32「キス二十三回目、サマーフェスティバルの誘(いざな)いその一」
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八月七日
りんご亭は今日も盛況。
お陰様でまだ前半なのに体力をだいぶ消費した。
「うひょー雪之丞、そのサンドイッチ美味そうだね」
「大食らいのお竜にはやらねえぞ」
「ケチ! 向かい合い同じテーブル席で賄いを食べてるのが悪い」
「注文しろお客様。それでなくとも今日は会長がシフト抜けているから体力の減りが激しいんだからよ。ガッツリ回復させなくちゃならん」
「ひど! 私を呼んだのはそっちでしょ? だったらなんか奢ってくれてもいいじゃん」
「あのな、そういってりんごパイ三個平らげたのはどこのどいつだ?」
テヘペロ♡ とおどけるお竜に対して俺はバーロと悪態をつく。
今日は昼間からりんご亭でお竜と雑談。
尚、ランチ目当ての客達が漸く捌け、お昼休憩中を利用しているからサボりじゃない。
しかし他のバイト仲間を馬鹿にするわけじゃないが、案の定エネルギッシュな乙環さんは一歩抜きん出ているから、不在だと改めて骨身にしみる。
これほど体力削れるとは……。
「ねえ雪之丞注目、私かっこいいでしょ? 今回はスタンダードに決めてみました」
「セクシーポーズをキメているのに悪いがメガネと帽子って芸能人かよ? デニムのラフな格好は男っぽいお竜に似合っているがな」
「うるさい。変装しないと女子とか黄色い声上げるんだよ」
「バスケに関してはテレビ出演した経験がある全国区の超有名人だもんな。近辺の配慮なんか色々面倒そうだぜ」
引退してもネットでは未だにファンクラブがあるほど……。
油断すると囲まれるから人混みが苦手だった。
なのに無理矢理呼び出したので文句が多いのは当たり前か。
ガラス張りの窓から差し込む光に照らされる幼馴染み。
陰と陽のコントラストが雑誌モデルも務めたボーイッシュな美少女度を際立たせる。
「それより聞いたよ、鹿伏兎生徒会長頑張っているね」
「今のところ大活躍だ。責任感が強いから無茶するのではないか心配だがな」
「いつも二人でこなしてることが多いから、後輩達は美女と野獣コンビって呼んでいるよ」
「安直だがマジで嫌なネーミングだぜ」
「それはしょうがないよ。制服着た鹿伏兎生徒会長可愛いもん」
「ああ、常連さん達から支持を受けている」
乙環さんは隠密に行動してるらしいがこの通り筒抜けだ。
もう学園生の間では結構噂になっている。恐るべし学園女子の情報網。
知らねえのは本人のみ。
そして相変わらず俺の評価だけはどんなに頑張ったって人相悪い不良チャラ男、プラスになることはない。
「一般じゃなくて雪之丞の感想聞かせてほしいな?」
「うーん、イマイチよくわかんねえよ。仕事が忙しくてそこまで感傷に浸る暇がない」
「役立たずの鈍感野郎」
「なんとでもいえ」
確かに可愛い。
揺れるポニーテールを眺めているのは至福の時。
だがしかし、あくまでも店員として、そこに私情を持ち込むことはないぜ。
「だから不思議なんだ。一体どんな手品使ったのさ? 真面目一辺倒の鹿伏兎生徒会長が軽視していた雪之丞へ心開くなんて」
「そんなに関係は変わってねえよ。脅迫の誤解が解けたのと、バイト仲間だから交友関係向上の一環なんだろ」
「ふーん、それぐらいで嫌われ者ワーストワンに恋愛の手助けを依頼する?」
「疑い深いな……」
「まあ、大事な親友だし深くは追求しないけどね」
「そうかよ」
俺は会長との取り引きについて当たり障りない程度に情報開示していた。
コミュニケーションお化けのお竜は長野とも関わっているから事前に知らせておかないと、もしトラブルへ巻き込んでしまったらネット炎上してしまう可能性も無きにしも非ず。
なので念には念を入れ細心の扱いしないとならない。
しかし彼氏いたアドバンテージを持つこいつなら上手いアドバイスも期待大。
俺が一番頼りにしている相棒へ、前報酬にとイチゴスムージーを差し入れた。
だがどうやって切り出そうか……。
「それで何が聞きたいのさ?」
「え?」
「幼馴染み舐めんなよ。根は真面目の雪之丞がわざわざ忙しい時間帯に呼び出したんだもん。何か訳ありだとあっしは察したでござんす」
「いいのか?」
「なんでも強力してあげるよん。もちろんお礼は期待しているからね。あの苦い泥水以外……」
「会長と長野の詳しい情報が欲しい」
「お? プライベートには干渉しないポリシーの堅物君とうとう動くんだね」
「ここまで関わったら何とかしてあげたいのが人情ってものだ」
俺達は情報交換をする。
乙環さんと長野の情報をタレ込んでもらう。
代わりに乙環さんバイト活動記をリーク。
長野と会話するためのネタにするそうだ。
さすが友人の交友関係が太いから情報網はピカイチ。
大抵のことは知っている。
「全面的に私も加勢しようか? 早く片付くよ」
「ありがたい申し出だがそれには及ばない。会長が俺を指名したんだ。なら期待に応えたい」
「雪之丞かっけー! りょーかいかい。まーどんどん暴れていいよん。今回私は裏からサポートに徹する」
「感謝!」
感謝と共に頭を下げる俺。
あとは乙環さんがうまく成就するようにバックアップするだけだ。




