31「キス二十ニ回目、恋の相談と花より団子そのニ」
「さてと……、話の腰を折って悪いが乙環さんよ、どんどん本来の主旨から離れていく。脱線したままだと時間がもったいないぜ」
「これは済まない神無月」
「いや俺も共犯だ。大好きな事を共有できる仲間がいるのは正直嬉しいからな」
「しかり。同好の士がいると日常会話は飾らない自分になれるからついつい弾んでしまう」
クールにあんみつのおかわりを注文する乙環さん。三杯目。
あんこたっぷりな中々の大型サイズなのだがまだまだ余裕ある表情だ。
「それなら憂いを解決して大好きなサ店をもっと純粋に語り合いたいものだな」
「努力するよ。まあ彼方へ僕なりにアプローチは掛けているんだ」
ここからが本題だ。今まで無関係な俺が出しゃばれなかった長野の話へと斬りこむ。
「アプローチ? 忠告しておくぜ。もしかしてあいつの自己中を容認しているだけなら、それはただの過保護だ」
「駄目だろうか?」
「何回も言うがな、ぶっちゃけ好きだと認識した以上何かしらアクション起こさないと想いは伝わらない。俺もマスターが淹れた珈琲に一目惚れした時、直談判を敢行して半年掛かったが紆余曲折の末弟子にしてもらえたんだぜ」
「それができたらこんなに苦労しないぞ。大体好きな人に尽くすのは当たり前じゃないか?」
それはただの都合のいい女ってやつだぜ。男を駄目にするだけ。
進捗聞くが恋愛は不得手な俺でもモヤるほど予想外のダメダメで話にならない。
うちの生徒達を束ねる生徒会長にも意外な弱点があったもんだ。
「具体的には? たまに食事の支度するとか?」
「ほぼ毎日作っている」
「掃除洗濯」
「長野家の家事全般担当だ」
「勉強」
「僕に丸投げ」
「モーニングコール」
「常時朝起こすのが日課」
「待て、ここまで来るともう重度の依存だぜ……」
「無報酬の慈善事業でも僕はやりがいがあって案外楽しいけどな」
それだと共依存もしくはただの主婦。
大体長野の両親は何故放ったらかしにしてるんだ?
他人の家庭事情に首を突っ込むことはしたくないが、旧友の娘だからだといって他人任せなのは異常だ。まるで信頼を盾に縛り付けている奴隷か奉公人じゃないか。
これは間違いなく難航する。
想定外で俺一人だとキャパオーバーだ。
どうする、お竜と流星にも助言頼むか?
いや、乙環さんは俺に任してくれたんだ。ならやるしかないだろう。
いたたた……重圧で気が重いからお腹を擦る。—−などと格好つけているがただ単に団子としるこの食べ過ぎで腹苦しいだけだ……。情けない。
「これは過干渉だぞ」
「そうだろうか?」
「会長が長野の成長を阻害しているということに気づけや」
「それなら最後まで面倒を見ればいいこと。あと名前で呼べ」
あの長野の駄目っぷり、なんでも乙環さん任せだから女心もキチンと理解できねえクソ野郎になりさがる。
しかし責任は行動派かにみえて意外と奥ゆかしい会長にもあり。
ならば、
「乙環さんに課せられた課題は二つ。告白する事と長野の自分勝手を今後受け付けないこと」
「無駄だ」
「やれ。これも長野のためだ。今自立できないと将来取り返しのつかないことになるぞ。それに恋愛というのは対等な関係で成立するものだ。お前らの関係は歪すぎる」
「…………」
お竜の受け売り。
元々は詳細に吟味して作戦を練ろうと算段していたが、この甘やかし生徒会長はそれ以前の問題だぞ。
相談を受けた以上自責の念を感じ得ない。
あんみつ四杯目。
うわ、まだいくのか?
こんなデカ盛り、男でもきついぜ。
「すまん言い過ぎた。俺も人のこととやかくいう資格ないのにな」
「いや、君が本気で僕を心配してくれているのは伝わってくる。じゃなかったら引く手数多なりんご亭に誘ってくれるわけがない」
「俺は橋渡しをしただけだ。頑固なマスターの採用条件は厳しいから中々スタッフが決まらないんだぜ。だからバイトに採用されたのは自分で掴みとった権利さ」
「ふふ、やはり神無月は頼りになる。僕は恋をしたことも交際経験もないから、苦肉の策で手を出した、『腐っててもできる二次元流恋愛虎の巻』では心もとなかった」
自慢気に本を披露する乙環さん。
もう男同士が半裸で絡み合っている表紙からして駄目そうだ……。
ならまず会長のやることはその呪われた本を焼却すること。
俺が持っている『孫氏で学ぶ友達無双』と同系統なバッタモンの香りがする。
「とにかく、自分のペースでいい、少しずつあいつに自立を促すんだ」
「心掛けよう」
俺だったらぶっ飛ばしてわからせる方法をとるが、第三者が立ち入っても根本的に暴力で解決はできない。
ならば当人同士でかたをつけるのが一番だ。
「しかしよ、本当にパートナーは俺でいいのか? 成り行き上致し方ないとはいえ不安が募る一方だ」
「校内では完璧を演じていたのに初めて恥ずかしいところを沢山曝け出したんだ。内情を熟知している君にしか頼めんよ」
「くくくっ、最初は勝手に勘違いして自縛してたもんな」
「やかましい、それだけ必死だったんだ。大体な、学園内で悪評高いのを否定する努力しない神無月も悪いんだぞ」
「していたさ。乙環さんも噂先行して俺の話全く聴く耳持たなかったろ?」
「うっ……それ指摘されると穴があったら入りたい気分になる……」
恥ずかしがる乙環会長。
ならばデカ盛りあんみつおかわりするの止めてくれ。
ドン引きだ。
五杯目。
「好意もちゃんと伝えろよ」
「それが一番イメージが湧かない」
「どうして?」
「僕がそうだったように彼方も姉としてとしか認識してない。これを覆すのは至難の技なんだ」
「しかし、なぜ長野が好きなんだ? いくら一緒にいるからといってそう簡単に惚れないだろう。言っちゃ悪いがあいつは人で態度を変えるやつだ。調子いい口達者で抜け目ないぞ。いくら人気者でも正体知っている乙環さんがやすやすと心奪われるとは思えない」
「それは買い被り過ぎだ。一緒に住んでいれば情も湧くさ。それに僕は彼方に返しきれない恩があるんだ」
五杯目を難なく食べきった乙環さんは、これ以上おかわり出来なくて眉を落とす。
同時に俺の食べ残しへ照準を合わしてきた……。
「それは以前聞いた。恩人なんだろ?」
「ああ。昔の彼方は男らしくて優しかった。僕はかなちゃんって呼んでいたっけ」
「想像できん」
「僕は祖父母が火事で死んだあと、同じ集落の有名な研究家にお世話になった。その時知り合ったのが彼方」
「その割にはあいつ、あんたに対して扱いが雑だぞ」
「長野家でお世話になる時再会したが、共にいたのは短期間だしザックリとしか覚えてないらしいんだ。まあ僕も特長しか記憶にないけどね」
あいつこんなにいい幼馴染みのアドバンテージを無駄に消費しているんだな。
「俺が幼馴染みなら絶対に忘れないぜ。貴重な友達だからな」
「ありがとう。しかし洒落にならないこと沢山したから忘れていた方が助かる」
「だからあいつの甘やかしは罪滅ぼしも兼ねていると?」
「ああ。耳掻きと爪切りは流石に最近卒業したがな」
「なにそれ羨ましい」
「ほう……。君は耳掻き好きか」
「なんだその邪な笑みは……」
「はて、なんのことか」
なるほどな。
長野と乙環さんの関係がおぼろげながら掴みかけてきた。
当時色々と迷惑かけた幼馴染みへ感謝と贖罪が、あの過剰に世話焼きをする心理へ導いているんだな。
更にそこへ恋心もプラス。
「それよりこれ食べるか?」
「いいのか?」
「先程から目が獲物を狙っている鷹だぞ」
「ああ、甘いものは別腹だからな」
俺は冗談でスプーンですくったあんこを差し出すと、「ほらよ——え?」躊躇いもなくぱくつく乙環さん。
「おやおや、これって関節キスだな」
「羞恥心を何処に捨ててきた? 流石に人前でバカップルの真似事やるとは思わなかったぜ」
「そんなもん君と付き合いだしてから気にしなくなったな」
と乙環さんは俺の頬についたクリームを手ですくい口へ。
今まで意識してなかったがこれってデートじゃなかろうか……。
旗から見たら俺達も付き合いたてのバカップルにカウントされているかもしれん。
その証拠にハイカラな給仕さんがあらあらと頬を染めていた。
だがしかし、今の俺はそれどころじゃない。
一品の量がデカ盛りなのに無理して食べた結果……気持ち悪い。戻す危険性があったので、キスがこれだけで済み九死に一生を得る。
対してけろりとしている乙環さん。
糖分に関しお竜もそうだが女の胃袋は四次元だと改めて知る。
そう、女の甘いものは別腹だ。




