺めると、海面に映る眩しさでスマホの画面フルマックスみたく目がチカチカした。
「神無月、来たぞ」
「ああ」
「……頼む………………きてくれ」
「だな」
にわかにレストラン・軽食エリアが活気はじめる。
美味いもの求めてぞろぞろとこちら側へ押し寄せてくる行楽客。
しかし残念ながら乙環さんの祈りは通じず。
身構えるもそれはまるでモーゼの十戒の如く真ん中にあるリンゴ亭を避けていく。
この負の流れは変わらないのか?
「……………………」
「……………………」
流星から細工は流々、仕上げを御覧じろとメッセージが届くもにわかに信じられない。
それだけ追い込まれている。
学園で散々やられた根も葉もない噂から生まれた風評被害が一番恐ろしいことを再度認識。
「やはり無理なのか……。元々は僕が原因だから罪悪感で一杯だ」
「かいち——乙環さん、終わるまで下を見るな」
「済まない」
「大丈夫だ。売れ残りは長野にまた頑張ってもらおう」
その長野はクシャミをしながら日陰で課金ゲーム。
どんな状況下でも動じないのは腐っても配信者だな。
暑い……。
めっちゃ熱い。
それでなくても慣れない行楽地での商売。
長い時間ずっと立ち尽くしているのは意外と体力を奪われるものだ。
ペットボトルの水は予定より無くなるのが早い。
既にシャツには汗がたっぷり染み込んでいた。
「水分補給しろよ神無月?」
「わーてる。乙環さんこそ無理するなよ」
「心得た。君も倒れてないでくれ。もしまた混雑したら僕だけじゃダムみたく崩壊する」
「好きなやつを前にそんなだらしない格好なんてできるかよ」
「そうだな……。でも、上杉は大丈夫なのだろうか?」
「俺は親友で幼馴染みの絆を全面的に信じてる」
俺達は海水浴場での評判が相変わらず悪い。
ただ、乙環さんがネットで誤情報とともに話題に上がっただけでここまで酷くなるものなのか?
こんな状況下でも落ち着いているマスター。
いつでもお客さんへ最高の一杯を提供できるように準備万端である。
そんなマスターは、
ただ、一言、『風は吹くぜ』と。
マスターの神通力なのか、数十分後ようやく一人だけだがお客が入る。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ!」
だが、何処かで見たことがある客だった。
いつものくれとサングラスを外す。
常連客のおっちゃん?
アロハシャツだったからわからなかったぜ。
そのあとも続く常連客達。
「ああん、ボウヤきたわよ♡」「鹿伏兎ちゃん!」「不良君、リンゴ亭のピンチだってね。ここでマスターを助けないとスイーツが食べれなくなるわ」
オカマバーのママ、近所のばあちゃん、肉屋の女将さん。
ほぼ毎日合っている顔ぶれ。
どれもこれもうちの常連客達だ。
中には海なんて数十年ぶりなんて人もいた。
「みなさん……ありがとうございます」
「いらっしゃいませ!」
次々と訪れるリンゴ亭のリピーター達。
きたよーとOLのオネーサン達が手を振る。
続いてリンゴ亭パートのおばちゃん&ギャル。
リンゴ亭の危機だもんねとオーナーに直接頼む。
「生徒会長!」「会長ー!」「水臭いよおとわちゃん!」
うちの学園からも応援が次々と到着。
生徒会長にハイタッチ。
何なんだ、この一発逆転ハリウッド映画みたいな展開は?
なるほど、これは流星が仕組んだことか。
でも、どうやってみんなに知らせたのか?
ラインでそんな感想をあいつへ送る。
その答えは流星からきた返信に、『坊主なめんなや。全て檀家さん繋がりだ』相変わらず檀家さんネットワークがパないな。
「みんなの応援で元気百倍だ。頑張るよ神無月……泣いてるのか?」
「泣くかよ! こ、これは漢の汗だ。けして常連客達の絆に感動したわけじゃない」
「うむ、そういうことにしておこう」
「うっせーや」
うちの常連客で固めた列、これが呼び水となり再びうちの店が賑わい始める。
これぞサクラ呼び水戦法。
一度リンゴタルトとリンゴブレンドを口に入れたら不満なんてどっかに飛んでいくんだよ。
しかしここで問題発生。
うちにお客さんが戻ってきたのはいい、しかしとても回しきれない盛況ぶりなのだ。
長野も頑張っているが、客商売には向いてないから邪魔。
あいつ手を抜きすぎ。
「いらっしゃいませ! 神無月、ちょっと間に合わない!」
「お客様こちらにお並びください。すまん、ちょっと待ってくれ!」
駄目だ、席の片付けが間に合わない。
外にある冷蔵庫からリンゴのタルトを運ぶのが時間かかるんだ。
確実にクレームがでる。
——雪之丞、鹿伏兎生徒会長、ここのテーブル片付けるよん!
「え?」
「誰だ?」
そんなとき、突如聴こえる謎の声。
とうとうピンチすぎて幻聴が聴こえるのか?
「ふふふのふ、とうとう真打ち登場だにゃ!」
「お竜先輩かっこいいっす!」
「わたくしはついていけません」
逆光の中立つ三人組。
「すまない、誰だか知らないけど彼方だけでも迷惑なのにこれ以上、無用の親切はいらない」
「悪い、いま忙しいからかまってられないぜ」
誰だか知らないが空気読め。
親切でやってくれるのはありがたいが、ある程度わかってないと足手まといだ。
「「「二人ともひどい!」」」
こいつらが抗議するも鬱陶しい。
「だから君らは誰だ⁉」
「パーカー取れや!」
「もう安心するっす! ウチ、玄武旗五香と」
「わたくし寅丸潮音」
「そして竜石堂漆葉、チーム白川桜華学園女子バスケ部三羽ガラスが全てねじふせるぜえ」
「うるさいぞ竜石堂! 御託はいいから早くサポートに回ってくれ。猫の手も借りたい」
「玄武旗はホール接客、寅丸はレジ打ち、お竜はリベロ、文句は後で聞くから早くしろ!」
「手伝うのにゃあ」
「は、はずかしいにゃん」
「ウルハにゃんに任せるにゃあ」
纏っていたパーカーを脱ぎ捨て、招き猫のポーズをとる三馬鹿。
マジで余裕がない俺達は余計キレたのは言うまでもない。
元々近くでスリーオンスリーの大会に参加していたから、客としてサプライズで駆けつける予定だったとか。
流星の連絡を受けレンタルサイクルで猛ダッシュしてくる。
そのお竜と共にいる寅丸と玄武旗は白川桜華学園女子バスケ部の後輩だ。
お竜と仲がいい。
そしてうちの常連客でもある。
俺に敵意丸出しなのが寅丸、好意的なのが玄武旗と覚えればいい。
ちなみに玄武旗は単車のツーリング仲間である。
三人共、水着姿になりバスケで鍛え抜いた健康的な肉体美を披露。
通りかかる男どもの心を鷲掴み。
見事虜にして売上に貢献した。
「竜石堂達が来てくれたなら心強い」
「お前ら 色々と文句言いたいがサンクスだ!」
「神無月先輩、お竜先輩が幼馴染みのピンチだからって決勝戦辞退したんすよ。いいなー大切にしてもらって」
「わたくしは竜石堂先輩に従うのみ。貴方がどうなろうと知ったことじゃないですが、リンゴ亭のリピーターとして力貸します」
「あとはどーんと私達にまかせなさいよん!」
これならイケるぜ。
「よし! ここから巻き返すぞ神無月!」
「応!」
ここに来て、満を持し乙環さんはポニーテールにフォームチェンジ。
シャツを豪快に脱ぎ捨てた。
黒いタンクトップタイプの水着姿を披露。
胸周りだけ覆った短いタンクトップ、下は水着の組み合わせ。
スポーティーで乙環さんにとても似合っていた。
——休憩時間。
体力全部出し切った俺達はしかばねのように沈黙。
なのだか、乙環さんの様子がおかしい。
俺達がへたってそこら辺で転がっている中、「すすす好き? え? 僕のこと?」全身真っ赤になって凝り固まっていた。
熱中症か?




