34「キス二十四回目、第一次生徒会長VS幼馴染み戦争 水着売り場の変』その一
☆★
八月八日
取り引き二十四回目。
雲一つない日本晴れの駅前通り。
まだ朝十時なのに熱で逃げ水が投影されているアスファルト。
歩行するほど熱風がキツイ天然サウナ。
気が付いたらカラッポになっている出掛けた時購入したスポドリ。
しかも気温が四十度オーバーってなんなんだよ。ボンネットだったら目玉焼き焼けるぞ。
暑さ対策でハーフパンツ&タンクトップ&サンダルだけだが、うだる灼熱地獄に代謝いいから汗は止まらない。
「はぁ……神無月と竜石堂と僕か……。よく考えたらこのメンバーで何処かへ出掛けるのは初めてだな」
「いやぁ、暑いですなー! まさにザ・夏だよん」
「まじ死ぬわ」
声の主は乙環さんとお竜と俺。
今日、ある約束のため駅前で待ち合わせた三人。
しかし言い出しっぺのお竜以外テンション低めだ。
それもそのはず、昨日話し合った結果、お竜主導のもと善は急げということで急遽ショッピングモールへ水着選びを敢行する。
キャンセルで穴を開け責任感じるのは分かるが、強引というか少々空回り気味だ。
実際当事者の乙環さんは困惑気味。
それでなくても今回サマフェスの買い出しを兼ねているので予定時間が押している。
元々は乙環さんの水着購入が主目的だったけど、マスターへ選手交代諸々を報告したらついでに材料の不足分も依頼。
幸い隣に大型ホームセンターがあるから困らないが、専門の道具とかは選ぶのに時間が食うのだ。
「明日から二泊三日の泊まり込みか。自信はあるけど僕で竜石堂の代役務まるか不安だ」
「二人共済まんです。お昼にハンバーガー奢るから許してちょ」
「分かったから拝まなくていい。何度も言うが気にするな。マスターが給金に色を付けてくれたから本人も文句はない」
それにしても豪華メンバーだな。
右は熱射病対策で日傘をさした白川桜華学園の女帝に、左は炎天下なんてなんのそのなテンション爆上がり元世界クラス女バス選手。
家業が忙しい流星の腐れ坊主へ経緯を伝えたら普通に泣かれる。
明日は三人でキャッキャウフフなデート、明後日から女の子とひとつ屋根の下とな。
しかしながらそんな生易しいイベントではない。
あのマスターが店を休業して、腐ったりんご亭の看板背負ったキッチンカーでヨソへカチコミだぜ?
いうなればこれは他県への侵略戦争だ。世の味オンチ共にマスターの珈琲とスイーツをとことん味わってもらうためのな。
もちろんシマ荒らし認定され商売敵からは嫌がらせ受けるだろう。
売り子もすぐナンパされるから冷静な判断できる俺の役割は重要になる。
これはタマの取り合いだ。
気を抜いたら死ぬ。
去年も経験しているがあれはヘビーなんてもんじゃない。
マスターの指名じゃなかったらもうしたくないぜ。
「ほほう、ここはかなり大きなモールだな。こんなきらびやかな所は初めて来る。名称違うだけで百貨店と大差ないことを最近知ったぐらいだ」
「あはは、意外と学業以外は情弱ですよね。私は部活の後輩達とよく利用してますよ」
「何故だかうろつくと通報されてしまうから、俺はスーパーしか行かない」
目的地へ到着して乙環さんはキョロキョロ眺め回す。
本当に初見なんだな。
何処か落ち着かない。
それを目の当たりにしてお竜はご満悦だ。
第三者的視点では両手に花とかぼやかれそうだが、俺の心は晴れやかじゃない。
だってそうだろう? 二人がこんなに懇意だとは予想外。
なんでも部活動会議で毎回顔合わせしているし、監督や先生へ言いづらい事も相談に乗ってもらう仲らしい。
まずい……常習化しているお竜の悪口がいずれ露見してしまう。それどころか、両方にセクハラ紛いなことも発言しているかもしれない。
情報共有している仲なら俺はもれなくギルティだぞ。
早いうちに謝罪した方がいいのではないか?
その証拠に二人とも笑顔を崩さないけど空気が重苦しい。
そんな中、三階まで吹き抜けになっている開放感ある広い店内を歩く。
大型商業施設だから客は多い。それに何処か注目されているような気も……。
多分、人相の悪い俺を学園が誇る美少女二人に両サイドガッチリ固められているから、絵面的に連行されている囚人に映るのかもしれん。
しかも今回二人共服に気合が入っているから尚更。
普段ならこんな露出度の高い衣装なんて着ないだろ?
お竜は無地のホワイトキャスケット・デニムショートパンツ・肩とヘソが出ている黒のキャミソール。
その上から涼しげな白のシースルーシャツを羽織っている。
対する乙環さんはレースのトップス・ゆったりとしたワイドパンツ・サンダルと黒で統一した何処かモダンなコーデ。
会うたびにファッションレベルアップが著しい乙環さん。
最初は格安チェーン大型店の大量生産型無地シャツ&デニムパンツルック姿だったのが遠い昔のようだ。
社交性が上がってそこら辺も意識するようになったのか。
「なあ竜石堂、わざわざこんな高そうな専門店で買わなくても、たかが水着だろ、近場の低価格チェーン店で十分じゃないか?」
「あまーい! 鹿伏兎生徒会長は死ぬ気ですか⁉ 水着は女子の戦闘服なんですよ! 妥協したら受験と同じで偏差値が高水準のアオハル戦線は生き残れません。大体自身のジャストフィットな一品は流行に敏感であるアンテナショップじゃないと発見できないのです」
「確かにお竜の熱弁一理ある。妹とかやたら気合入れるもんな。無理にお願いした身で厚かましいお願いだが、俺もマスターより頼まれているからある程度人を惹くコーディネートをお願いしたいんだ」
「うーん、神無月済まん。仕事の為だから付き合ったけどいまいち気が乗らない。チャラついた恰好して男共に媚びを売るのがどうしても抵抗がある」
「うむむ、辛辣ですね。まあ気持ちはわかるけど。なら考え方を変えましょうか。好きな相手へ披露する心づもりで挑むというのは?」
「いいアイデアだけど、どっちみち青春を愉しむのが不得手の会長には少々ハードル高くないか?」
多数からモテるより意中の相手へ振り向いてほしいのは分かる。
しかし長野の件はそんな単純な言葉で片付くほど薄っぺらいものじゃないだろう。
デリケートな案件だからお竜にはもっと慎重に事を進めてほしい。
「むっ……失敬な、僕だって乙女だぞ。気になる異性へ着飾った姿を見てほしいという欲求ぐらいある。ちょっとした変化に気付いてくれると嬉しいものだ。ただ大衆が行き交う面前で水着となると話は別」
「もう、雪之丞は無神経過ぎるよう」
「しかしお竜よ、あれを会長に着させるのか?」
俺が指差した先、店頭のディスプレイされている色とりどりな水着に、乗り気じゃなかった乙環さんは目的地へ到着すると凝り固まる。
「なんだこれは面積がエグイ……、ひゃあ、隣は肌が露出し過ぎている、あっちはほぼ紐だぞ? ……やっぱり僕には敷居が高いから退却したい」
「ああ、逃げないでくださいよ⁉」
「会長無理しなくていい。悪かったな。やはり明日俺一人でやってみるわ」
「僕は必ず約束をたがわない。ただ嫁入り前の娘が人前で肌を晒すのに抵抗あるだけだ。服着てでも絶対やる」
「いやいや、長野っちを一発KOする機会なんですよ。少しぐらい大胆にならないと惹き付けられません。雪之丞も見たいでしょう?」
「会長には会長のポリシーがあるんだ。それを踏み躙ってまでなぁ……」
乙環さんの気合は認めるが服でやるのは反対だ。
炎天下の長時間労働を舐めないでほしい。
それにしても今日のお竜は何処かおかしいな。
やけに強引だ。
いつもなら嫌がっている相手にここまでゴリ押しはしない。




