彼方サイド3「接近する不良チャラ男と生徒会長の姉」
七月二十二日
朝、無理やり起こされた俺はダイニングテーブルのイスに座り、頭ボリボリかいてぼーとしている。
寝間着のままなのでこんな姿、家族以外は見ることはできない。
そんな俺へテーブルにサラダと常備菜を置き、「彼方、今日作業手伝ってくれないか?」とエプロンを外しイスへ座る乙環姉さん。
相変わらず背筋を伸ばし凛とした姿が美しい。
細かい所作まで品格がある。
大和撫子とは姉さんの為にある言葉だ。
なんでも昔預かってもらっていた婆さんがとても厳しい人で、礼儀作法をみっちり仕込まれたらしい。
俺だったらすぐに逃げる自身がある。
夏休みに入っていたが、学園に行くので制服へ着替えていた。
姉さんはいただきますと手を合わせ、豆腐とアゲの味噌汁を啜る。
「なにをするんだよ?」
「草むしりだ。用務員さんが里帰りしてやる人がいないんだ。先生達も忙しいから生徒会だけで行わないとならない」
「神無月もくるんだろ?」
「無論だ。こき使う。それでも人手が足りないからお前もこい」
「姉さん勘弁してよ。力仕事マジ無理。なんで夏休みなのに校舎へ行かないとならないのさ? 大体、直射日光浴びたら灰になる自信がある」
俺はトースターで焼かれたパンにバターをたっぷり塗り込み一気にかぶりつく。
朝食は姉さんはご飯と味噌汁派に対して俺はパン派。
毎回、玉子のリクエストに応えてくれる乙環姉さんに感謝だ。
「お前はヴァンパイアか?」
「姉さんの稼いだお金吸い上げているからあながち表現としてはあってるな」
「あほ! 能書き垂れるな!」
「そんなことで怒るなよ⁉ 食べてるものが不味くなるんだからな」
「そう思っているんだったら早く結果出せ」
「へーい」
気のない返事で相槌を打つ。
俺が馬鹿なこと言っても全て受け止めてくれる乙環姉さん。
いつまでも続くとは思ってない関係性。
だから俺はやるさ。
ゲームで成功したら俺は姉さんに告白しようと思っている。
あのパーフェクト超人と肩を並べるには俺もそれなりの肩書が必要だ。
俺を肯定してくれる、唯一無二の理解者。
他のやつになんてとられてたまるもんかよ。
幸い姉さんは身持ちが硬いからおいそれと恋愛することはない。
そこは安心している。
だからこそ俺はやりたいことに集中できるんだ。
今日は特に予定がなかったので、録り溜めているアニメでも一気に観ようとテレビをいじっていると着信音が鳴る。
『ぐらすらんど氏お時間よろしいか?』
ゲーム配信者名:『ぐらすらんど』こと俺はラインへ返信。
『おつかれっすニッシーさん』
『おつかれさまでござるぐらすらんど氏』
ニッシーさんとは、俺が極度のあがり症のため、大会時代全然成果が出ず諦めかけていたとき手を差し伸べてくれたひと。
あがり症の事は姉さんを含め誰も知らないから、ニッシーさんは俺にとって師匠であり友達なんだ。
この世界に詳しくない俺をネット配信へ導いてくれた大恩人でもある。
お姉がスポンサーなら、ニッシーさんはアドバイザー的な立ち位置。
プロゲーマーや強豪ゲーマーサークルのコネクションもあるので、色々と相談に乗ってもらって頼りにしている。
『この前のゲーム実況面白かったですぞ』
『本当ですか⁉ ありがとうございます』
この人に褒められると嬉しかった。
まだあったことはなかったが兄のような安心さがある。
だからついプライベートのことも愚痴ることが多くなった。
『それでぐらすらんど氏の姉上はどうなったでござるか? チャラ男を生徒会に迎えたとか』
『ええ。今日も草むしりを一緒にやるみたいです』
『うーむ。拙者の好きなNTR系テンプレートだと何かゆるすネタ写真とって展開的にNTR? いやいやBSSまっしぐらですな』
『まさか?』
『いやいや、お姉さん美人の生徒会長何でしょ? もう漫画だったらピーな関係になっていてもおかしくはないかと。気がついたら脳が焼けるー! になりかねない。NTRまったなし!』
『そうなんですかね?』
『www冗談でござる。でも、幾らアドバンテージがぐらすらんど氏にあるとしても、何もしないでいると離れて行くでござるよ。拙者女の子と話したことがない童貞なので、ソースは全てエロ本とエロゲーですが……』
『それでもありがたいですよ』
はっきり言ってニッシーさんに相談しても事態が良くなるわけじゃない。
俺達はただのネット仲間だ。
ただ、聞き手がいると心が軽くなるものだ。
だから何でも打ち明けられる。
七月二十三日
今日はオンラインゲーム、『天使追放』のギルドメンバーによるオフ会だ。
元々俺は顔がバレているからゲーム仲間で集まっても結構気楽。
うちのギルドはOLとかJDとか女子率高いので、野郎達は肩身が狭い。
でもリアルでも仲がいい方なのでこうして遊ぶことが多い。
ファミレスでボス戦や冒険の生々しい裏話を聞き、ボーリングとカラオケで散々遊んだ。
中々おもしろ話を聞けて充実した一日だったが、結局男女間によるトークの行き着く先はやったか、やらないかなのでだんだん辟易となる。
えんもたけなわということで現地解散した俺は、パーティーを組んでいる女子を送っていくことになる。
アルコール入っているので危ないからだ。
本当はこんなこと面倒だが、大事な視聴者の一人でもあるので無下にできない。
そんなとき駅前から聴こえる呼びかけ。
『募金お願いします! ご支援お願いします!』
『ぼきんをお願いしまーす』
『募金お願いします! ご支援お願いします!』
『ぼきんおねげーしやーす』
沢山の学生に紛れて乙環姉さんは募金活動していた。
そしてその隣にはあの白川桜華学園の面汚し、神無月雪之丞がアクビをしながらやる気なさそうに立っている。
金髪・ピアス・浅黒い肌・着くずしただらしない格好。
どう見ても場違いな不良にしかみえない。
よく乙環姉さんはあの傍若無人ぶりに耐えているな。
ニッシーさんの心配が頭を過る……。
でも、あのしっかり者の姉さんが揺すられているわけないだろ?
杞憂だ、杞憂。
心配でしばらくの間観察していると、飽きた女の子が暑いから早く行こうよと催促。
腕組みしているので胸が当たる。
こんなところ乙環姉さんに発見されたら、たるんでいると性根を叩き直されてしまうな。
でも大丈夫だ。
俺は昔から姉さん一筋、誤解させることはないはず。
まー身バレが怖いから帽子とマスクは標準装備しているので、女の子とイチャついても俺とは気づかないだろうけど……。




