41「キス二十六回目、海の家期間限定版『腐ったリンゴ亭』へようこそ!」その三
明日よりNTR生徒会長は投稿を一日一回12:10だけに縮めます
どうぞよろしくお願いします
午後四時。
「お客様おまたせしました、アイスのリンゴブレンドです」
「お気をつけて」
俺はマスターの代わりに立っているキッチンから頭をさげ、乙環さんはテーブル拭いたり、溜まったゴミを会場の集積場へ持っていってる。
夕方になりだいぶ人の出入りが緩やかだ。
日が降り始めたので夕陽の直射が中々眩しい。
そんな中、マスターは運営委員会へ顔を出しに離れ、店は俺達で回していた。
「すまんナメていた。神無月が言った通り地獄だったな……」
「そうだろ。あ、乙環さん、お客さんはもういないか? こちら側だと太陽の反射で確認が取れない」
「残り一卓だけ。……カラオケ大会観たかった」
「全く。耳へ興味ある情報が強制的に流れてくるのは拷問だぜ」
人が多い賑やかな日中と違い、穏やかな波が聴こえるようになった夕暮れ時。
サマーフェスティバル一日目は無事終了する。
メインステージでは地元の学生によるよさこいソーランとか、地元軽音楽コンテストやダンスバトルなど若者向けの様々なイベントを開催。
俺も地元出身の芸能人のトークショーとか、県内限定アイドルグループには興味があったけど、残念ながら忙しくてそれどころではなかった。
色々と気合い入った中規模のイベント。
観光地からは多少はずれた田舎の海水浴場ながら盛況だった。
猛暑の中、運営委員会も商売やってる俺達も大いに頑張って、開催一日目は大成功を勝ち取る。
「ありがとうございました!」
「乙環さん、リンゴのタルトこれで終わり」
「了解だ」
「いやーさすがマスターのタルト。凄い売れっぷりだ」
「本当にな。人生の全てを賭けているだけはある」
「俺も自炊しているからそれなりの自信あるけど、マスターに比べるとひよっこと思い知らされる」
「その代わりに珈琲へのこだわりは凄いと思うけどな」
「ありがとう、それは励みになるぜ」
お客さんがいなくなったからだろうか、気が抜けた乙環さんは顔をほころばせる。
焼けているような朱色と陰の鮮やかな陰影が彼女の美しさをひと際際立てせた。
「なあなあ神無月、実はお願いがあるんだ」
「なんだよ?」
「僕もエスプレッソの機械を使ってみたい」
「まて、乙環さんにはまだ早い。色っぽい流し目で訴えたって駄目。もし壊したら豆の代わりに俺が深煎り焙煎される」
「練習ぐらいいいだろう? 使ったことない機材に興味がある」
「明日もあるんだ。やるなら店でやれ。オーダーメイドの材料が多いから無闇に減らすと怒られる」
「……………………駄目か?」
「……ちっ、一回だけだぞ」
店だとオーナーの目が光っているから、トライするならチャンスは今しかない。
絶対確信犯だな。
「やった! だから神無月、大好きだぞ!」
「え?」
「もちろん先輩としてな」
「あ、当たり前だ」
好きと告られ動揺した俺。
言葉の綾というのは理解しているが、面と向かって好意を伝えられたらどんなやつだって動揺してしまうだろう。
最近、漸く珈琲系をひと通り任せてもらえるようになった。
マスターみたいなエスプレッソを自由自在に操れるバリスタには遠く及ばないが、淹れ方は様になってきたと自負。
スイーツの腕前は全然上がらない代わりに、これに関しては太鼓判を押してもらっている。
「なら早く教えろ。豆はどこにある?」
「いくら成長スピードが早いからって珈琲を侮っては困る。ってこら、勝手に入ってくるな。狭いって」
「ふふん、こんなピチピチの女子と密着して嬉しいくせに」
「うるさい。大体そんな見ただけでどうにかなる代物じゃない」
「わかってる。まだ新人だから客へ出せないなんて百も承知だ。そこまで僕は自惚れやではないぞ」
「ならいい」
結構ぎりぎりの窮屈な厨房へむりくり乱入してくる、子供のようにはしゃぐ乙環さん。
心なしかお祭りだからテンションは高め。
言っても聞かないのは相変わらずだが……。
仕方ないので、このわがまま姫に付き合うことにする。
「神無月暑いからそんなに密着するなよ」
「無茶言うな、なら俺が外へ出る」
「冗談だ…………そばにいてくれると安心する」
「え?」
「ばかもん、か、勘違いするなよ。経験豊富な君が側にいないと不安になって困るという意味だ」
「分かっている」
いーや、君は全く分かってないブツブツとわけわからないことを呟く。
日差し強かったから日射病になってないだろうな?
うわー、汗だくなのに密着しているから体温が倍に上がる。
乙環さんの心音もどくんどくんってダイレクトに響いて来るな。
「——姉さん、アイス珈琲ちょうだい」
「かかかかか、彼方! ま、まだ遊んでいたのか?」
「いや、配信で流す素材集めと友達とイチャイチャしている画像撮っている。俺を同類のヒキニートと疑っているアンチ連中にリア充とボッチの格差社会を思い知らすんだ」
「そ、そうか」
「何をそんなに驚いているんだよ。まさか弟に内緒で男とイチャイチャしていたわけじゃないだろうね?」
「ば、ばかもん。そんなわけあるか」
だよねとおどける長野。
なまじ正解だからこいつの勘は侮れないな。
俺は反射的にしゃがみこみ身を隠したから気づかれていないはず。
だがしかし、熱は下に篭もるものなのでもっと暑かった。
更に追い打ちをかけ乙環さんの足へ密着。
俺の息が当たる度に変な声を上げるのでとても困る。
「彼方お前は、学園ではカリスマって呼ばれているくせにネットでは敵が多いもんな。思想が歪んでる」
「喧嘩売ってきたら反撃しないとなめられる。それがネットで稼ぐものの呪われたサガさ」
長野はたくさん遊んだのか日焼けして真っ黒だった。
あれは剥けると痛いパターンだな。
事前に日焼け止めクリームを塗っている俺達は関係ない話。
「でも、姉さんの珈琲か……」
「なんだ。プロが良かったか?」
「いやいや、姉さんは何やらしてもうまいから文句ないよ」
「ならいい」
珈琲をドリップした乙環さんは氷の入ったアイスコーヒー用のコップへ注ぐ。
まだ教本格的にえてないから分量とか蒸らす時間とかバラバラ。
でも、何事も実践を積ませたほうが覚え早いからこれでいい。
「あ……」
「どうしたの」
「はあはあ、何でもない」
「顔赤いよ」
足を交差して様子がおかし乙環さん。
何故か俺を肘で小突く。
やめろエロガッパと潜めた小声で訴えてきた。
え?
俺何かしたか?
乙環さんは何処か苦しそうだ。
「う、ああん!」
「?」
「心配ない。はいどうぞ」
「ならいいけど」
どうやらくすぐったいようだ。
足の指を丹念にしゃぶるなと警告を受ける。
いやいや、そんな変態プレイは…………あ、夏休み初日に乙環さんがしたか。
でも、犯人は俺じゃなくて猫だ。
何故かついてきた宿の飼い猫が、乙環さんの足にまとわりつく。
とてもくすぐったそうだ。
たぶん磯の風味を沢山染み込んだおみ足が、グルメな猫の好みに合致したのだろう。
そうか、マスターなんかご機嫌と思ったら宿の猫連れてきていたのか。
よく熱くなかったな?
周りを確認するとゲージの側に氷が一杯設置してある。
その猫が一杯動き回るから足がもつれて、尻餅つく代わりに乙環さんの大きめな尻が俺の顔へすっぽり埋まる。
「お金はいらない——うっ……ああああん!」
「ただでいいの?」
「う、うん。これ練習用だから彼方にあげるよ」
「なんかイロっぽくね?」
取り引き二十六回目。
事故とはいえとうとう尻にキスしてしまう時が来てしまうとは……。
しかも水着、たったの生地一枚だったから感触が凄まじかった。
乙環さんも俺がキスをしたことが分かったのか、小声で「この、へ・ン・タ・イめ」と呟く。
このままでは乙環さんに痴漢の烙印押さる。
なので猫を抱えて、『犯人は俺じゃないからな』と指でお腹をなぞって気づかれないようにキッチンカーから離れる。
「っっつ〜〜〜〜♡♡」
去り際、口を塞ぎ何故か声にならない声で悶える乙環さんがとてもエロかった。
このとき、
『最近あいつとはどうなんだよ? 生徒会活動ともにしているんだろ?』
『神無月か?』
『姉さん、やつには十分気をつけてよ。何をされるかわからないよ』
『そうかな』
『最近あいつに対して気を緩めすぎ。よくない噂が一杯ある。油断したら何をされるか』
『すまんな。僕はもう噂で人を疑うのはやめたんだ』
『姉さん!』
兄弟喧嘩か?
よく聞こえないけど、乙環さんなら心配ないか。
とりあえずは猫好きのマスターを問い詰めないとな。




