35「キス二十四回目、第一次生徒会長VS幼馴染み戦争 水着売り場の変』そのニ
「……………………」
「鹿伏兎生徒会長ほどの美女なら水着きたらどんな鈍感男でもノックアウトです。凝り固まった認識改めますよ」
「でも仕事だからといって嫌がっているのに強引は良くないぜ」
「仕事か……………………………やっぱり着る。済まない神無月、ゴネて悪かった」
「ですよね。好きな人に似合っている水着を披露したいのは乙女の願望。絶対長野っちに気に入ってもらわないとね。じゃないと雪之丞とのラブラブ計画に支障が——ごほごほ、何でもない」
「分かった。俺は会長の判断に従う」
乙環さんは腹を括ったのかそこからスムーズに進む。
お竜が長野から直接聞いた好みを元に店員さんへ相談すると何着か持ってきてくれる。
こういうのは専門家に任せるのが一番らしい。
「彼方はこんなの好きなのか? 紐ビキニ、オフショルダービキニ……これは恥ずかしいな」
「私的にはだいぶ抑えているつもりですよ。雪之丞はどう思う?」
「その……会長が選ぶならダイビングスーツや海女さんの磯着でも受け入れるぜ。俺だけはけして笑わない」
「神無月……僕をアナグロ女とからかっているだろ? それに今更だが竜石堂は何故協力的なんだ? 彼方と仲良いから狙っているとばかり……」
「日頃から仲間達が散々お世話になっているんです。鹿伏兎生徒会長へ恩返しは至極当然。それと長野っちは友達だから恋心は抱いてないです」
「乙環さん強引ですまんな。俺にとってお竜は一番信頼してる親友だから協力を要請したんだ。恋人いた経験者としてアドバイスをもらっている」
水着を鏡の前で合わせ唸っている乙環さんに不誠実を詫びた。
「別に責めてはいないぞ。味方は多い方に越したことはない。しかし竜石堂ほど多忙なやつをこんな雑事に巻き込むのが心苦しいだけだ」
「いやいや、好きでやってることなんで安心してください。なのでちゃっちゃと長野っちと恋人なり結婚なりご自由にどうぞ。ふふふ、雪之丞と二人きりになってもスペシャルハードなサマフェスならば、疲労が先に来てムード良くても好感度イベントは起きないから安心だよね。ソースは私——げふんげふん何でもないです」
「……………………」
「元々は神無月と僕の問題だ。部外者である君の大切な夏休みを台無しにするのは本位ではない」
「もう、何を言ってるんですか。海に関しては元々私がわ・た・しが約束破ったのが原因なんですから気にしなくていいです」
「……………………」
なんだろうか、二人とも笑顔なのにどこか怖い。
どんどんデッドヒートしている気がする。
それもそうか乙環さんもお竜も長野狙いなんだもんな。
真意隠して密かに火花散らすか。
おお、怖い怖い。
お竜も長野巡っての恋敵なのに悪いことをした。
この礼は必ずしよう。
ところでお竜は長野へお披露目すること前提で話進めているけどその計画に重大な欠陥があるんだぜ。
「僕的には花柄のワンピースがいい……」
「全然駄目です。模範的ですが答えとしては間違ってます。普段なら正解なんですが、客引きもあるからビキニタイプでスタイル抜群ところをアピールしましょうか。長野っちなんてイチコロ間違いなしです」
「なぁ……」
「そうか、しかし僕は胸囲があるからあまり注目を浴びるのは好かん。知らないチャラついた男共に言い寄られるのは正直迷惑だ。彼方だけならまあ我慢できるがな」
「ノー! バストは強調してナンボです。その武器でむしろ会場を虜にしましょう」
「どうでもいいが、長野に見せることを前提に話を進めているが当のご本人は来る予定あるのか? それとも家でさりげなく見せるとか?」
「「あ」」
二人は一瞬だけ時が止まる。
大事な主語をおいてけぼりにしていた。
「翌々考えを巡らせてみたら彼方は海やプールへ行ったことが皆無だ。もし誘ってもいい返事はしないだろう。家で見せるのだってゲームやっているからこちら側なんて振り向いてくれない可能性がある」
「失敗。迂闊だった。そこまで考えが及ばなかったです」
「振り出しに戻ったな」
しかし店員さんも困ってるし、取り敢えず試着するものを選べと乙環さんとお竜に促す。
まずは黒のフリルビキニ。
ブラの部分がフリルになっていてボリューム感がある。
「そのどうだ……神無月似合っているか? 馬鹿にするなら馬鹿にしろ!」
「キャー可愛い! やはり会長はブラックカラーが冴えますね」
「会長可愛いよ」
肉のないスレンダーボディーなので体の線がくっきり出ている。
腹筋も鍛えてあってとても格好いい。
しかし乙環さんはどこか不機嫌だ。
血管浮いている。
次にクロスホルタービキニ。
ブラの布地が胸の前で交差したデザインだ。
長い紐をお腹でクロスして止めている。
「これなら気にいるか⁉ 笑うなら笑え!」
「めちゃかっこいい! モデルになれるクオリティー!」
「すげー」
ピクピクと眉が痙攣する乙環さん。
どうやら水着がお気に召さないようだ。
紐ビキニ。
ブラのつなぎ目が紐になっている。
パンツも結び目が紐で面積が小さめ……。
「くそー! もうヤケだ!」
「うわー大胆です! これだったらどんなイケメンも虜にできます!」
「とてもセクシーだ……」
俺の顔、ニヤついてないだろうか?
実はとても我慢していた。
乙環さんが凄すぎて言葉が出てこない。
お竜みたいに興奮したら変態の烙印を押されてしまうに決まっている。
何が気に食わないんだか、乙環さんは更にご機嫌斜め。
何処か衝動を堪えて身体がプルプル震えていた。
トイレか?
お竜にも気の利いたこと言えと肘でつっつかれる。
「ああ、やはり僕は何を着ても駄目なんだ。貝になりたい……」
「そんなことはないですよ。ほら、雪之丞!」
「その……とても可愛いぜ。俺、長野みたいな社交性がないから、こういう時なんて言っていいのか分からん」
落ちこんで試着部屋に閉じこもった乙環さんは本当に似合っているのか? とカーテン越しに問い掛けてくる。
その間にお竜は花摘み行ってくると席を外した。
「何やっているんだろうな僕は……空回りしてばかりだ」
「なんか色々と無理していたな」
「でも頑張ったろ?」
「ああ」
話しづらいから首だけ試着室へ突っ込む俺。
そこには力なくうずくまっていた生徒会長がいた。
「相手はあのモデル経験もある竜石堂だぞ。でも僕だって曲がりなりにも女だ。恥は掻きたくないからな。せめて気になる奴の前では格好つけたくなるもんだ」
「でも今日の乙環さんは最高だった。可愛いところ沢山拝めたし惚れ直した」
紅くなる乙環さん。
しかし気になるやつとは誰のことだ? 俺以外の誰かだろうな。
「ホレナオシタって……ばかもん」
「やはり俺の相棒は乙環さんしかいないぜ」
「ほら神無月、今日の分だ、受け取れ」
「あ…………」
不意にデコへキスされ、そのまま熱を測るかのように額同士を重ねる。
「神無月を感じる」
「俺もだ」
「君は結構体温高いのな?」
「乙環さんは逆に低いんしゃないか? 冷たいよ」
それにしても先程から身体が熱い。
まるで誰かに抱きつかれているみたい——じゃなくて抱きつかれていた。
その証拠に背中に柔らかなものが押し付けられている感触がある。
後ろを振り向くと水着に着替えたお竜だった。
デニムのスポーティータイプでよく似合っている。
「竜石堂なにをやっているか⁉ 早く神無月から離れろ! 破廉恥だぞ!」
「いいじゃないですか。明日から当分会えないんだから幼馴染み分を補充しているんです」
「ちょっと乙環さん近い近い! お竜も早く離せ! 大体なんでわざわざ水着に着替えているんだ?」
耳元で鹿伏兎生徒会長に負けたくないから♡と宣言する。
仲良いんじゃないのか?
興奮した乙環さんもお竜に張り合って急接近。
至近距離で生地に包まれた二つのスイカが踊る。
これが前門の虎後門の狼というのか……。
暑さと気持ちよさと女子のいい匂いで血圧が急上昇した結果、鼻から大量に流血したのは言うまでもない。
だが弁明させてくれ。
けして欲求不満だった訳ではないんだ。
本当だぞ。




